きみへの想い | ナノ

▽ 魔導船


地底から地上に戻り、バロンで一泊した翌日。
あたしたちは当初の予定通りに朝早くバロンを発ち、ミシディアへと向かった。

ミシディアの伝承。
そして、ジオット王が教えてくれた魔導船の存在。

全てのクリスタルが敵に渡ってしまった今、もうすがりつけるものには全部すがりついていくしかない。

どうかどうか、それが希望に繋がると信じて。

そうして訪れたミシディアでは、つくなり早々に長老さんをはじめとした村人たちがあたしたちを待ちわびたかのように迎えてくれた。





「待っておったぞ! 祈りの塔へ参られい!」

「長老…」





なんだかこっちが圧倒されちゃうくらい。
長老たちに促され、あたしたちはミシディアの祈りの塔へと通してもらった。





「ミシディアを尋ねたのは、当たりだったのかしら?」

「んー…なんか、村中盛り上がってる…って言い方が正しいのかわからないけど、今ここですべき事はあるって感じはする」





祈りの塔の中で、あたしはローザとそんな話をした。

塔の中では、村中の魔道士たちが集まってきていた。
それを先導するのはミシディアの長老。

長老は大きな声を上げ、魔道士たちへと呼びかけた。





「祈るのじゃ、皆の者!伝説が真の光となる時は、今において他に無い!」





その声を聞き、その場の皆が祈り始める。
あたしやローザ、セシルにリディア、エッジも。

今、そうするべきなのはわかったから。



竜の口より生まれしもの
天高く舞い上がり
闇と光をかかげ
眠りの地に更なる約束を持たらさん
月は果てしなき光に包まれ
母なる大地に大いなる恵みと
慈悲を与えん



頭の中に響いた伝承。
あたしは目を閉じ、手を組んでひたすらに祈りを捧げた。

するとその瞬間、ピンッ…と何か不思議な力がその場に走ったのを感じた。





「っ!今の…」





思わず目を開く。
その直後、突然に地響きのような大きな音が聞こえ出した。

一体何が起きたのか。

パッと塔の窓から外を覗く。
するとそこには目を疑うような光景があった。





「ああ!」

「あれは…!?」





外を見た誰もが目を見開いていた。
声をあげる者、あまりの光景に口を押える者。

そこにあったのは、ミシディアのすぐ側の海で大きな渦の出現だった。
そしてその渦の中から浮かびがってくる見た事も無い形状の大きな飛空艇のような物。





「おお…皆の者!我らの祈り…通じたぞ!あれこそまさしく…大いなる眩き船…魔導船…!」





長老が感極まったようにその船の名を告げた。

あれが、魔導船…。
その存在を、あたしも思わず食い入るように見つめていた。

だって、それが何か不思議な力を秘めているようなものだっていうのは凄く伝わって来たから。





「祈りの最中、あたたかい声が聞こえた。その声はこう言っていた。 月に参れと…月でそなたらを待っている者がいる!」





長老はセシルの目をまっすぐに見つめそう告げた。
祈りの最中に聞こえたあたたかい声…。

セシルは少し戸惑ったように聞き返す。





「でも、どうやって!?」

「魔導船は月よりの船!ミシディアの記録によれば、通常飛行のスイッチとは別に、飛翔のクリスタルなるものが有り、語りかければ月との行き来が出来るそうじゃ!」





魔導船は月の…。
月へと飛び立つことが出来る、船…。

そう言えば、カインがいつだったか言っていた。
光と闇のクリスタルをすべて揃えた時、月への扉が開かれるって。

ゴルベーザの目的である…月。
そこに行けば、すべてが終結出来るんだろうか。





「やってみます!みんな!」





長老の言葉に頷いたセシルはあたしたちに呼びかけた。

勿論、と全員で頷いた。
そこに異論などあるわけがなかった。

これがきっと、最後の望みかもしれない。
ならば掴かみとって、放してなどなるものか。





「私たちは祈り続けています!」

「月へ急いで下さい!」





ミシディアの魔導士たちのそんな声を受け、あたしたちは祈りの塔を飛び出して現れた魔導船へと走った。





「うわあ…なんか、凄い…」





魔導船の中に入ると、あたしは思わずきょろきょろと中を見渡してしまった。
だって、そう機械的なことに詳しいわけじゃないけど、これはこの星の技術じゃないってのはわかる気がしたから。





「えっと…飛翔のクリスタルは…」

「セシル、どう…?わかりそうかしら?」





あたしがそう中を見渡す一方で、セシルは長老に聞いた飛翔クリスタルというのを探していた。
その傍にはローザが付き、少し不安げに見守っている。





「月って、あのお空に浮かんでるお月さんだよな?」

「うん。だねえ。エッジ、どんな気分?」

「えれー話だな。月へ行く、か。そういうお前はどうなんだよ、え?ナマエさんよ」

「うーん…なんかよくわかんない…かな。リディアは?」

「うんうん。私も、なんだか遠い話を聞いてるような…そんな感じはあるかもしれない」





一方で、あたしはエッジやリディアとそんな話をしてた。

月っていう単語はそれとなく出てきていた言葉だけど、いざ自分たちが行くとなるとちょっとピンときてない感じもある。

だってやっぱり月だもん。
あの空に浮かんでる、ただ見上げるだけだった存在。





「きっと、これだな…よし、皆、準備はいいかい?」





その時、飛翔クリスタルを確かめていたセシルがこちらに振り向き皆に意思を確認した。

そこで首を横に振る人はいない。
よくわからない、なんて言いつつ覚悟だけは決めてるもの。

皆が頷いたのを見たセシルはそれに応えるように自らも頷き、そしてクリスタルにお手を伸ばした。





「あ…」





その瞬間、ふっ…と船が動き出したのを感じた。
そして感じる浮遊感。

これから月へ向かう。
それがどんどん実感に変わっていく感覚。

それを感じながら、あたしはちょっと考えた。

ゴルベーザは月を目指している…?
なら、カインも…月に向かう可能性はあるのだろうか。

月へ行けば、会えるのかな。

思う事は沢山ある。
会って、何と言葉を掛ければいいのだろう。

でもそう思う反面、やっぱり話したいことも沢山あるんだ。

不安と、でも期待。
複雑な気持ちが交じりあいながら、魔導船は月へと向かった。



To be continued

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