君を知りたい


「きたー!!やっほー!!ニブル山!!!」





目の前に広がる険しい道。
あたしはそれを目の前にしてワアッとテンション高く叫ぶ。





「…私、ニブル山見てこんなにはしゃぐ人、初めて見た」

「…そうだな」





すると後ろから聞こえた引き気味のふたつの声。

それはこの地で生まれ育った地元民ふたりの声である。

ふん、いくらだって引くがいい。
そんなもんでこの世界の新しい景色を見たあたしのテンションは抑えられやしないのさ。

というか皆だって、もうこのやり取り慣れてるでしょうよ。

まあ確かにモンスターもうじゃうじゃの岩場ばかりで緑も全然ないこの山見てテンション上がる奴はなかなかいないかもしれないけど。
でもあたしは上がるんだから仕方ない!

ニブルヘイムの村の奥から繋がる険しい山、ニブル山。
ニブルヘイムを一通り見て回ったあたしたちは再びセフィロスを追うべく村を後にし、このニブル山を越えようとしていた。





「…ナマエ。お前は山が好きなのか」

「え?ああ、違う違う。そうじゃなくて、この世界のモノは何でも好きなの!物語で見た場所を実際に歩けてるって事だからね!」

「…成る程」





皆も慣れっこだろうと思ったけど、ひとりだけ慣れっこじゃない人がいた。

それはニブルヘイムで仲間になったばかりのヴィンセント。

別にあたしは山好きではない。
というかそんな勘違いされるとは思わなんだ。

まあでも、ヴィンセントに初めて会った時も相当はしゃいだからそれと同じかって感じですぐ納得しているようだった。

どうやらヴィンセントはそこそこあたしの異世界話に理解を示してくれているらしい。

勿論、100%信用ってわけではないだろうけど。
そりゃ出会ったばかりだし、そんなの当たり前だ。

でも思ったよりは、それを前提として話をしてはくれると言うか。

それは有難いな〜と思った。





「うわあ…凄い吊り橋…」

「うげ!本当だ!ちょっとクラウド、コレ渡るわけー!?」





しばらく山道を進むと、先を歩いていたエアリスとユフィのそんな声が聞こえてきた。

吊り橋。
そのワードを聞いてあたしはピンと来る。

そして見えてきたのは板とロープだけで出来た非常にシンプルな作りのあの吊り橋だった。





「ああ。進んでくれ」





クラウドは頷く。
山を越えるには、この吊り橋を渡るしかない。

すると皆、ちょっと嫌そうな顔をしながらもしぶしぶとロープに手を掛けゆっくり吊り橋を渡っていった。

あたしも続くように、トン…と板に足を置く。

ギシ…とロープがきしんで、橋も揺れる。
下に見えるのはゴツゴツとした岩場。

おーう、これはなかなかおっかないですねー。

別に高所恐怖症とかじゃないけど、それくらいは思う光景だった。
まあ別に、全然普通に渡るけど。





「よーし、レッツゴー」

「軽いな…あんた」





スタスタスタ、と歩きはじめたら後ろからクラウドからそう言われた。
あたしはくるっと振り返る。





「何、クラウド?こーゆーのダメなタイプー?」

「誰が」





あ、なんかちょっとムキになった?
にひひーと笑えば何事もないように吊り橋を渡り始めるクラウド。

まあいじっては見たけどクラウドは別に特別こういうのに苦手意識があるとかは無いだろう。

あたしはまた何気なく下を見る。

というか、クラウドは落ちたことあるわけだよね。
しかも2回も。

その辺トラウマになってたりしてもおかしくはなさそうだけど。
そういう事はなさそうだ。

というか、そのあたりの記憶って自分でも思い出さないようにしてる節ありそうだけど。





「昔、落ちたことがあるんだ」

「へ?」





そんなことを考えてると、クラウドはそう言ってきた。

思わず間抜けな声が出て、目を丸くして振り返る。
するとクラウドはちょっと意外そうな顔をしていた。





「なんだ、知らなかったのか?」

「え。あー…」





いや勿論知ってるけど。

クラウドが橋から落ちた2回。
5年前に村に戻ってきた時と、…もっと昔の子供の頃。





「いやまあ、カームでも話してたし」

「そういえば、そうだったか」





あたしがカームでのことを挙げれば、そうだなとクラウドも頷く。

カームで話は、ソルジャーとして魔晄炉の調査に向かう途中のこと。

でも本当は、ソルジャー1stのクラウドは此処には来ていない。
それにもっと子供の頃の話は…。

どちらも今のクラウドの深層心理的にあえて話題にしなさそうなことだから。

だからちょっと驚いたってだけ。





「んー、あたしだって皆の全部を知ってるわけじゃないよー。知らないことだっていーっぱいあるよ」

「そうか」

「まあ落ちたのは聞かなくても知ってたけどー」

