きみへの想い | ナノ

▽ 月の民


「ここが、月…」





踏みしめた白い大地。
今立っているその場所をじっと見つめ、あたしはそう呟く。

ミシディアの民の祈りで現れた魔導船に乗り、あたしたちは月へと辿りついた。

それは、見た事も無い景色。
どんな書物にも載っていない、未開の地。

ゴルベーザも目指している月。
決戦の時は、近いのだろうか。





「ナマエ!」

「はーい!」





色々思う事はあるけれど、ここで立ち尽くしていても何も始まらない。
セシルに呼ばれ、あたしは振り返り皆と一緒に月の探索をしていくことになった。

見たところ、月にはそう街みたいなものがあるようには見えなかった。
手近なところにあった物と言えば洞窟くらい。その洞窟の中で出会う魔物も見た事無い物ばかり。まあそれって当然の事かもしれないけど。

ただ、ひとつだけ…まるでクリスタルででも出来てるみたいに輝いて見えるひとつの大きな建物があった。

魔導船では近づけそうになかったから、洞窟を抜けて目指したその場所。

入ってみると、中も何だかキラキラとしていた。
でも人の気配は感じられない。

建物があるということは、何かしらの生きる者の存在があったということなのに。

でも今のところ何かの手掛かりがあるとすればこの建物しかなかった。
だからあたしたちは建物の中を調べていった。

すると、奥の方になにか祭壇の様なものが見つかった。
その祭壇に近付くと、突然、どこからか老人の声が聞こえてきた。





「よくぞ参られた!」

「わっ!?」




びっくりした。
その声と共に、さっきまで誰もいなかった祭壇にひとりのおじいさんが現れたから。

思わず声上げちゃったぞ…。

皆、目を見開く。
驚いたのは皆同じだ。

でも、やっと見つけた話の出来る人…。
だからセシルが一歩前に出て、恐る恐る尋ねてくれた。





「あなたは…?」

「私は月の民の眠りを守る、フースーヤ…」





おじいさんは静かに名乗ってくれた。
名前はフースーヤ。…月の、民。

当然皆が気になったのはその月の民と言う部分だろう。

セシルに続くようにローザも首を傾げて尋ねた。





「月の民?」

「さようもう遥か昔のことだ…。火星と木星の間に有った星が、全滅の危機に瀕した。生き残った者たちは、船で青き星へと脱出した…」

「青き星…?」

「そなたらの住む大地だ。しかし、まだ進化の途中にあった為、その者たちはもう一つの月を創り出し、そこで長い眠りについたのだ」





フースーヤは何も知らないあたしたちに色々と教えてくれた。
本当、色々と丁寧すぎるくらいに。

月の民。あたしたちの住む大地、青き星…。

なんだか親切な人だなあ。
…なんて感想は、ちょっとずれてるのかな?





「しかし、ある者は眠りを嫌った!青き星に存在するもの全てを焼き払い、そこに自分たちが住めばよいと考えた」

「ひどい…!」





あたしたちの星の全てを焼き払い、自分のものにしようとした月の民がいた。
その身勝手な話を聞きリディアが口を手を当て顔を歪める。

フースーヤもリディアの言葉には同意だというように目を伏せ頷いた。





「私たちはその者を封じ込めた。しかし、長い眠りの間にその者は思念を強化した!その思念が、そなたらの星の邪悪な者たちをより悪しき者とし…クリスタルを集めさせたのだ」





また、皆目を見開いた。
そう…そこで月と繋がるのか。

あたしたちの星で、クリスタルを奪った者がいた。
黒幕だと思ってた。でも本当は、その背後にまだひとつ別に意志があった。





「ではゴルベーザもその者に!」





セシルが合点がいったと異様にハッとして言う。

ゴルベーザの後ろ。
まだそこに誰かがいた。

つまり、じゃあカインも本当は…そこが原因だったということ。





「なんて奴だ、そいつは!?」





エッジが食い気味に聞く。
フースーヤは少し痛ましい顔をしてその名を語ってくれた。





「その者は、ゼムス…!クリスタルとは我々のエネルギー源。おそらく、バブイルの塔の次元エレベータを作動させる為、クリスタルを集めさせた。次元エレベータで、バブイルの巨人をそなたらの星に降し、全てを焼き払おうとしている…!」





ゼムス…。そいつが、全ての元凶…。
ゴルベーザを操る者…。

そしてクリスタルを集めてバブイルの巨人であたしたちの星を焼き尽くすことを目的としているって?





「そんな…」

「なんて奴…!」





ショックそうに言葉を失うローザと、あたしは思わず怒りをあらわにした。

だってそうじゃないか。
自分が住むために、あたしたちの世界を焼き払う?そんなの冗談じゃない。

しかもそのためにここまでどれだけの人を傷つけた。

どこが最初なのか、わからない。
でもあたしの知る限りでも、バロン王がおかしくなったところから。

ゴルベーザが操られているなら、それはもっともっと前の話になるのだろう。





「しかし、多くの月の民はそうではない。青き星の者たちが我々と対等に話し合えるだけの進化を遂げるのを、見守っているのだ…。皆…その日が来るのを夢見て、眠り続けている…」





多くの月の民はゼムスのような考え方はしていない。
友好的に、話しが出来る日を待っている…。

でもそんな風に話を聞いていると、ちょっと気になる事も出てくる。

そのひとつが魔導船だ。
ミシディアであれは月よりの船だって聞いたよね。

あれがあたしたちの星の海に眠っていた理由は?

