心の機微


ブーゲンハーゲンにお礼を良い、あたしとクラウドは頂上の小屋を後にした。

小屋から出れば、このコスモキャニオンが一望できる。
そこであたしたちは下の焚き火の所に皆が集まってきているのを見つけた。

それならここらで一度合流しようか。
クラウドはそう話し、あたしたちも焚き火の所へと向かった。

今は皆でぐるっとたき火を囲んで座り、ゆらゆらパチパチと燃える炎を眺めてる。

うん、ゲームでも見知ったあの光景。

まあでも焚き火って見てると不思議と落ち着くよね。
あたしも一息つくように、ふうっとその場で落ち着いていた。

けど、そんな炎を見ていると…色々と考え込んでしまう人もちらほらみたいだった。





「ねえ、クラウド。焚き火って不思議ね。なんだかいろんなこと、思い出しちゃうね」

「……。」

「あのねえ、クラウド。5年前……。……ううん。やっぱりやめる。聞くのが……怖い」

「なんだよ」

「クラウド……どこかに行っちゃいそうで……。クラウドは……本当に、本当にクラウド……だよね」



「私、勉強しちゃった。長老さんに教えてもらったの。いろいろ。セトラのこと……約束の地のこと……。私…ひとりだから…ひとりだけになっちゃったから」

「俺が……俺たちがいるだろ?」

「わかってる。わかってるけど……セトラは……私だけなの」

「俺たちじゃ、力になれないのか?」

「……。」





近くだから、わりと会話も聞こえた。
それぞれ、クラウドがティファとエアリスとしていた会話。

あたしは隣に座ってたユフィと「退屈なとこだ〜。ナマエもそう思わない〜?」「え〜、いいじゃん、あたしこういう雰囲気あるとこ好き〜」みたいな気の抜けた会話してたけど。

まあ聞かなくても知ってるっちゃあ知ってるんだけどね。
だからこそユフィと話をしながらも会話の内容を把握出来たのかもしれない。

ふたりは焚き火の炎を見ながら、自身が心に抱えているものについて考えている。

ティファは5年前の事。
エアリスはセトラ…自分の事。

このふたつは、この物語を進めていくうえでの大切な鍵だ。
クラウドくんはそんなことつゆ知らず、だけどもね。

まあでも、確かに焚き火というのは色々と思い起こさせるものだとは思う。

さっき色々、元の世界のことを話していたかな。
あたしも、ゆらゆらと揺らめく炎を見ながら、ちょっと色々考えた。

元の世界の事。今、どうなってるのかなあ…とかね。

この世界はあたしにとって夢の世界だ。
行けるものなら行ってみたい、そんなことを何度も思ったことのある世界。
運良く大好きなキャラクターたちと旅ができて、行く場所全てに心踊る大好きな世界だ。

けど、まぁそりゃあ元の世界が気にならないわけじゃないわけで。
そんなの当たり前だけど。

帰る方法、今のところ手掛かりは何もない。
もしかしたら明日とか、急に消えたりする可能性も無くはない。

難儀だなぁ〜…。

そんなことを考えながら、あたしはうーんっと体を伸ばした。





「……ずっとむかし」





そんな時、ナナキの声がした。

ティファやエアリスに気を使い、今はそっとしておこうと判断したらしいクラウドはそのままナナキの隣に腰を下ろしていた。
するとナナキも焚き火で何か心に浸るものがあったらしく、隣に来たクラウドに話すように口を開いた。





「オイラが本当に子どものころだ。あの日も、やっぱりみんなでこの火をかこんで、……やっぱり話すのや〜めた」





でも、本題に行く前にやめてしまった。

なんとくなく、ナナキの話にはクラウドだけじゃなくて他の皆も聞いていたように思う。
たぶん皆本来のナナキの性格にびっくりして生い立ちとかも気になってるみたいだから。

クラウドは不思議そうに尋ねた。





「どうしたんだ?」

「オイラの両親のことだからさ。母さんの話をするとオイラの胸はほこらしい気持ちではちきれそうになる。それはいいんだ。でも、父親のことを思い出すとオイラの胸は怒りで…。…ナマエは、この話も知ってる?」

