▽ 封印の洞窟
残された最後のクリスタル。
それはあたしたちにとっての最後の砦であり、希望だ。
封印の洞窟。
残りひとつのクリスタルが安置されるその場所に、あたしたちは降り立った。
「開いてくれ」
セシルがルカから預かったペンダントを扉へとかざす。
ドワーフ王は、このペンダントが封印を解く鍵なのだと言っていた。
するとその時、どこからか声が聞こえた。
封印を解く証を掲げよ…さすれば黒き水晶への道は開かれん…。
入り口が開いていく。
ペンダントの力で、封印は解けたのだ。
見え始めた洞窟の奥を目の前に、その場にいる誰もが息をのんだのが伝わってきた。
「よし、行こ!」
あたしは率先するように、そう口にして一足早く入口へと踏み出した。
これが、最後。
ここだけは絶対に譲れない。
此処さえ守れば、ゴルベーザの野望が叶う事は無い。
焦りとかも多分あっただろう。
だけど、確かに希望はそこにあったから。
その思いを固くし、あたしたちは先を進んだ。
「ケアル」
「ありがとー、ローザ」
「ええ。お安い御用よ」
優しい光が傷口を包んでくれる。
侵入してしばらく経ったとある道すがら、あたしはローザに白魔法を掛けて貰いながら、今まで歩いてきた道を振り返った。
「入念な仕掛けだ。ここが最後に残るわけだよ」
「ああ。ゴルベーザも後回しにしたのかもしれんな」
セシルとカインが話をしているのも聞こえた。
封印の洞窟。
そこは、一筋縄ではいかない…なかなか困難な作りをしているダンジョンだった。
入り口だけじゃなく中までもが仕掛けだらけ。
まさかの扉そのものがモンスターだった時はどうしようかと思った。
だって扉に手を掛けようとしたら、いきなりガオー…だもん。
扉が襲い掛かってくるとか…どういうことだよね…。
ビックリして、思わず「うひょおう!?」とか物凄い素っ頓狂な声を出ちゃって、そしたらエッジにめちゃくちゃ笑われた。
しかも中にあるほとんどの扉がそうだっていうだから、本当に救いようがない。
なんだかあたしが説明するととんだ間抜けな話に聞こえるけど…実際は本当に笑い事じゃないわけで。
まさに封印という名の相応しい、そんな洞窟だった。
「…やはり、何か妙だ…」
「ん、どしたの、カイン」
先を歩いていく中で、ずっと何かを気に掛けているような様子を見せているカイン。
なんだか難しい顔をしてる彼にトトッと近づき、その顔を覗き込む。
いや状況が状況だし、みんな難しい顔はしてるんだけど…カインはその中でも特に、かな。
「ん?」と首を傾げてみれば、カインは視線をこちらによこしてくれた。
「…ナマエ。俺たちは進み続けて、どれくらいになった?」
「え?えーと、この洞窟の全体がわからないから何とも言えないけど、時間的にはそこそこ経ったんじゃないかな」
「…ああ、そうだろうな」
「…ナンデスカ?」
カインの表情は晴れない。
どこか違和感を感じているような、そんな様子。
あたしはまた首を傾げる。
するとカインはその表情のまま、ぽつりと呟いた。
「…静かすぎる」
「え?」
「なにか、嫌な予感がするんだ」
「……ふむ」
嫌な予感がする。
それを言われて、あたしは少し考えた。
地上、地底、どちらも合わせて残されたクリスタルはあとひとつだけ。
つまりゴルベーザが狙うのも、もうここのクリスタルただひとつだ。
あたしたちが封印を解き、進み続けてだいぶ時間が経った。
ゴルベーザの追っては無い。
それは一見、喜ばしい事だけど…。
邪魔のひとつでもあったほうがまだ安心できる…?
