きみへの想い | ナノ

▽ 双子の意思


「いかにも!ゴルベーザ四天王、水のカイナッツォ!」





名乗り、借りえていた王が変わっていった。
バロン王に成り済ましていたのは…ゴルベーザ四天王のひとりだったのだ。

セシルの様子に口出すことなく見守っていたヤン、テラさん、パロムとポロムにも緊張が走る。

あたしもキッ…と短剣を構えた。

水のカイナッツォ…!
こいつもゴルベーザ四天王…!





「はん!ただのでっけー亀じゃねえかよ!オイラの魔法で片付けてやる!」

「パロム!ナマエよ!こやつは水属性と言った!となれば弱点はわかるな!?」

「勿論ですよ!テラさん!こんな奴に負けるわけにはいきません!」





大きな甲羅を持ったその姿と、奴の属性から判断するに…きっと弱点は雷。
あたしたちは雷魔法の詠唱を始めた。

その詠唱の間は、セシルとヤンに任せる。





「セシル殿!参りましょう!主君の仇を取るのです!」

「ああ!ポロム!君はいつでも回復できるように準備を整えておいてくれ!」

「わかりました!セシルさん!」





雷が弱点、っていうのは正解だったみたい。

でもやっぱりゴルベーザ四天王。
しかも同じはずだったスカルミリョーネを見下してただけはあるって言うか。

苦戦を強いられたのは確かだった。

でも、こっちだって負けるわけにはいくかっつーの…!
バロンに起こってた異変の原因はコイツ。

負けるわけになんか、いくわけないじゃん!!





「終わりだ!!」





最後、トドメを決めたのはセシルだった。

聖なる剣がカイナッツォを貫く。
カイナッツォは悲鳴を上げ、消滅した。





「…はあっ…はあっ…」





荒くなった息遣いが王の間に響く。
しばらくは、漠然とした時間が流れたと思う。

元凶はゴルベーザ。
カイナッツォはその指示にしたがってただけ。

でも、ダムシアンやファブールもバロンに襲われたのだから。
テラさんやヤンも、思う事はあったと思う。

でも、そんな空気を見事にぶち壊してくれたのは…これまたよーく知る声だった。





「このー偽バロン王めがぁ!!!」

「「「「「「!!?」」」」」」





どばあん!!…いや、むしろドカーンってのにも近い気がする…。
そんな勢いで突然開いた扉に、あたしたちは全員目を見開いて振り返った。





「よくもあんなカビ臭いところに閉じ込めおって!!ブチのめしたるわい!…あ、あら?」





ハンマー片手に鼻息荒くして、物凄いご立腹なご様子のオジサマ…。

「あ、あら?」じゃないよ、「あら」じゃ…。





「シド!」





そんな突然の登場を見せた探し人に、セシルは嬉しそうに声を上げた。
その声でシドの視線はセシルとあたしに向いた。





「セシルにナマエかあ!生きとったんか!心配かけやがってこの…!」





そう言ったシドに、セシルは「すまない」と笑った。
でもあたしはそんなセシルの後ろでじいっとシドを見てた。

そんなあたしに顔をしかめるシド。





「ナマエ、なんじゃい」

「…んー、シドは本物だよね?ね?いきなりズバーンと巨大化したりしないよね?」

「何を言っとるんじゃい!馬鹿者が!」

「…あはっ、冗談だよー。冗談ー」





シドからはいつもの気配しかない。
明るくて元気で陽気で、でも優しい気配。

だから、あたしやセシルは少し元気を取り戻せたような気がした。

それに、やっぱりシド。
シドは本来ここにいるべき人物がいないことに、すぐ気がついた。





「ローザはどうした!?ナマエと共に城を飛び出していったじゃろ!」

「…シド、それがね…」

「ゴルベーザに捕まってしまって…」





あたしとローザが一緒に飛び出したことをシドは知っている。
セシルが目を伏せながら事を伝えると、シドは怒りをあらわにする様に拳を握った。





「お前が付いていながら何と言う様じゃ。しかしあのゴルベーザ…。ワシの飛空艇達をひどい事に使うばかりかローザまで!」

「その娘が危ないのじゃ。早く飛空艇とやらに案内してもらおう!」





そこに入ったのはテラさんだった。
シドはテラさんの顔を見ると、訝しい顔をする。





「何じゃこのジジイは?」

「お主に言われたくはない!」

「ワシャ、まだ若いわ!」





何故か睨み合うシドとテラさん。
…って、なんの言い争い!?

