きみへの想い | ナノ

▽ 踊る人形カルコブリーナ


「ジオット王。この城のクリスタルはいったい何処に?」





セシルがジオット王に尋ねた。

シドと分かれたあたしたちは、とにかくお城のクリスタルの安全を確保することが最優先だった。
これ以上のクリスタルを、もうゴルベーザには渡すわけにはいかない。

守る以上、どこを守っていいか把握しておく必要があるのは当然だ。

ジオット王はドンと胸を叩き高らかに笑って答えてみせた。





「何を隠そうこの王座の裏の隠し部屋じゃ!これなら私の目の黒いうちは安全というワケじゃ!」





隠し部屋のあるらしい背後を指し、本当に満足そうな王様。

目の黒いうちは…安全、か。
なんだか凄く自信たっぷりだった。

いや。びくびくしながら言われるよりは、全然いいとは思う。

けど、そんな余裕を見て微妙に不安を覚えたのはあたしだけだろうか?
だってなんとなく…こう言うときにこういう余裕って、なーんかフラグな気がしてならない…って気にしすぎかな?





「…うーん。…どうしよ、なんか不安になってきた」

「……思っても口に出すな。縁起でもない」

「………はい」





ぼそ、と零すとそれが聞こえてしまったらしいカインに怒られた。

まあ確かに縁起でもないはごもっともだ。
だから大人しく反省はしておいた。

…ものの、そんなあたしの不安を助長するかのように、その時あたしはヤンがピクリと何かに反応したのを見てしまった。

ううう…。





「…ヤン、どうかしたの?」





けど、気づいちゃっ以上確かめないわけにもいかない。

恐る恐る尋ねてみると、ヤンは眉をひそめて頷いた。





「誰かが盗み聞きしている」





その言葉を聞いた瞬間、そこにいる全員に緊張が走った。

モンク僧であるヤンは呼吸とか、そういうものに敏感なのかもしれない。
だからこそ信憑性も増してくる。





「この先に気配を感じた!」





ヤンが指差したその先とは、玉座の向こう…。
つまり、今さっきジオット王が言ったクリスタルのある隠し部屋。

その瞬間、緊張は焦りに変わった。





「扉を開けい!」





ジオット王が扉を開けさせ、あたしたちは急いでクリスタルルームへと駆け込んだ。

セシル、カイン、ヤン、ローザ、あたし。
でも…その5人が飛び込んところで。


ガコン!!





「ふおえ!?」

「…っ開かない!」





物凄い音を立てて扉が閉まってしまった。

あまりの音にあたしはビクッと心臓が飛び跳ねた。
いや、今の本気でびっくりしたよ!!?

あたしが心臓を抑えている中、カインが扉に手を掛けてみるもビクともしない様子。

…つまり、閉じ込められた!?





『キャーホッホッホッ』





展開の速さについていくのに精一杯。
なのに、また新たにやってくる新展開…っていうか、笑い声。

奥のほうから聞こえてきたそれに、あたしはまたビクついた。

いやココ薄暗いし!
っていうかこんな時に笑い声ってなんだ!!!

そう思ってちょっと睨みながら笑い声のしたほうに振り返ってみる。
けど…そこにあったものを見て、あたしはひくっ…と引きつった。





「人形が…!!」





ローザが少し悲鳴にも近い声で叫ぶ。

そう、そこにあったのは数体の人形。
関節をうねらせ、くるくると回って踊る…。

え…、もしかして…ルカの言ってた無くした人形…?え、あれが?

もしそうだったら大変ルカには申し訳ない。本当ごめんねルカって感じなんだけど…。
カタカタと動くその姿は…正直、不気味以外のなにものでもありません!!!!!





「な、なななななにあんたたち!!」





とりあえず怖さを紛らわすために叫んでみた。
……カインの背後から。

カインが何ともいえない顔で見ていたのはこの際見なかったことにするよ!

ていうか本当それそころじゃない。

叫んだあたしの問いかけに、人形たちはカタカタ飛び跳ねながら陽気に答えてきた。





『僕らは陽気なカルコブリーナ!』

『恐くてかわいい人形さ!』

『ばーかめ!』

『のこのこやってくるからさ!』

『君らを倒してゴルベーザ様の』

『手土産にさせてもらうよ』

『キャーホッホッー!』





ひとつ言わせてもらおう。
怖くて全然可愛くないわ!!!!

そんなこと言ってる場合じゃない?だろうね!!

なぜなら人形たちは勢い任せにこっちに襲い掛かってきた。





「ナマエッ!」

「はいっ!!ぶ、ブリザガーッ!!!!」





敵が複数の場合は魔法が有効。

カインの声に我に返され、あたしは思い切りブリザガをぶっ放してやった。
ファイガじゃなくてブリザガだったのは、一応ルカの人形っていう理性が働いた結果だ。

そうじゃなかったら焼き払ってたっつの…!!

