過去の日の自分



「最後かもしれないだろ?だから、全部話しておきたいんだ」





夕陽に照らされる遺跡。
召喚士の旅の目的地、北の最果てザナルカンド。

焚き火の炎が揺ている。

召喚士ユウナ一行は辿りついたその場所にて、最後の静かな時間に身を委ねていた。





「なあ、もっと色々あったよな?そういうばあの時とか…誰かなんかない?」





陽が沈む。辺りが暗くなった中、ティーダが会話を止めない様にと言葉を繋ぐ。

しかし望む言葉は皆の口からは出ない。
そんな中、そこに声を発したのはユウナだった。





「あのね」

「何?」

「思い出話は…もう、おしまいっ。いこう」





ユウナはそう言ってティーダに微笑んだ。
そんな顔を見てしまえば、ティーダも何も言えなくなる。

皆、立ち上がる。
焚き火の日を消して、もう目前に見えるエボン=ドームへとその足を動かし始める。

そんな中、俺の目には立ち上がった状態で俯くナマエの姿が目に入った。
何を考えているんだろうな。きっと、言葉になど言い表せない…そんな感情。

俺は何を言う事も無く、ただ、ナマエの肩を叩いた。
ナマエは恐らく俺の顔を見上げた。だが、それを見ることなく俺はナマエの横を過ぎ先を歩き出す。程なく、それを追う足音が聞こえてきた。

色んな想いが巡る。
そんな中、俺はその足音に耳を澄ませる。

共に歩む、その音に。





「召喚士ユウナです。ビサイドより参りました」

「顔を…そなたが歩いてきた道を見せなさい。よろしい。大いに励んだようだな。ユウナレスカ様もそなたを歓迎するであろう。ガード衆共々、ユウナレスカ様の御許に向かうが良い」

「……はい」





エボン=ドームの入り口に着くと、一人の老人がユウナを迎えた。

ユウナレスカ。
その名を聞くと、瞼の傷が疼く様な感覚を覚える。

もうすぐ…再び、あの場所に。
やはり、こみ上げてくるものはあった。





『スピラを救うためならば私の命など喜んで捧げましょう。ガードとしてこれ程名誉なことはありません。ですからヨンクン様…必ずやシンを倒してください』





エボン=ドーム内に入れば、そこには幽霊のようなものが見えた。
それを見たリュックはナマエの腕に抱き着き、怯えた声を上げた。





「何?今の何〜?」

「かつて此処を訪れた者だ」





俺は簡潔に答えた。

ヨンクン。聞こえた名前は遠い過去のもの。
今見えたのは、大召喚士ヨンクンのガードだ。





「幻光虫に満ちたこのドームは巨大なスフィアも同然だ。想いを留めて残す。いつまでもな…」





過去に訪れた者の想い…。
それは、様々なを俺たちに見せた。

そう…例えば、シーモア。
シーモアは幼い頃、母親と共にこの場所に赴いていた様だ。

泣きじゃくりながら母親に手を引かれ…。
恐らく、察するに母親が究極召喚の祈り子になったのだろう。
とは言え、シンの討伐には使っていない様だが。

そんな意外な姿に驚きながらも先を進めば、今度はよく知る…10年前の過去にぶつかった。





「あっ…」





先に現れたその姿に、ナマエが小さな声を上げた。
俺は、それを聞きながら目を細める。

懐かしい…そんな言葉では、言い表せない。





『なあ、ブラスカ。やめてもいいんだぞ』

『気持ちだけ受け取っておこう』

『…わーったよ。もう言わねえよ』





ジェクト、ブラスカ…。
そこには遠い日のあんたたちの姿が映った。

止められても覚悟を揺るがせないブラスカと、もう止めないと後ろ頭を掻くジェクト。

そして…もう一つ。





『いや、俺は何度でも言います!ブラスカ様帰りましょう!貴方が死ぬのは…いやだ…』





ただただ焦り、拳を震わせながら叫ぶ…過去の自分。





「……アーロン」





ナマエが呟いた。
その声に横目で見やれば、ナマエのその視線は真っ直ぐに過去の俺たちを見つめていた。

俺も再び過去へと視線を戻す。





『君も覚悟していたはずじゃないか』

『あの時は…どうかしていました。それに、ナマエの奴だって…!俺はアイツと…』





必死にブラスカを止めようとするかつての自分。
過去の俺は、ナマエの名前を口にした。

俺はアイツと、約束をした。

思うと苦しくなって、最後まで紡げなかった言葉はそう繋がるものだった。

ナマエが消えた後も俺はその約束を胸に抱き続けた。
…共に願った想い。





『私のために悲しんでくれるのは嬉しいが…私は悲しみを消しに行くのだ。シンを倒しスピラを覆う悲しみを消しにね」

『しかし…!』

『ナマエはいつも笑っていただろう。ナマエの様に皆が笑える世界。そんなスピラを作るんだ。わかってくれ、アーロン』





ナマエの笑顔。
そんな会話を最後に過去の幻は姿を消した。

すると直後、ナマエが俺を見上げて声を掛けてきた。





「本当に、ここに来たんだねー…」

「疑っていたのか?」

「そーじゃないけど…改めて思ったって言うか。こんな話、してたんだ」

「…まあな」

「ちゃんと、止めてくれてたんだね」





ナマエの中で、あの日の約束はどんな意味を持つだろう。
だがきっと、お前の中でも心に留めておく出来事ではあったのだろうとは思う。

止めてくれた。

そう言って小さく微笑んだナマエの顔を見て、そんな風に感じる。





「過去の自分か…」

「ん?」





小さくそう口にした俺に、ナマエはそっと首を傾げる。

目にした遠い日の自分の姿。
こうして外から目にすると、色々と思う事があるな。

俺は目を伏せ、自嘲した。





「ただ、喚くことしか出来んとは…情けないな」

「…別に、そんなことないと思うけど」





ナマエは首を横に振った。





「……格好いいよ」





そして、小さくそう呟いた。

…それは、勿体無い言葉だろう。

俺から見れば、ただ情けないだけだと思うが。
格好などついていない。嫌だ嫌だと、駄々をこねるように喚くだけ。

あの時の俺は、そうすることしか出来なかった。

ブラスカが死ぬという事実に恐怖して。
お前の想いを無駄にしたくなくて。

しかし結局、何も…出来なかったんだ。





「ユウナ…ついたぞ」

「究極召喚…ですね」

「行け」

「はい」





先を進み、最後の試練を終えれば…遂に辿りつく。
俺が促せば、ユウナは頷きひとり祈り子の間へと向かっていった。

だがきっと、すぐに戻ってくるだろう。





《ああ!?究極召喚がねえだあ!?》





頭に響いた、あの日のジェクトの声。

もう…すぐだ。
究極召喚の真実…。

そこに待つ、ユウナレスカ…。

サングラスの奥の古い傷が、微かに疼いた気がした。



To be continued

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