眠りから覚める時


「あたし、あなたの過去を何となく知ってるの。タークスだったこと、それに、宝条博士、ルクレツィアさん」





あたしはニコリと笑い、ヴィンセントにそう言った。

ルクレツィア。
その名前を出した瞬間、ヴィンセントの顔色が変わる。

それは狙い通りだった。

ヴィンセントは、ここで同じ元神羅であるクラウドに彼女の名前を知っているか尋ねる。
でもその前に、あたしが彼女の名前を出してしまおうと思ってた。

だってその方がきっと、あたしがこれからする話の信憑性が上がると思ったから。





「ルクレ…誰だって?」





クラウドが聞いてきた。
あたしは「んー?」と笑みを浮かべたまま適当に返事をする。

するとそれを見たヴィンセントは改めてその名を口にした。





「…ルクレツィア。セフィロスを産んだ女性だ」

「産んだ?セフィロスの母親はジェノバではないのか?」

「それは……間違いではないがひとつのたとえなのだ。実際には美しい女性から生まれた。その女性がルクレツィア。ジェノバ・プロジェクトチームの責任者ガスト博士の助手。美しい……ルクレツィア」





クラウドに細かく説明してくれるヴィンセント。

ところで、美しい2回言ったぞ。
いや文章でも思ってたけど、実際に声で聞くと強調されてる感すごいな。

ま、それだけ、いかにヴィンセントがその人のことを想っていたかっていうのもわかる気がするけれどね。





「…………人体実験?」





話を聞いたクラウドは色々と思うことがあったのだろう。
ぽつりと浮かんだその可能性を呟く。

ヴィンセントは否定しない。
それはつまり肯定の意なのだけど。





「実験を中止させることができなかった。彼女に思いとどまらせることが出来なかった。それが私が犯した罪だ。愛する、いや、尊敬する女性を恐ろしい目にあわせてしまった」





ヴィンセントは顔を後悔に歪め、苦しそうにそう言った。

そういえば、何気なく聞いてしまってるけど、ヴィンセントにとってはこれを口にしたのってもう何十年ぶりくらいなんだよね。
長い月日が経ったからこそ、口に出来た部分もあるのかもしれないけど。





「…君は、元神羅だと言ったがルクレツィアのことは知らないのだな。しかしそちらの彼女は…君は、ルクレツィアの知り合いなのか?」

「ん?ああ、ぜーんぜん!会ったこともないっすね!!」

「?、では何故…」





ヴィンセントは、あたしに何故ルクレツィアのことを知っているのか聞いてきた。
まあ、そんなこと普通は知らんよね。

さて、じゃあ今回も元気にカミングアウトいってみましょうか!

あたしは一歩ヴィンセントに近づき、またもニコリと笑ってそれを明かした。





「あたし、実は別の世界の人間で、元の世界でこの世界のことを物語として見ているから!って言ったら、信じますか?」

「別の、世界…物語…?」





正直に、嘘偽りなどひとつもなくカミングアウト。

でもそれを聞いたヴィンセントはまあ、当然ながら顔をしかめていた。
うんうん、想定内想定内。思った通りの反応だ。





「…何を言っている?」

「んー、まあ信じないよねえ。でもね、本当のことだから仕方ないの」

「…先ほど言っていた特異な身の上がそれだと?」

「あ、そうそう!そういうこと!これ以上にない特異な身の上でしょう?」





ふふふー、と笑顔のまま告げる。
そうそう、その通りですよお!ってね。

ま、当然ヴィンセントは訝しんでいたけれど。





「なんなら、もう少し何か当てる?あなたはタークスとしてそのルクレツィアさんたちジェノバ・プロジェクトチームの護衛に当たっていたわけだよね。主任がガスト博士、その助手に宝条とルクレツィアさん」

「……。」

「セフィロスを産んで数年、ルクレツィアさんは失踪してるんだよね。理由は…まあ、実験の副作用ってとこかな。詳しくは一応伏せるよ。で、あなたはそのことで、宝条博士に詰め寄った」

「…恐ろしいな」

「ふふ、信憑性、増した?あとはね、物語だから未来も多少なりとも知ってたりするんだ」

「…ふむ、夢のよう話だな」

「ねー!あたしもそう思うよ」





やっぱり皆言うよね。
まるで夢物語みたいだってさ。






「…だが、それが本当の話だったとして、私には関係の話だ」

「うん?」

「…眠らせてくれ」





一気に過去に触れて、疲れてしまったみたい。
ヴィンセントは棺の蓋を閉め、それ以上のことは何も言わなかった。





「お?終わった?終わった?んじゃもうさっさとこんな部屋出ようー!」





ここまでの長い話にすっかり退屈して欠伸までしていたユフィはやっと終わったかといの一番に部屋を出て行った。
ナナキは宝条博士とかには色々思うことがあるみたいだから結構真面目に聞いていたらしく、ちょっと難しい顔しながらもユフィを追っていく。

