君の故郷にて


あたしたちはコスモキャニオンを発ち、直してもらったバギーで旅を再開した。

そうして次にたどり着いたのは、大きな山の麓にあるひとつの村。

そこは、この物語を語る上で欠かせない場所。
そして、クラウドとティファにとって何より大きな意味を持つ場所。





「ニブルヘイムだね」





あたしはその村の名前を口にした。

それはゲームの流れのまま。
次にたどり着いたのは、ふたりの生まれ故郷であるニブルヘイムだった。





「燃えちゃったはず、だよね」

「…そのはずだ」

「それなのに、どうして?私の家もある…」





帰ってきたと懐かしむ様子などなく、目の前にあるはずのないその村にふたりは困惑していた。

でも、戸惑っていたのはふたりだけではない。
それは火事で焼失したはずだと聞いていたほかの仲間たちも同じだった。





「…なんだか、変?」





ふたりを気遣うようにエアリスが声をかける。
するとそこに少しきつめの声がひとつ。





「クラウドさん、同情でもひこ思て作り話ですか?」





そう言ったのはケット・シーだった。

おいおいおーい、とは思う。
うん。それは流石に。





「俺は嘘なんか言ってない。俺は覚えてる…。あの炎の熱さを…」





クラウドはすぐに嘘じゃないとその言葉を否定した。

そうだ。それは嘘じゃない。
クラウドは確かに感じて、覚えているだろう。

あの時の炎の熱さ。
もうどうにもならない、その時の悔しさを。

それは本当のはず。
だからあたしはデブモーグリの上の黒猫の頬をぶにっと指で突いた。





「もーう、ケット・シーってば辛辣〜!」

「あたっ、あたた!ナマエさん堪忍ですよ!」

「ま、でも村が実際目の前にあるのは事実だからね。すっかり元通り!そんなこと出来るの、ひとつしかなくないってハナシさ」





あたしはにこっと笑ってそう言いながらみんなを見た。

まあ、これくらいのヒントはいいでしょう。
別にこれ教えてからってどうなるわけでもないしー。

というかこれで多分ケット・シーはわかるんじゃないかな。

そしてクラウドもそのヒントで察したようだった。





「…神羅、か」





ニブルヘイム。
5年前、セフィロスによって焼き払われた小さな田舎の村。

それは今や、神羅により完璧に復元されているどこか不気味な場所。

住んでる人も、すべて神羅の関係者。
当時の事件を隠すように、ずっとこの村に住んでいたと嘘と固めて演じている。

皆からすれば、どうしてそんなことになっているのか気になるだろう。
当事者であるクラウドやティファは、特に。

だからあたしたちは、ひとまずこのニブルへイムの中を見て回ってみることになった。





「お!あったあったー!!」





あたしも、例に漏れず見て回ってた。
むしろ「んじゃお先ー!」てな勢いで真っ先に駆けだした。

なんかクラウドに「おい!ナマエ!」とか呼ばれた気がするけど、んなもん気にするかってんだ!

この村に来たらまず、あたしは見たいと思っていたものがあった。
それは勿論、クラウドとティファを語るに欠かせないアレですよ!!

だからあたしはゲームの中の地形を思い出しながらそれを探して、やっと見つけて見上げた。





「わーお!これがあの給水塔!!」





探していたのはクラウドが村を出る前にティファと話した給水塔。

それも火事で燃えてしまっただろうから、これは当時のものじゃないはずだけどそれでもそっくりに復元されてるならそれはそれでまあいいだろう。

ニブルヘイムに来たら絶対見たいって思ってたんだよね!!

