▽ 地底の世界
「うわー、でっかい穴ー!」
目の前に広がる巨大な穴。
飛空艇なんてすっぽり入ってしまうだろう。
先は暗くて真黒だ。
さてさて、この先には何があるのか!さあ、果たして!
「ナマエ、いつまで覗きこんでいる。行くぞ」
「はーい!」
カインに呼ばれスチャっと立ち上がる。
待っていてくれるカインの元へ駆け寄って、あたしたちは飛空艇へと足を戻した。
ここ最近、あたしたちはカインが敵陣で得た知識から地底へ向かう方法を探していた。
飛空艇で世界をめぐり、お城中の書物をひっくり返してはひたすらに漁る。
そうした作業を繰り返し、やっと見つけた手掛かりはアガルトという村だった。
アガルトは地底人の血を引く人々が暮らしているらしく、また、村には古くから伝わるという井戸があると言う。
その井戸を覗きこみ、マグマの石を放り投げた結果…この巨大な穴が出来あがった、と。
あたしが覗き込んでたのはその穴だ。
まあざっくり掻い摘んでいくとこういう話である。
「あの穴、地底に繋がってるのかな?」
「どうとも言えんな。だが、探る価値はあるだろう」
「地底かー。どんな所なんだろ、わくわくするね!」
「元気だな、お前は」
「カインと一緒だからねー!」
にへら〜と頬が緩んだ。
ゾットの塔を攻略したあの日の夜。
あたしはテラスでカインに自分の真意を伝えた。
その次の日、カインは少し目を丸くしてた。
なぜってあたしの態度が思いっきりいつも通りだったからだろう。
あの夜は、あたしも少し緊張した。
でも、事はそう複雑なことではないのだ。
だって、あたしはずーっとカインに好き好き言ってるし。
それは全然変わらないわけなんだよね。
軽く聞こえて良いし、伝わらなくていいとも思ってた。
別に何を期待しているわけでもない。
でも、ずっと、好意を全面的に出していたのは変わらないわけだから…。
いわば、当たり前の日々と気持ちが続くだけ。
だからつまり、今更何がどう変わるというのか。
カイン自身、あたしの態度から変に答える事もしてこない。
こういうとき、何となく伝わってくれるから馴染みの人間って楽だと思う。
全員が乗り込むと、シドは飛空艇を飛び上がらせる。
そして、巨大な穴の奥深くへと進んでいった。
「これが…地底…」
光の届かない場所。
草木は無く、ごつごつとした景色の世界。
とんでもなくだだっ広い洞窟の中…こんな表現が的確なのかな。
ああ、でも溶岩が多くて、結構暑いかもれない。
初めて見た地底の世界に、あたしは純粋に興味を抱いていた。
「あれは!?」
その時、セシルが声を上げた。
全員の視線が集まりその景色に目を向ける。
するとそこには赤い翼が飛んでいた。
「一歩遅かったか!」
ヤンが苦い顔をする。
だけど、赤い翼は何かと戦ってるようだった。
なんだろう、戦車みたいな。
砲撃が飛び交い、激戦が繰り広げられている。
「ええい!強行突破する!しっかり掴まっとれい!」
シドは舵に握り、その砲弾の雨の中へ飛空艇を進めていく。
ちょ、本気ですか!?
冷や汗だらだら。
とにかく、出来る事と言えば飛空艇にしがみつくくらいか!?
