きみへの想い | ナノ

▽ 盗まれたクリスタル


豊かな土地に恵まれた国、トロイア。
クリスタルを祀るひとつであるこの国は、女性の神官8人が治めている女性国家。





「……。」





女性ばかりの国では、セシル、シド、ヤン、テラさんという存在はなんとなーく浮いてるようにも見えた。

固まって歩くから余計に…。
しかも鎧とモンク僧とかオジサンとか…これまた男くさい。





「ナマエ、早くおいで」

「ああ、うん…今行くよ、セシル」





セシルに手招きされ、ぼんやり一行の背中を眺めてたあたしは足を動かした。

ただ…こう、変に注目されちゃってるなーって感じは否めないって言うかね。
いやそれだけなんだけどさ…。

そんな周りの視線を浴びつつ、あたしは足早にクリスタルを治める神官さんたちのもとを目指した。










「えっ、土のクリスタルが盗まれた!?」





神官の間に、セシルの驚く声が響いた。

あたしたちはダメ元でとにかく「土のクリスタルを貸してもらえないか」と頼んでみた。

でもそれに返ってきた返事は意外や意外。
まさかのクリスタルが盗まれたという事実だった。





「ええ、盗んだ魔物はダークエルフ」

「ダークエルフは磁力の洞窟に潜んでいます」

「磁力の洞窟は剣など金属製の武器防具が一切使えない場所」

「そのため、我々も迂闊に手が出せないのです」





神官さんたちに教えてもらった情報はそんな感じ。

またタイミングの悪い…。
なんだか頭を抱えたくなった…。

ただでさえクリスタルを貸してもらうってだけで大変なことなのに…。
でも、セシルはその事実を逆にチャンスに変えた。





「では…土のクリスタルは僕らが取り返します」

「…その報酬、というわけですか?」

「…ええ、いかがでしょうか」





神官のひとりがセシルの提案を聞き、神妙な面持ちになった。

クリスタルを取り戻す代わりに少しの間それを貸して欲しい。
もともとクリスタルが無いんじゃあたしたちには取り返しに行くしか選択肢はないし、こちら側は全員セシルの提案に異議はなかった。

神官さんはセシルの目をじっと見つめ、その真剣さに折れたように頷いた。





「…わかりました。貴方方にも何か事情があるご様子。土のクリスタル、取り返してくださった暁にはお貸ししましょう」

「…ありがとうございます!」





交渉は成立。
セシルはほっとしたように頭を下げた。







「しかし、磁力の洞窟か…これは厄介そうじゃの」

「そうですね…。この爪もどちらに転ぶか…」





話が纏まったところで今度は磁力の洞窟の話。

シドが髭をなぞりながら眉をしかめ、ヤンも装備していた爪に触れた。
その話を聞きながら、あたしも腰のホルダーに治めてある短剣を見た。

…うーん。短剣、アウトかなあ…。





「案ずるな!私の魔法がついておる!」





そんな中で、テラさんが任せておけと言うかのよう胸をドンと叩いた。

まあ確かにテラさんは賢者だし、もともと魔法が専門だ。
今回はかなり頼りになるかもしれない。





「では、ナマエ殿にも期待させていただく形になるかもしれませんな」

「うん。任せて!」





ヤンに言われ、あたしも頷いた。

うん、まあかく言うあたしもその通りで短剣が使えなくても然程問題はない。

だってあたしも魔法が一番得意だし。
いつもは魔力温存のために使ってるだけだから。

それに、他の装備に変えるって手もある。
ローザと練習したことあるから弓でもいいし、魔法中心なら杖もありかもだよね!





「ああ、今回はナマエとテラに頼る形になりそうだね。僕なんてほとんどダメだ」





そう言いながら苦笑いしたのはセシルだった。

あー。確かに…セシルは一番キツイかもだ。
剣だし鎧だし。もう完全アウトー!って感じ?





「でもセシルはパラディンになったんだから白魔法使えるよね?」

「うん。今回はそっちで貢献しようか」





一応フォローに回ってあたしがそう言うと、セシルは頷いて微笑んだ。
と、そんな風に次の特殊な舞台での役割が決まりつつある頃、なんだか気になる話が聞こえた。





「ねえ、先日流れ着いたギルバートさん、調子どうなのかしら?」

「まだ無理は出来なさそうよ。当分は体を動かさない方がいいみたい」





それは、侍女同士の会話だった。
多分本人たちにはごく普通の世間話。

でもそこに出てきた名前に、シドを除く全員が反応した。





「あ、あの…!今ギルバートって…!流れ着いたって仰いましたか!?」





聞こえた瞬間、あたしはその侍女さんたちの会話に飛び込んでいた。
ちょっと、いやかなり驚かれたけど、この際そんなの気にしてる場合じゃない!

