きみへの想い | ナノ

▽ 自分で確かめるまで


「カインー。頼まれたアイテム、揃えて来たよー」

「ああ、すまんな。ナマエ」

「どーいたしまして!…で、どこ行くんだっけ?」

「…ミストに幻獣討伐、だ」





そうカインから聞いたのが昨日の話。





「幻獣討伐かーぁ…」

「…ええ」





優しい風の吹く温かい、とある日。

お城のテラス。
あたしとローザはそこにいた。

どこか元気のないローザに、あたしはすぐ気がついた。
だてに小さい頃から一緒に居ませんって話だね。

あたしはそんなローザに声を掛け、お茶に誘った。
ローザとはひとつ違い。お姉ちゃんみたく慕うと同時に、親友だもの。

そして、その元気のない理由を来ている真っ最中です。





「んー、カインも一緒に行ってるんだし。無事に帰ってくるよ」

「そうね…」





ローザは頷いてティーカップに口をつけた。

幻獣討伐。それはバロン王の命令。
ミストの谷付近に出ると言う幻獣の討伐と、その先に在る村へ届物をするという任務にセシルとカインが現在赴いている…というもので。

昨日、装備やアイテムの確認をするカインを手伝った時に詳しい事情は聞いたから。

確かに心配ではあるけど、ふたりは贔屓目なしに凄く強い。
だからきっと、無事に帰ってくるだろう。

まあ実際…ローザの悩みの種はそこじゃないんだけど。





「セシル…、自分を責めていたわ…」

「…ミシディア?」

「そう…。自分は、無抵抗の魔道士相手にクリスタルを…って」

「…そか」





ぱりっ、とお茶菓子をかじって目を伏せた。

先日…。
セシル率いる飛空艇団の赤い翼はミシディアの村からクリスタルを奪う様に命じられた。

セシルは真っ直ぐで、すごく優しすぎる性格をしてる。

罪のない人からクリスタルを無理矢理奪う。
いくら王の命令と言えど、セシルはそれを負い目に感じてしまっている。

ローザはそれを心配しているわけで。





「でもさ、何か変だよね。この頃」





あまり大きな声じゃ言えない。
あたしは乗り出して、ローザにそっと小声でささやいた。

バロン国王。
王様、最近なんだか様子が変だ。

強くて優しい王様だったのに。
近頃は絶対変。

クリスタルを奪えとか、そんな命令絶対しなかった。

現にお城の中でも不信感を抱いてる人がいる。
でも相手は国王様だから。下手なことは言えなくて。

セシルとカインが幻獣討伐に行ってる理由もそこにある。
王様に不信を指摘して赤い翼の隊長の任を解かれたセシルと、それを庇ったカイン。





「それとさ、さっきの見た?今日、王様が呼んだって言う男」

「ええ…ゴルベーザね」





そしてセシルとカインが発ってから、バロン城に一人の男が招かれた。
ゴルベーザと名乗る、セシルとはまた違う…黒い鎧に身を包んだ男。





「セシルの変わりに、彼に赤い翼を指揮させるなんて…」

「これってぜーったいおかしいでしょ?あのゴルベーザっての、ぜーったい怪しいよ」





ごくごく、ぷは!
と紅茶を飲みほしてから、ぐいっと口をぬぐって、そう怪訝に言う。

……これって、ぜーったい何か変だよね。





「うん。ぜったいぜったいぜーったい何か変!なーんか怪しーい…」

「ナマエ…あまりお城の中でその話しちゃ駄目よ?」





ヒートアップして、ちょっと声が大きくなってたあたしを見て、ローザは口元に人差し指を立てる。

おおと…、気をつけないと。
あたしは「うん」と頷いた。





「大丈夫。わかってるよ。言っても3人かシドくらいだし」

「ええ…その方が良いわね」





ローザはそう言いながら、悲しげにカップの中の揺れる紅茶を見つめていた。

うーん…。
ただでさえ、落ち込んでるのにセシル…赤い翼に部隊長の任、解かれちゃったわけだし。

あたしだって心配だ。
だからローザは余計に、だろうなあ…。

うむむむ…。
と考えた結果、あたしは「ローザ!」と明るい声を発した。





「大丈夫。溜め息ついてたら幸せ逃げるよ!ふたりが帰ってきたら笑ってお出迎えしないと!」





二ーッと大袈裟に口を吊り上げて笑って見せる。
するとローザも「そうね」とクスッと小さく笑ってくれた。

だから早く帰ってきてね。
そう願う。

でもそんな願いは無駄だと煽るように、その時…地が揺れた。





「わっ?!」

「地震…!?」





結構大きい揺れ。

なんでこんな時に地震なんて来るのさ!
本当に不安を煽ってくれるじゃないか…。

ローザはテラスの柵に手を掛けて大地を見つめる。
多分、セシルのことを案じてるんだ。


……カイン。
あたしは空を見つめ、いつも空高く跳ね上がるあの姿を思い浮かべてた。



でも、その地震は本当に意地悪だった。

その後の調べでわかってきたことは、震源がミストだと言うこと。
そして今ミストに到着したころだろうセシルとカインの死を匂わす噂が広がる。


カインとセシルが死ぬわけ無いだろ!
誰だ!そんな噂流した奴は!どこのどいつだ!脳天に雷落とすぞ!!

…なんて、あたしが腹を立ててる一方で。





「…セシル…」

「…ローザ」





ローザは不安が拭えなくなっちゃってるみたいで…。

…本当にどこのどいつだ…。そんなどうしようもない噂流したのは…。
凍らすぞ、こんにゃろう!

…なんて、ムカムカしてても仕方ない…。

よし!
もう、こうなったら!だよ。





「ローザ!行こう!」

「…えっ?」





ローザの肩をがっしり掴む。
こっからはもう勢い任せみたいなもんだ。





「ミスト!行ってみよ!不安なら確かめる!自分の目でちゃんと!」

「ナマエ…」





自分の目で見なきゃ、あたしは信じない。

……カインが死んだなんて嘘。
そんなの自分の目が確かめるまで信じない。

そりゃ…不安が無いって言ったら、そりゃ嘘になるよ。

でもならば。
心配なら、助けに行けばいい。
手伝いに行けばいい。





「大丈夫!バロン一の黒魔道士ナマエと白魔道士ローザがいれば怖いもんなし!」

「ナマエ…そうね!行ってみましょう!」





強気に笑えば、ローザも同じように強気な目になる。
一度決めたら、あたしもローザも一直線タイプだ。

あたしたちはバロンを飛び出すことを決め、ミストのふたりを探しに追いかけた。



To be continued

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