大人達の背中



ザナルカンド遺跡にで手にすることが出来るという究極召喚。

だが、祈り子はもういない。
そこにあるのは、ただその姿を留める石像だけ。

10年前もそうだった。
俺は、そこに何も無い事を知っていた。

だから当然、どうして黙っていたのかと問い詰められた。





「お前達に真実の姿を見せるためだ」





それが答えだった。
何も言わず、ただ、導く。

今までそうしてきたのは、全てこの時の為。

亡霊は言う。
この先にいるユウナレスカが、新たな究極召喚を授けると。

ユウナは言う。
もう戻れないと、後ろに振り返る事は無い。

ユウナは進んで行く。

奥に進めば広いスペースに出た。
そしてその更に奥にある扉が開き、そこから出てきたひとりの女。

それを見たリュックが叫ぶ。





「なんか出てくるよ!?」





俺は目を細めた。

忘れもしない。
忘れるわけがない。

長い髪を揺らしながら一歩一歩歩み寄ってくるその女は、ユウナに穏やかに微笑みかけた。





「ようこそ、ザナルカンドへ。長い旅路を越え、よくぞ辿り着きました。大いなる祝福を今こそ授けましょう。我、究極の秘技…究極召喚を」





変わらない。記憶の中と同じ言葉。
ユウナレスカはその場にいるガードを見渡し、そしてユウナに問いかけた。





「さあ…選ぶのです。貴女が選んだ勇士を1人、私の力で変えましょう。そう…貴女の究極召喚の祈り子に」





その言葉を聞いた瞬間、俺以外の全員がどよめいた。





「思いの力、絆の力、その結晶こそ究極召喚。召喚士と強く結ばれた者が祈り子となって得られる力。2人を結ぶ想いの絆が、シンを倒す光となります」





召喚士と、そしてガードをひとりを犠牲にする。
そう…これが、究極召喚の真実だった。

ここに辿りついた者たちはきっと、誰しも困惑しただろう。

ユウナレスカは言葉を続ける。





「1000年前…私は我が夫ゼイオンを選びました。ゼイオンを祈り子に変え、私の究極召喚を得たのです。恐れることはありません。貴女の悲しみは全て解き放たれるでしょう。究極召喚を発動すれば、貴女の命も消え去るのです。貴方の父ブラスカもまた同じ道を選びました」





ユウナレスカの口から聞いた、ブラスカの名。

父の名を聞いたユウナの息が詰まったような表情を見せる。

ああ…そうだな。
ブラスカはその道を選んだ。

そして、祈り子になったのは……。

俺がその記憶に触れようとした瞬間、目の前に再び…10年前の幻が現れた。





『まだ間に合う、帰りましょう!』

『私が帰ったら誰がシンを倒す。他の召喚士とガードに同じ思いを味あわせろと?』

『それは…しかし何か方法があるはずです!』





その真実を聞いて、俺は尚の事ブラスカを止めた。

とにかく声をあげなければ。
それで頭が一杯だったように思う。





『でも今は何もねぇんだろ?決めた。祈り子には俺がなる』





そしてその時、俺とブラスカの会話を聞いていたジェクトがそう決意して言った。

なんとも例えがたい…。
心臓が、そんな音を立てたような気がする。





『ずっと考えてたんだけどよ…俺の夢はザナルカンドにいる。あのチビを一流の選手に育て上げて…てっぺんからの眺めってやつを見せてやりたくてよ。でもな…どうやら俺、ザナルカンドにゃ帰れねぇらしい。アイツには…もう会えねぇよ。となりゃ俺の夢はおしまいだ。だからよ、俺は祈り子ってやつになってみるぜ。ブラスカと一緒にシンと戦ってやらあ。そうすれば俺の人生にも意味が出来るってもんよ』





夢を語るジェクトの背。
息子に、頂点からの景色を見せたい。

そう語れる夢があるのに、それを諦めようとする。

するとその時、ふっと視界に揺れる髪が映った。
それはその光景を見て、ふるふると首を振るうナマエの姿だった。

胸元で拳を握りしめ、今にも泣き出しそうな顔な顔をしている。

俺は、そんなナマエの肩に手を伸ばした。





「アーロン…」

「……。」





その手に気が付いたナマエは俺の顔を見上げてきた。
俺は、何も言わずに頷いた。

…過去の現実。
お前が消えた後の、旅の続き。

…お前には、見て欲しい。

俺のそんな気持ちを察したのか、ナマエは再び過去の俺たちに目を向けた。

そこでは俺が、また必死に叫んでいた。





『ヤケになるな!生きていれば…生きていれば無限の可能性があんたを待っているんだ!』

『ヤケじゃねえ!俺なりに考えたんだ。それによアーロン。無限の可能性なんて、信じる歳でもねぇんだ、俺は』





俺より先を歩いていた大人たちは、そうしていってしまった。
俺がどんなに止めても叫んでも、その意思を曲げることはなく。

奥へ消えていく2人を見つめ、過去の俺は崩れ落ちるように膝をついた。

ナマエの肩から手を放す。
そして俺はゆっくりとその過去の自分に歩み寄った。

手を、太刀へと伸ばす。





「くっ…!」





目の前の、肩を落とすその過去の背中。

湧き上がる。
どうしようもなく、苦い…。

俺は過去の自分に太刀を振るった。
宙を仰ぐ…。しかし、声を上げ、斬りつけた。

行き場などない…。
後悔は、消えることなどない。

俺は、目を伏せ呟いた。





「そして…何も変わらなかった」



To be continued

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