きみへの想い | ナノ

▽ 閉ざされた向こうに


今までに奪われてしまった7つのクリスタル。
その全てを一気に取り返すべく、敵陣であるバブイルの塔への突入を決めたあたしたち。

ドワーフたちの協力を得たことにより、進入はそう難儀なものでもなかった。

そして、入ったからにはもう先を目指すのみ。
その勢いに乗ったまま、あたしはちは真っ直ぐ頂上へと上り詰めた。





「ルビカンテ様、お気を付けて…」

「案ずるな。忍術とやらを使うエブラーナの城は既に落ちた。留守は預けたぞ」





頂上にたどり着くと、誰かの話し声が聞こえた。

あたしたちはばれない様に身を隠し、その様子を静かに伺う。

人数はふたり。
そのうちの片方は、ルビカンテと言うらしい。

様付けされてるってことは、結構エライ奴なのかな。

あたしはコソッと、カインに耳打ちした。





「…ねーねーカイン。ルビカンテって誰?知ってる?」

「…火のルビカンテ。ゴルベーザ四天王の最後のひとりだ」

「…え、予想外に大物来ちゃった…!?」





同じように耳打ちし、答えてくれたカイン。
でもその回答に驚いた。

エライ奴っていうか…まさかの四天王だった。

でも、此処で戦うという展開にはならなそうだ。
奴はどこかに行くようだし、あたしたちの今の目的はあくまでクリスタルの奪還。

それなら、余計な戦闘はしないに限る。

…となれば、あたしたちの問題はもうひとりの残ったほうになると言う事だ。

残ったもうひとりの方は、どうやら科学者らしい風貌だった。
博士って感じのおじさんみたいな。

さて、科学者なら実力行使で黙らせるが早いか、去るのを待つか…。
そうやって、どうするべきか考えながら様子を伺う。

すると、変化はすぐに訪れた。





「ヒャヒャヒャ!ゴルベーザ様もルビカンテもおらん。ワシが最高責任者だ!」




ルビカンテがいなくなった直後に響いた、高らかな笑い声。
吹っ切れちゃったような馬鹿笑いだ。

それを発してる正体は、目の前にいるそのおじいさん。

…あえてこっちの反応を言うのであれば…ぽかーん、かなあ。

ええええええ。なんだあのおっさん。
なんかハイテンションになったんだけど…。

こちらの誰もが思ったであろうその感想。
そしてそれを口に出してしまった少女がいた。





「変なおじいさん…」

「しぃッ!」






ぽろっと零したのはリディアだった。

いやでも気持ちは凄いわかる。
確かにあれは変なおじいさんだ!

ローザが慌てて注意したものの、時は既に遅し。





「そこにいるのは誰だあ!?」





声を耳にしたおじさんは振り返った。

こうなったら強行突破しかないか。
まあ、あんな奴ひとりくらい簡単に吹っ飛ばせちゃうでしょう。

覚悟を決めたあたしたちは、そいつの前に姿をさらした。





「貴様らは!?いつの間に!?」





目の前にあわられたあたしたちに、奴は驚きを隠さない。
そして、その様を見たカインは槍を振りかざし脅しながら奴をあざ笑った。





「フッ。ルビカンテはいまい!お前に俺達が倒せるかな?」

「キーッ!馬鹿にするでないわ!四天王に加われなかったとはいえゴルベーザ様のブレインを言われるこのルゲイエ!このバブイルの塔はワシのメンツに賭けて守るわ!」





どうやらこの人、名前をルゲイエと言うらしい。

四天王に加われなかった、ねえ。
ゴルベーザ様のブレインとか自分で言っちゃう辺り、結構自信家なのかもしれない。

なのに四天王にはなれなかった。

裏でルビカンテを呼び捨てにしてたところを見ると、どうやらひがんでそうな感じ。





「このルゲイエの生み出した最愛の息子が貴様らの首を頂いてやるわあ!行け、バルナバ。こてんぱんにするのだ!」





ルゲイエが叫ぶ。
すると、彼の背後から『ウガー!』と、大きな声のようなものが聞こえてきた。

そして同時に響いてくるドスンドスンという地響きにも似た音。

なにかがこちらにやってくる。
ゆっくりゆっくり、影が周りを包んだ。





「でっか!?」





その影を見上げ、あたしは思わず叫んでしまった。

影の正体は、見上げられるほどある大きなロボットだった。
名前はバルバナとういらしい。立派な名前をつけちゃってるところから、ルゲイエの愛着が見て取れる…ような気がする。

また操縦席もついているようで、ルゲイエはバルバナに乗り込みこちらに襲い掛かってきた。

でも、ロボットとかの弱点がはっきりした敵は…魔法の独壇場、だったりするわけで。





「ナマエ。行って来い」

「はーい。リディアー!」

「うん!久しぶりだね!ナマエと魔法使うの!」





カインに背を押され、リディアに手招きして手を繋ぐ。

ああ、この感じ久しぶりだ。
記憶より彼女の手は大きくなっているけれど、なんとなく懐かしい感じはする。

さあ、ダブル魔法お見舞いしちゃうよ!





