不毛なこと
「あー、やっと番号3つ揃ったよー…。空のないとかピアノかよ!そんなのわかるかっつーの!」
「あはは…まあまあ、でも金庫も見つけたしさ」
やっと解くことが出来た宝条博士のダイヤルのヒント。
3つ手に入れたところで途中で見つけた金庫の部屋まで戻ってくると、ユフィがぶーたれてそれをナナキがなだめてた。
あたしは皆が悩んでる様子をニコニコと見てただけだけど、まあそこそこ苦戦してたかな。
「ナマエ〜!教えろ〜!!」って何度ユフィにぐわんぐわん揺すられたことやら。
でも、3つのヒントを解いたところでまだ終わりじゃない。
それは全員が分かっていることだった。
「ねえ、クラウド。4つの目の番号、どうする?」
「ああ…」
「もうさー、いいじゃん。ひとつずつ試していけばさー。適当にやれば開くって」
金庫を開けるのに必要な番号は全部で4つ。
でも肝心のヒントは3つしかない。
ユフィはもう適当にひとつずつ試せばいいとか言ってる。
でも99もあるダイヤルをひとつずつって結構な時間が掛かるよね。
しょーがない。ここまで来たらもういいかな。
皆が謎解き頑張ったのは見てたし。
まああたしが早くヴィンセントに会いたいっていう欲望もあるけども。
あたしは答えを教えてあげようとクラウドに手を出した。
「クラウド。宝条博士のその紙、貸して」
「え?なんだ」
「最後の一つ、その答えだけはナマエちゃんが教えて差し上げましょう。へい、ナナキ、カモン。そしてプリーズ、その尻尾」
「へ?オイラ?尻尾…?」
クラウドから紙を受け取ると、あたしはナナキを呼んだ。
まあナナキというか、借りたいのはその尻尾。
ナナキはきょとんとしながらも言われるがままあたしに尻尾を差し出してくれる。いい子だ。
ゆらりと揺らめくは、赤い炎。
ナナキの尻尾には、炎が灯っているから。
あたしは宝条博士の手紙をナナキの尻尾の炎にかざした。
「ナマエ、何を…」
「まあ見てなさいって〜」
声を掛けてきたクラウドに軽く笑ってそのまま紙をあぶる。
すると少しずつ、浮かび上がってきた文字。
それを見れば、クラウドたちも理解しただろう。
「あぶり出しか…」
「そそ。ご名答〜。てことで、じゃあクラウド改めて!」
「…ダイヤル4は、右97」
紙を返すとその文字を読み上げたクラウド。
ユフィもクラウドの隣に来て一緒にその紙を覗き込む。
あたしは尻尾を貸してくれたナナキに「ご苦労様〜」と言いながらその頭を撫でた。
さあ、番号は揃ったね!
それではいざ!
全員の視線が金庫へと向く。
番号の書かれた紙を持ったクラウドは金庫に近づき、ダイヤルに手を伸ばした。
それを見たあたしはユフィとナナキに声をかけた。
「ユフィー、ナナキー。こっちおいでー。ちょっとクラウドから離れてた方がいいと思うよー」
「は?」
「え?」
「……おい」
ふたりはきょとんとし、ダイヤルを回そうとしていたクラウドは眉間にしわを寄せて振り返った。
あたしはにっこり笑みを返した。
「何で離れる」
「その方がいいなーって思うから」
「……。」
「ふふー。そんな目で見られましても。まあ、警告。クラウドも開けたら身構えた方がいいかもね。ユフィとナナキもね」
「あたしたちもって…」
「ナマエ…オイラたちにコレ、開けさせたかったんだよね?」
「うん。開けさせたいよー。中には色々入ってんのさ。ユフィ、マテリアも入ってるよ」
「マテリア!マジで!?クラウド、早く!さっさと開けて!!」
「……。」
マテリア、という単語を聞いた瞬間に目の色が変わったユフィちゃん。
クラウドは顔をしかめる。
そろそろそのしかめっ面で癖ついちゃうんじゃないの。
でもクラウドの方も折角集めた番号を無駄にするわけにもいかない気持ちがあるだろう。
はあ…と、諦めにも似たため息をつくと、彼は再びダイヤルに手を伸ばした。
「…開けるぞ」
カチ…と最後のダイヤルを合わせたクラウドが言う。
その瞬間、全員に緊張が走った。
あたしも、まあそれなりに。
ガチャンとクラウドが金庫を開ければ、響いてきたグワアアアッというモンスターの鳴き声。
それを聞いて皆もあたしが言っていた意味を理解しただろう。
「うっわ!なんだこいつ!でっか!どうやって入ってたわけ!?」
「グルル…」
飛び出してきた巨大なモンスター。
ユフィは慌てて手裏剣を構えて、その隣でナナキが唸る。
うん、どうやって入ってたはあたしも同感!
