きみへの想い | ナノ

▽ 誰よりも知っているから


緊迫の静寂のなか、プロペラの音が響いていた。

ポロムとパロムのお陰で全滅の危機を退けたあたしたちは、ふたりの厚意を無駄にしないためにも先に進んだ。

灯台下暗し。
お城の中の隠し部屋にシドが隠していた飛空艇エンタープライズを飛び上がらせ、空に羽ばたいた飛空艇。

まるで…お見通し。むしろ待ち望んでたんじゃないのってくらい?
それくらいにお早いお出ましで、赤い翼はエンタープライズに近づいてきた。





「カイン!」





赤い翼から出てきた人物に向かってセシルが叫んだ。

竜を象った鎧。

ああ、なんか…すっごく久しぶりに会ったような気がする。
日数的にはそうでもないはずだけけど、目まぐるしいからな…最近。

ああ、カインだ。カインだ…。

なんだかちょっとだけ心にジワリ…と暖かい何かが広がった気がした。

そんなこと、思ってる場合じゃないんだけどね。





「生きていたか、セシル」





カインがセシルに返したのは冷たい声だった。
今までお城に閉じ込められていたシドは、敵の飛空艇にカインがいることに驚いたみたいだった。

…ま、無理もないよね。





「カイン、どういうつもりじゃ!」

「ローザは…無事だろうな」





シドが咎め、セシルがローザの安否を尋ねる。
するとカインは口元をにやりと緩ませた。





「フッ、やはり心配か?」





まるで、優越に浸るような…そんな感じだ。

あたしはその様子をじっと見てた。
カインの今の心理とか、そういうのをキチンと見ておこうと思ったから。





「ローザが惜しければトロイアの土のクリスタルと引換だ」

「何?」

「卑怯な手を!」





カインはこちらの弱みを使い、トロイアのクリスタルを要求してきた。
その言葉にセシルは苦しそうに顔を歪め、テラさんが怒鳴る。





「手に入れたらまた連絡に来る…。いいか、必ずだ!ローザの身を案じるならな」

「貴様…!」

「目を覚ませ、カイン!」





ヤンが拳を震わせ、セシルが呼びかける。
でもカインは耳を傾ける気など無いまま、エンタープライズに背を向けた。





「ちょっと待って、カイン!!」





そこであたしはやっと声を出した。

ていうかカインが目の前にいるのに何もしないとかありえないし。
背を向けたカインは、その声に足を止めてくれた。

顔は向こう見たまんまだったけど…まあ声が届いてるんならそれでいいと思った。

皆の声は、きつい口調が多い。
だからあたしはその全く対照的な…明るい声で投げかけた。





「ねー、カイン。身を案じてるの、ローザのことだけだと思ってる?」

「………。」

「ローザも、カインもなんだけどな!」





口に手を添えて叫ぶように言う。

するとカインはこっちを向いてくれた。
仮面のせいで表情は良くわかんないけど、口元を見る限り無表情だろうか。

ああ、もう。
仮面も格好いいけど素顔も格好いいんだから戦う時以外は取っちゃえばいいのに!





