きみへの想い | ナノ

▽ 二度目の裏切り


「よし、早く脱出しよう!」





セシルが全員の顔を見渡しそう言った。

封印の洞窟にあるクリスタル。
迫りくるデモンズウォールを退け、それを無事に手にしたあたしたち。

クリスタルを手に出来れば、こんなところに長居する理由は無い。
だからあたしたちは、さっさとこんな場所からおさらばすることを決めた。

多分クリスタルを手に出来て、みんな少なからずホッとする部分はあっただろう。

だけどそんな中でひとつ…あたしには別に気掛かりなことがあった。





「………。」





黙って、ちらりと視線を向ける。
向けた先は…カイン。

この洞窟に入ってから、あたしはカインに対して少し嫌な感覚を感じていた。

気付かれないようには抑えてる。
だけど…なんというか、何かと葛藤しているような…そんな感じ。

それがどんどん…濃くなって…。
…嫌な、予感がしてた。

だからあたしは、ひとつ…彼にまじないを掛ける。





「カーイン!」

「なんだ?」

「んー?やったね〜!って思って」

「…ドワーフの城に戻るまで、気は抜けんがな」

「うん。そうだね。そりゃ確かに、ごもっとも」

「行くぞ」

「はーい」





軽く話して、歩き出したカイン。
あたしはその背中を見つめ、小さな声で呪文を囁いた。

正直こういうのは、あんまり得意じゃないんだけど…。

小さな小さなおまじない。
…もし、ゴルベーザがまた…カインを操ろうとしているのなら。

これは、その呪術を妨害するための結界みたいなものだ。





「……。」





唱えて、そしてじっとその背を見つめた。

杞憂だったら…それでいい。

でも、約束したから。
カインが帰ってきたあの日…あたしも頑張ると。



《ふふふ、カインがゴルベーザにまた引き込まれそうになったら、あたしがギャーギャー叫んであげる。呆れちゃうくらい。それくらい何度も何度も、カインの名前を叫んで叫んで、ふっとばす!それで、術中から引っ張り出したげる!》



あの時、自分で言った言葉を思い出す。
そして心で繰り返した。

そう、いくらでも叫ぶよ。いくらでも呼ぶよ。

もう二度と…ゴルベーザの好きになどさせるものか。

歩きながら、あたしはその気持ちを抱き続け…魔力も込め続けた。
そして、出口は…無事に訪れる。





「ついた…!」





ルカから預かったペンダントで開いた扉。
そこをくぐり抜けたら、思わずそんな声が出てしまった。

だって、洞窟の入り口まで戻れたことで、なんとなく山を越せたような感覚があったから。

だけど…その安堵が間違いだったことに、あたしはすぐに気づかされる。





『…カイン…』





その時、突然頭に響くような声がした。

ゾ…っと背筋が凍った。





「なんだ…?」





セシルが呟き辺りを見渡す。
他の皆も不安そうな顔で様子を伺っていた。

カインは、拳を握って…黙っていた。

その手は…震えてる…?
まるで、何かに耐えてるみたいに。





「…く…」





小さな呻きを聞いた。

あたしは…掛けたまじないの結界を、何かが突き破ろうとしている感覚を感じていた。

…ゴルベーザ…。
やっぱり、また…カインに…!

当たって欲しくなかった予感。
だけどそれは、的中してしまった。





『カイン…帰ってこいカイン…そのクリスタルを持ち私の元へ』

「ゴルベーザ!…っカイン!」





声の正体がゴルベーザだと気が付いたセシルは、ハッと名を呼ばれているカインを見た。
カインは、頭を押さえていた。





「しっかりして!」





それを見て状況を察したローザもまた、同じにカインに叫ぶ。

あたしは、結界が突き破られないように必死に抵抗していた。

だけど…やっぱりゴルベーザは強い。
ムカつくけど、それは認めざるを得ない…かな。

悔しい。グングンとその力に押されているのが嫌というほどわかった。





「っカイン…!!」





まずいな…このままじゃ…!

