きみへの想い | ナノ

▽ 召喚士との再会


「お願い!」





クリスタルルームに突如現れた緑の髪の女の人。
彼女が声を掛けると、ドラゴンは首をしならせ霧のブレスを吐いた。

煌く白いドラゴンの息。
強い魔力を感じたそれは、まっすぐゴルベーザにへと向かっていく。





「ぐおっ!!」





ブレスは直撃した。

うめき声を上げたゴルベーザ。
その身体は、ぐらっと揺れるとその場に崩れた。

倒れた身体は…動かない。

その光景に、辺りを静寂が包んだ。





「倒した…!ゴルベーザを倒したぞ!」





静寂を壊したのはセシルだった。
その光景にセシルが歓喜の声を上げたのだ。

勝った…?ゴルベーザに?

あたしは今起こった事実がよくわからなくて、困惑しながらも現れた彼女に振り返った。





「ナマエーっ!」

「へ、え、おわあ!?」





振り返ると、物凄い傍に彼女がいた。
もとい、駆け寄ってきていたらしく、そのままガバッと抱きつかれた。

思わずすんごい声が出た。





「ナマエー!会いたかったよ!」

「へ…、え、ええと…わたくしにはこんな緑の髪を持った綺麗なお嬢さんにお知り合いは……ん?緑の髪…?」





ナマエと、名前を呼ばれて考えた。

何であたしの名前知ってるんだこの人。
いや、待て。緑の髪?それに、さっきのドラゴンは?…召喚獣?

脳みそフル回転。
正直よくわからん。

でも、一個…ふとした心当たり。





「もしかして…リディア?」





思い出したのは、カイポで出会った小さな少女。

緑の髪、召喚士。
あたしの名前を知っている。

そこまで整理した結果、それしか答えが思いつかない。





「うん!」





恐る恐る尋ねてみると、目の前の彼女は満面の笑みで頷いてくれた。
…ってえ、自分で聞いといてなんだけど…。





「ええええええ!?!?リディアー!?!?」





思い出す。
あたしが簡単に抱っこ出来ちゃうくらい小さかったリディア。

それがなんだ。
目の前のお嬢さんはすらっとした美人さんだ。

あたしの素っ頓狂な叫びに、セシルやローザ、ヤンも目を丸くしていた。





「リディア?!君はリディアなのか!?」

「リディア…!?本当に!?」

「一体その姿は…!いや、無事であったなら何よりだが…!」





リディアは、ファブールから乗った船から落ちて…。
ヤンが追うように海に飛びこんだけど、結局助けられなかったと首を振っていた。

でも今彼女はこうして目の前に現れた。
しかも、成長した姿で。

……うん!正直、意味不明だ!

リディアもあたしたちの困惑は感じ取っているだろう。
くすっと笑いながら、あの後自分に起こったことを説明してくれた。





「あのあと私は…リヴァイアサンに飲み込まれて幻界に連れていかれたの。幻界は、幻獣達が住む世界よ。そこで幻獣達が友達になってくれたの。白魔法は使えなくなったけど、その分、召喚と黒魔法の腕は上がったわ!でも幻界はこことは時間の流れが違って…」





リディアはあれから…幻界で日々を過ごしていた。
だけど幻界はこの世界と時の流れ方が違うのだという。

つまり、あたしたちがこっちでアレコレしている間…幻界では何年もの年月が流れてしまった。
その時間の中でリディアは成長し、そして今ここに現れてくれた。





「ナマエ…この子は?」

「え、あ。そっか。カインはわからないよね」





ぎゅうっとあたしの手を握っているリディア。
カインは話の腰を折らないように、タイミングを計ってリディアのことを尋ねてきた。

一応、ファブールで対面してるような気もするけど…あれを対面って言っていいのかって感じだよな。

そうこう思っていると、セシルが少し苦い顔をしてカインに説明した。





「ミストの村のリディアだ」

「ミスト…?あの子供!?」





セシルの言葉を聞いたカインは驚いたように声を上げた。

あの子供…。
どうやらカインにも心当たりがあったらしい。

と言うか、ミストの単語で納得した。

そっか。
そういえば、セシルとカインはミストにボムの指輪を…。

多分その時に面識があるんだろう。

現に、それを切っ掛けにするようにセシルはリディアに向き合った。





「リディア…。でも、なぜ僕たちを…。僕は君のお母さんを…」

「言わないで!」





リディアはセシルの言葉を強く静止させた。
そして小さく深呼吸をし、ゆっくり強い目をして顔を上げた。





「幻界の女王様に言われたの。今もっと大きな運命が動いているって…。私達が立ち向かわなきゃいけないって」




もっと大きな運命…。
リディアの言葉は、心の中で何かを掻きたてた。

8つのクリスタルと…月。
あたしたちが立ち向かう…か。

だけど、それを聞いて思う。
私たち…という事は。





「え、じゃあ…これから一緒に戦ってくれるってこと?」

「うん!」





あたしが聞くと、リディアは笑って頷いた。

…おお…!
これは、なんか、物凄く嬉しいかもしれない…!