「「サンダガ!!!」」





ふたりの手から放たれた、最大級の雷魔法。
自分で言うのもなんだけど、結構威力半端無いよ。

そんなものを、ただでさえ雷に弱い機械が喰らえば一発だ。





「ウガー!!!」

「ば、バルバナー!!!」





雷は見事、バルバナの頭上に勢いよく降り注いだ。

プスー…と黒い、いかにも危なげな煙を出しバターン!と倒れたバルバナ。
一撃必殺!完全勝利ってなもんだ。





「ナマエ!やったねー!」

「おうよ!息ぴったりだったねー!」





見事にクリティカルを決めたあたしとリディアは手を取り合って笑った。

なんか本当に、ひゅー!決まったー!って感じだった。
リディアとの相性の良さは変わらず健在らしい。

前みたいに抱き上げてくるくる回るとかは出来ないけど、ふたりでぴょんぴょん跳ねて喜んだ。

中で操縦していたルゲイエも、これでは無事では済まないだろう。





「ヒャヒャヒャ…」





だけど…、どうだろう。
突然、動かなくなった機体の中から笑い声が聞こえてきた。





「このバブイルの塔は大地を貫き地上と地底を結んでおる…。クリスタルは既にルビカンテが地上へ移した!ドワーフはワシの造った巨大砲で全滅じゃ…。ヒャヒャヒャーッ!」





高笑い。
戦いに敗れたのに、勝ち誇ったような。

現にその言葉はあたしたちにとっては致命的だった。

クリスタルを奪還する為にここに乗り込んだのに、既に此処に無いというなら、今この行動がひっくり返って意味を失う。
そして、このままではドワーフたちが危険に晒されてしまう。




「ドワーフさん達がやられちゃう!」





泣きそうな声を上げるリディア。

目的が一気に意味を失ったとしても、此処で突っ立っているのは正解じゃないのは確かだ。
今しなきゃならないのはドワーフたちをどうにかして救うこと。





「巨大砲とやらを!」

「破壊せんと!」





ヤンとカインの声に弾かれるように、あたしたちはその場から走り出した。

目的はクリスタル奪還から巨大砲の破壊へ。
あたしたちは急いで塔内を走り、巨大砲を探し出した。





「ワハハ!死ね!ドワーフどもめ!」





巨大砲のある部屋にたどり着くと、正に間一髪。
扉を開いたその時がちょうど、魔物が巨大砲を作動しようししているところだった。





「コラー!巨大砲ストップ!」

「貴様ら…!?」





あたしは部屋に入るなり大声でぐあっと叫んでやった。
する巨大砲を作動させようとしていた魔物が振り向き、こちらの存在に気が付く。





「そこまでだ!」





その一瞬の隙を突き、セシル、カイン、ヤンが部屋に入り込み、すぐさま部屋の魔物を一掃した。





「やった!」





倒れた魔物を前に、あたしはパン!と手を叩いて喜んだ。
これでとりあえずドワーフたちは助かったはず!

だけど、その喜びもつかの間。





「クソッ…こうしてやる!」





蹴散らしたはずの魔物の一匹が、最後の意地を見せるかのように、ガン!と巨大砲に衝撃を与えた。
その瞬間、止めたはずだった巨大砲が動き出してしまった。





「ふははは…!これで誰にも巨大砲は止められんぞ…!」





作動を最後に力尽きた魔物。

でも、ただ動いただけじゃない。
…なんだか装置の様子がおかしい。

部屋中に嫌な音が響き渡ってる。

機械は火花を散らし、今にも爆発してしまいそうな雰囲気だ。





「え?え!?なに、なに!?もしかして爆発する!?」





予想していたかった展開に焦る。
あたしはわあああ!と頭を抱えて喚いた。

皆の顔にも焦りが滲んでる。

だけどそんな中、ひとり静かに一歩前に出た人物がいた。





「…ヤン?」





それはヤンだった。
ヤンは険しい顔をし、目の前の状況を見据える。

その様子にあたしは違和感を感じ、彼に声を掛けた。

ヤンは振り返ると、その場の全員の顔を見渡した。





「ここは私が引き受ける!皆は早く脱出を!」

「「「「「!?」」」」」





引き受ける…!?
その言葉を聞いた瞬間、皆の顔色が変わった。

でも、ヤンは何かを言うことを許さなかった。

ヤンは構える。
そして、誰かが言葉を発する前にひとつの技を繰り出した。





「御免…!」





その技により、あたしたちは全員、部屋の外にはじき出されてしまった。
そしてすかさず、ヤンはその扉を閉めた。





「ヤン…!ヤン…!?」

「ヤン!」





あたしとセシルは慌てて扉に駆け寄った。
そして、ドンドンと強く拳を叩く。

引き受けるって何…!?
なんで閉めるの!?

そんなことしたらヤンは…!





「ヤン…!」

「妻に伝えてくれ…私の分も生きろと!」





呼びかけた名前に返ってきたのは、まるで遺言のような言葉。





「…楽しい旅であった!」





皆が叫ぶ。
扉を早く開けろと。

だけど扉が開くことは無い。

変わりに聞こえたのは、ヤンの咆哮。

そして…大きな爆音と共に、隙間から熱い光がカッと漏れ…その扉をかすかに揺らした。





「…う…そ…」





足の力が抜ける。
ずる…っと、その場に崩れた。

嫌な静けさを聞く。

その瞬間、そこにいる誰もが言葉を失った。




To be continued

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