一撃必殺


コスモキャニオンから繋がる異質な気配の洞窟。
おどろおどろしい雰囲気が漂い、嫌な寒気を肌でも感じる。

ブーゲンハーゲンに案内され、あたしは今クラウドとナナキと一緒にこのギ族の洞窟へと足を踏み入れていた。





「はー、いやはやこれはー…はっはっは」

「…なんだその反応は」

「いやなんとなくわかるでしょ?」

「……。」





不気味〜な雰囲気にちょっと変な反応したらクラウドに顔をしかめる。
でも同意を求めたら黙ったからクラウドもこの嫌な雰囲気を感じているのだろう。

ていうかこれに何も感じなかったら流石に鈍感が過ぎると思う。

そう。辺りには満ちていると言っても良い程の寒気が溢れていた。





「まあでもわりとワクワクもしてきてるんだけど」

「…この洞窟見てワクワクするのか、あんた」

「まあねー。ほら!あの蜘蛛の巣とか!やっべえ本物!みたいな?」

「…何を言ってるのかわからない」

「あとは普通にここまでの嫌な感じって逆に新鮮味覚えるよね」

「あはは、ナマエはポジティブだねー」





クラウドが顔をしかめている一方でナナキには笑われた。
まあナナキ自身もこの寒気は感じていることだろう。

ギ族の洞窟。
あのゲームにおいてのダンジョンのひとつ。

洞窟に入る前にも言ったけど、あたしにとってはこの世界の場所ならどこでも興味の対象になる。
いやゲームやったことある人なら蜘蛛の巣とか見て「おお…!」ってなる気持ちわかって貰えると思うんだけどなあ…。この不気味な景色もゲームのまんま!なんて。
いやそこらにある蜘蛛の巣見たって普段はテンション上がらないよ?むしろそれはダダ下がりますけどね?





「ホーホーホウ。怖気づかないのはいいことじゃ。ほれ、進んで行くぞ」





そしてブーゲンハーゲンのそんな言葉に全員で頷く。
こうしてあたしたちは洞窟の奥を目指して歩き始めたのだった。





「こんな洞窟の奥にレッドXIIIに見せたいもの、か」

「んー、まあそうだねー」





歩いている途中はクラウドと話していることが多かった。

ナナキはブーゲンハーゲンを守ろうと思っているのか基本的にはブーゲンハーゲンの傍を離れない様にしているようだったし。
それに、さっき父親の話をしてからと言うのも、色々と考えているような感じだったから。

そしてここでの話題となればそれはやっぱりナナキの事だった。





「この洞窟の事も知ってるって言ってたな」

「うん」

「…レッドXIIIの父親の何か、か。相当嫌ってるみたいだったな」

「そーだねー。口にもしたくないくらいに嫌ってる」





ナナキ自身がはっきりと言った。
父親のことを思い出すとオイラの胸は怒りで…って。

嫌悪の気持ちを隠しはしなかった。





「けど、ブーゲンハーゲンの物言いだと…何か勘違いみたいなものがあるみたいだな」

「うん。そう。きっとね、知らないまま生きていくのはナナキにとっても良い事じゃないとあたしは思うな。だからまあ、折角御指名貰ったならお手伝いしてみようかな〜なんて」