嫌な汗が背を伝った。

ああ、くそ…!
こうなったら、強行手段だ。
あたしはカインの腕にガッとしがみついた。

叫べ、届け。

ギャーギャー叫ぶんでしょ。
叫んで、呼んで、引っぱり出すんだろ…!





「カイン!!!」

「…っ、ナマエ…」

「カイン!カイン!カイン!カインーー!!!」





何度も呼ぶ。大声を出す。
うるさいくらいに。それ以外何も、耳に入ら無い様に。

多分、凄く焦ってた。

だって、結界が押されてるのが凄くわかったから。

粘れ!怯むな!負けるな!
意地でも張るかのように、ひたすらに力を込め続ける。

…だけど。





「…ナマエ、大丈夫だ…」

「…!」





カインの声がした。
穏やかで、優しい声…。

だけど同時に、あたしは聞いた…。

パリン…と、結界が壊れ落ちる音…。





「…あ…」





その時、何か…物凄い喪失感に襲われた。
見上げたカインは、何処を見ていたのだろう。





「大丈夫だ…おれはしょうきにもどった!」





正気に戻った。
直後、カインが発した言葉。

その瞬間、あたしは手はカインの腕から遠ざかった。

振り払われたのだ。





「ナマエ!」





振り払われて、足がもつれた。
グラッと体が揺れて、崩れ落ちる。

だけど痛みは無かった。

何かに支えられたような、そんな感覚があったから。

だけど、それが何だったのかわからない。
だってそれよりも、あたしの目はカインを追っていた。

凄く、スローに見えた。





「うッ!」





カインはクリスタルを持つセシルに体当たりをした。
そして、怯んだセシルの隙を見逃すことなく、セシルからクリスタルを奪い取った。





「テメーッ!!!」





それを見たエッジが声を荒げた。

その声は凄く傍から聞こえた。
ああ、助けてくれたのはエッジだったのか。





「カイン、何を…!?」

『私の術を侮ってもらっては困る。この時を待っていたのだ!これでバブイルの塔は完成する!月へ行けるのだ!』





呼びかけたローザに答えるかのように言葉を返したのはゴルベーザだった。
ゴルベーザの術が、カインを飲み込む…。





「カイン!目を覚ませ!」

「……。」

「カイン!」

「これですべてのクリスタルが揃った!月への道が開かれる!」





セシルとローザの声に答えず、ゴルベーザに同調するように高らかにクリスタルを掲げたカイン。

カインはその言葉を最後に、あたしたちに背を向ける。





「待ちやが…って、おい!?ナマエ!?」





そのカインの背を見た瞬間、あたしは支えてくれたエッジの手を放して駆け出した。

そして懸命に手を伸ばす。

カイン…!!
ただ、ひたすらその名前だけを心に叫びながら。





「カインッ!!待って、っ!」





だけど、手は届かなかった。

伸ばした指先は宙を仰ぐ。
カインは空高く、飛翔した。





『ハーッハッハッハッハ‥‥!』





最後に響いたのは、ゴルベーザの笑い声。





「カイン…」

「なんてこった…!」





背中の方で、セシルとエッジの声がした。
セシルは消沈、エッジの声は…苛立っていた。

カインの裏切り…。
たった今起こったその事実に、息苦しい空気が流れる。





《ねえ、カイン。ちょっと直球なこと言っても良い?》

《…なんだ?》

《カイン、本当はどっかで思ってるでしょ。また、操られたら…とか》

《………。》

《あははっ、図星だ》





カインにおかえりって言ったあの日。
夜、バロン城のテラスで交わした会話が頭を回る。




「…、…」





額を押さえる。
そのままずるりと…瞼に手のひらを落とす。





「くそ…っ…」





自分の無力さを思い知る。

頭が痛い…。
…酷く、自分に苛立った。



To be continued

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