「…なに?」

「カ・イ・ン、も!」





まあ、向いてくれたなら精一杯伝わるように笑って見せよう。
あたしはニイッと笑って続きを叫んだ。





「カインが戻ってくるの、待ってるって言ってんの!」

「なにを馬鹿なことを」

「ん?なにが馬鹿なことなの?」





真剣に聞き返す。

なにも馬鹿なことなど言ってない。
ふざけてるつもりもない。

ただ、あたしは本心を言っているだけだ。





「俺は、そちらに戻ることなどない。俺はこちらに着いた」

「それでも待ってる」





全然返事になってないことなんてわかってる。

でも、なにを言われようとこの意見を曲げることなどない。

誰が何と言おうと。
それがカインの口から放たれていたとしても。

…それに、あたしは約束した。
あのふたりは…信じてると言ってくれた。

ふたりがくれたチャンス。

…絶対、カインを助けるから。





「……愚かなだな、ナマエ」

「何とでも仰ってください。だって、あたしは知ってるからね」

「…何をだ」





あたしはただ笑って言った。





「カインは優しい、ってことかな?」

「…くだらんな」





呆れたみたいな声。
カインは再び背を向けた。





「もう話すことはない。いいか、クリスタルを手にいれろ。それだけだ」





赤い翼は飛び去って行った。

…説得失敗。
いや、説得なんかで解けるわけないのかもしれない。

確実にいけるとすれば…術師を倒す。





「ナマエ…」

「…セシル」





肩に手が触れた。
振り向くとそこには白い光。

セシルは自分がいっぱいいっぱいなはずなのに、あたしを気遣ってくれた。

だからあたしもセシルを元気付けてあげたいと思った。





「セシル。ローザは大丈夫だよ。カインが向こうにいるんだもん。やたらなことしないよ」

「…そう、だね。うん…そうだな」

「うん!」





落ち込んでる暇はない。
だからちゃんと前を見据えなきゃだ。

…目的はやっぱり揺るがない、ゴルベーザだ。

すっごく腹たつけど、奴に近づくために今できることなら…やっぱりクリスタルか。





「とりあえず、急がないとだね!」

「…ああ、トロイアに行こう。…シド、舵を北西へ」





シドは頷き舵を取った。
飛空艇が揺れ、北西へと走り出す。

確か…トロイアって豊かな土地なんだっけ。
さすがは土のクリスタル祀ってるって言う感じなんだろうな。





「シド。どれくらいで着けそうなの?」

「なに、かっ飛ばすからまかせとけい。ローザの命が掛ってるしの」

「おお。たのもしー!」





飛空艇の中、することもないあたしはシドのところで操縦を見てた。

さすが新型の飛空艇、早い早い。
乗り物のことに関しては、やっぱりシドはプロフェッショナルなんだなと思った。





「…ところでナマエ、カインの奴は一体どうしたのじゃ」

「ん…」





その時ふと、シドは控え目に尋ねてきた。
あたしはコク…と小さく頷いた。

たぶんシドがこんなに控え目に聞いてきたのは、それなりに空気を察しているからだと思う。





「…操られてる。それは確実かな」

「なぜじゃ…、あれ程の奴が」

「…弱みだよ。たぶん、そこに付け込まれてるんだ」

「弱み…」





シドにならそれなりには話していいかな、と思った。

シドはあたしたちがちーっちゃい頃からよくあたしたちのこと見ててくれてる。
だからたぶん第三者の目でこっちをよく見てる、いい理解者って感じだから。





「ねえシド、覚えてる?ずーっと昔、シドの飛空艇の模型が壊れちゃった時のこと」

「ああ、覚えとるぞ」





切り出した話は、うんと昔。
まだ、あたしもカインも子どもだったころの話。

あたしは一度、シドの部屋に忍び込んだことがあった。

詳しいことなんて全然わかんなかったけど、飛空艇とか、他にも色んな機械の部品やら何やらがいっぱいあるその部屋は、見てるだけでなんとなく興味をそそられた。

でもそこで、子供のあたしはやらかした。
シドが見本として作った小さな飛空艇の模型を落っことしてしまったのだ。

血の気が引いたあたしが真っ先に頼ったのはカインだった。
あたしは「どうしよう、どうしよう」ってオロオロしながら泣きついた。

それを見たカインはため息を一つつくと、優しくあたしの肩を叩いてこう言った。





《俺に任せておけ》





そう言ったカインは、謝るのに一緒に付いてきてくれると言った。
でも…いざシドを目の前にすると、あたしを背に隠してシドに謝ってくれた。

カインが…自分が落としたことにして。

あたしのことを庇ってくれた。





「あれさ、本当はあたしが落としたんだよね」





えへ、と笑いながら白状した。
だってもう時効でしょ時効!

だけどシドからの反応は意外や意外。





「そんなもん、とうの昔から知っとったわい」

「ええ!?」

「…逆に今の今まで隠し通せてたと思うお前の頭の方が驚きじゃ…」

「ちょ、それ、ひどくない!?」





なんかグサリとくるオマケつきでそう言われた。

お前の頭ってちょっと酷すぎやしないだろうか…!





「そんなもん、あの時カインの背に隠れていたお前の顔を見たら丸わかりじゃ。ただ、カインが庇ったことでお前の中に一層罪悪感が残ったじゃろ。それが灸になるかと思って黙ってただけじゃ」

「あー…はは…、確かに」





苦笑いしながら頷いた。

…確かに、カインが被ってくれたことで、あたしはカインに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
でも同時に、感謝の気持ちもいっぱいだった。

今回だけだ、次から庇わないって言われたけど…。
そう言いながら、カインは優しく涙を拭いてくれた。

…思えば、あの時からなのかもしれない。
もともとカインが大好きだったけど、あの時から…意味が変わったんだ。

そして…カインという人物の本質を知った気がした。





「…さっきカインにも言ったけどさ、カインは本当は誰よりも優しいんだ。あたしはそれを知ってるから。だから、絶対に助けてみせる」





ぎゅっと拳を握って見つめる。

カインは…誰よりも優しい。
でも…それは彼の長所であり、短所だ。

…だけどあたしは、そんなカインが大好きだから。





「カインの良いところなら、誰よりも知ってるから」





そう言い切ると、シドはふっと息をついた。





「本当にお前はカインによく懐いているのう」

「にひひ、今更だねー!」





そう笑いながら、あたしはそれを見上げた。

もしかしたらシドだけは気づいてるかもしれない。
打ち明けたこともないし、直接聞かれたこともないから確証はないんだけどさ。

あたしの、本当の気持ち。





「カインもローザも…早く助けよう」





だって一番は、ただ、みんなで笑いたいだけなのだから。



To be continued

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