▽ 陛下の亡霊
「うわあ凄い!武器や本がたくさん!」
部屋に並べられている武器や本。
それを見て感嘆の息を零すのはリディアだ。
「んーまあそうだね。だいたいの武器は揃ってるかも。ほとんどセシルとカインのお下がりだけどね」
「へー。本もこの量って事は、ナマエって読書とか結構するんだね」
「しないと思ってた?」
「うーん、どっちかっていうと外で体動かしてるイメージだったかな?でも魔法もだし、戦いの知識とかも凄いから考えてみれば納得かも」
「ふふっ、お褒めに預かり光栄です〜」
凄いと言ってくれたなら素直に喜ぼう。
あたしはリディアに向けて笑った。
今更だが、リディアが褒めてくれたのはあたしの部屋にある武器や本だ。
ヤンを起こした後、あたしたちはミシディアに向かうために地上へと戻ってきた。
そのまま一直線にミシディアへ!といきたいところだったんだけど、あいにく空はもうすっかり真っ黒だった。
一刻を争う状況だけど、休むのも大切。
だからバロンで一泊し、ミシディアへは早朝発つことにしたのだった。
「私、ナマエの部屋で寝ていいの?」
「客間もあるけど、どっちでもいいよ。好きなところで寝な」
「うん!じゃあナマエの部屋でいい?」
「こんなお部屋でよろしければどうぞどうぞ」
リディアはあたしの部屋に行ってみたいと言った。
じゃあ一緒に寝る〜?なんて話ながら招き入れたのが今の状況だ。
あんまり夜更かしするわけにもいけないけど、リディアとこうして話せるのは結構楽しい。
ま、ちょっとくらいキャッキャしたっていいよね〜!こんくらいの楽しみなくてやってられるかっつーの!
とまあ、そんな感じであたしはリディアとの他愛ない会話を楽しみながら今夜を過ごすことにしていた。
「…あら?」
「ん?どうかした?」
そう話してるうちにリディアが何かを感じたようにピクリを小さく反応した。
あたしが首を傾げるとリディアもあたしの顔を見て、そして困惑したように教えてくれた。
「今、何か…召喚獣の気配みたいなものを感じたの」
「召喚獣?」
きょとんとした。
いや、するでしょ。だってバロンで召喚獣とな。
まっさか〜、なんて思いつつリディアは落ち着かない様子。
それなら、まあ…調べてみるか。
あたしは下ろしていた腰を上げた。
「んじゃ、ちょっくら確かめに行ってみる?」
部屋の扉に手を掛け、リディアに問いかける。
「うん…」
するとリディアも頷き、腰を上げた。
やっぱりリディアは相当気になる様子だ。
こうしてあたしたちはリディアの感覚を頼りに、夜のバロン城を探索してみることになった。
「リディア、どっち?」
「うーんと…ちょっと待って」
リディアに確認しながら薄暗い城内をふたりで歩いていく。
案内をしてもらって改めてリディアが何かを感じているというのがはっきりと見て取れた。
でも本当、一体なんなんだろう?
そんな風に思いながらリディアを見ていると、ひとつの足音がこちらに近づいてくるのが聞こえた。
あたしもリディアも足音の方へ顔を上げる。
すると窓から差し込む月明かりにかすかに輝く銀髪が見えた。
「ん?ナマエにリディア?」
「「セシル!」」
足音の正体はセシルだった。
セシルはすぐにあたしたちに気が付いてくれて、あたしたちもまた同時に彼の名を呼んだ。
「セシル、なにしてんの?」
「ミシディアの伝承の資料が無いか書庫を少し調べてたんだよ」
「あ、なるほど。さっすが」
「成果は無かったけどね」
何をしていたのか聞いてみれば、なんとも真面目な回答をしてくれたセシル。
成果は無いと苦笑った彼だけど正直な感想、流石です。本当、頭下がります〜って感じ。
で、こちらが聞いたとなれば勿論向こうにも聞き返される。
「ふたりは?どうしたんだ、こんな時間に」
「んー。リディアがちょっと気になるって言うからさ」
「リディア?」
「セシル。このお城の中…何か召喚獣の気配みたいなのがあるの」
「え?」
リディアの言葉にセシルの顔色が少し変わった。
まあ当然の反応だろう。
ここからはセシルも加え、3人でその気配を追う事になった。
3人で歩いて、辿りついたのはお城の右側の塔。
そしてその奥の奥、階段も下りて辿りついたのは地下だった。
なんか…あんまり来たことのない場所だな。
お城は凄く広い。
小さな頃から過ごしてきた場所だけど、隅々までは把握できてはいない。
やっぱり全然用のない部屋って近づかないから。
今来ているこの地下もそんな場所のひとつだった。
「玉座…?」
地下を進むとそこには玉座がひとつひっそりと存在していた。
思わず目を見張る。
こんなところの玉座なんてあったっけ…?
