きっと思い知っていく


「うっわ、薄暗!ていうか薄気味悪!」





キィ…と開いた扉。
中に入って開口一番、ゲーッと顔を歪めたユフィ。

まぁでもその気持ちはわからんでもない。

足を踏み入れたひとつの屋敷。
そこは確かに薄暗く、不気味な雰囲気が立ち込めているみたいだ。





「ナマエー、本当にこんな所にお宝あんのー?」





ユフィが訝しがる視線であたしに振り向いた。
あたしは軽く肩をすくめる。





「あたしお宝あるなんて言ってないよ。お宝あーるかもねーって言っただけ」

「はあ!?騙したなー!」





するとギャンギャン吠えられた。

騙してないし!
お宝もあるかも、って言ったらその瞬間にキランと目を輝かせたのはそっちでしょうよ。

まあ実際、ないわけじゃないし。

そうすると、今度はあたしの足元でナナキがスンと鼻を鳴らした。





「でもここ、嫌な感じするよ。お屋敷なのに、モンスターがいっぱいいるニオイだ」





グルル…と軽く唸るナナキ。

そう。
このお屋敷の中はモンスターがうようよいる。

ゲームしてる時も、ニブルヘイムにあるのになんだってモンスターが出るんだって思ったっけなあ。





「ちょっとクラウドくん、この屋敷なんでモンスターまみれなの。そこんとこどうなのさ」

「…俺が知るわけないだろ。あんたこそ知らないのか…」

「しらなーい」





クラウドに話を振ったら溜め息をつかれた。
まったく、溜め息なんてついてたら幸せどんどん逃げちゃうぞっての。

まあ、でもクラウドにとってはこの屋敷は溜め息のひとつでもつきたくなる場所ではあるのかもしれない。
もっとも、その記憶は現状、完全なものではないのだけど。

ま、その辺は言いっこなしってことでね!

神羅屋敷。
そこはニブルへイムの離れにあるひとつの古い建物だ。





「まあさ、ユフィも聞いたことあるでしょ。クラウドの過去の話」

「ん?あー…まあねー」

「オイラたちはミッドガルを出てすぐ聞いたからね」

「そうそう!ナナキやあたしなんかはカームで聞いたやつね!」

「あんたは聞かなくても知ってたんだろ」

「うふ!で、あの火事で唯一今も現存してるのがこのお屋敷なんだよ」





そんな話をすれば、ナナキやユフィもへえ…と屋敷を見渡していた。

給水塔からの景色を見たあと、あたしはクラウドに神羅屋敷行くよう仕向けた。
仕向けたっつーよりもう行こうぜーって感じだったけど。

だって逃せるわけないでしょうに!!
この屋敷をスルーして進むとか、…出来るけど、あたしがいる限りそんなことはさせませんから!!

まあクラウドもこの屋敷には思うことが色々あるらしく、顔をしかめられながらも了承を得るのはそこまで難しくなかった。

ただね、いくらクラウドがいると言えど、もうちょい戦力欲しいなぁって言うのが正直なところだったわけ。
だってこの屋敷にモンスターがいることは知ってたし、つーかボスクラスもいるし。

そこでおあつらえ向きに、村の探索に飽きているっぽいユフィとナナキを発見して、一緒に来ないかいと声を掛けたと。

そんなこんなで、この4名で神羅屋敷にやってきたという訳だ。





「でもクラウド、このお屋敷に来て、どうするんだい?」

「…そうだな」





ナナキに聞かれたクラウドはこの屋敷をどう調べていくかを考え始めた。
大方、セフィロスがこもった地下に行ってとかそんなことを考えているんだろう。

もちろん、地下には行ってもらうつもりだ。

だけどその前に、色々と下準備は整えておかないとね!

