決めた覚悟 「私が消えれば…究極召喚は失われる。あなた方は、スピラの希望を消し去ったのです」 膝をつくユウナレスカ。 そう言う奴の身体からは幻光虫が放たれ始めている。 俺たちは勝利した。 そして、奴はもうスピラから消える寸前。 これで、究極召喚という幻の希望は消えてなくなることになる。 「だから他の方法を探すんだよ!」 「愚かな…そのような方法などありません。例えあったとしても…万一シンを倒せても…永久に生きるエボン=ジュが新たなシンを生み出すのみ」 エボン=ジュ。 ユウナレスカの口から語られた新たな言葉。 当然、その場には疑問の空気が流れる。 しかし、それを語る前にユウナレスカは消滅してしまった。 そしてその姿を目の当たりにしたと同時に、空気の質が変わる。 ユウナレスカを消し去ってしまった、究極召喚を失わせたという恐怖。 「とんでもないこと…しちゃったのかな」 ユウナは不安げにそう零す。 すると、そんなユウナの横顔を見たナマエは軽い口調で返した。 「そーかもね」 「え…」 「ユウナ、怖い?」 「……。」 怖いかと尋ねられ、ユウナは何も答えられない。 それは不安を感じている何よりの証拠だった。 するとナマエはそんなユウナにつかつかと近づく。 そして顔を覗きこめば、笑顔を見せて言い放った。 「誰も知らないことするの、不安だよね?でも、1人じゃないよ。今までも、今した事も、これからも。それなら何したって怖くないと思わない?」 「ナマエ…」 そう言うナマエの顔は清々しいさがあったように思う。 その理由は恐らく、ユウナが究極召喚の犠牲になる事実が無くなったからだろう。 当然、エボンを信じていたものからすればユウナレスカと究極召喚を葬り去ったなどありえない話だ。 しかしナマエにそんな概念は意味を持たない。 皆の不安もわかっている。 だが、どこか荷が下りたような、そんな気分ではあるのだろう。 「ナマエ、ティーダ」 その後、俺たちはエボン=ドームを出ることにした。 いつまでも此処にいたところで何も始まるまい。 もう、此処ですることも無い。 皆、出口に向かい歩いて行く。 しかしそんな中、俺はナマエとティーダを呼びとめた。 仲間が先を進んで行く中、ふたりだけが振り返る。 もう…そろそろ、こいつらには言わなくてはならないだろうと思った。 「話がある」 「んー?」 「なんだよ?」 俺を見て首を傾げるふたり。 正直、何とも言えない気持ちにはなった。 だがもう、いいだろう。 俺はそう思いながら、ゆっくりと口を開いた。 「そろそろ、はっきりさせておこう」 そう言った瞬間、ふたりの顔つきがどことなく変わった。 それは何かを予見していたような顔。 ああ…何かに納得したような、そんな顔だった気がする。 「…そっか。やっぱ、あんたも…」 「ああ、俺も死人だ」 どうやらこいつらは薄々勘付いていたようだ。 ティーダに掛けられた声に、俺はゆっくり頷いた。 そしてナマエにも視線を向ければ、こいつも静かなものだった。 落ち着いている…そんな気さえもする程に。 「もっと驚くと思ったが?」 「なんか…そんな気がしてたんだ」 「あたしも、…なんとなく」 ふたりはそう言う。 恐らくそんな予感はあって、今それが確信へと変わった…そんなところなのだろう。 「ユウナレスカにやられたんだろ」 「ブラスカがシンと戦い、命を落としたあとでな」 ティーダにそう聞かれ、俺は頷いた。 なんだか少し新鮮な気分だった。 俺はここに来るまで余計なことは語らずにただ旅を進ませる手伝いだけをしてきた。 そして、物語の筋書きはかつての俺たちとは異なる方向へと動き出した。 もう、ここからは未知の歩み。 過去や心情をそう隠す必要も無くなった。 「納得出来なかったんだよ。あいつらの仇を討つためにもう一度ここに来て…返り討ちだ」 「…さっきの、刀を振り下ろしたときの、だよね?」 「ああ…まあ、何とか一命を取り止めてガガゼトを這い下りたが…ベベルの手前で力尽きてな。その時会ったのがキマリだ。ユウナを任せて…俺は死んだ。それ以来、異界にも行かず、こうしてさまよっている」 「アーロン…」 「………。」 胸の内を明かしてみれば、ふたりの表情は少し悲痛なものに変わる。 ナマエは、この辺りから口数が減った。驚きこそしなかったが、思う事は多くある…そんな様子が見て取れた。 そして俺は、かつての記憶を幻光虫に乗せてふたりに見せた。 どうしてザナルカンドに渡り、ティーダを見守る事にしたのか。 抱き続けた、友との約束を。 その後、歩き出す。 此処を出て、これからの事を考えるために。 瓦礫を超えるその道中、ティーダは持ち前の身軽さで軽快に先を進んで行った。 一方で俺といえば、急ぐわけでも無く、ただその歩みに任せて自然と歩いた。 その隣には共に同じ速さで歩くナマエの姿があった。 「んー…何だか色んな事あって、ちょっと頭の許容範囲超えそう」 先程まで、少し物静かだったナマエ。 だが歩き出した頃には、いつものような他愛のない会話が戻っていた。 「アーロンがずーっと1人で抱え込んでた真実ってのは、これで全部?」 「…そうだな」 「そっか。じゃあ、一応おつかれ!…って、まだ終わってないけどね」 「ああ、問題は…ここからどう動くか、だ」 語らずにいた事柄がこれで全てかと尋ねられ、そして小さな労いを受けた。 本当に労われるのは俺では無く、今を生きるお前たちだと思うがな。 それに、今口にした通りまだ完全には終わっていないのだ。 むしろ本番はこれからだと言っても良いくらいだろう。 しかし、一段落した…と言うのもまた事実だ。 そして俺は、落ち着いた自分の心にひとつの変化を感じていた。 「ああ、そうだ…ナマエ」 「んー?」 「…今夜、空けておけ」 「は?」 だから、俺はそう声を掛けた。 ナマエには気の抜けた顔で聞き返されたが。 まあ…なんの脈絡も無いのは認めるがな。 ナマエは首を傾げる。 「今夜?」 「ああ。…少し、付き合え」 「なーにーそれー?」 今夜、ゆっくり話す時間を設けたい。 そう言えば、どんな大層な話だとでも言いたげな顔をするナマエ。 「お前には、他に言っておきたい事があってな」 「今じゃ駄目なの?」 「出来れば、ゆっくり話したい」 「…わかった」 今では駄目だな。もっとゆっくり、落ち着いた場所で。 そこまで言えばナマエも承知をしてくれた。 だが、そこまで言うのはどんな話だろうかと気になるらしい。 歩みのスピードが落ちて、明らかにそれを考えている様子のナマエ。 俺は溜息をついた。 「…ここで考えるな。夜まで待て。立ち止まるんじゃない」 「へ?」 「またティーダやリュックにどやされるのはお前だぞ」 「おお!そりゃまずい!」 そう言えばナマエは考える事を止めたようだ。 夜になれば話すと言っているのだ。 最初からそうして大人しく待てばいいものを…とは思うが。 だが、タッと瓦礫を駆けだすその背中を見ていると…フッと思わず笑みが零れる。 愛しい。 心から愛おしいと思う。 ああ、伝えよう。 俺の想いの丈を、お前に。 知ってくれ。お前が俺にとってどんなに光ある存在か。 自惚れるわけではないが、それがほんの少しでもお前の自信に変わればいい。 そして、この身の限り…お前を守る事を誓うと決めて。 To be continued prev next top ×
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