「…そうか」





それはナナキの両親の願いだった。
でもナナキはそれを知るのはナナキにとってとても意味のある事だ。
それに、ナナキの父…セトのとっても。

あたしはそう思う。
ブーゲンハーゲンもそう思ったからナナキを此処に連れてきたんだろう。

そうして話しながら、あたしはふと思い出したことがあった。





「あ、そういえばさクラウド、エクスポーションって持ってる?」

「エクスポーション?」





クラウドにそう尋ねれば彼は首を傾げる。

そうそう。うっかり忘れてた。エクスポーション!
わりと貴重品だけど、確かいくつか持ってたと思うんだよな。

ちょっと荷物の整理してた時ちょろっと見た気がするし。
そしてどうやらその記憶は正しかったようだ。





「あるけど…、何だ?」

「じゃあ1個ちょーだい!」

「は?」





なんかエリクサーちょーだい!みたいなノリになっちゃったな。
あたしはクラウドに手を差し出した。クラウドはきょとんとしていた。





「なんでだ?回復のマテリア持ってるだろ?」

「持ってるけどまだケアルガとか使えないし、エクスポーションのが効果大きいでしょ」

「それは…、って何だ。これから大けがでもする気か」

「ううん。全然」





あたしは首を横に振った。

いやいや大けがなんてしないし。
ていうかそんなのは御免だ。

そもそも用途は回復するためじゃないしね。





「んー、むしろ攻撃用」

「攻撃?…ああ、なるほどな」

「お、流石」





攻撃、と言えばクラウドは納得したようだった。

クラウドは戦闘の知識は結構あるし。
まあこの辺の察しは流石だよね。

この洞窟の中で戦っている敵はアンデットタイプが多い。
つまりは回復は攻撃手段になるということ。





「まあ…そうだな。エクスポーションなら効果は大きいか。いざと言う時にいいのかもな」

「うんうん。てことで、くれますか?」

「貴重なものだ。使う時はちゃんとタイミングを見計らえよ」

「はーい!ありがと〜」




納得したクラウドは道具袋からエクスポーションを取り出してあたしにひとつ渡してくれた。

エクスポーションは一番回復力の高いポーション。
つまりはその殺傷力…って言ったらなんかおかしいけど効果は抜群というわけで。

クラウドは使いどころを間違えるなと言ったけど、その使いどころはもう決まっている。
だからあたしはそれまでそのエクスポーションを大事に懐で温めておいた。





「ここにいるのはみなギ族の亡霊じゃ。ある戦士に倒された、な」





ある程度先に進んだ所で、ブーゲンハーゲンがそう言った。
ナナキは見上げ、首を傾げる。





「ある戦士……?」

「しかし、死してなおギ族の憎悪の精神は消えず、ライフストリームに帰ることすらこばんでいるのじゃ……」





そうしてブーゲンハーゲンは、進むたびに少しずつ教えてくれた。

この洞窟はコスモキャニオンの裏に続いている。
ギ族は体も大きく なにより残忍。ここから攻め入られたらひとたまりもなかったであろうこと。

そして…。
 




「戦士はこの洞窟を1人で走りぬけた。次から次へと襲いかかってくるギ族と戦いながら……」

「じっちゃん……その戦士って……」

「ホーホーホウ……あと少し、じゃな」





たったひとり、そんなギ族を食い止めるためにこの洞窟を駆け抜けた戦士がいた。
ブーゲンハーゲンはその名を語らない。

だけどきっとナナキも、そしてクラウドもどことなく察しはついていただろう。

そして、さらにさらに奥へと進んで…。
あたしは通っていく道を見て、記憶の中にあるルートを思い出し、ああそろそろだな…なんて思ってた。

そうして、ついに最深部へと辿り着いた。





「なんということじゃ……」





ブーゲンハーゲンは最深部の壁を見て絶句した。





「じっちゃん、こいつは…!?」





ナナキがグルルと警戒しながら唸る。
あたしとクラウドも同じように壁を見た。

この洞窟を歩く間、ずっと嫌な寒気を感じていた。
だけどここに来てそれが桁違いに強くなった。

何かとんでもないものが来る。
それが本当に肌でわかる感じ。





「…親玉か」

「イエス」





そう言ったクラウドにあたしは頷いた。





「死してなお……ギ族の亡霊が……よどんだ大気のように……これは……いかん!!」





ブーゲンハーゲンが少し後ずさる。

その言葉通り、その場の空気はよどんで、そしてひとつに集まっていく。
壁の形が歪んでいき、まるで魔物の顔の様なものが浮かんで、にやりと笑った。

ギ・ナタタク。

そうして現れたのは、ギ族の亡霊たちの親玉だった。





「…厄介そうだな」





クラウドが背中の剣に手を伸ばして構える。
ナナキもまたいつでも飛び掛かれるような姿勢を取っている。

クラウドやナナキに緊張が走ったのがわかる。
此処に至るまでに戦ったギ族たちとはケタ違いなのは誰の目から見ても明らかだったから。

だけど、そんな中であたしはちょっと冷静だった。





「よ、と」

「っおい、ナマエ…!?」





あたしは前に出た。
すると自分よりあたしが前に出た事にクラウドは驚いていた。

そりゃまいつもは前になんて出ませんから。

でも今回ばかりは特別。
物語の知識を有しているからこその、ちょっとした裏技を知っているもので。






「ねえ、クラウド。これ以上に無い使いどころ、此処だと思わない?」

「え…」





あたしはそう言ってにこっとクラウドに笑った後、ギ・ナタタクを見上げた。
おーおー。炎のお供を従えておっかない感じがバンバン伝わってくる。

でも、大丈夫。





「エクス…ポーション?」





あたしの手に握られていたもの。
それに気がついたらしいクラウドの声が聞こえた。

あたしはそれをぎゅっと握りしめて、そしてブンッと勢いよくギ・ナタタクに投げつけた。





「いけえ!!!」





投げたエクスポーションは癒しの光を零しながらギ・ナタタクに降り注ぐ。
その瞬間、ギ・ナタタクの悲鳴が辺りに響き渡った。





「!」

「あっ…消える!」





エクスポーションを浴びたギ・ナタタクは空気中に溶けるようにその場から消えていく。
それを見たクラウドは剣先を地に下ろし、ナナキもまた唸るのをやめた。

しゅん…と跡形もなく消え去ったのを見計らい、あたしはくるっと振り返った。





「成仏完了!」





笑っていえーいとピースする。
するとナナキがタタッと駆け寄ってきてくれた。





「ナマエ!すごい!すごいよ!」





なんかすごく感動してくれているナナキ。
やーん!なんかめちゃくちゃ可愛い!やっぱこっちの性格の方がいいよね。

で、なんか物凄く喜んでくれるからこっちもちょっと調子に乗る。





「へへーん!ナナキー!もっと褒めろ!」

「ナマエすごーい!」

「ホーホーホウ!確かに大したものじゃ!」

「うふふー!」





駆け寄ってきてくれたナナキをわしゃわしゃと撫でているとブーゲンハーゲンにも褒められてあたしはヘラっと笑った。

すると最後にもう1つ足音。





「…エクスポーション、最初からここで使うつもりだったんだな」

「ふふ、そーゆーことー」





クラウドの言う通り、最初からあいつに使うつもりでエクスポーションをくれと言った。
使いどころは最初から決まっていた。そりゃどこって言われたらここしかないでしょってね。

まあなんにせよ。これで一段落。
ボスを倒したからか、重苦しかった空気も和らいだ感じがする。

これで先に進めるようにもなった。
だからあたしはナナキに言った。





「ナナキ。もうすぐだよ」

「え?」

「ですよね?」





あたしはブーゲンハーゲンに確認した。
目指す物はもう本当にこのすぐ先だったと記憶している。

するとブーゲンハーゲンも頷き、続く先を指した。





「ホーホーホウ。その通りじゃ。さ、お前に見せたいものはすぐそこじゃよ」





ギ・ナタタクを倒したことで開けた道。
そこからは少し風が流れてくる。それは外にへと続いている予感をうかがわせる。

こうして、あたしたちは目的の場所を目指して奥にへと進んだ。



To be continued


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