出会ってまだ数分だってのに…どうやら相性があまりよくないらしい。

なんか苦笑いだ。
あたしが顔を引きつらせていると、そこにピリオドを打ってくれたのは最年少ポロムだった。





「まあまあ…シド様ですね。こちらはテラ様。偉大な賢者様ですわ。こちらがファブールのモンク僧長ヤン様。私はミシディアの魔道士見習いポロムですわ」

「ヘン、ジジイ同士が!」

「あの口の悪いのが双子のパロムですの」

「ヘッ、いい子ぶりやがって!」





丁寧に頭を下げるポロムと、そのポロムの仕草にいちいち反発するパロム。
そしてヤンは拳と掌を合わせてシドに挨拶をした。





「お初にお目にかかります。しかし、ここは危険ゆえ急ぎませんと」

「礼儀を知っとるの、お主!」






此処に来てヤンを比較対象に置きだすシド。

まだ言うか…。
どんだけ印象悪いんだか。

ていうかヤンの言うとおりだ。
カインとローザが敵地にいるんだから、こんなことでぐだってる場合じゃない。





「そんなこといいからさ、シド!」

「シド、新型飛空艇はいったい何処に?」

「フフフ…だーれもわからんところじゃ!ちょっとばかり細工しておいたんじゃ!」





あたしとセシルが尋ねると、ゴーグルを光らせて得意げな笑みを浮かべるシド。
でもまたそこでテラさんから飛んできた。





「時間がないと言っておろうに!ローザの命が懸かっとるんじゃ!」

「いちいちうるさいジジイじゃの!わかっとるわい!さ、こっちじゃ!」





もう、このふたりは駄目らしい。

あーあ、まーた始まっちゃったー。
…くらいの楽しむ気持ちを持ってた方が良いのかも。

ともかく、シドが細工して置いてくれたというのなら、こっちも飛空艇が使える。
これで出来ることは増えてくるはずだよね!

シドの案内で、あたしたちは扉から出て王の間を後にした。

でも…そうして通路に出た瞬間だった。





『クカカカ…この俺を倒すとはなあ』





どこからか響いてきた、不気味な笑い声。
それは、さっきまで対峙していたカイナッツォのものだった。

あたり緊張が走った。

…な、まだいるわけ!?
そう思ったけど、でも首を振った。

そんなはずない、だって確かにセシルがトドメを刺したのに。





『俺は寂しがり屋でな。クカカカ…死してなお凄まじいこの水のカイナッツォの恐ろしさ。とくと味わいながら死ねえ!先に地獄で待ってるぞお!ヘエッヘッヘッ!』





やっぱりトドメはさせていた。
死してなお…、つまりは思念のようなものだ。

はっ…とした時にはもう遅かった。





「壁が!」





テラさんが叫んだ。
意味は、まったくそのまま。

見れば両端の壁が、ズズズ…と嫌な音を響かせて動き出していた。

どんどん狭くなっていく通路。
壁が…迫ってきてる…!





「開かない!」

「こっちもじゃ!」





シドとテラさんが王の間に戻る扉と先の壁に手を掛けるものの、ガチャガチャと響くだけで開く気配はない。

……これ、もしかして閉じ込められた…?
もしかしてもしかして…絶体絶命の大ピンチ!?





「ちょお!?ここいたらぺっしゃんこってこと!?なっ!そんな死に方絶対ごめんだよ!?」





意味がわからない!なんの冗談…!?
なんなのあの亀!?ふざけんなああああっ!!

そんなあたしの叫びの答えたのは、小さなふたつの声だった。





「ったく、うるせーよ。ナマエねーちゃん」

「パロム、当たり前ですわ。ナマエさんは、必死で救いたい方がいるんですもの」





パロムとポロムは互いに背を向け、迫りくる扉に向かっていった。

セシルやヤンが止められなかった壁。
ふたりが止められるわけがない。

でも…なんでだろう。なんとなく、胸の中がざわざわした。
たぶん同じように感じ取ったセシルがふたりを呼んだ。





「パロム!ポロム!」





するとふたりは振り向き、同じように笑った。





「あんちゃん、ねーちゃん、ありがとよ!」

「お兄様とお姉様が出来たみたいでとっても嬉しかったですわ!」





その言葉に少し固まった。
…どうして、そんなことをこの場で言うのだろう。

浮かんでくるのは、あまり言い考えじゃない。





「…ちょっと待って?ねえ、パロム、ポロム」

「ナマエねーちゃん!ぜってー助けろよ!オイラ、ナマエねーちゃんなら出来るって信じてるからな!」

「私もパロムも、あの夜からナマエおねーさんが大好きです!」





響いてくる。嘘偽りなく思ってくれていた感情。

どうして…どうして、今、そんなこと言ってくれるのだろう?
これじゃ…これじゃ、まるで…。





「あんた達をここで殺させやしない!」

「テラ様!セシルさんとナマエおねーさんをお願いしますわ!」

「いくぞポロム!」

「うんッ!」





その瞬間、ふたりの周りに魔力の渦が巻きだしたのが感じられた。
己を包むように、それが共鳴し合って、強い力になって…。

ま、まさか…。

何をしようとしてるのか、理解した。





「だ、駄目!パロム!ポロム!」





でも、もう間に合わなかった。





「やめろーーッ!!!!!」

「だめーーーーッ!!!!!」





セシルとあたしが叫んだのはほぼ同時。
その瞬間、魔法は発動した。





「「ブレイク!!」」





ぴしん…!

一瞬にして石化した小さなふたつの体が、迫る壁を押さえる。
石の重さに壁は止まった。

あたしたちは助かった。だけど…。





「パロム…ポロム…」





あたしはペタン…と膝をついた。

足から一気に力が抜けたみたい。
でもそれは安堵から来るものじゃ、決して無い。





「早まりおって…待っておれ!エスナ!」





テラさんがふたりにエスナを掛けてくれた。

優しい光が壁をせき止めた石を包む。
…でも、石化が解けることは無かった。

ふたりの意思で発動した魔法は、強い力に守られてる。

金の針を使ったところで、きっと同じ…。





「パロム…ポロム…っ」





俯いた。
ぎゅっと、拳を握りしめる。

なんだよ、ねーちゃん。
なんですか、おねーさん。

そういつも返してくれた声は、返ってくることが無かった。



To be continued

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