あたしはパニックになりながらも、頭を低くしてガシッと飛空艇にしがみついた。
のちに考えると、この判断は正しかったと言える。
砲弾の雨とか、いくらシドだって避けきるのも限界があるって話だ。
「痛いか?エンタープライズ!辛抱してくれい!」
「っ落ちる…!」
ドガン!!と言う大きな音。
と同時に暗転。
飛空艇は煙を上げながら、どんどん地へと近づいて行った。
「っはー…ビックリした…」
「怪我は無いか」
「あたしは大丈夫。カインは平気?」
「俺も、他の皆も全員無事だ」
落下した飛空艇。
声をかけてくれたカインに笑みを返しつつ、辺りをきょろきょろと見渡す。
確かに全員無事みたいだ。
すぐに皆の姿は確認できた。
だけど、シドの背中だけは酷く肩を落としてる。
「ああ…エンタープライズがいかれてしもうた…このまま飛ぶのは危険じゃな」
今の攻撃やら落下やらで、飛空艇は飛べなくなってしまったらしい。
あたしは飛空艇の知識はあまりないからわからないけど、多分また飛べるようになるには一筋縄じゃいかなそうだ。
「これからどうするのかな?」
「地底には辿りつけた。ここでこうしていても始まるまい」
「じゃあ、降りる?」
「だろうな」
カインは頷く。
それを見たあとセシルに目を向けると、セシルは何か考え込んでいるみたいだった。
多分、セシルも降りる事を考えているのだとは思う。
問題なのは、その先にどうするか。
「セシルー、どうするー?」
「うん…、降りるしかないだろうね。辺りを見てみたんだけど、すぐ近くにお城があるんだ。そこに向かってみようかと思う」
「お城?」
セシルが指さした先には、確かに何か大きな建物が見えた。
まあ、地底の世界なんて右も左もわからないし。
飛空艇を直すにも誰かの助けを借りなきゃならないかな。
この状況じゃ、唱える異議も無い。
満場一致で、あたしたちは近くにあるお城を目指す事にした。
「ご無事だったか、私はこの地底世界を治めるドワーフ王ジオット」
お城を訪れると、迎えてくれたのはドワーフという一族だった。
ドワーフたちはあたしたちを快くお城の中に通して、王様との謁見を許してくれた。
どうやら地底は人間ではなくドワーフ達の世界と考えた方がいいみたいだ。
ドワーフか…。
言葉も通わるし、話自体も通じる。
なかなか友好な関係が築けそうな感じだ。
とりあえず、今はそう時間は多く残されてない。
簡単な挨拶をすませると、セシルはさっそく本題のクリスタルの話を持ちかけていた。
だけど、あたしはというと。
「こんにちは!」
「こんにちは」
あたしはと言うと、そんなドワーフ国の御姫様ルカとお話をしていた。
多分、パロムやポロムとそう変わらない年頃だと思う。
いや、なんか人間が気になるのかじっとこっちを見つめてて、ぱちっと目があったから…。
大丈夫、クリスタルの話も勿論ちゃんと聞いてるよ。
よくわかんなくなったら後で誰かに聞けばいいしね!…とか言ったら怒られるかな?
だけど、小さな子の純粋な瞳には誰も勝てないわ…!
…まあ、あたしもドワーフの友達出来たらいいな〜と思った下心もあったのは否定しませんけど。
「あなた、名前は?」
「ナマエだよ」
「ナマエ」
「うん」
「ねえ、ナマエ。ナマエはお人形見なかった?」
「お人形?ルカの?」
「そう。お人形、無くなっちゃったの」
手を広げるルカ。
ないというのだから勿論、その中に人形は無い。
とりあえず辺りを見渡してみるも、それらしいものも落ちていない。
「あたしは見てないなあ…。見つかると良いね」
ポンポン、とルカの頭を撫でる。
そうしてそろそろちゃんと話に参加しようかと立ち上がる。
一応、4つのうち2つのクリスタルはすでに取られちゃってる事とか、さっき赤い翼と戦ってた戦車はドワーフ達だったとか。その辺りの話は聞こえてた。
ジオット王は、飛空艇の存在に凄く感心を抱いたみたいだ。
「ほう、あれは飛空艇と申すか。上の世界にはあのような物があるとは…。自慢の戦車隊も空から攻撃されてはちと苦しい…。そうじゃ、そなた達の飛空艇とやらで援護してはくれぬか?」
「それがさっきの砲撃と不時着のせいでちいとばかり、いかれちまったんですわい」
「修理に必要な物なら用意させるが?」
「急処置ぐらいは出来るじゃろうが地底の溶岩の熱には船体がもたん。地上に戻りミスリルで装甲を施さんとな!よっしゃ、ひとっ走り行ってくるかの!」
シドの見立てでは、どのみちこのままじゃ飛空艇は溶岩の熱でアウトだったとか。
その為のミスリルを手に入れようと、シドはひとり地上に戻ると言う。
「なーにすぐ戻るわい!パワーアップして帰ってくるからいい子で待っとるんじゃぞ!」
「気を付けて…」
「ほっほ、ローザ!ワシに惚れるなよ!」
シドはいつものように軽快に笑うと、お城の外に駆けて行った。
こうなってくると、あたしたちはその間にちゃんとやることをやっとかなきゃならない。
残りのクリスタルは、絶対守らないと…。
さあ、ちゃんと、気持ちを切り換えよう。
「よおっし!準備運動でもしとくかね!」
「気合十分だな」
「勿論!」
ぱしっ、と拳を叩いてカインに笑う。
「言ったでしょ。まだ、これから出来る事があるんだもん。頑張るよー」
「…そうだな」
「ね!それにカインも一緒にいるし、そうなってくると気合も割り増しだよ!」
「…そうか」
「うん!」
地上のクリスタルは確かに全部奪われた。
でも、まだまだこれからだ。まだ出来る事はあるんだ。
それならとにかくやるだけだ!
自分の決意を確かめるように、あたしは拳を握りしめた。
To be continued
prev next top