▽ 想いの意味
「ここは…」
「バロンのあなたの部屋よ」
ローザのテレポのおかげで崩れるゾットの塔から脱出したあたしたちはバロン城へと戻ってきた。
偽バロン王を倒したお城は、嫌な気配が消えている。
少し静かに感じて寂しい気もするけど、少なくとも安全な場所ではあった。
「セシル…話しておかねばならん事が…」
場所の安全を確認出来たところで、口を開いたのはカイン。
カインは敵地にいたことで得た知識をあたしたちに教えてくれた。
「クリスタルの事だ…」
「トロイアから借りてきた土のクリスタルも奪われてしまった…。これで奴の手にすべてのクリスタルが揃った事になる」
肩を落としたセシル。
でもそんなセシルの様子に、カインは首を横に振った。
「いや、クリスタルはまだ4つしか揃っていない!」
「4つで全部じゃ…」
「噂に聞いた事があるぞい!」
首を傾げるローザに、シドが手を叩く。
その様子を見たローザも「まさか…」とハッとしたように目を開く。
カインはそれに頷いた。
「そうだ。闇のクリスタルだ」
闇のクリスタル。
ずっと前、何かの文献で見た事があるような気がする。
この世界のクリスタルはいわば表のもの。つまり闇は、裏のクリスタル。
いや、正直よくは覚えてない…っていうか、大した事書いてなかったと思うけど。
つまり、そういうレベルの話だってこと。
「闇のクリスタルって、本当にあるの?」
「ああ。ゴルベーザはそれを探し当てた」
聞いてみると、カインは確かだと頷く。
「文字通りの表と裏…地底だ!奴は表と裏…つまり光と闇のクリスタルをすべて揃えたとき、月への道が開かれると言っていた」
「月への道?」
首をひねったセシル。
月って…あれか?
お空に浮かんでるあれですか?
??????
一応真面目には聞いてるけど、なんともスケールが急に大きくなってピンとこない。
それに、それ以上のことはカインにもわからないみたいだ。
「良くわからんがその鍵がこれらしい。お前に渡しておこう」
そう言って、カインは懐からとある石を取り出しカインに手渡した。
なんでもマグマの石とか言うらしく、特定の場所で掲げると地底への扉が開くとか。
とりあえず、次は地底へ行く方法を探すととりあえず目標は出来た。
エンタープライズがあれば世界なんぞひとっ飛びだとシドも胸を叩く。
ヤンにも部屋を用意し、今日のところは体を休めると言う方向で話はまとまった。
「無事、カインを助けられたよ」
その夜、あたしは城内のある通路に足を運んでいた。
というか、報告…かな。
ずっと協力してくれていたから…その成果をちゃんと伝えたいと思ってた。
「ね…、パロム、ポロム…」
双方の壁を押さえるふたつの小さな石化した体。
強い力で、簡単に解く事の出来ない魔法。
あたしはふたりに伝えに来た。
カインの事、ローザの事…。
それに…テラさんの事も…。
「まったく…無茶するよね…みんな。でも…そのおかげでこうやっていられるのも事実なんだけど…」
あたしはこうして、生きている。
自分の手を見つめ、ぎゅっと握りしめる。
だから、その分も…頑張らなきゃ。
「ま、報告は以上!じゃあね、ふたりとも!」
ふたりに手を振って、通路を去った。
もう結構良い時間だけど、まだなんとなく寝付けそうにもない。
そう思ったあたしは、夜風にでも当たろうと階段を駆けあがった。
目指すはテラス。
辿りつくと、そこには先客がいた。
「あっれ、カイン!」
「…ナマエ」
「わー!やった!あたしってばついてるなー」
風に髪を揺らしていたのは大好きなカイン!