でもそんなこと気にしてる場合じゃない。
確か、結構こいつ強敵だったし。
「レッドXIII、頼む!」
「わかったよ、クラウド」
クラウドがレッドXIIIを呼ぶ。今回はこのふたりが前線で戦うから。
このメンバーでの戦い方を瞬時に判断する、クラウドはこういうところに結構長けてると思う。
まあだからリーダーなんてやってられるんだろうけど。
しっかしあのイカレ博士…あんな手紙残して金庫にサンプル入れておくってどういう思考回路してるんだろうか。
ヴィンセントを見つけさせたくない?いやでも、だったら手紙残す時点で意味不明だし。
…まあそんなもん考えるだけきっと無駄だろうな。
そんなことを考えつつ、あたしも腰のホルダーから杖を抜いた。
ま、少しくらいは役に立たないとね!それくらいのことは勿論思いますとも。
「いくぞ!」
剣を構えたクラウドが一番に走り出す。
ロストナンバー。
宝条博士の、実験の失敗作…。
失われた番号…か。
目の前にして、その名前の意味が嫌に気に掛かる。
でもきっと、眠らせてあげるのが一番だ。
あたしは戦いながらきっと、頭の片隅でそんなことを思っていた。
「お!マテリアはっけーん!おおー!この色、召喚マテリアじゃん!」
ロストナンバーを無事に倒すと、ユフィは真っ先に金庫に駆け寄った。
そして手にしたのは真っ赤な輝きを放つマテリア。
やっと会えた念願のマテリアにユフィのおめめはキラッキラである。
「確か、召喚獣オーディーンだね!ははは、ユフィめっちゃ目輝いてんねー」
「どこぞの街や村に着くたび目を輝かせてるのは誰だ」
「おっとー、そりゃもっともな突っ込みでー」
キャッキャしてるユフィに笑ってたらクラウドの鋭い突っ込みが飛んできた。
それな。
それは否定できませんわ。
さっき給水塔でもキャッキャウフフしてたばかりでしたな。
「それに技の書物と…どっかの鍵だね。この屋敷内で使える鍵なのかなあ」
マテリアしか眼中にないユフィに代わり、ナナキが金庫の残りの中身を確かめる。
彼の言う通り、残りは書と鍵だ。
あたしが皆に金庫を開けさせたかった一番の理由はこの鍵なわけだけど、この書物だってなかなかのお宝だ。
あたしは鍵と書を金庫から取り出し、鍵は「ほい」とクラウドに手渡した。
そして書物はナナキくんの元へ。
「はい、これはナナキが持ってるといいよ」
「オイラ?なんか、よくわかないけど…」
「まあ、そのうちわかる日が来るよー」
リミット技、コスモメモリー。
これはナナキが覚える技だ。
まあ、いわゆるDISK1の、今のこの時点じゃまだ覚えるのは難しいのかもしれない。
でもいつか、これを覚えられる日がきっとくる。
あたしはにっこり笑ったまま書を差し出していると、ナナキもこくりと頷いた。
「わかった。ナマエがそう言うなら、オイラが持ってるよ」
「よしっ!」
そういったナナキに、あたしはわしゃわしゃとその頭を撫でた。
そして、合わせるように屈めていた腰を伸ばしてクラウドの方に向き直る。
さあ、じゃあ、次はとうとうお待ちかねの地下ですよ!
「んじゃクラウド、その鍵が使える場所探しにいこっか!」
イエーイ!と、拳を突き上げて意気揚々と言う。
そりゃもうニッコニコの超御機嫌ですよ。
するとクラウドはそんなあたしと己の手の中にあるさっき渡した鍵を見比べた。
「あんたが欲しかったのはこの鍵なのか」
「ん?うん!そうそう、一番の目的はそれかな!」
「そうか」
クラウドはまた鍵を見る。
その顔はふうん…というか、まあそんな感じ?
正確に言えばその鍵を使って入る部屋にいる人、だけど。
でもそんなこと今言っても意味不明だろうし、なにより面白くないからそこは勿論行くまで内緒。
「ま、戦闘お疲れクラウド。ケアルする?」
「…頼む」
「へーい」
さっ、とクラウドに手をかざす。
もうケアルなんて手慣れたもんですよ。
癒しの光がクラウドに体を包んでいく。
この先は雑魚敵くらいでボス級の奴はもういないけど。
ああ…まあ、地下の一番奥の部屋にアレがいるか。
ただ戦うようなことにならないのは救いなのかなあ?
あたしはこの場では何もないことを知っているから気楽なもんだけど、クラウドにとっては気苦労ハンパないだろうなあ。
「…相変わらずとんでもない威力だな」
「え?あ、ケアル?ふふー、育ってないマテリアでもご覧の通り!自分で言ってて思ったけどあたしってばめっちゃ便利じゃない?魔力も切れないし」
「そうだな。歩く無限エクスポーションだな」
「おお…めっちゃ便利じゃん!いいね!気に入った!」
「…気に入るのか」
変なあだ名付けられて喜ぶあたしに若干変な顔するクラウド。
まさか気に入るとは思ってなかったらしい。
いやいや〜、ま、なかなかにおバカなやり取りしてる自覚はあるよ〜。
でも役に立てる事があるっていうのが嬉しいのは本音かもね。
「…ナマエ」
「ん?」
「ありがとう」
癒えた傷。
クラウドはお礼をくれた。
なんか、ちょっとびっくり。
いや別に普通のことだけど、改まってくれたから。
「んふふ、どーいたしまして!」
あたしはにこっと笑って返した。
そういえば、ふっと…その時思いだした。
神羅ビルでルーファウスと戦ったクラウドを待っていて、合流したとき、同じようにケアルを掛けてあげたっけ。
その頬にはルーファウスのペットにやられたであろうひっかき傷が残っていたから。
あの時のクラウドの様子、なんだかちょっと変だったんだよな。
ぼんやりして、反応も少したどたどしくて。
その時は、たいして気にも留めなかったけど。
「……。」
いつから、なんだろう。
一瞬だけ過った言葉。
でも、そんなの考えるだけ不毛。
だからすぐにやめた。
To be continued
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