ピキン…!と凍りついた人形たちは動きを止める。
何体かは少し鈍く動いていたけど、たぶんそれも時間の問題だろう。





『よくも…やったな!」

『痛い…よー!』

『でも…この場所は報告…済み!』

『仇は討って…もらうよ!』

『ゴルベーザ様ー!』


「なに!?」





ゴルベーザ。
その名を口にしたカルコブリーナはそれを最後にぱたっ…と動きを止めた。

セシルは顔を強張らせる。

カルコブリーナたちも…やっぱりゴルベーザの仕業…!

そして…声が聞こえてきた。





「久しぶりだな…」





辺りに一気に新たな気配を感じた。
魔力を肌で感じるから、もう…すぐわかる。





「ゴルベーザ…!」





目の前に突如として現れた黒い鎧…。
セシルが剣を構えると、カインやヤンも槍や拳を握った。





「先日は世話になった。だが、あのメテオの使い手ももういまい」





ゾットの塔…。
あの時、ゴルベーザに傷を負わせたメテオ…。

確かに…あの時メテオを放ったテラさんはあの時に…。

悔しいけど、あたしじゃまだメテオを使うには力不足だ…。
未熟さに少し腹が立った。





「あの時の礼に私が何故クリスタルを集めるのか教えてやろう」





ゴルベーザはそう言ってマントを翻した。

そりゃどうもご丁寧に…って感じだけど、教えたところで…って事なんだろう。
完全になめられてる感じが凄く嫌味だと思った。

でも、教えてくれると言うなら…今は聞いて奥のも悪くない。
ただ、あとで噛み付いてやる…って心の中では毒を吐いた。





「光と闇、あわせて8つのクリスタル…。それは封印されし月への道、バブイルの塔を復活させる鍵なのだ。月には我々の人知を越えた力があるという」





あわせて8つのクリスタル…月への道。
前にカインが同じような事を教えてくれた。

だからここでは、本当にゴルベーザの目的が月であるのだと確信に変わった。

でもやっぱり途方も無い話だと思う。
だって月って…。月に、人知を超えた力…。

だけど確かなのは、やっぱりコイツにクリスタルを渡しちゃいけないって事。
渡してなんか、なるもんか!!

そうやって、あたしたちは全員強く身構えた。

でも、ゴルベーザは笑っていた。





「このクリスタルで7つ目…残すところあと1つとなったわけだ。これも君達のおかげだ。この礼もしなければ失礼だな。受け取れい!これが私からの最後の贈り物だ!」





瞬間、物凄い魔力がゴルベーザの手から放たれた。





「ぐっ…!」





クリスタルのお礼…。
そう言うだけの事はある。

実際に身に受け、くらって悟った。

コレ…やばい…!

それは恐ろしく強い呪縛だった。
指一本満足に動かせない、とんでもない技。

それを全員がくらってしまった。

やっぱ…ゴルベーザの魔力…並じゃない…!

動けなくなったこちらを見たゴルベーザの様子は、どこか満足気に見えた。





「動けぬ体の残された瞳で真の恐怖を味わうがいい。参れ黒竜!」





そして、ゴルベーザが呼び寄せたのは真っ黒な竜。
巨大で鋭い牙を持ち、あたしたちを睨んでる。

まずい…このままじゃ本当にやられる…!

あたしはなんとか魔力に意識を澄ませて、呪縛を解こうと試みてみた。





「くっ…そ…!」

「…ほう。娘…、私の呪縛の中で少しでも動けるとは…見直したぞ」

「ふっ…そりゃ、どう…も…」





コイツに褒められても、全然嬉しくは無いけど。

それに…こんなに震えながら動けたところで、何の意味も無い。

もうこれ以上動けない。
何かをすることが許されない。





「さあセシル!さらばだ!」





ゴルベーザが手を振り下ろし、黒竜に命じた。

黒竜が口を開く。
鋭い牙を剥く。

そして一直線に、セシルの下へ。





「セ…シッ…!!」





手も、伸ばせない。

ただ映る。
黒竜がセシルに向かっていく姿だけ。

でもその時、辺りを真っ白な霧が包んだ。





「大丈夫。もう動けるわ」





そして聞こえた、女の人の声。

その声は正しかった。
霧が包んだ瞬間、ふわっ…と身体が軽くなった。

なに…が、起きた…?

わけがわからなくて辺りを見渡す。

すると、黒竜の前に、真逆の真白いドラゴンが対峙していた。

その現れた白いドラゴンは、黒竜に向かって霧の息を吐く。
それをくらった黒竜は、あとかたもなく姿を消した。





「ド、ドラゴン…黒竜を霧の力で消し去るとは…」





ゴルベーザがうろたえた。

霧の、ドラゴン…。
あたしたちを、助けてくれた…?

それに…そうだ!さっきの声は…?

聞こえた女の人の声を思い出し、ぱっとそちらを振り向く。





「え…」





緑の艶やかな髪。
すらっと伸びた、白い手足。

そこには、不思議な魔力を感じる…そんな女の人が立っていた。




To be continued

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