棺の中で


無事に金庫から鍵を入手したあたしたちは、いよいよ隠し扉の向こうにある地下へと向かうことになった。

相変わらずモンスターはいるし、光が入ってこない分、今までより不気味さは倍増だ。
だけどそんな不気味さとは裏腹に、あたしのテンションはどんどんと上がっていた。

これは、あれですよ。
るんるんるーん♪ってなもんだった。





「ナマエってやっぱさ、頭のネジ何本かいっちゃってるよね」

「えー、そうー?じゃああれじゃね。元の世界に置いて来ちゃったのかもー」





ユフィからの軽いいじりも何のそのー。
一緒に歩いてるクラウドとナナキも若干引いておられるようでしたがいつものことだという視線も感じるので、ていうか別に引かれてたところでこのるんるんは抑えらえる気はしないので仕方ないじゃん?ていうね。





「よっし、ここかな。クラウド、開けて」

「金庫に入ってた鍵か?」





しばらく地下を歩くと、壁沿いに扉を見つけた。
位置的には此処だろう。

あたしはちょいちょいと鍵を持っているクラウドに手招きし、開けてくれるように頼む。

するとクラウドは素直に扉に鍵を差し込み、カチャン…と開けてくれた。

ご丁寧に金庫の中に入ってた鍵の扉だから、また宝があるんじゃないかってユフィは目を輝かせてた。
ナナキも、ユフィほどではないにしても期待はしていたのかもしれない。

でも、ここお宝部屋とかでは無いんですよー。
むしろ置いてあるのもは…。

クラウドがゆっくり扉を開くと、皆で中を覗き込む。

その瞬間、皆がわかりやすく落胆したのがわかった。





「ゲッ…何コレ、気色悪!」

「棺…だよね、コレ」





ユフィとナナキが顔を歪める。

部屋の中に並んでいたもの。
それは彼らの言う通り、不気味な棺桶だった。

あたしはちらっと、残りのひとり…クラウドの顔も見てみる。
するとクラウドもちょっと気味悪そうに眉間にしわを寄せていた。





「およよ、クラウドくん、こーゆーの嫌い?怖い?怖い?」

「な…怖いわけないだろ!」





くすっと笑ったらすごい勢いで返してきた。
そんなムキになると余計に怪しいけどね。

まあ多分クラウドは別に特別不得意というわけでもないのだろうけど、人並みに不気味だとは思うというか、そういう感じなんだろう。

反応面白いから「へえ〜?」とかニヤニヤ笑っちゃったけど。
すると当然、クラウドの方は面白くない顔をする。

そんな会話は、しん…とした地下にはよく響いていた。

つまりは多分、きっと耳障り。

だからその瞬間、うううう…といううめき声と共に、ガタッ…と棺の蓋が揺れる音がした。





「……私を悪夢から呼び起こすのは、誰だッ!」





バーンッ!と吹っ飛んだひとつの棺の蓋。
そして聞こえた男の低い声。

その瞬間、向き合っていたクラウドはビクリと肩を揺らした。
ユフィとナナキは揃って「うわっ」と悲鳴を上げる。

一瞬とはいえ、ビビったのをあたしに見られたクラウドはバツの悪そうな顔をした。

でもぶっちゃけ、あたしはと言えばそれどころではなかった。





「きゃーーー!!!来たーーーーっ!!!」





久々の大絶叫。
いやね、最近は落ち着くことも覚えてきたわけだけど、今回は地下で別に気にする人目もないし別にいっかなと思って!

え?クラウド?ユフィにナナキ?
そんな身内は今更どうでもいいのですよ!!

まあおそらく、皆的にはまた始まったよ…くらいのもんだろう。

今回気にするのであればそれは、今棺の蓋をぶっ飛ばしたその人くらいなわけで。





「……。」





あたしの絶叫の後、しばしの沈黙がその場に流れた。

絶叫が色々持ってっちゃったかもだけど、例のその人はむくりと棺の中で上半身だけを起こしてる。

ああ、いる…!
本物…!本物だ…!!

なんかクラウドに「あっ、おい…ナマエ」って呼び止められたけど、あたしはそれに構うことなく棺の傍に近づいた。





「……見知らぬ顔か。出ていってもらおうか」

「んふふ、嫌って言ったらどうしますー?」

「……。」





近づくと、あたしを見上げたその男の人。

どうやらさっきのあたしの奇声はスルーの方向でいってくれるらしい。
もうなんかいっそ無かったことにされてる感ね!いや全然、別にいいけどね!

まあでも多分、あたしの返しは予想外だったんだろうな。
その人はちょっと黙ってしまった。

でもそんな沈黙とは対照的に、あたしの心はカーニバルだった。

ううううんっ、やっぱりこの感じ…!
新しい旅の仲間に出会えた時のこの感覚は何物にも例えられないよね!

ヴィンセント!やっと会えた!!