そうと決まれば…と、あたしはてくてく入り口から入って左にある部屋に向かった。
当然、それに気づいたクラウドたちも追ってきた。






「おい、ナマエ…勝手に歩くな」

「だいじょーぶ。だいじょーぶ。ほいっ」

「?、なんだ」





左手の部屋に入ると、すぐに目的だった手紙を見つけた。
あたしはそれを拾い上げると、クラウドに渡す。

受け取ったクラウドは不思議そうな顔をしながらその手紙を開いた。
隣からユフィも覗き込む。

ナナキだけは届かないから「なになに?」とクラウドを見上げていた。





「宝条博士の手紙だよ。金庫のダイヤルのヒントが書いてあんの」

「金庫!!!」





あたしがその手紙がなんたるかを説明すると、ユフィの目が輝いた。
まったく現金なお嬢さんだわねー。

そして手紙を読んでいるクラウドは顔をしかめていた。





「タークスの男に、改造を施した…?とんでもないこと書いてないか、これ」

「うん、とんでもないねー。さっすが宝条博士!」

「…ナマエ。心なしか声が弾んでるように聞こえるのは何故だ」

「うっふっふー、そんなのいつもじゃん!気にしなさんな、クラウドくん!」





クラウドは更に顔をしかめた。
綺麗なお顔が台無しだぜ。

でもま、確かに、思わず声が弾んじゃうくらいにはワクワクしてるのは認めます。

だってもうほら、やっぱりもうすぐ会えると思うとときめくじゃないか!
ああ、顔がにやけるね!

なんかユフィとナナキの視線もちょっと痛かったけど、まあ別に気にしないわ!

とにかくあたしは早くヴィンセントに会いたいんだ!!

その思いに突き動かされるように、あたしはクラウドを急かした。





「ほらほら、クラウド!早く2枚目も見て!そっちにはダイヤルのヒントが書いてあるでしょ?」

「ダイヤルは慎重に、かつ、素早く回す。20秒以内…。4つのダイヤルのヒントは…ああ、書いてあるな」

「ね!宝条博士ってなら、クラウドも気になるっしょ?ユフィも金庫、気になるよね!」

「んー、まあね。この様子なら何か入ってそうだし。クラウド、ヒント早く読んで!」





ユフィもクラウドを急かした。
よし、ユフィは巻き込んだぞ!!

「早く早く!」とユフィに肩を揺らされたクラウドはまた顔をしかめてた。
しかめっぱなしである。

でもさっきの指摘通り、宝条博士絡みならクラウドも無視はしない。
その辺はナナキも同じだろう。

クラウドはヒントを読み上げた。





「1、酸素が一番多いハコのふた。2、空のない白と黒のウラ。3、2階の椅子のそばの床のきしみ…そこから左5歩、上9歩、左2歩、上6歩」





書かれていた3つのヒント。
あたしは、うんうん、ゲームのまんまだねーってニコニコしてた。

だけどその一方、今度はユフィやナナキも意味が分からないという顔をようにしかめてた。





「はあ?酸素が多い?空のない白と黒?なにそれなぞなぞ?」

「うーん…それにダイヤルって4つなんでしょ?クラウド、ヒントって3つしかないの?」

「ああ。書いてないな」





クラウドはぺらりとナナキにも見えるように紙を翻して見せた。

そうだね。今は3つか書いてない。
…ように見えるだけだけど。

あたしは笑った。





「ま、とりあえず3つ探してみなよ。3つめのヒントとかはわかりやすいと思うけどな。2階の床のきしみ。まあ、それからもわかるように、この屋敷のどっかにダイヤルの番号が散らばってるってわけ」

「はー!?それいちいち探すの!?つーかナマエ答え知ってんならさっさと開けちゃえばいいじゃん!」

「こらこらー、そういうズル禁止ー!」

「いいじゃん!ナマエ、この手紙見せたってことは金庫開けさせたいんでしょ?」

「お。それは鋭い。でもダメ。悩んでる皆見てるのもあたしは楽しい」

「性格悪っ!!」

「ふーんだ。ま、見つけたら達成感あるって!とりあえず考えてみなよー」





これだけ人数がいれば、決して解けない謎ではないはず。
嫌らしい謎解きなのは認めるけどね。

もしどうしても解けそうになかったらもうちょっとヒントあげることも考えようか。

だってスルーだけは絶対避けなきゃいけないからね!うん、絶対!





