それ以上でもそれ以下でもない


ギ・ナタタクを倒したあたしたちはもうすぐそこにある目的地に向かい奥に進んだ。
そこは細い通路になっていて、進めば出口が見えた。

続いていた先は外。
ずっと洞窟を歩いていたから、その空気に触れたときなんだか清々しい気持ちになった。
渓谷に吹く自然の風だから、余計にそう感じたのかもしれない。

そして、見上げた先には星が輝く夜の空と小高い丘。
その丘の上には、月明かりに照らされる、ひとつの石像が見えた。

その石像は、いくつもの矢が突き刺さった、一匹の獣だった。
その立ち姿はナナキにとてもよく似ていた。





「……その戦士はここでギ族と戦った。ギ族が一歩たりともコスモキャニオンに入りこめないようにな。そして自分は二度と村へもどることはなかった…。見るがいいナナキ。おまえの父、戦士セトの姿を」

「……あれが……あれが……セト……?」





ブーゲンハーゲンの話を聞き、父だと聞いたその石像を見上げるナナキ。
彼はじっと石化した父の姿を見つめていた。

あたしも見上げた。

ギ族との闘いの末、石化したセト。
ゲームでも見ている姿だけど、でも、なんだかすごいと思った。





「あれは…まさか、レッドXIIIの…?」

「うん。お父さんだね」





隣で同じように見上げていたクラウドとそう話す。

よく、生きているみたいな石像…なんて言ったりするけれど、それはまさにそんな感じで…そりゃ、ナナキのお父さんなんだから当然なのかもしれないけど。
でも、勇ましさというか…そういうものを確かに感じたような気がした。





「セトはあそこでギ族と戦いつつげた。この谷を守りつづけた。ギ族の毒矢で体を石にされても…ギ族がすべて逃げだしたあとも…戦士セトはここを守りつづけた。今もこうして守りつづけている」

「今も…」

「たとえ逃げだした卑怯者と思われても、たった1人、命をかけてコスモキャニオンを守ったんじゃ。それがおまえの父親セトじゃ」





ナナキにその父の姿を語るブーゲンハーゲン。

逃げ出したと、卑怯者だと、彼はそう言われても、たったひとりで谷を守り続けた。
今もなお、変わらずに。そんな父親の姿を。





「母さんはこのことを?」

「ホーホーホウ……知っておったよ。2人はあの時、わしに頼んだんじゃ。この洞窟は封印してくれとな。わし1人で封印し、そのことを誰にも話してはいけない。こんな洞窟のことは忘れた方がいいから、と言ってな」





真実を聞いたナナキは黙って父親を見上げていた。
そんなナナキの背をブーゲンハーゲンは見つめ、そしてあたしとクラウドに振り返った。





「……クラウド、ナマエ。勝手を言ってすまないがわしら、2人きりにしてくれんかの」





父を見つめたままのナナキ。
きっと想うことがたくさんあるはず。

何も水を差すことはない。
あたしとクラウドはブーゲンハーゲンの言葉を受け入れ、顔を合わせて頷き、その場を後にした。





「はー。やっぱ親玉倒してからちょっと空気軽くなったよね」

「そうだな」





クラウドとふたりで洞窟の中に戻ってくる。

まさか置いていくわけはないから、あたしたちは出口付近でふたりのことを待つことにした。
クラウドは適当に壁に寄り掛かり、あたしはその近くにあった岩に腰掛けた。

洞窟に戻ってくると、なんとなく最初に入った時の嫌な感じが無くなっているように感じた。
それを思うとあの亡霊の怨念ってどんだけだったんだよって…。

まあ待っている間、あのどんよりの中で待つのはアレだからこれは良かったなと思う。
といってもモンスターはいるからそう油断は出来ないけど、まあその辺はクラウドがいるからどうとでもなるだろう。





「あー、でもやっぱ疲れたなあ…」





とりあえず、今は一息つける時間だ。
あたしはふうっと息をついた。

するとそんなあたしを見下ろすクラウドくん。





「怪我とかしなかったか?」

「んー?ないない。全然してないよー」

「そうか」





そんな事を聞いてきてくれるクラウド。
結構、こういう気遣いはしてくれる人だと思う。

彼は優しい。 

まあ、それはゲームをしてる時から思ってた。
…一緒に旅してみて、それは実感に変わった。

…けど。

ちらりと見上げる。
クラウドはこちらを見ていた。





「…ほんっとカッコイイねえ、君」

「……。」





見上げた先にある整った顔。
ぽろっと本音を零す。

いや本当、いくらでも見てられるくらいカッコイイわ。
格好よすぎて思わずうふうふと変な笑みが零れてくる。

そうしてじいっと見ていれば、クラウドは「はあ…」と息をついてふいっと目を逸らした。

見慣れた光景。
もう彼も慣れたものだろう。

だって、出会った頃からずっとこの調子。
ずっとずっと、カッコイイだなんだと言っているから。

だけど、その反応は多分…出会った頃とはどこか少し、変わっているような気がする。





「……。」





考えて、思い出す。
向けられる、その視線の色。

自惚れだって、勘違いだって。
そう決めて、片付けてしまおうとした。

…でもどうやら、あたしはそう鈍感ではないらしいようで。





「……。」





きっと、指折り数えられる。
数えられるほど、向けられている想いの、その片鱗をもう幾度と感じている。

ここ最近だけでも、いくつも。

…趣味の悪いハナシだ。
本当にそう思う。だって他に可愛い子がたくさんいるのに。
それなのにわざわざ?こんなにやりたい放題の奴?

そんなの、ありえない話じゃないか。

…だけど。
…気付いてる。





「…洞窟、かあ」

「なんだ?」

「ううん」





あたしは辺りを見渡した。
ギ族の洞窟。おどろおどろしい洞窟。
だけどゲームで良く知る、あのままがリアルにそこにある。

そう。ゲーム。あたしはそこに感動を覚える。

今目の前にいるクラウドだってそう。

ゲームの登場人物。
大好きな大好きな、クラウド。

そういう考え方は、やっぱりしてるんだよなあ…。

今が現実だって言うのはわかる。
見た景色、触れた感触、痛みだってある。
大怪我をしたら、きっとここで死ぬだろう。

そう言う現実。
でもゲームの世界。

そういう視点で見てるなって思う事、よくあるもん。





「あ〜、しっかしあたしほんっとクラウドのことずーっと見てられるわ〜、んふふふ」

「…やめろ」





あたしは笑った。
だって本当、紛れもない本音だし。

あたしはクラウドが大好きだ。
大好き、本当に大好きだ。

だけど決して、それ以上でもそれ以下でもないのだから。



To be continued

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