「ん?」





およ?
いきなり話を振られてきょとんとした。

ナナキはこっちを見てる。クラウドも。
いや、他の皆もか。

ナナキの父親…とな。
あたしは「あ〜…」と軽く頬を掻いた。





「まあ、なんとなくは…?」

「そっか…。最低だろ、オイラの父親」

「いや、うー…ん?」





最低。そう言い切りため息つくナナキ。

あたしは返答に困った。
いやだって、ねえ。

まあ、その当時何がどうあってとか詳しい話は知らない。
だからなんとなくはって答えた。

でも最低かどうかって聞かれてると、それはちょっと違うっていう事だけは知ってるわけで。





「……やはり父親が許せないか」





その時、話を聞いていたらしいブーゲンハーゲンが焚き火の近くまでやって来た。

ナナキは顔を上げブーゲンハーゲンを見る。
その顔はとても不機嫌そうだった。





「当たりまえだよ。あいつは……母さんを見殺しにしたんだ。ギ族が攻めてきたとき あいつは1人で逃げ出した。母さんと谷の人たちを放り出してさ!」





怒った口調。
皆、多分ビックリしてた。

物静かで寡黙な性格を演じてただけあって、ナナキの怒った声なんて聞いた事が無かったから。

あたしも、こんな風に怒るんだなあって思った。

そんなナナキの様子を見たブーゲンハーゲンはどこか寂しそうだった。
そしてくるりと背を向けると、ナナキに静かにこう言った。





「……来るがよい、ナナキ。おまえにみせたいものがある」

「……?」





背を向けたのはついて来いの意。
意味が分からないとナナキは首を傾げる。





「ちょっとばかり危険な場所だ。クラウドよ、お前と…あとナマエ。一緒に来てくれんか」

「…へ?」





ナナキに見せたいものは危険な場所にある。
だからクラウドについて来てほしいと。そしてあたしもご指名がきた。

やばい。間抜けな声が出た。

え、誰かひとりじゃなくて、あたし?
危険な場所なのに?





「え、ブーゲンハーゲンサン…あたし戦闘能力イマイチですけど…?」

「底抜けの魔力を宿している。ナナキからそう聞いておるぞ?」

「ええ…」





ナナキってば何を言ってくれちゃったんだ。
いやそりゃ何か魔法の威力はすんごい事になってるらしいですけど?