聞いた話はこうだった。
先日、近くの海岸にひとりの吟遊詩人の風貌をした男が流れ着いた。
ずいぶん遠くから流されてきたようで彼は酷く衰弱しており、今はお城の医務室で休んでいるとのこと。

それを聞いたあたしたちは、医務室の場所を教えてもらい、一目散にそこに向かった。





「ギルバッ…むぐっ!」

「ちょ、ちょっとナマエ…!医務室で叫ぶのは無しだよ」





勢いのまま医務室に飛び込んだら、セシルに慌てたように止められた。

そこでハッとした。
おおお…!すっかり我を忘れてた…!

でも無理ないって言わせてほしい!
だって、生きてるって早く確かめたかったから。

落ち着いて、ゆっくり歩み寄ったベッド。
そこには…金色の美しい髪が広がっていた。





「ギルバート!」

「ギルバート…!」





その顔を確かめた瞬間、真っ先にセシルとあたしは彼に声をかけた。

声に気付き、うっすらと開かれた瞳。
それを見て確信を得られた。

ギルバート…!ギルバートが生きてた!





「セシル…ナマエ…?それにみんなも…無事だったんだね…」





こちらが喜んだのと同じように、ギルバートもあたしたちを目に映すと薄く涙を浮かべて再会を喜んでくれた。
そして、重たそうに体を起こしてこう言った。





「僕も…戦うよ…」





かすれた声。
どう見ても、体を起こすだけで無理をしているのが伺える。





「そんな体で何が出来る!大人しく寝ておれ!」





そんなギルバートの体を支え、叱咤したのはテラさんだった。

娘の愛した人。
テラさんにとってギルバートは、きっと特別な意味を持った人物なんだ。

きっと、ギルバートにとってもそれは同じ。





「テラさん…生きていてくれたんですね。すいません…僕がアンナを殺したも同然です…」

「……。」

「…本当に…ううっ…」

「ギルバート殿。今は養生せねば…」





涙を流すギルバートに、空気を察したヤンがそっと肩に触れた。
ギルバートは涙をぬぐうとヤンを見つめ、少し安堵をついた。





「ヤン…君も無事だったのか」

「ええ」

「じゃあリディアも…?」





リディア。
思い出す、緑の似合う小さな女の子。

ギルバートの問いかけにヤンは俯き「面目ない…」と苦い顔をした。

空気が重くなる。
あたしはその空気を払うように口を開いた。





「でも、皆生きてたよ。あたしもセシルも、ヤンもギルバートも。リディアだってどこかで生きてるかもしれない。決まったわけじゃないんだもん。可能性はあるんだから明るい方に考えとこうよ?」

「…ナマエ…、うん、そうだね…」





ギルバートはそう言って笑みを浮かべた。

うん、良かった。
病は気からって言うし…て別にギルバートは病気じゃないか。
でも衰弱してるって話だし、明るいに越したことはないよね!





「でも…みんなが戦っている時に僕は情けないよ…」

「大丈夫じゃ!このシドとエンタープライズがついとる!聞けばセシルやナマエ、ローザが世話になったそうじゃ。わしに任しとくんじゃな!」





胸を張るシドの姿にギルバートは目を丸くした。

ギルバートとシドは初対面。
でも船でシドに会いに行くってところまでは一緒だったから、ギルバートも名前だけは知ってるわけで。

無事にシドに会えたことを、彼は喜んでくれた。





「じゃあうまく飛空艇を…!」

「うん。もう完全にどこでも行けちゃうよ!だから任せといて!…ま、ちょーっと面倒なことになってるんだけどね」

「面倒なこと…?」





あたしは頭の後ろを掻いた。
そしてセシルと一緒に今の状況をギルバートに説明した。





「ここのトロイヤの土のクリスタルとローザを引き換えということになってしまって…」

「でもクリスタルはダークエルフってのに盗まれたって言うし…。これからそれを取り返しに行こうとしてるんだけどさ。しかも磁力の洞窟って厄介なとこみたいなんだよね」

「…ダークエルフ…」





ダークエルフの名を聞くとギルバートは何かを考えるようなそぶりを見せた。

何だろう…?
そう思って彼を見つめていると、ギルバートは傍に置いてあった袋に手を伸ばし、あるものを取り出した。





「ナマエ、これを」

「え?これって…もしかして、ひそひ草…?」





手渡されたひとつの植物。
それはひそひ草と言う、ちょっと特殊な草だった。





「僕の代わりさ…。持って行ってくれ」





ギルバートはそう言って、ひそひ草をあたしの手に握らせた。
弱り切ったギルバートの精一杯の力が伝わってくる。

あたしはそれを受け取ると、笑みを浮かべて頷いた。





「わかった。ギルバートだと思って持ってくよ」

「うん…。頼むよ。そしてローザと…君の大切な彼を…きっと取り戻して見せるんだよ」

「ギルバート…」





離れ離れになってしまう直前。

揺れる船の上で、あたしはギルバートとリディアにカインの話をした。
本当は凄く優しい人なんだよって、笑って話した。

彼はそれを、ちゃんと覚えてくれていた。





「ありがとう…」





あたしはひそひ草を大事に懐にしまい込んだ。




To be continued

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