だけど、そんな喜びもつかの間…。
その時、背後でガタッ…と物音が聞こえた。





「私は…死なぬ!!」





その声に、全員がハッとし振り向いた。

だけど遅かった。
そこには、ゆらっと立ち上がるゴルベーザの姿があった。

ゴルベーザは渾身の力を振り絞るかのように、そのままクリスタルを奪ってしまう。





「しまった。クリスタルを!」





セシルが急いで駆け出す。
でも、手が届く前に、ゴルベーザは魔法で姿を消してしまった。

一瞬の出来事…。

…ジオット王に合わせる顔が無くなった。







「すいません、クリスタルはゴルベーザの手に…」





結局、あたしたちはクリスタルを守る事が出来なかった。

王の間に戻り、セシルの謝罪に合わせて頭を下げる。
それを見たジオット王は、寛大に頷いてくれた。





「止むをえん。こうなっては最後のクリスタルを死守するしかあるまい。最後のクリスタルは西にある封印の洞窟じゃ。ゴルベーザが向かったが慌てるでない。封印を解く鍵がなければあの洞窟に入る事は出来ん。そこでじゃ、お主らに頼みがある!」

「クリスタルを奪われたのも僕らの責任です!何か力になれるなら…」





セシルは快く頼みを聞くことを受け入れた。
実際、出来る事があると言うなら、それだけで聞く価値は十分にあった。





「ゴルベーザが封印の洞窟に向かっている今がチャンスじゃ。バブイルの塔に潜入し7つのクリスタルを奪い返してはもらえぬか?」





王の頼み…。
それは、既に奪われてしまったクリスタルを取り戻して欲しいと言うものだった。





「バブイルの塔に?」

「敵の本拠地に潜入しろとおっしゃるか!?」





それを聞いたカインは少し眉をしかめ、ヤンも声を荒げた。

確かに…ちょっと予想外の頼みではあったかもしれない。





「心配はいらん!我らの戦車隊が敵を引き付ける!その隙にお主らクリスタルを奪還してほしい!ゴルベーザのいない今しかない!」





ドワーフ王も無理難題をただ吹っかけてきているわけではない。
勿論、ドワーフたちも力を貸してくれる上での話だった。

ドワーフたちが敵を引き付けてくれるなら、まあ多少は警備も薄くなるだろう。

と言っても敵の本拠地に突っ込むっていうのはやっぱり考え物。
皆はどうも難しい顔をしていた。





「敵の基地なんでしょう?」

「確かに危険ね」

「しかし、虎穴に入らずんば虎子を得ず」





皆で少し、考えてみる。
敵陣に突っ込んだ…といえば、ゾットの塔が一番近いかな。

あの時はむしろ招かれたわけだし、敵の歓迎をただ受けるしかなかった。

でも今回は隙を突いて乗り込むわけで…。
しかもゴルベーザはいないと来た。





「ナマエ?何か策でもあるのか」

「ううん、ちょっとゾットの塔とかどうだったか考えてただけ。あの時と違って敵が待ち構えてるわけじゃないしな〜とか。あの時より敵が薄手なら、勝算は結構ありそうかもって。ゴルベーザがいないのも大きいよね?ねえ、カインはどう見る?」

「…そうだな。ゴルベーザがいないことをチャンスと捉える意味はあるだろう。しかし…」

「ん、なに?」





まじ、とカインに顔を見られた。
不思議に思って首を傾げる。

するとカインは「いや…」と笑った。





「いつもながら、感心してるんだ。普段を見ていれば深く考えそうにないものを、意外とお前は的確に状況判断をする」

「んー…ところどころ気になるけど、それは褒めてくれてるんだよね?」

「フッ…まあな」

「おお!やった!もっと褒めて!カインが褒めてくれたらもっと頑張れるよー!」

「調子に乗るな」

「いてっ」





ぺしっ、と軽く頭を叩かれた。

けど、褒めてくれたことには変わりない。
だからあたしの口元は自然に緩んで綻んでいた。





「セシル。俺やナマエに依存は無い」

「うん!やったるよー!」

「カイン…ナマエ…。わかった、よし…、やってみます!」





カインとあたしの声を聞いたセシルは頷き、決心をしたようだった。

ジオット王に向き直りその旨を伝えると、王は武運を祈ってくれた。





「頼むぞ!この城の地下に抜け道への入り口がある!仕度が出来次第行くがよい!御武運を祈っておるぞ!」」





こうして次の目的は決まった。

次に向かうは、バブイルの塔。
今まで奪われた7つのクリスタル奪還作戦、決行決定。



To be continued

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