洞窟の敵は手ごわいけれど、それ以外は順調に進みすぎている。
カインが言いたいのは、多分そういうことなのだろう。
「みんな!あったぞ!クリスタルだ!」
その時、先頭を歩いていたセシルの声がした。
彼は一足先に一番奥にあった扉を開き、その奥にあるクリスタルルームを見つけたようだった。
そしてそこには無事にクリスタルが安置されていた。
ローザ、リディア、エッジも急いでセシルの後を追うようにクリスタルルームに入っていく。
あたしもその後を追おうとする。けどその前に、一度カインに振り返って彼の彼に笑いかけた。
「まあ、クリスタルを手に出来たらこっちのもんだよ。渡さなきゃいいだけ。とりあえず、手に出来る事が大事だよね」
「…そうだな」
今は、前向きに考えておこう。
心配ばかりしていてもしょうがないのだから。
あたしもカインと共にクリスタルルームの扉をくぐる。
中では、セシルがそっとクリスタルに手を伸ばしているところだった。
「よし…!クリスタルは確保できた…!」
セシルはクリスタルを手に、皆に振り返る。
その手の中にある輝きを見て、皆の表情は少しふっと柔らかくなったみたいだった。
「おっしゃ!任務完了だな!」
「もう、まだよエッジ!油断しちゃ駄目!ここから出るまで気は抜けないわ!」
「ふふ、そうね。早く戻りましょう。これでドワーフ王も安心されるわ」
第一段階は越えた。
リディアの言う通り、戻るまで油断はできないけど、ひとまずクリスタルは手に出来て良かった。
あたしもちょっとホッとした。
だけどその時、あたしには小さな引っ掛かりがあった。
それは、隣にいたカインのこと。
カインは静かだった。
クリスタルを手に入れ一安心した皆とは違い、ひとりだけちょっと表情が固い気がした。
あたしはそれを横目で見て、少し…嫌な感じを覚えた。
だから、カインの肩をちょっと強めに叩いてみた。
「やったね!カイン!」
「…!」
バシッと叩いた彼の肩。
そして、にんまりと向けた笑顔。
叩かれた衝撃に驚いたのか、カインはあたしを見て少し目を丸くしていた。
「何ぼーっとしてんの?」
「あ…いや、少し…な」
「ふーん?変なの、まあいいけど。んじゃセシル!戻ろーよ!」
声は届いている。大丈夫だ。
なんにせよ、此処と早く出るに越したことは無い。
セシルに戻ろうを呼びかければ、セシルは「ああ」と答えてくれた。
皆が出口に向かって歩き出す。
早く出よう。早く、早く。
だけどその時、事件は起こった。
「きゃあ!!!」
気が付いたのは、ローザだった。
突然ローザが上げた悲鳴に皆がぱっと振り返る。
すると、振り返った先にあったその光景に…あたしたちは息をのむことになった。
「な…」
あたしも唖然とした。
目の前にあったのは…というか、正確に言えば見上げた先にあったものだ。
「壁が!」
「動き出す…!」
セシルとローザが叫んだ。
そう、あたしたちの見上げた先にあったのもの。
それは、クリスタルルームの奥にある壁。
先ほどまではただの壁であったはずのそれ。
いや…本当、壁だった…よね?
しかし視線の先にあるのは顔だ。
しかも物凄っい悪そうな顔。そんな顔が、壁に浮かびがってる。
あとはセシルとローザの言う通りだ。
ズズズズズ…と重たい音を響かせて、まるであたしたちを潰そうかとするかのように壁がどんどん迫って来ていた。
「ちょ、え…壁…はあ!?」
「さすが封印の洞窟。クリスタルを取った後も安心は出来んというわけか…!」
「なら、ブッ壊すまでよ!」
正直、あたしは軽くパニックを起こした。
いやね、あたしってば結構急展開に弱いんだわよ…!
クリスタルを守るための仕掛けだと読むカインに、真っ先に刀を構えて飛び掛かっていくエッジ。
本当、威勢のいい王子様だこと…!
もう…!
少し考えたい事があったのに、まったく勘弁してって感じ。
「ナマエ!」
「うー…もう、はいはいっ!」
カインに呼ばれ、きちっと戦闘の構えを取る。
でも…気持ちを切り替えるっていう意味では、いい切っ掛けになったかもしれない。
あたしが感じた、ちょっとした嫌な予感。
それが、この戦闘で暴れる事で…一緒に吹き飛んでしまえばいい。
「ファイガ!!」
そんな気持ちを込めて、あたしは炎を放った。
To be continued
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