そしてリディアもその玉座の前で立ち止まる。
彼女はじとその玉座を見ていた。
「ここよ…」
リディアが感じた気配。
それはこの玉座から感じられるとの事だった。
『よく来てくれたな…』
その時、玉座から声がした。
いや…何かが浮かび上がってていく…?
そんな風に玉座に現れたひとつの人影。
少しずつ鮮明になっていくその姿を認識した瞬間、あたしとセシルは目を疑った。
「え…!」
「陛下…」
驚きに口を押えるあたしと、そのお姿を見て悔やみに顔を歪めるセシル。
そう。そこに現れたのはあたしたちが仕えていたバロン王だった。
目を疑い掛けて、でも…それは確かに本物で。
だけど、陛下はカイナッツォに…。
紛れもないその事実に今そこにいる陛下がどういう存在なのかを察する。
そんなあたしとセシルの反応を見た陛下は小さく笑った。
『そんなに悲しい目をするな。魔物にやられはしたが、私は永遠の力を手に入れた。 そのミストの召喚士が呼び出せば、私はいつでもお前たちの力になる。 一撃必殺の幻獣としてな』
そう言って陛下はリディアに目を向けた。
一撃必殺の召喚獣…。
…陛下が、召喚獣に…。
そうか。だからリディアがその気配を感じ取れたのか。
ここに辿りついた理由に合点がいった。
『…バロンを、いや世界を頼むぞ。 私もオーディンとして、お前と戦おう!』
その言葉を聞き、リディアは何かを受け取るように目を閉じ何かに感覚を澄ませていた。
それを見て、ハッとすれば陛下の姿はもうそこにはない。
まるで夢のような出来事で、静かになったその空間に、あたしは何とも言えない感覚を覚えた。
「陛下…申し訳ありません…」
「ナマエ…」
思わずそう呟けば、セシルの手が頭に触れた。
…国が、おかしくなったのはいつだっただろう。
赤い翼がミシディアを襲って、それより…もっと前。
はじまりは、カイナッツォが陛下に成り代わった事。
それがいつだったのかさえわからないなんて…仕える身として、申し訳が立たない…。
「ナマエ…セシル…大丈夫…?」
その時、リディアが心配そうにあたしたちを気遣ってくれた。
多分あたしもセシルもふたりして情けない顔してたんだろうな。
というか、してた。あたしはセシルと顔を合わせ、リディアに頷いた。
「ごめんごめん…大丈夫」
「ああ…。リディア、オーディンの力を手にしてくれたんだね」
「あ…うん」
リディアに王の…オーディンの事を尋ねたセシル。
リディアはコクンと頷いた。
陛下がその姿を変えた、召喚獣…オーディン。
「リディア…その力、よろしく頼むよ」
「うん。お願い、リディア」
「…わかったわ」
リディアはあたしたちの頼みにしっかりと頷いてくれた。
…ねえ、カイン。
陛下は召喚獣になって、あたしたちに力を貸してくれた。
カインも国を守る竜騎士だ。
今、この場にいたらカインは何を思っただろう。
…カイン、今、どうしてるかな。
「…ゴルベーザ、絶対止めようね」
改めて、決意を強くする。
必ず、必ずと…。
あたしは何度も胸に唱えた。
To be continued
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