自分でも物凄いわかる。
物っ凄い頬が緩んだ。
「…どうした、休まないのか?」
「うん。ちょっと夜風にでも当たりたいな〜って。カインは?」
「…俺も、そんなところだ」
カインの隣に立って、笑いながらその横顔を見上げた。
テラスに吹き抜ける風が、金の糸を流していく。
戦場じゃないから当たり前っちゃ当たり前だけど、いつもの仮面をかぶって無い。
だからちゃんと、顔を見て、目を合わせて話せた。
それで実感する。
ああ、ちゃんと…カインは此処にいるって。
「おかえり、カイン」
「…ああ」
「えへへー、嬉しいなー!カインだー」
「なんだ、それは。お前は本当に相変わらずだな」
「あったりまえだい!」
ニコニコしてるあたしを見たカインは小さく笑った。
でも、遠くの夜空を見ていた。
なにか、考えているような。
…思いつめているような。
そう、思いつめてる顔だ。
「カインはさ、もっと気楽に生きても良いと思うけどな」
「…なに?」
「おっきらくー。今も色んなこと気にして考えてるでしょ。言っとくけど、本当気にしすぎだと思うよ」
遠まわしに言うのとか、苦手だ。
でも本当に、カインは何ででもかんでも考えすぎ。
勿論、まったく気にするなと言うのは無理な話だとわかる。
裏切って…刃を向けて…。
それは消えない、事実だから…。
だけど、セシルもローザも、カインを責めるつもりなんて無い。
実際、カイン自身もわかってるんだとは思う…。
ま、それでもこうやって他人のことを気にしちゃうのも…大好きな部分ではあるんだけど。
でも…それは長所であって、カインの最大の短所だ。
「もっとさ、色々前向きに考えてみてもいい事だってあるんじゃないかな。例えば、マグマの石も、地底のクリスタルも、わからないままだったかもよ?終わりよければ全て良しって言うでしょ」
「…まだ終わってないぞ。これからだ」
「あはは、まあね!」
「……。」
「でも、そうだよ。これからまだ出来る事があるんだから」
そう…だから、これからを懸命に走ればいいだけの事。
でもきっと…しばらくはぐるぐると、カインはずっと考えるんだろうな。
罪の意識…。罪滅ぼし…。
セシルとローザのこと…。
そして、心の小さな隙間…。
あたしは夜空に、ふっと息をついた。
「ねえ、カイン。ちょっと直球なこと言っても良い?」
「…なんだ?」
「カイン、本当はどっかで思ってるでしょ。また、操られたら…とか」
「………。」
「あははっ、図星だ」
ずっと押し込めていた想いを…ゾットの塔で言葉にしたカイン。
その気持ちは…言葉にしたからって消えるものじゃない。
こんなに思いつめる程、愛おしく思っている…そんな想いは、簡単に消せるわけがない。
簡単に消せるなら、こんなに苦しまないだろう。
それでも、何かしたいと思ってしまう。
だってもう本当、大好きだからね!
カインのために、あたしが出来ることは何があるのだろう?
「ねえ、じゃあ次はさ、あたしも頑張るよ」
「…頑張る?何をだ」
「ふふふ、カインがゴルベーザにまた引き込まれそうになったら、あたしがギャーギャー叫んであげる。呆れちゃうくらい。それくらい何度も何度も、カインの名前を叫んで叫んで、ふっとばす!それで、術中から引っ張り出したげる!」
ぎゅっと拳を握って、ニッと笑う。
カインは目を丸くしていた。
カインはずっと…罪の意識に悩むだろう。
裏切ってしまった自分に、勝手に居心地の悪さを感じるだろう。
自分を押し殺す、優しいカインの長所と短所。
でもやっぱり、それじゃ少し悲しいじゃないか。
あたしの言葉は…きっとちっぽけだけど…。
いくら言葉を並べても、ローザの一言にも敵わないかもしれないけど…。
でも、せっかく持ってるこの想いは、無駄にしたくない。
どうせなら…カインの為に使えたら良いなって思う。
「ねえ、カイン。あたしはカインが大好きだよ」
いつものように口にする。
いつもの、全力全開の好意。
たけど、今回は…今回だけは。
いつもより少し…真意を込める。
「カインが、好きです」
いつも、届かなくていいと思ってた。
軽く聞こえてもいいって。
言っても仕方ないことを知っていた。
そこには大した意味など持たないことを。
だけど、今回はきっと、意味がある。
そこにきっと、意味が生まれる。
「みんな別に、カインのこと恨んで無い。でも、カインはきっと気にするから。それじゃ悲しいから。ひとつ知ってて、信じて欲しい」
「………。」
「何があっても、何をしても。絶対、あたしはずっとカインが好き。大好きだよ」
「ナマエ…お前は…」
流石にここまで言えば、気がついたかな?
…今まではずっと、妹見たいな…懐いてるっていう延長線。
でも、本当は違う。
今のは…本当の想いを込めた、大好き。
今まで伝えなかったのは、伝える必要が無かったから。
でもきっと…今は、この想いを伝える事に意味が出来たから。
叶わない事は知っている。
叶わなくても良い。それは変わらない。
だけど、貴方を想い、信じる者は、ちゃんと此処に居ると。
「んふふ!ビックリした?」
「ナマエ…」
「あ、でも別にどうなりたいとかって言ったわけじゃないよ。それに、困らせたいわけでもない。だからなんて言葉を返そうとか、そう言う事考えないでね。ただ、聞いて。心にとめて、覚えて」
「心にとめ、覚える…?」
「そう。ただ、何があっても、あたしはカインが大好きって。それだけ知ってて欲しいってだけ」
「………。」
「あたしにはね、カインがいる事に勝る幸せはない!カインがいれば、あたしには無駄な時間なんてないんだよ!」
そう、だから、カインが此処にいる。
一緒に居られる。戦える。
それが、本当に嬉しい。
「明日、頑張ろうね!カイン!ってことで、寝る!おやすみなさい!」
カインは何か言っていただろうか。
でも、それを聞かないように、あたしはタッと駆けだした。
いや、聞きたくなかったとか…そういうわけじゃない。
ただその、なんとなく…。
「うわ、顔熱いなあ…」
頬に触れると、すごく熱を持っていた。
うん…結構、緊張したかも…。
何度も言葉にした。
何度も何度も言った事のある言葉だった。
だけどこうして、きちんと想いを込めたのは初めてだった…。
だから、少しだけ緊張した。
でも、後悔はしていない。
「よしっ!」
むしろ、少し清々しかった。
To be continued
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