念願叶い、あたしは大変ご満悦だった。





「えーっと…どこから登ればいいのかな」





でも欲というのは叶えばまた次が出てくるもんである。

どうせなら登った景色も堪能したいじゃないかと!
だからあたしは手をかけられる場所を探し、上に登ってみることにした。





「よ、と」

「何してるんだ」

「ん?」





足を掛けて乗せたところで声を掛けられた。

まあこの声を間違えることもないので誰かはすぐわかったんだけど。
あたしは登りながらその声の方を見た。





「はぁーい、クラウドー。見てわからんのかい、給水塔に登ってるんだぜ!」

「…そんなことわかってる。聞いてるのはなんで給水塔なんかに登ってるのか、だ」

「そこに給水塔があるからさ」

「……。」





登り切って、トントントン…と木で出来た足場を歩く。

すると何故だかクラウドも登ってきた。
しかもサッと、あたしよりも随分と身軽である。

そんなんさえ様になるのだからこの男はすげえなと思う。

まあそれはさておき。
あたしは適当に、その足場に腰を下ろした。





「へえー。こんな感じかあ」

「何がだ」

「君と幼馴染みが眺めた景色ですよ」

「……。」





見渡した村の景色。
そして見上げた青い空。

まぁ星空だったら最高だったけど、そこは言いますまい。
これでも十分、なかなかの感動ものだ。

するとその時、隣にすっ…と気配が落ちた。
チラリと見れば隣にクラウドも座ってた。





「…俺、春になったらミッドガルに行くよ。……てか!!!」

「……それは俺の真似か」

「ふふ!似てないのは百も承知!あ、じゃあクラウド本人による再現してくれる?はい!キュー!」

「やるわけないだろ」





真顔で返された。
まったく、クラウドさんてばノリが悪いんだから。

まあやってくれないのはわかってて振ってるから別にいいんだけどねー。





「ふふー!ニブルヘイムで給水塔から景色見て、余は大変満足でありますよー!ずっと景色を見たいなって思ってたから!」

「…別に面白くもなんともないだろ」

「何言ってんの!クラウドとティファの故郷なんてそれだけであたしにはたっまりませんよー!」

「…紛い物だけどな」





そう言ったクラウドの顔は少し寂しそうにも見えた気がする。

目の前で燃えてなくなった故郷。
それが当時のそのまま、気味が悪いくらいに再現されている。

そして歩いてみれば、村人は偽物。

自分はこの町で育ったと言えば、村人の方からは育ったのは自分だ、お前など知らないと否定される。

おまけに得体の知れない黒いマントを被った人間が何人もウロウロしていると。
…まぁ、実際はその黒マントたちが本当の村人達なわけだけど。

見て回って、クラウドはきっと思うことがたくさんあったのだろう。

あたしは座った足をぶらりと遊ばせて答えた。





「んー、まぁ、確かにそうだけど、クラウドやティファが実際に育った土地には変わりないからね」

「………。」

「それは特別な土地、だよねー!」




そんな風に言ったらクラウドは目を丸くした。
ん?そんな意外なこと言ったかね。





「……そんなことでも喜ぶのか、あんたは」

「喜ぶねー。今更じゃないー?あっはっは!」

「…そうだな」

「そうそう。あたしはこの世界がだーい好きだからね!」

「…楽しそうで何よりだ」

「うふふ!」

「…苦い思い出を数えるが、あんたが笑うから…それだけじゃないって気持ちにもなってくるな」

「ん?」





およ。
そんな風に受け取るとは。

それはちょっと意外、だったのかも?

でも。





「んー、あの辺ちっこいクラウドがうろちょろしてたのかなとか想像するだけでもだいぶたぎるよ!」

「……それはやめろ」

「そろそろ諦めなよー。だーい好きよ、クラウドクン♪」

「………。」





そう言った時、クラウドの瞳が微かに揺れた。

ほら、その反応ひとつでも…なんとなくわかる。

まったく…趣味が悪いとしか言いようがないなあ。

でも、あたしはきっと何も変えない。
今まで通り、好きだって叫ぶ。

というか、いきなりそれを変えたらあからさまだし。

それに、言ったら言った分だけきっと知る。
その好きは、どこか違うところから見て言っている好きなのだと。

…クラウドに、なんて夢のようだ。
でも、実際にトリップすると冷静になる。

あたしは、確かにここにいるけれど、世界を見ているのはここじゃない。





「よいしょ、と…」





あたしはその場に立ち上がった。
するとクラウドは見上げてくる。





「もう満足か?」

「うん、堪能したかな!ていうかクラウドとティファの思い出に割り込んでる気がしてなんか居たたまれなくなってきた!」

「…なんだそれは」

「んー、オタク特有のなんか踏み荒らしちゃいけない感?」

「いや、言い直されても意味がわからないが」





まあ、実際満足はした。
この給水塔って、やっぱり色々ちょっと特別なものだし。
見られてよかった。

あたしはそっと給水塔から降りた。
するとクラウドもそれに合わせて降りてきた。

やっぱり身軽だった。






「さあて、クラウドくん、君はどれくらい村を探索してきたわけかな?」

「いや…たいして見れてない。少しショップを覗いて数人黒マントの人物を把握しただけだ。給水塔に登ってる奴を見かけたからな」

「えー、なんかあたしのせいで探索中断したみたいな!」





ニブルヘイム。
そこはこの物語を読み解いていくうえで外せないキーポイントがたくさんある場所だ。

それに、その中にはひとつ…絶対に見逃せない人が眠っているわけでして!

いつぞやのユフィを仲間にしたときを思い出すね!
絶対にスルーさせてたまるかってアレ!!

それにそれに!絶対に立ち会いたい!!

だからあたしはクラウドに尋ねた。






「ね、クラウド。てことは神羅屋敷も行ってないよね?」

「神羅屋敷?ああ…行ってないけど、って何でそんなこと」

「ふふふー」





にんまり笑う。
するとその笑顔を前に、クラウドは何とも言えない顔をしたのだった。



To be continued

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