「どっちだ」

「んふふー」





まあ、今クラウドが言ってるのは、魔晄炉調査の時の事かな。

だって子供の頃のことは。
…あの時は、膝を擦りむいただけで済んだけど、ってね。

そこは、クラウド自身が封じ込めている記憶。

それにもうひとり、その時の当事者であるティファも…その時の事は覚えていないから。
クラウドもきっと口にしようとしない。

そんなことわざわざここであたしが突っつくようなことはしませんとも。





「クラウドが小さい時のこととかなんてほとんど知らないよ。神羅にいた期間とかも。その辺は知ってることの方がきっと少ないと思うなー」

「…給水塔のこととか、5年前のことは知ってただろ?」

「うん。まーったくってわけじゃないよ。知ってることもいっぱいあるけど、でも知らないことの方がずーっと多いと思うなーってことさ。んふふー、残念なことにねー!」





にへらへら。笑って言う。

でも嘘は言ってない。
全部本当のこと。

幼少期とか、神羅にいた時のことなんて物語でも語られてない部分が大半だろう。
それって残念だなぁ〜って思うさ。

とは言っても、多分知ってる部分はクラウドにとって転機となる、大事件みたいな部分に当たるんだろうけど。





「…知りたいか?」

「ん?」





まじ、と目が合う。
青色味の、不思議な輝きの瞳。





「…俺の、こと」





そのままクラウドはそう言う。

俺のこと、知りたいか。

頭の中で文字にする。
いや一瞬言葉自体の意味に悩んで。

でも。

あたしはキラッと目を光らせた。





「え!教えてくれるの!?」

「え」

「そりゃもう、クラウドの隅から隅まであたしは知りたいですよ…ふふふふふ」

「おい…なんだその変な笑い…」





なんか引かれた。
貴様が聞いてきたのであろうよ!

だから私は答えたまでである。

そりゃクラウドのあーんなことやこーんなこと知りたいですよわたくしは!





「…なら、俺にもあんたのことを教えてくれ」

「へ?」





すると、返ってきたのは意外な言葉だった。

あたしの、こと…?

思わず目を丸くすれば、それを言ってきた当のクラウドも何故かその後の言葉をどもっていた。





「…ふ、不公平だろ」

「不公平?」

「いつも、あんたばかり俺たちの事を知ってて」

「え?あー…それは、確かに?」





ちょっと納得?
言われてみればそれは一理あるような。

こっちばっかり知識あるのは確かに不公平ではあるのかもしれない。

ふうむ。





「知りたいの?あたしのこと」

「え…」





お返し。
さっきクラウドが言ったことを、同じように返してみる。





「えー、だってさ、興味ないね〜って感じじゃないの?」





にっこりと。

多分そう聞いたのは単純なあたし自身の興味。
いや、どんなふうに返してくるのかなあってうずっとして。





「…いや、教えてくれるなら、教えて欲しい」





……おや。

すると、クラウドから返ってきたその反応は、かなり素直なもの。
クラウドにしては、きっと凄く珍しい。

だって、ちょっと突っぱねるかなととも思ったし。





「んー、まあでもあたし別に波瀾万丈な人生送ってきてないから、あえて教える程面白いことないけどねえ」

「…別にそんなもの期待してない」

「あらそ?」

「…何でもいい。話してくれることなら、何でも」





何でもいい。
そう言うクラウドの様子は、本当にそう思ってくれてるんだなあっていうのが伝わってきた気がした。

変な人だなあ、って言うのが正直な感想だけど。





「別に聞いてくれれば答えるよー。ていうか流石にそろそろ渡ろうぜい。立ち止まって話すような場所ではないのは確かだと思うよ!」

「…ああ」





ギシギシ、グラグラ。
話していたのはいわずもがなあの橋の上。

いや流石にここで足を止めているのはどうかと思うのさ。

クラウドがラストで後ろもつっかえてないからウッカリしてたよ!





「ナマエー!クラウド!なにしてんのさ!ふたりしてビビってるわけー?」





するとちょうど先に渡り切っているユフィから急かす声が飛んでくる。
というか他の皆も渡り切ってるから、そりゃ何立ち止まってんのあいつらとは思ってるだろう。うん。





「んー!今行くよー!ほれ、クラウド!レッツゴー!」

「ああ…」





あたしはユフィに返事をしクラウドに声を掛け、タタターと足早に渡る。
クラウドもそれに続き、ちゃっちゃとふたりで渡り切った。



To be continued

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