どうやらセシルも同じタイミングでそれが気になったみたい。
セシルは魔導船のことも尋ねた。





「僕らが乗ってきた魔導船は?」

「…遥か昔に私の弟 クルーヤが造り、青き星へ降りていった時のものじゃ。クルーヤは未知のそなたらの星に憧れておった…。デビルロードや飛空艇の技術は、その時もたらされたものだ…」





フースーヤの弟、クルーヤという人物がはるか昔に使った船…。

つまりデビルロードや飛空艇の技術を伝えた人ってこと?
それが、月から来た技術…。

なんだか物凄い話を聞いているような気がする。

そう、ここまでで結構衝撃的な話だった。
でも次のフースーヤさんの言葉は、もっともっと衝撃的だった。





「そしてクルーヤは青き星の娘と恋に落ち、二人の子供が産まれた…。そのうちの一人が…そなただ」





フースーヤさんはそう言ってじっとあるひとりを見つめた。
その視線の先にいるのは誰?

皆の視線がその先を追う。
注目を集めた本人は、動揺しながら己を指差した。





「僕…が?」





戸惑いを隠せないままそう目を丸くしたのはセシルだった。
そして、そんな衝撃的事実を聞かされたあたしたちも勿論驚きを隠せなかった。





「ええっ!?」

「セ、セシル…?」





あたしとローザは特にだった。

いや、そりゃ驚くでしょ!
だってセシルとは小さな頃からずっと一緒にいたのに。

そう、驚いた。
でも一緒にいたからこそ腑に落ちてしまう事もあった。

セシルは赤子の頃、バロン近辺の森に捨てられていたと聞いた。

セシルは己の掌を見つめる。
でもすぐに何かを思い出したようにハッと顔を上げた。





「じゃあ、試練の山で聞こえた声は…。ねえ、ナマエ…」

「えっ…」





セシルがあたしに視線を向けてきた。

聞かれたのは、試練の山でのこと。

試練の山って、セシルがパラディンになった時のこと?
あの場所で聞こえた声?

記憶を辿って行く。するとそこで、あたしもハッとした。





「ああ!!」





そう、あの時あの場所で聞こえた声があった。男の人の声。
そしてその声はセシルのことを《息子》と呼んだ。





「え!?あの声!?セシルの!?」

「やっぱり、そう…だよね」





あたしに確認して、セシルは確信を得ていた。
そう言えば今ここにいる面子だとあの山に登ったのってあたしとセシルだけだよね。

あの時はただ純粋に首を傾げた。

だけど、あの時聞こえた声が本当にセシルのお父さんだったとしたなら。





「お前の父…クルーヤの魂だ…。なるほど…若い頃のクルーヤによく似ている」





答えを仰ごうとフースーヤを見れば、フースーヤはセシルの顔を見て懐かしそうにかすかな笑みを浮かべていた。

その笑みに嘘は無い気がする。





「あの声が…父さん…!」





知り得た事実にセシルは身に纏うパラディンの鎧に触れた。

あれが、セシルのお父さんだった…。
そしてフースーヤの弟だと言うのなら、この人はセシルの叔父にあたるのか…。

セシルには、月の民の血が流れていた。





「ゼムスの謀略を食い止める為に、クルーヤはその力をそなたに授けたのじゃ。ゼムスを止めなければならない!青き星とそして月の民の為に!さあ…エブラーナのバブイルの塔へ急ぐのだ!」





フースーヤはゼムスを止めるべくバブイルの塔に向かう事を示した。
でもそれを聞いたエッジが驚いたように首を横に振った。





「バブイルの塔!?でもあそこはバリアが…!」

「私ならば入れるはず!バブイルの巨人を青き星に降ろしてはならぬ!私と共に行こう…!」





青き星…あたしたちの世界の為にも、月の民の為にもゼムスを止めなくては。
フースーヤはその協力を申し出て、共に同行してくれることになった。

月の民は、この大地の中で眠っている。
フースーヤはそれを見守る番人なのだと言う。

この建物の中にあるクリスタルが囲う中心部からゼムスのいる中心核に行くことが出来るらしいけど、ゼムスは内側から結界を張り、中心核への道を封印しているらしい。

今は、月のクリスタルたちがゼムスを封じ込めてくれている。
だけどこうしている間もゼムスはその悪しき精神を少しずつ増幅させているとか。

とにかく、やるべきことはわかった。
月に来たのは正解だった。

今はとにかく、バブイルの巨人を止めなくては。

だからあたしたちは、再び魔導船へと戻った。

でも、その道中…あたしは少し、考えていた。





《今…私にとって悲しい事が起きている。これからのお前に私の力を授けよう…。この力は、お前に与える事で私はさらなる悲しみに包まれる。しかし、そうする以外に術は残されていない。》





あの、試練の山で聞こえた声。
あの時はあの声が言ってる事、全然わからなかった。

いや、今だって全然わかってないよ。
解決したのって、セシルを息子と呼んでいた事くらい。

でもただ、少し引っ掛かる事。

セシルにパラディンの力を授けることで、あの人は更に悲しくなると言っていた。

力を授けてくれたのは、ゼムスを止めるためでしょ?
フースーヤだってそう言っていた。

なのに、悲しい?





「…わからない」





ぽつ、と呟く。
出も何だか少し、不吉な気がする。

でも、戦わないなんて選択肢はない。

また、一歩一歩進んで行く。
カインにも、また近づけているんだよね。

カインは、この事実を知ったら何をどう思うだろう。

あたしはそっと、そんなことを考えた。



To be continued

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