今、元気でいること
「ヴィンセントに会うのが目的だったんならさー、もうさっさと出ようよ!こんなとこ!」
「いやいやー、まだだよ、ユフィー」
無事にヴィンセントを仲間に加えた後、神羅屋敷から出たがるユフィにあたしは「ちっちっちっ」と指を振った。
そしてクラウドをちらりと見れば、彼も頷く。
ヴィンセントを仲間にというのは、あくまであたしの目的だ。
本来、此処を訪れようと思った目的は他にある。
クラウドが見たのはこの地下の一番奥にある、この先の扉。
「…5年前、セフィロスが閉じこもっていた部屋だ。見に行ってみよう」
この屋敷の探索をしてみようとクラウドが決めた理由はその部屋にある。
まあ、ファンとしてはあの部屋も見過ごせないよねー。
この世界のどんなところも見ておきたい所存!
「えー…」と不満げなユフィのお尻を叩き、あたしたちはその奥にある部屋に、行ってみることにした。
「うわあ…」
部屋に入って一発目、あたしが漏らした声はそんなんだった。
知っての通り、この一番奥の部屋は研究室だ。
いや、正直ね、正直この部屋も見てみたかったよ!
そりゃね、ファンとしてはそういう心理ありますさ!
この目で見られて光栄です!はい!
でーもねー、やっぱり現実としてそこに見ると、色々と生々しさも感じられた。
その異様さはここで行われていたことを知らないユフィやナナキも「うえー…」と顔を歪める程。
まあ何かとんでもないことが行われていた、それは感じ取れる雰囲気だった。
「…傷」
あたしは部屋の奥にあるビーカーに近づいた。
人が入れるほどの大きなビーカー。
ていうか人が入ってたビーカー。
あたしはそのガラスに刻まれた傷を探し、それをそっと指でなぞった。
「ナマエ?」
するとその時、背中からクラウドに声を掛けられた。
クラウドは隣に来て「どうした?」とその指の先を覗く。
そして、その傷…刻まれた文字を読み上げた。
「ここから逃げよう…?ここに、誰か捕まってたのか?」
「そりゃま、そーゆーことになるでしょーねー」
あたしは指を放し、ひょうひょうと答えた。
誰かじゃなくて、あんただっつーのー。
っていう突っ込みは、もちろん今はしませんけども。
そしてあたしは隣に置いてあるもうひとつのビーカーにも目を向けた。
そちらのビーカーにも文字が刻まれている。
そっちに刻まれているのは、エサの時間がチャンスだ、だ。
それは、ザックスが書いたであろう文字。
あたしはくるっとクラウドに振り向いた。
「なんだ…?」
「んーん」
突然見つめられ、クラウドは不思議そうな顔をする。
あたしはふるふると首を横に振った。
本当に、忘れちゃってるんだよなー…なんて?
いやそんなのわかり切ってることだけど。
壮絶な出来事。
それは、ゲームをしてる時から知ってる。
でも、実際にこの文字を見てると、こう…込み上げてくることはあるというか。
目の前のこいつは、本当に、あのゲーム通りの目に遭ってるんだよなあ…。
「ナマエ?」
ちょっと黙ってたから、クラウドは少し心配そうにあたしに声を掛ける。
あたしより真に心配すべきは君なんですけどって。
ま、いつまでもここでセンチメンタル〜に浸っててもしゃーない。
つーかこの部屋も油断禁物だし。
てなわけで、あたしはにこりと笑ってクラウドに注意喚起した。
「ふっふー、クラウドくん。あんまり気は抜かない方がよくってよ?」
「え…?」
「ていうか調べもの、するんでしょ?こっちは研究室。用はその向こう、でしょ」
「あ、ああ…。そうだな、奥には書斎…。セフィロスはそこで何かを調べていた…」
そしてクラウドはその部屋のさらに奥、書斎の方に目を向けた。
書斎につながる通路も本棚になっており、少し奥が見えづらい。
でも、その奥にはいるわけだ。
長く…さらっと揺れる、美しい銀髪。
通路に近づいたクラウドは、その存在に気が付いた。
「セフィロス!!」
クラウドが叫ぶと、ユフィにナナキ、ヴィンセントもバッと振り返った。
「懐かしいな、ここは」
セフィロスの静かな声。
それを聞いた途端、クラウドはバッとあたしを庇う様に立った。
お、おう…!
ちょっと驚く。や、凄い早さだったから。
まあクラウドの後ろに着くように歩いてたからまあ傍にはいたんだけどね!?
そして、少し離れたところにいるユフィ達の方を見ればあっちはヴィンセントが前に出ていた。
うん、イケメンかな!?めっちゃかっこいいな!?
だって出会ったばっかなのに庇ってくれるとかいい人過ぎるだろ!?
あたしの中でヴィンセントの好感度が爆上がりした。
いやもともと高いけどもさ!!