長い黒髪、身を包む深紅のマント。
ゲームでよく知るその姿を前に、あたしは非常にご満悦だった。




「随分、うなされていた様だな」





その時、クラウドがあたしの隣にやってきてヴィンセントにそう声を掛けた。

なんかちょっと気持ちあたしより前に出ているような。
まあクラウドにとっては得体の知れない人物だろうから、多少なりとも警戒してるのかもしれない。

べっつにそんな庇うみたいに出てくれなくても平気なのにね。





「フッ……悪夢にうなされる長き眠りこそ、私に与えられた償いの時間」

「何を言ってるんだ?」





ヴィンセントの言葉に顔をしかめたクラウド。

うん、まあこれ意味不明だよね。
あたし的には何言ってるかわかるけどさ。





「他人に話すような事ではない。ここから出ていけ。この屋敷は悪夢の始まりの場所だ 」





意味深な言葉を残しつつ、でもあまり触れてくれるなと。

だけど、悪夢という言葉はクラウドの心にも引っ掛かる。





「悪夢の始まり、か…。…確かに、そうだな」

「おや?何を知っているのだ?」





呟くように頷いたクラウド。
それを見たヴィンセントもその顔を見て感じるものがあったらしい。

ふたりの間には一種の共感のようなものが生まれていたのかもしれない。





「あんたが言ったとおり、この屋敷が悪夢の始まり。いや、夢ではなく現実だな。セフィロスが正気を失った。この屋敷に隠された秘密がセフィロスを…」

「セフィロスだと!?」





セフィロスの名前を出した途端、目の色が変わる。
その反応を見ればクラウド達も。

「セフィロス」を知っているのか、と互いの声が重なった。





「…君から話したまえ」





ヴィンセントはクラウドを促した。

クラウドちらっとあたしを見てきたけど、お好きにとあたしは軽く微笑んだ。
あたしの確認なんていらんでしょ。まぁクラウドも何気なくだっただろうから、促されたまま、この場所であった悲劇を話し始めた。

ユフィはちょっと飽きてるっぽかったけど、ナナキと一緒に大人しくしてるから良しとしよう。





「セフィロスは5年前に自分の出生の秘密を知ったのだな?ジェノバ・プロジェクトの事を?……以来、行方不明だったが最近姿を現した。多くの人の命を奪いながら約束の地を捜している、と」





クラウドから話を聞いたヴィンセントは難しい顔をして考え込んでしまった。
んー、まぁコレってヴィンセントからしたら結構な話だろうしね。





「今度はあんたの話だ」






こちらの情報は話した、次はあんたの番だと今度はクラウドがヴィンセントを促す。
しかしそれを聞いたヴィンセントはゆっくりと首を横に振った。





「悪いが…話せない」

「あ、いいよそれでも。どうせ暗〜い話なんでしょ」

「ちょ、ユフィ…」





話を拒否されたことに対し、ユフィはあっけらかんとそう言う。
ナナキが鼻で突いてなだめてたけど、どうやら忍者娘ちゃんは結構退屈してきてるらしい。

まあユフィと、あとシドもだったかな。
他の皆はわりと抗議するんだけど、そのふたりはわりとここの会話興味薄いんだよね。

あたし?
あたしは別に聞かなくてもしってるし〜ってなアレですからね。





「君たちの話を聞いたことで私の罪はまたひとつ増えてしまった。これまで以上の悪夢が私を迎えてくれるだろう。さあ……行ってくれ」





するとヴィンセントはそう言って棺の蓋を閉めてしまおうとした。

ていうか、あたしはもう心の中でヴィンセントヴィンセント言いまくってるけど、まだ名前も聞いてないよね。
あたしはちょいちょい、と隣にいるクラウドを肘で突いた。





「クラウド、クラウド。お名前聞いといたらどーう?」

「え、あ、ああ…。あんた、何者だ。名前くらい教えろ」





蓋が閉じられる前に、クラウドは素直に名前を聞いてくれた。
そして少しの沈黙の末、彼は名乗った。






「私は……元神羅製作所総務部調査課 通称タークスの…ヴィンセント・ヴァレンタイン」

「タークス!?」





やっと聞けたヴィンセントの名前。
でもクラウドは彼の肩書の方にだいぶ驚いたようだった。

そんなクラウドをあたしはまた突く。





「へいへい、手紙に書いてあったでしょ。タークスの男に〜って」

「…アレか」

「そうそう。アレアレ」





教えてあげればクラウドも思い出したらしい。

自分でも言ってたじゃん?
タークスの男に改造を施したってとんでもないこと書いてあるって。

つまりは目の前にいるこの人がそうですよ!って。





「元タークスだ。今は神羅とは関係ない。……ところで君たちは?」

「元ソルジャーのクラウドだ」






ヴィンセントに名前を聞かれ、クラウドは自分も元神羅だと伝えるように名乗る。


すると、少し間。

その時、あたしはクラウドとヴィンセントの視線が自分に集まっていることに気が付いた。
……おう!?





「たち?ん?あたしも?おお!お名前聞いてもらえるとか光栄だね!」

「…いいから早く名乗れ」

「へいへーい」





クラウドに呆れられながら急かされる。

いやでもヴィンセントが名前聞いてきてくれるとか普通に感動なんだが!

まあ急かされたなら従いましょう。
あたしは印象よくニコリと笑い、自分の名前を名乗った。





「あたしは、ナマエって言います!よろしく、ヴィンセント!ま、残念ながらあたしは神羅じゃないけど、でもその代わり、ちょっと特異な身の上だったりするよ〜」

「特異…?」





名乗って、ついでにちょっと匂わす。

するとクラウドは少しだけ何か言いたげな顔してた。
こいつには話すのか…みたいな感じ?

そりゃ勿論、ヴィンセントはこれから一緒に旅をする人。
仲間になる人には話すって決めてるんだから、そりゃあ当然話しますとも。





「あたし、あなたの過去を何となく知ってるの。タークスだったこと、それに、宝条博士、ルクレツィアさん」

「…!」





ルクレツィア。
その名前を出すと、明らかにヴィンセントの表情が変わった。

クラウドや、皆もそのことには気が付いただろうけど、その理由はわからないよね。

あたしはニコリと、ヴィンセントに笑みを向けていた。



To be continued

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