「酸素の多い…植物か?植物がある部屋…」





手紙を見て、ぶつぶつと謎解きをはじめているクラウド。

その様子にちょっと安心する。
どうやら、この調子ならスルーの心配はしなくてもよさうだ。

ナナキもクラウドを見上げて「あー、なるほど」とか結構前向きっぽいし。

ま、3つ見つけたら4つ目のヒントくらいは貢献しようかな。





「とりあえず、ここにいても仕方ない。屋敷を見て回ろう。金庫も探さなきゃだしな」

「さっすがクラウド〜♪」





クラウドは手紙を持ったまま、この部屋を出るぞとあたしたちの顔を見た。
あたしはそんなクラウドにルンっと駆け寄る。

するとクラウドは「はあ…」と息をついた。

本当に溜め息の多い男だわね。





「…ユフィの言う通り、金庫を開けさせたいんだろ。なら、早くやろう」

「んふふ!いいねいいね、クラウド!話早くてナマエちゃん感激〜!よし、頑張って!」

「………。」





あたしのことを信じると言ったこの人は、顔はしかめながらも、あたしのこういう隠さない誘導にすんなり乗ってくれるようになったなあと思う。

いやまあ、抵抗するだけ無駄だっていう諦めみたいなのもあるかもだけど。
だってねえ、この一行のリーダーたるクラウドはやっぱ一番あたしの被害こうむってるだろうし。
って、自分で被害とか言っちゃうけどね!

まあ被害だろう。そういう自覚はありましてよ!
だからって好き勝手やめる気さらさらないけどね!!あは!

でも、ま…諦めだけでは、ないのだろう。





「…ここのモンスターは外にはいない特殊な奴も多そうだな」

「ああ、そうだねえー。確かにここにしか出ないやつ、結構いるかも?」

「対処も最初は手探りだな。…ナマエ」

「ん?」

「だから、絶対に離れるなよ。俺の手の届くところにいてくれ」





まじ、と見つめられてそう言われる。
真剣な顔。

ああ、本当…。
その言葉の端に、じんわりと感じる。

でもね、あたしは考えてるわけ。
その瞳を見て、本当にこいつ綺麗な顔してるなあ、とか。

だからあたしはにんまり笑った。





「おーっと、その顔でそういうセリフ言っちゃうの、いいねいいねー、高ぶるね〜!!」

「…あのなあ」

「んふふ、やーっぱいいなあ、クラウドいいなあ〜!ほんと愛してる〜!」

「っ…」

「ねえねえ!もっかい言ってくれない?クラウド、もっかーい!」

「なんでだ…!」





へらへら笑う。
ふざけて、全力で、本気で、でも…本気じゃない。





「あー、ははっ!もう本当楽しいわ、好きなもの好きって言うの、絶対健康にいいよね」

「何の話してるんだ…」

「あたしはこの世界か大好きってハナシ。ぶっちゃけこの不気味なお屋敷にも滾るものがあるよ」

「………。」





薄暗くて埃っぽくて、不気味なことこの上ない神羅屋敷。
いや気持ち悪いとは思うよ。そういう気持ちも抱くよ。

でもさ、それ以前に本物なわけよ。
あの神羅屋敷なわけですよ。

すっげえ!!ってなっちゃうわけよ。





「ナマエ…ギ族の洞窟でもテンション上がってたけど、ここでもおんなじなんだね…」

「こんなとこでテンション上がるとか意味わかんなすぎでしょ。へんじーん」

「うん…まあ、そこはオイラも同意見かも」

「君たちうるせーですよ!!」





おかしなテンションなのは認めよう。
でもその後ろでナナキとユフィがやんややんや言ってたからふたりに向かってワーッと駆け出した。

そしたらふたりもギャーとか言いながら笑う。
あたしも笑ってふたりとじゃれる。





「まあ君たちもあたしはいとおしくて仕方ないからね!許してしんぜよう!」

「あははっ、なにそれ?」

「やっぱナマエって変人だよねー!」





不気味なお屋敷に似つかわしくない賑やかな声が響き渡る。
わーわー、ぎゃーぎゃー。

その時ちらりと振り返ると、そんなあたしたちを見てクラウドが頭を抱えていた。

うんうん、呆れてるね。いつものこと。

だけどその時、ふっ…と少しだけ。
寂しそうな、切なさそうな…、そんな表情をしたのを見た。

それはきっと…。

愛してる。大好き。

誰にでも言う。何にでも言う。
人、場所、もの。この世界のあらゆるものに。

あたしはずっと、君に大好きだと言うよ。
それは本気で本心だ。

でもきっと、その度に…実感する。思い知る。

きっと、嫌ってほど。

そうすればきっと、君はそれ以上進めなくなるだろうから。



To be continued

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