ていうかセフィロスを前にしてのテンションじゃねえぞっていうアレなんだけど。
まあここでは戦闘するようなことはないって知ってるしね。
そもそも厳密にいうとセフィロスではないし。
「ところで、おまえはリユニオンに参加しないのか?」
「俺はリユニオンなんて知らない!」
銀髪がゆらりとなびき、振り向いたその瞳がクラウドを映す。
クラウドは怒鳴って否定した。
リユニオン。
知らない、ね。
無意識っていう話、だけど。
ま、そこは何も言うまいだ。
「ジェノバはリユニオンするのだ。ジェノバはリユニオンして空から来た厄災となる」
「ジェノバが空から来た厄災? 古代種じゃなかったのか!?」
「……なるほど。お前には参加資格はなさそうだ私はニブル山をこえて北へいく。もしお前が自覚するならば……私を追ってくるがよい」
「…リユニオン? 空から来た厄災?」
交わされる会話。
クラウドは考え込む。
ユフィは顔をしかめ、ナナキは唸る。
ヴィンセントは黙ってセフィロスを見つめていた。
よく考えるとヴィンセントはセフィロスの姿を見て思う事って色々あるんだろうなって思う。
そんな方に皆の様子を見てるあたしは他人事みたい。
やっぱりどこか違うところからこの景色を見ているみたいな。
すると、セフィロスは何か球体をクラウドに投げつけてきた。
それを見たクラウドはまた咄嗟にあたしを庇う体制を取り、自らがその球体を受ける。
カツン…と、その球は床に転がった。
…そんなに庇ってくれなくていいって。
ま、それはマテリアだからそう人体に害があるものじゃないけど。
そして、セフィロスの体は浮かび上がる。
ふわりと浮いた体はそのまま、部屋の外へと飛び去って行った。
「クラウドー、大丈夫ー?」
「あ、ああ…」
セフィロスが去り、少しの静寂の後、あたしはクラウドに声を掛けた。
クラウドはマテリアを受けた体を押さえながら、セフィロスの去っていた後を見つめていた。
あたしの声で、はっとしたらしい。
そしてゆっくりと頷いていた。
「んー、そんな庇ってくれなくても良かったけど、庇ってくれてありがとう」
「…なんだその微妙な礼は」
「だって、戦闘にならないことは知ってたもーん」
しれーっと言う。
するとユフィ、ナナキ、ヴィンセントもこちらにやってきた。
そして、ヴィンセントは今の会話を聞いていて思うものがあったよう。
「ほう…、今のような出来事も知識の中にあるのか」
「ん?そうそうー!知ってるよー!今のも物語にあるからね!」
「…成る程な」
ふむ、とヴィンセントは少し納得を見せていた。
多分さっきクラウドに気は抜くなって言ってたのはヴィンセントも見てたみたいだから、ちょっとは信憑性上がったかな?
でもとりあえず、セフィロス…じゃないけど、セフィロスが消えたことで通路を通れるようになった。
これで書斎に入れる、というわけで、あたしたちは書斎の方に進むことにした。
「…まあでも、礼は、別にいらない」
「ん?」
ユフィたちが先に通路を通っていく。
あたしも続こう〜としたその時、クラウドがそう声を掛けてきた。
あたしは一度足を止め、くるりとクラウドに振り返る。
するとクラウドと目が合った。
「…俺が庇いたくて、好きで庇っただけだ。だから、礼は別にいらない」
そして、それだけ言うと歩き出す。
あたしの横を過ぎて、通路を通り書斎の中へと入っていった。
「…さいですか」
先に入っていくその背中に、あたしはぽつりとそう呟いた。
「うーっ、ぜんっぜんお宝ないじゃんー…!もう先帰れば良かったよー!」
書斎に入って早々、ざっと物色したらしいユフィは本と資料しかないその空間に嘆いていた。
金庫に鍵があったりした地下だけど、金目のものは無かったからユフィにとっては骨折り損のくたびれ儲けって感じらしい。
「さっきセフィロスがぶん投げてきたマテリア拾ったんだからいいじゃん〜」
「それはそれ!!!」
セフィロスが投げてきた消滅のマテリア。
それを拾ったことを言ってみるとそう返された。
先に戻ってたら拾えないじゃんねー?
ブー垂れるユフィを尻目に、あたしは今手にしている資料に目を戻した。
それはとある報告書だった。
「…セフィロスが何を調べていたかは流石にわからない、か」
「んー、そーねー」
「で、あんたは何を見てるんだ」
「逃亡者の報告書」
「逃亡者?」
クラウドに聞かれ、さらっと答える。
するとクラウドは軽く隣から覗き込んできたけど、あたしは視線を離さず報告書をそのまま読んでいた。
言わずもがな、それはクラウドとザックスに関する報告書だ。
いやー、やっぱ読むでしょ、そりゃ。
ここに来たら絶対読もうって決めていましたから。ええ。
ゲームではそう多くの内容は読めなかったけど、流石にあんなに短いわけはなく、コレにはもっと詳細が色々と書かれていた。
…こいつはファン目線で見るととんでもねえぜ…!
おバカな思考回路で見るとそんな感じ。
でも正直、全文を読んでやろう!っていう気持ちにはなれなかった。
「はー…重っ…」
「どうした」
「いーえ、別にー…」
そっと棚に戻す。
クラウドも覗き込んで軽く読んでたみたいだけど、やっぱりこれが自分の事だって言うのはわかってなさそうだった。
でも、まあ…思うことは色々ありますが。
「ねー、クラウド」
「ん?」
声を掛けると反応が返ってくる。
目が合って、軽く首を傾げて来る。
ただ、今クラウドがこうして元気でいること。
それは紛れもなく、良かったと言えることなのだろうと。
なんとなく、そう強く実感した気がした。
To be continued
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