え、いいのコレ?
そんな意味を込めてクラウドをちらりと見てみる。

すると彼は軽く肩をすくめた。





「御指名だ。別にいいんじゃないか」

「おっま…適当ですね?!」

「珍しいな。この世界ならどこでも喜んでいくイメージだが。行きたくないのか?」

「ううん、行きたい」

「…なんなんだ」

「ま、いっか。戦闘はクラウドにお任せ〜。わっかりました〜!あたしも行きます〜!」

「…はあ」





なんか溜息つかれたけど別にいつものことだからそれは気にしない。

あたしはくるっと振り返り、皆に「御呼ばれしたから行ってくる〜」と手を振った。
エアリスとティファは「気を付けて〜」って振り返してくれた。

それを見て笑うと、あたしはブーゲンハーゲンとその後ろをついていくナナキに駆け寄った。





「ナマエ…なんかごめん。オイラはよくわからないけど、付きあわせるみたいで」

「ん?ぜーんぜん?まあ、厄介そうなところって言うのは知ってるんだけど。でもあたしはこの世界の色んなとこ見たいから。知ってるでしょー?」

「あはは…、うん、知ってるや」

「それにね、ちゃんと知ったことが良い事だと思うから。お手伝い出来るならお手伝いするよ〜」

「え?」





そんな話をしながらブーゲンハーゲンを追う。
するとその会話に思うものがあったらしいブーゲンハーゲンは振り返った。





「ホーホーホウ。ナマエよ、セトの事も知っておるのじゃな」

「…まあ、あらかたはですけど」

「成る程のう。これが物語の知識とやらか。まあ、そう思ったから呼んだんじゃがの」

「あ、そーゆー感じです?」

「それだけではないがな。ナナキはお前といると気が楽だったと言った」

「え?」





ブーゲンハーゲンは話しながらふよふよと上へと上がっていく。
後ろからクラウドも追いかけてきた。あたしとナナキはきょとんとしながらブーゲンハーゲンを見る。

するとブーゲンハーゲンは笑みを見せた。





「大人ぶる必要が無かった。それだけなら、そうは思わんよ」

「じっちゃん…」





つまり、ナナキ自身があたしの傍にいる事を良く思ってくれていたということ。
気を許す対象になれていたということ。

あたしはナナキを見る。するとナナキもこちらを見たから聞いた。





「そーなの?」

「そう、なのかな…?」

「ええ〜!そこは、うん、そうだよって言えし〜!」

「っあはは、うん、そうだね!」





しゃがんで目線を合わせて、わしゃあってナナキの顔を撫でまわしたらナナキはそう笑った。
あたしも釣られて一緒に笑った。

そしてひとつの視線に気が付く。

見上げると、そんな様子を見下ろしているクラウド。
む。なんだかじっと見られている。

すると、ブーゲンハーゲンの呼ぶ声がした。





「ホーホーホウ。ほれ、早う来い」





なんだか微笑ましいものでも見ているような目をしているブーゲンハーゲン。

まあこんなとこで止まっててもしゃーない。
あたしは立ち上がり、クラウドとナナキと再びブーゲンハーゲンの後を追った。

そして辿りついたのはひとつの閉ざされた扉の前。
その扉は鉄製で堅く、重く、ただ閉ざすためだけに作られているように見えた。

いや、実際そうなんだろうなと思う。





「ホーホーホウ。用意はいいかの?」





扉の前で一度振り返り、あたし、クラウド、ナナキの顔を見渡してそう確認するブーゲンハーゲン。

杖はちゃんと腰に下げてる。
マテリアもしっかり装備してる。

あたしは顔を見合わせたクラウドに頷き、ナナキもまた同じように頷いていた。
それを確認したクラウドがブーゲンハーゲンに返事をする。





「ああ…」

「ホーホーホウ。なら、行くとするかの」





そう言うと機会をいじり、隠されていたボタンを出現させた。
開くためのボタンすら隠してるんだから、やっぱ厳重に閉ざしていたっていうのが伺えるよね。

ブーゲンハーゲンがボタンを押せば、扉は重たい音を響かせゆっくりと開いた。





「これでよし。さあ、入った入った」

「あれ?じっちゃんが案内してくれるんじゃないの?」

「な〜に言うとるんじゃ。ちょっとばかり危険だと言うたじゃろ。年寄りに先を行かせるのか?わしは後からついていくよ」





ブーゲンハーゲンはそう言ってあたしたちに先に入る様にと促した。

クラウドやナナキは微妙に腑に落ちてなさそうながらも言われるがまま扉の中に足を踏み入れる。
あたしもその後から入り、最後にブーゲンハーゲンが入った。





「穴…?」

「うん、穴だね〜」





中に入るとそこにはひとつの大きな穴が空いていた。
クラウドが覗いて首を傾げてたからあたしはこくりと頷く。

穴。それはとても深くて、此処から覗いたんじゃ底までは見えそうにない。

一応、上り下りするためのロープがくくりつけられているけれど、底が見えないとなるとちょっと不安を煽るよね。
というか実際にヤバイところに繋がっているわけだけど。

ギ族の洞窟。

ゲームで訪れたその場所の名前を思い浮かべる。
確か、降りていくたびにおどろおどろしい雰囲気が濃くなっていく、そんな場所だった。

とりあえずここは数歩歩けばコスモキャニオンみたいなところだから、別に不気味な感じとかは無いんだけど。





「じゃ、クラウド。行ってみよう!」

「俺が一番手なのか」

「いやどう考えても君が適任でしょ」





さあ行きたまえ。そう穴を指差したらクラウドはまた溜息をつきながらロープに手を掛けた。
しゅる…と身軽に降りていく姿はなかなかカッコイイ。いやはやこういうのもなかなか目の保養になるよね〜!なんて。





「あっは、クラウド良いじゃん!さっすが〜!!かっこいい〜!!」

「…………。」





その一瞬、ぴたりとクラウドの手が止まった気がした。

ん?
と思ったのもつかの間、彼は「はぁ…」と小さな息をついた。





「…いいから早くついて来い」

「へいへーい」





褒めたのに反応うすーい。
まあそんなんいつものことだけど。





「……。」





クラウドがある程度の位置まで降りるのを見守る。

…いやでも。
今のは反応が薄いと言うよりかは…。

些細な反応。
…そっと、目を逸らしたクラウド。

でも逸らされたと言うよりは、反応に悩んだ、そんな感じ。





「……。」





ほんの、些細なこと。
…心の機微。

頭に浮かんだのはそんな言葉。





「じゃあ、あたしも降りるよ〜!」





ナナキとブーゲンハーゲンと、降りたクラウドに聞こえるように少し大きめの声で言う。

まあでも、道中本当厄介そうだし、ここは気を引き締めていかないと!
そう頭を切り替えて、あたしは下に伸びるロープへと触れた。



To be continued

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