そして最後にクラウドは、あたしに振り向く。





「…こいつに会うために、鍵が欲しかったのか」

「ん?うん、そうそう!ね、めっちゃイケメンだったねヴィンセント!」

「…俺にどんな感想を期待してるんだ、それは」

「別にそうだな、とかでいいじゃない?だってイケメンだったでしょあれ!」

「……ああいうのが好みってことか」

「んー、まあ嫌いじゃないかも!イケメンと美女は目の保養!」

「……。」





実際に見たヴィンセントはこれまた美男だった。
こう、シュッとしててねえ!

長い髪の今の姿もいいとは思うけど、タークス時代とかもイケメンだったんだろうなあ。

ヴィンセントに会ったらその顔面を拝みたいとずーっと思ってたから、近くで見れて大満足ですよ!

ま、でもヴィンセントとの出会いはこの物語にとってもかなり核心に近いところに触れる機会でもあるはずだ。





「だけどさ、クラウド的にわりと面白い話聞けたでしょ?」

「…セフィロスの母親、か」





ふむ、と考え出すクラウド。
そうしてあたしたちも部屋の外へ出る。

だってここでこうしててもヴィンセントは出てきてくれないし。

ただ、今話したことでヴィンセントの中でも思うことはいっぱいあるはずなんだよね。

だから部屋を出れば、ヴィンセントも訪れた機会に手を伸ばそうとする。






「待て!」





部屋を出て、さてじゃあ次はどうしようかと話していると声を掛けられた。
それは勿論、先ほど話していたヴィンセントの声。

あたしたちは振り返った。





「お前たちについていけば宝条に会えるのか?」

「さあな。でもヤツもセフィロスを追っている。となれば、いずれは…」





クラウドが答える。

宝条博士に会えるかどうか。
会えるというのは、あたしだけが知っている答えだ。

クラウドたちには必ずという確信はないけれど、それでも可能性としてはかなり高いという事は言える。

するとヴィンセントはしばらく考えた末、あたしに視線を向けてきた。





「…そこの、確かナマエと言ったか」

「あら!覚えててくれてるの光栄だね!」

「お前は未来もわかると言った。ならば、宝条に会えるのかも知っているのか。いや、それよりも…私が今選ぼうとしている選択も知っているという事か」





尋ねられた問。
その答えは。

あたしはこくりと頷いた。





「まあ、会えるのか、知ってるか知らないかで言ったら知ってるよ。でもごめんね。未来のことは、言葉にも文字にも出来ないの。未来のことは未来のものだから、それを形には出来ないんだって。ていうかそんなの聞いちゃったらつまらないでしょ?」

「…そうか」

「そうそう!でもね、今ヴィンセントが選択しようとしてること、それに関してはすっごくイイことだと思うなあ」

「フッ…意味深だな」

「そうかもね!」





ふふふ、と笑う。
するとヴィンセントはその視線を今度はクラウドたちに向けた。





「お前たちは、ナマエの言うことを信じているのか。未来や過去がわかる、異世界の人間だと」

「ああ、信じている」





聞かれた質問。
真っ先に頷いて答えたのはクラウドだった。

おお…。
すっごい、はっきり…。

その様子にはユフィたちも驚いたようだった。





「およ?クラウドなんかきっぱり言ったね〜?」

「…今更だろ。ユフィ、あんたは今だに疑ってるのか?」

「んー。まぁ、そう言われるとそうでもないけど」

「オイラももう疑ってないよー。そうじゃなきゃ説明できないこといっぱいあるもんね」

「あははっ、ナナキありがとー!」





鼻からちょんっと擦り寄ってきてくれたナナキに手を伸ばしてうりうり撫でまわす。
するとそんな様子を見ていたヴィンセントはフッと小さく笑った。





「…仲間に恵まれているようだな」





そしてそう呟くと、一行のリーダーたるクラウドに申し入れる。





「よし、わかった。お前たちについていくことにしよう。元タークスと言うことで何かと力にもなれると思うが…」

「…よし、いいだろう」





セフィロスを追うのなら。
そして、神羅とも敵対するのなら。

色々な情報、戦力はあるに越したことはない。

クラウドはすぐにその申し入れを受ける。





「よしっ!」





あたしはぐっとこぶしを握って喜んだ。
ニブルヘイムでの、一番の目的これで達成!!

こうして新たな旅の仲間、ヴィンセントが加わったのでした。



To be continued





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