自覚した心


「ここで、お別れね。レッドXIII…」

「仕方ねえさ。……結構頼りになるやつだったんだけど、な」





エアリスとバレットが話す。
他のみんなも、どこかしんみりとしていた。

コスモキャニオンのエンジニアによりバギーを修理してもらった俺たちはこの峡谷を経つことになった。

ただし、それはレッドXIIIとの別れも意味していた。

ミッドガル脱出時からずっとともに旅してきたレッドXIII。
奴はその初めからずっと言っていた。自分が旅をするのは故郷につくまでだと。





「…なんか、随分あっけらかんとしてるな」

「ん−?」





その時、俺は隣にいたナマエの顔が気になっていた。
みんなが別れを惜しむ中、ナマエは平然とした顔で荷物整理をしていたからだ。





「結構、仲良くしてただろ。もっと惜しむかと思ってた」

「うーん、別に惜しむ必要なんてないからねえ」

「必要がない?」





ナマエとレッドXIIIは、以前からふたりでこそこそと話している姿を見かけていた。
その理由は、大人ぶっていたレッドXIIIがナマエの前でだけは素でいられたからだという。

コスモキャニオンに着いて初めて知ったことだったが、それで妙に納得したのを覚えている。
でもだからわりと仲良くしていたと思ったんだが。

それとも、いつ別れが来るかわかっていたナマエにとっては心の準備などとっくに出来ていたことなのだろうか。

そんなことを考えていると、上の方から聞き覚えのある獣の足音が聞こえてきた。





「待ってくれ!オイラも行く!」





足音とともにそう叫んだ声。
見上げればそこにはこちらに駆けてくるレッドXIIIとその後ろをついてくるブーゲンハーゲンの姿があった。

そして、それを見たナマエはレッドXIIIの目線に合わせるようにしゃがみこんだ。





「おー、ナナキー!おっそかったじゃーん」

「へへ、ゆっくりお別れしてきなって言ったのナマエだろ?お言葉に甘えちゃった」





そんな話を交わしながら、うりうりと赤毛の頬を撫でるナマエとそれを受け入れるレッドXIII。

遅かったじゃん…。
ゆっくりお別れしてきな…。

会話からすると、どうやらレッドXIIIはこのまま旅を続けると言っているように聞こえる。





「クラウドよ。ナナキをよろしく頼む」

「どうしたんだ?」

「オイラ、少しだけ大人になった。そういうこと!」





ブーゲンハーゲンは俺に軽く頭を下げ、レッドXIIIはどうこかすがすがしそうな声でそう言った。

…やはり、どうやらレッドXIIIはまたこのまま旅を続けるということでいいらしい。

いや、純粋に戦力になるし、それはこちら的にも助かる。
話を聞いた他の皆も「本当か」と喜んでいた。

けど、その時俺の頭に浮かんでいたのはナマエのこと。

…惜しむ必要なんてない、な。
その意味を此処で理解した。

しかも峡谷の人々との別れを惜しんで来いとそこまで話していたと。

まあ…驚くようなことでもないのだが。
ただ、相変わらずだなと、そんなことを思っただけだ。





「よーし、じゃあ行こうではありませんかー、クラウドくん!」

「ああ…」





ナマエに言われ、頷く。

改めてレッドXIIIを加え、これで全員が揃った。
こうして俺たちは峡谷を後にし、バギーへと続く階段を下りて行った。





「…妙に念入りに荷物整理をしていると思ったが、レッドXIIIを待っていたからか」

「んー?」





数段先を歩くナマエに声をかける。
するとナマエはくるりとこちらに振り向いた。

…上目遣い。

段差で見上げられたその瞳に、思ずドキッ…と心臓が音を立てたのを聞いた。





「あー、まあ、待っててあげるからゆっくり挨拶しといでーとは言ったからねー」

「…そうか。レッドXIIIが旅を続けることも知ってたんだな」

「あったりまえでしょーよ!」

「…そうだな」





当たり前というナマエに素直に頷くことが出来る自分。

疑っていない。
疑う理由はない。

…いや、それ以前に…信じてやりたいと、そう思っている自分。

今更疑うこともない。
もうここまで、幾度となくナマエの言動は証明しているから。

でもそれ以上に、ナマエのことを信じてやりたいと思うのだ。

違う世界から来たこと、未来の記憶があること。
簡単には信じてもらえないだろうとナマエはあっけらかんと話す。

ナマエ自身それはわかっているから、ひょうひょうとしている。

だけど、それは紛れもない事実。
本音では信じて欲しいと、そう思っているはずだろう?

だったら俺が信じる。
いくらでも肯定してやるさ。

俺は、ナマエがこの世界に現れた瞬間を見た。
俺だけが、その瞬間を知っている。

俺だけが唯一、肯定の材料に出来る強み。

…そんなことにさえ、自分が満たされているのを感じる。





「ナマエ…」

「ん?」

「……いや」

「うん?」

「…………。」

「おおう?なんだなんだ、どうしたクラウド!」





呼んでおいて黙った自分に流石のナマエも疑問を覚えた様子。

いや、これは確かに俺が悪い。

…ただ、今は…。
…目を合わせていること、話しているこをを…なんだかもっと、実感したくて。





「悪い…なんでもない」

「ふーん?変なのー!ま、いいけど。そのイケメンフェイスに免じて許して差し上げますわ!」

「……。」





ナマエはそんなことを言って、とんとんと軽快に階段を下りて行った。

読めないテンション。
ひょうひょうとした物言い。
好き勝手でやりたい放題。

…どうしてこんな奴。

そう思うのに、目で追うのをやめられない。

ひとりで危険に飛び込むな。
あんたの考えていることを、もっともっと…ちゃんと知りたい。

そう思う自分の心に、俺はもう…目を逸らせなくなっていた。



To be continued

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