最期に思い出したもの



自らの示す理を拒まれたユウナレスカ。
その瞬間、奴は自らの真の姿を目の前に曝け出した。

毒々しく、まるで悪夢のようだ。

強大な怪物のように禍々しいその姿。

死を希望と謳い、奴は襲い来る。
異を唱える者の抹殺に何の疑いも無く。

ユウナレスカとの戦いが、今、はじまった。





「ふんっ」





俺は、太刀を大きく振るった。
襲い来る触手の蛇を払いのけながら、何度もそれを振り下ろす。

その傍らには、本当に強くなった仲間たちがいた。
…ああ、本当に頼もしく思う。





「くらえっ!!」





水を属性に持つ剣を大きく叩き付けるティーダ。
奴は士気を丈めるように幾度となく叫び、ユウナレスカに向かっていく。





「今、助けます!」





強い意志を感じられるユウナの声。
その声と共に負った傷を癒す光が放たれる。

他の仲間たちも、必死に死の女神に喰らいついて行く。

その姿を目に映す度に、俺は心に誇らしさが満ちていくのを感じた気がした。

そしてその中でも一際、俺の中に響く声が届いた。





「アーロン!!」





俺の名を呼ぶ凛とした声。
俺はその声に応えるように、大きく太刀を振り上げた。

するとその刃に、スッと白い掌が寄り添うように掲げられる。





「ファイガ!!!」





そして、放たれた炎。
それは俺の振り上げた太刀を一気に包み込んだ。

熱さを身体に感じる。
ああ…かつての自分が求めた感覚だ。

そう…。きっと、求めて求めて仕方が無かったのだ。
どんどん鮮明に蘇っていく、想い。

俺はそれを胸に抱き、炎を纏った太刀を…ぐっと力強く振り落しに掛かる。





「今のうちに、祈れ」





全滅を招きかねない一撃を蓄えていたユウナレスカ。
その前兆を感じた俺は、それを阻むようにその炎に全てを込める。

大きく体をねじり、真横に切り裂くその一撃…秘伝・流星。

喰らう直前、ユウナレスカが硬直した気がした。
それは以前虫けらのように跳ね返した男が、新たな力を手に戻った怯えだろうか。

炎の太刀はユウナレスカを断ち切る。

その感触を感じながら、俺は…一気に甦った想いが溢れ出したのを感じた。





《……ナマエ…》





キマリにユウナを託し、力尽きた俺。

最後に呟いたのは、ナマエの名前だった。

俺は死ぬ間際、思い出したんだ。
ナマエのことを。

ぐったりと力の入らなくなった身体と、薄れゆく意識の最期。
笑顔を、声を、その姿を思い浮かべれば、たまらなく…たまらなく愛しさが溢れた。

意地を張り認めなかったのか、異世界の者だと気付かぬフリをしていたのか、あるいはどちらもなのか。

だが、俺はその時はっきりと自覚したのだ。
自分が、どんなにナマエを愛しく思っていたかを。

遠のいていく意識の中で…会いたくて、会いたくて…もう会えない事実に、酷く…後悔した。

もしも再び会えるのなら…などと愚かな事も考えたな。
そう…お前に出会えてどんなに喜びがあったのか、それを伝えられたらと…思った。





「アーロン…!」





名を呼ばれた。
誰かが駆け寄ってくる足音がする。

振り向けばそこにはナマエの姿があり、ナマエは俺の腕に手を添えてケアルラを唱えてくれた。

…ナマエ。
再び出会えた、愛しい少女。

…死人に想いを告げられても、その先にあるものは幸せでは無いだろう。
悲しませて、辛い思いをさせるだけだろうと。

だが、…どうなのだろう。
本当にそれだけなのだろうか。

少しだけ、思ったのだ。

きっと、辛い思いはさせることになる。
しかし伝えることで、俺がお前にしてやれることがあるだろうか。
与えてやれるものはあるだろうか。

なにより、お前はこんな嘘…望まんのだろうな。





「ぐあああああああああああっ」





癒しの光が傷を包む中、妖女の悲鳴が聞こえる。
俺は今自分が討ったその姿を見つめ、ナマエもまた同じように見つめていた。



To be continued

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