きみへの想い | ナノ

▽ 伝説の賢者


「ヌッ、お主!よく見れば暗黒剣の使い手じゃな!頼む、手を貸してくれ!」





カイポからダムシアンに向かう途中にある北の洞窟。

その入り口で、セシルは突然、ひとりのおじいさんから威勢よく掛けられた。
あまりの威勢と突然の申し出に、あたしとセシルは顔を見合わせた。





「どうしたんです?」





さすがはセシル。
目を丸くしてたあたしとは対照的に、セシルは落ち着いた態度でそのおじいさんに尋ねてくれる。

おじいさんは髭を撫でながら、「うむ…」とゆっくり頷き、事情を説明してくれた。





「娘のアンナが吟遊詩人に騙されダムシアンに行ってしまったのじゃ!ダムシアンに不吉な気配がたちこめておる!」

「ではあなたが賢者テラ!」

「え!?テラってあの!?」





カイポの村で賢者テラの噂はいくつか耳にしていた。
アンナという名前の娘さんと仲睦まじく暮らしていると言う噂。

ていうか魔法の勉強をしたことのある人でその名前を聞いたことが無い人は多分いない。





「いかにもテラじゃ!」





現に、そのおじいさんはそれを肯定した。

それを聞いて、あたしは少なからず感動を覚えてた。

だってあの賢者テラだよ?
これでも黒魔道士の端くれだもん!そりゃ感動だってするってもんだ!





「うわー…!本当に賢者テラ!?すごい!感激です!」

「むっ…?お主は黒魔道士か?」

「はい!ナマエと言います!」

「ふむ…、なかなか良い筋の様じゃな。精進するといい。きっと伸びるじゃろう」

「本当ですか!?」





これってすごいよね?だって賢者に誉められたんだよ?
嬉しくなって「やった!誉められちゃったー!」なんて手を繋いでたリディアに笑いかければ、リディアも嬉しそうに笑ってくれた。

するとそれを見ていた、テラはリディアを見るなり驚いたように目を見開いた。





「何と!その子は召喚士か。かなりの資質を持っておる!」





大きな反応。
でもそれには納得だ。

召喚士って、その存在の時点でかなり珍しいもん…。
あたしもセシルからリディアは召喚の力を持ってるって聞いた時は驚いたし。

誉められたリディアはさっきのあたしの真似をするかのように「誉められちゃった」と笑ったから、あたしも「やったね」と頷いた。

あー、リディアは可愛いなーあ。
いつも妹ポジションだったあたしは、いつもと違うこの感じに何だか少しだけ嬉しくなってた。





「娘が心配になってダムシアンに向かう途中なんじゃが、この先の地下の湖におる巨大な魔物に手こずっておる。とてつもない力を持った奴じゃ!私の魔法だけでは倒せん!良ければお主達、力を貸してはもらえんか?」





ダムシアンへ向かうのはあたしたちも同じ。
つまり、賢者テラと手を組んで進めるってのはこっちにとっても願ったり叶ったりなわけで。





「ダムシアンへは僕らも行かなくてはならないんです!」

「こちらこそ手を貸して貰えると、ものすごーく助かります」

「ならば決まりじゃ!一刻も早くダムシアンへ!」





こうして、あたしたちは4人で歩き始めた。

でも…なんだろう。
やっぱり賢者って偉大だ。





「なんじゃ?」

「いや、鮮やかだな…と」





しばらく歩いて、見惚れてた。

ていうか何と言うか…やっぱこの人賢者なんだ、と再確認。
魔法の出が早いと言うか、詠唱短っ!みたいなね?





「なに、物忘れの方が勝って困るばかりじゃ」

「そうかなあ…。すごいよね、ねえ、リディア?」

「うん。でもナマエも凄いよ。魔法だけじゃなくて、ダガーでも強いよね」

「おお!本当!?」

「そうじゃな。接近戦でも十分やりおる。物理も出来る魔道士は頼もしいものじゃぞ」

「本当ですか!」





誉められて調子に乗りつつあるのが自分でもよくわかる。

特に、彼にはバレバレだったらしい。
少し前を歩いていたセシルに、その様子を見て笑われた。





「はははっ、ナマエは剣の稽古も頑張っていたからねえ」

「んー、まーね!」





セシルの笑みにつられて、笑いながら頷いた。

…小さい頃、あたしは武芸に興味があって、木刀なんかをよく振り回してた。
黒魔法の方が相性が良かったから、そっちに絞ってからは身軽な短剣しか触らなくなったけど。
ま、サイレスや魔力切れ対策って言うか。

だから中途半端ではあるけど、重じゃない限りある程度の武器は扱えたりする。

昔は、よくカインに剣の扱い方教えてもらったけなー。
竜騎士の主な武器は槍だけど、剣とか斧とかも扱えるんだよねー、カインって。
あっはー、素敵ー!!!





「…ナマエ、どうしたの?」

「え…?!」

「ニヤニヤしてる…」

「あああああ!リディアー!そんな引いた顔しないでー!」





カインを思い出したら無意識にニヤけてたらしい。

手を繋いでたリディアが物凄い引いた顔をしていた。
折角仲良くなれたのに、どん引きしすぎて手とか放されそうな勢いだ。ああああ…!!!





「ところで、なぜ娘さんはダムシアンに?」





あたしが必死にリディアからの信頼を取り戻していると、セシルはテラさんに、詳しい話聞いていた。

テラさんはまた髭に触れながら、洞窟に滴る滴を見ながら「ふむ…」と教えてくれた。





「吟遊詩人とダムシアンへ駆け落ちしてしまってな…私が許さなかったばかりに…」

「か、駆け落ち…?」





思わぬワードに少しビックリした。

駆け落ちとは…すごい。
いやでも、そこまで互いに想い合ってたってことか…。

そう考えると、ちょっと羨ましい気も。





「お主たちは何故ダムシアンに?」

「僕の仲間がカイポで高熱病にかかっているんです」

「砂漠の光か…あれがないと私でもどうにもならん。お主達も急ぎか。では足を速めようかの。…ダムシアンの方に感じられる不吉な気配が私の気のせいならよいのだが」





少し苦しそうに答えたセシルを気遣う様に、少し足を速める。

…ダムシアンの方に不吉な気配…?

そういえばさっきもそんなこと言ってた様な。
最後にテラさんが呟いた言葉がなんとなく、あたしは気になってた。

そして、思い出した事実をセシルに伝えた。





「ね、ねえ、セシル」

「ん?」

「あの、言いそびれちゃってたんだけどさ…バロン王、赤い翼の後任…決めたの」

「え…!」

「ゴルベーザって言うんだけど、そいつが来てから…なんかますますバロン、変になっちゃって」

「……ゴルベーザ」





セシルはその名前を呟くと、どこか難しい表情を浮かべた。

ダムシアンにも…クリスタルがある。
ミシディアが標的になったとなると…。

不吉な気配。
当たらなきゃいいんだけど…。

洞窟を進む今は、祈ることしかできなかった。



To be continued


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