きみへの想い | ナノ

▽ 双子の天才魔道士


「トード!」





簡単な呪文。
唱えれば一匹のカエルが煙に包まれていく。

そういえばどっかの国にカエルに姿を変えられた王子様…なんて話があった様な。

その話と同じように、カエルを包んだ煙の中から見えて来たのはひとつの人影。





「…すまない。ありがとう、ナマエ…」

「なんのなんの」





しゅんと頭を下げたセシル。
あたしはポン、と彼の肩を叩いた。

カエルの王子様…もとい。
そう、さっきのカエルはセシルがトードの魔法を受けた姿だった。





「でもいきなりトード掛けてくることも無いじゃね?」

「…いや、むしろ軽いほうだよ。僕は…とんでもないことをしてしまったんだから」

「………。」





辿り着いた、魔道士の集うミシディアの村。
この村でのセシルの待遇は…やっぱり冷たいものだった。

暗黒騎士セシルの姿を見ての村の反応は、怯えたり、怒りだったり。

セシルは何も言い返すことなく、浴びせられる言葉を受け入れてたけど。





「それより、僕と一緒にいるせいでナマエまで…」

「そんなの気にしなくて良いよ。だいじょーぶだいじょーぶ!」





しかもあたしの心配ときたもんだ。

確かにセシルと一緒にいることで、あたしに向けられる目も冷たい。でもだからって離れる気もないし。

本当、どこまでも優しい騎士さんなんだから。





「ともかくさ、ミシディアならデビルロード使ってバロンまで戻れるよね?」

「ああ…。でも今は封印されてるみたいだから…」

「じゃあ。長老さんに事情、話に行ってみよっか」





デビルロードってのはバロンとミシディアを繋ぐワープゾーンみたいなもの。
そこを通ればすぐにバロン何だけど、赤い翼の一件から封印されちゃってるみたいだから。

だから封印を解いてもらうために、あたしたちは村の一番奥にある長老のお屋敷に向かった。









「そなたはあの時の……今度はいったい何の用じゃ」





落ち着いた声。
当然ながら、セシルに対する長老の目も好意的なものではなかった。





「飛空艇団を指揮していましたセシルと言います。あの時は王の命令に背く勇気がありませんでした」

「謝ってもらっても死んでいった者達は生き返ってはこん」

「……。」





長老は悲しげに目を伏せた。
それを見てセシルも言葉を失ってしまう。

…セシル…。

あたしは辛そうなセシルの横顔を見て、喉の奥で詰まり掛けてた言葉を吐きだしていた。





「あ、あの!」

「……お主は?」

「セシルの友人のナマエと申します。バロンで黒魔道士を務めております」





一歩前にでて、頭を下げた。

だって…あたしは知ってるから。





「確かに…赤い翼のやったことは、取り返しのつかないことでしょう…。だけど、話を聞いて貰えないでしょうか?私もバロン出身です。私の言葉にも疑心はあるでしょうが、セシルは…彼が自分のしてしまったことに自責の念を抱いているのは本当です。だから今、私たちは何故このような事態になったのかを調べようと思っています。証拠に今回は軍を引き連れてきたわけでない。単身で参りました。あわせる顔がないのは事実です。ですが、どうか話だけでも聞いていただけないでしょうか」

「…ナマエ…」





ああ、なんかむっちゃくちゃになっただろうか…。
もうちょっと整理してから話せって感じか。

でも…長老は耳を貸してくれた。





「…ふむ。確かに…今のそなたからはその姿とは違う輝きの欠片が見受けられる。話を聞く価値はありそうじゃ」

「え…」

「…話を、お聞かせ願おう」

「はい!」





あたしとセシルと顔を合わせた。

よかったあ…。
本当、行き当たりばったりだったけど…なんとかなったみたい。
セシルも小声で「ありがとう」って言ってくれたし…。

それから、セシルははっきりした口調で返事をし、今の状況を話し始めた。





「今はバロンを操るゴルベーザという者に戦っています。しかし仲間が捕らわれ、助けに行く途中リヴァイアサンに襲われて他の仲間も…」

「それもそなたに与えられた試練じゃろう」





長老はそう言いながら、セシルの姿を見つめた。

漆黒の、鎧と剣。
暗黒騎士のその姿を。





「…しかし暗黒剣に頼っていては真の悪を倒せぬばかりか、そなた自身もいつ悪しき心に染まってしまうやもしれぬ」

「悪しき…心」





セシルは自分の掌を見つめた。

多分…思うこと、あったんだと思う。
たまに、暗黒騎士の肩書きに苦しんでたみたいだから。

…カインも言ってたしね。





「もしそなたが良き心で戦おうと願うならば東にある試練の山に行け。そこで強い運命がそなたを待ち受けておるはずじゃ」





試練の山…。

でもセシルはその勧めに首を振った。





「しかし早く仲間を助け出さねば!」

「そなたの大事な人じゃな?しかし焦ってはならん!そなたは大きな運命を背負っているようじゃ…。まずは試練の山に登ってみるがよい。その邪悪な剣を聖なる剣に変えねばならぬ。聖なる光を受け入れられる者は聖なる騎士…パラディンとなれるそうじゃが…」

「パラディン…」





そのジョブの名前を聞いて、セシルは呟いた。

パラディンって…聖なる騎士…?

セシルは暗黒騎士であることに苦しんでいた。
なら…、挑戦してみる価値は、あるかもしれない。





「志を抱き試練の山に行った者は数多いが誰1人として戻ってはこん…。どうじゃ、行ってみるか?」





でもやっぱり簡単な話では無さそう。
けど、そういう選択も…ありな気がする。





「セシル、決めて」

「ナマエ…」

「行くならあたし、手伝うよ?一応言わせてもらうと、これって別に遠回りしてるとは思わない」

「え…?」

「むしろこのままゴルベーザに突っ込むより、近道だと思うな。あいつ、凄い力持ってるよ。悔しいけど…今のあたしたちじゃ、勝算…低いと思う」

「……。」





ファブールでは…カインの事もあったから、躊躇する気持ちもあったけど。

でも、ゴルベーザから、ぴりぴりした魔力を感じた。
奴は強い。それは間違いないから。

だから、これってきっと近道だ。

そう言うと、セシルは頷いた。





「…そうだね。うん、そうだ!行ってみよう」

「うん!」





試練の山に行くことを決意したセシル。
あたしもしっかり頷き返した。

よおし、腕がなるね。
やる気十分だよ、って見せるように、ぐっと拳を握った。

すると、長老はそんなあたしたちを見てひとつ、提案をくれた。





「しかし暗黒剣と黒魔道士では何かと辛かろう。魔道士を共につけてやろう。パロム! ポロム!」





長老は誰かを呼ぶ。

助っ人と…?
随分親切な…。

そう思いながら足音を聞いて、呼ばれてきた魔道士の顔を見た。





「何か?」





礼儀正しく、そう言いながら頭を下げた魔道士。

……れ?
でもその姿にあたしはきょとんとした。

だって、そこにあったのは小さな小さなシルエット。
まだ10にも届かない…いや、リディアより小さいであろう女の子だったから。





「パロムはどうした?」

「パロムったらまた!」





どうやらもう一人いるらしい。

でもやってきたのはその子ひとり。
女の子はその事に気がつくと、少し声を張り上げて辺りを見渡した。

すると、どうだろう。
その直後、ぼわん!と煙が現れて、その中から女の子と同じくらいの…いや、双子かも。とにかく、女の子とよく似た小さな男の子が出て来た。

男の子は現れるなり、セシルの事をじろじろ見始めた。





「おめーがあの時のバロンの奴か。じーさんの命令だから仕方なく手を貸してやるんだから有り難く思えよ!」





礼儀正しかった女の子とは逆で、こっちはちょっと小生意気な感じ?

いやそれにしても本当、随分小さな助っ人さんたち。
セシルもそこが気になったらしい。





「この2人が?」

「左様。双子の魔道士パロムとポロムじゃ。修行中の身じゃが助けにはなるじゃろう。まだ幼いがその資質はワシが保証する」

「このミシディアの天才児パロム様がお供してやるんだから有り難く思うんだな!」

「パロム! お主らの修行も兼ねておるんじゃ!」





一応の確認をすると、返ってきたのは肯定だった。

ほうほう。修行を兼ねたお供か。
可愛らしいお供だね。

そんなことを思いつつ、でも頼りになりそうかも…なんてあたしは思ってた。

だって、この子たち、結構魔力感じるから。
自分で天才なんて言っちゃうのも、冗談じゃないのかもしれない。





「セシルさんとナマエさんとおっしゃいましたね。よろしくお願いしますわ。ほら、パロムも!」

「よろしくな、あんちゃん!ねーちゃん!」

「こちらこそよろしくお願いします、ポロム、パロム」





あたしはふたりに目線を合わせるためにしゃがんで、ぺこっと頭を下げた。

セシルのことがあるし、ふたりとも少くなからず抵抗は持ってると思うんだよね。
でも、短期間でも一緒に戦うのなら。背中を任せるってことだもん。
しっかり挨拶しとかないとね。

こうして、双子の魔道士ポロムとパロムを加え、あたしたちは試練の山を目指すことになった。


To be continued

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