星命学


「それじゃ、はじめようかの」





奥の部屋に通されたあたしとクラウド。
ブーゲンハーゲンはあたしたちを見渡すと、そう言って部屋にある機械を作動させた。

部屋の明かりが少し暗くなり、あたしたちが立っている足場が音を立ててせり上がっていく。

目の前に広がるのは宇宙空間。
ブーゲンハーゲン自慢の、プラネタリウムの始まりだ。





「う、わあ…」





目を開いて見上げた瞬間、パアッと広がった景色に思わず感嘆の声が零れた。
本当に、本当に自然に零れた声だった。

そこにあったのは本物の宇宙みたいな景色。

ゲームで見たものは比べ物にならない…本当に、本当に綺麗な光景だった。





「すごい…。ね、クラウド!」

「ああ…」





思わず共感を求めたくなる。
だから隣にいるクラウドに声を掛ければ彼も見惚れていたらしく、あたしの声に少しだけハッとしたようにコクリと頷いてくれた。





「ほほ、そうじゃろう。これがワシの自慢の実験室じゃ」





そんなあたしたちの様子にブーゲンハーゲンはご満悦だった。

流石、自慢のアレと言うだけのことはある。
確かにこれは自慢だ…。

そう言いたくなる気持ちも、褒められて誇らしくなる気持ちもよくわかる。

それだけの価値のものが目の前にはあった。





「この宇宙の仕組みが全てこの立体ホログラフィシステムにインプットされておる」





ブーゲンハーゲンはそう言いながらまた機械を作動させた。

すると目の前に星が流れた。

本物と見紛うほどに。
それもまた、美しい光景。





「うわー…本当すごい…」

「ホーホーホウ。そうじゃろ、すごいじゃろ。さて、そろそろ本題に入ろうかの」





美しい景色を楽しんだところで、ブーゲンハーゲンはまたホログラムを操作した。

このプラネタリウムを使っての本題。
それはこの星の命の流れ…星命学についてだ。

コスモキャニオンって長老さん何人かいるみたいだけど、その中でも一番の長というか、こんな一番高い所に部屋を構えるブーゲンハーゲンにこうして直々に説明して貰えるのって実は結構贅沢な事なのかもしれないなあって思った。





「人間は……いつか死ぬ。死んだらどうなる?」





ブーゲンハーゲンはそう投げかけてきた。





「身体は朽ち、星に帰る。これは広く知られているな。では、意識、心、精神はどうじゃ?じつは精神も同じく星に帰るのじゃな。人間だけじゃない。この星、いや宇宙に生きるものすべてひとしく。星に帰った精神はまざりあい、星をかけめぐる。星をかけめぐり、まざり、分かれライフストリームと呼ばれるうねりとなる」





ライフストリーム。

それはよく耳に残った。
ああ。やっとその単語を聞いたなあ…なんて風にも思った。

なぜならその言葉は、これから先の旅にも大きく関わってくるものだから。





「ライフストリーム……すなわち星をめぐる精神的なエネルギーの道じゃな。精神エネルギー、この言葉を忘れてはいかん。新しい命……子供たちは精神エネルギーの祝福を受けてうまれてくる。そして、時が来て、死に、また星に帰る……。むろんいくつかの例外はあるが これがこの世界の仕組みじゃ」





ブーゲンハーゲンはホログラムでわかりやすくそのシュミレーションを見せてくれた。

宇宙に浮かぶ一つの星。
その上には人間が立っていて、木があって。
どちらも朽ちると、星に融けていく。
そして混ざり合って、やがて、また新たな命となる。





「もしさ、クラウドが死んじゃったとしたらさ」

「…唐突に縁起でも無いこと言ってくるなよ」

「もしもだって、もし!まあ、もしって言うか、遠い未来でも。死んじゃったらさ、クラウドは星にエネルギーとして還るわけだよね」

「まあ、今の話だとそうだな」

「うん。でもさ、あたしは違うわけよ」

「……。」





話を聞いて、浮かんだこと。
いや、あたしはこの星命学の話を知っていたから、どこかではずっと思ってたこと。

ブーゲンハーゲンもさっき言っていた。
あたしは、この星の一部ではないということ。





「あたしはこの世界の人間じゃないから、死んでもライフストリームには還らない」

「…だから星は、あんたが何者か気にしてると」

「うん。みたいだねえ。そんな大層なもんじゃないけどさ、あたし」





さっき聞いた話も踏まえながら、色々と整理していく。
クラウドもさっきの時点では意味が分からなかった事も今の星命学の話を聞いた上でなら繋がった部分もあるだろう。





「精神エネルギーのおかげで 木や鳥や人間は……いやいや生き物だけではない。星が星であるためには精神エネルギーが必要なんじゃ。その精神エネルギーがなくなったらどうなる?」





ブーゲンハーゲンは新たにホログラムを出しながら話を続けた。

星の上を駆け巡る光。
それはライフストリームの例えの光だ。
ブーゲンハーゲンはその光を吸い取った。
するとたちまち、星は黒ずみ、朽ち、しまいには割れて崩れ落ちてしまった。





「……これが星命学の基本じゃな」

「精神エネルギーが失われると星が滅びる…」





星命学の基礎を聞き、クラウドはそう呟いた。

それを聞いたブーゲンハーゲンは目を細めて少し笑った。
多分、一番気にして欲しかったのがそこだったのだろう。





「ホーホーホウ。精神エネルギーは自然の流れの中でこそ その役割を果たすのじゃ。無理矢理吸い上げられ、加工された精神エネルギーは本来の役割を果たさん」

「魔晄エネルギーのことを言ってるのか?」

「魔晄炉に吸い上げられ、ずんずん減っていく精神エネルギー。魔晄炉によって過度に凝縮される精神エネルギー。魔晄エネルギーなど名づけられ使いすてられているのは、すべて星の命じゃ。すなわち魔晄エネルギーはこの星を滅ぼすのみ……じゃ」





魔晄エネルギーは星の精神エネルギーを吸い上げ加工したもの。
つまり、魔晄炉を爆破していたアバランチの活動は星の命を伸ばすことに関して理にかなったものだった。
とは言え、そのやり方が正しいかどうかはまた別問題なのだけれど。





「さて、他に何か質問はあるかのう?」





ライフストリーム。魔晄エネルギー。
星命学についての話は一通り終わった。

ブーゲンハーゲンは最後にそう尋ねてくれる。

だからあたしは「はい」と手をあげた。





「あの、星があたしのこと異世界のものだって認識にしてるって言ってましたけど、それって具体的に何か影響とかあるんですかね?」





星があたしを認識していて、それでどう思っていて、何が起こるのか。
もし答えがあるのなら、そこは聞いておきたいところだよね。

ブーゲンハーゲンはうむ、と頷いた。





「わからん。が、今の時点でそう変わりはないんじゃろう?」

「んー。まあ、特には」






軽く頷いた。
いやだって、特にないし。

特になくてわからないから、聞いてみたって話ではあるんだけど。

あたしはこの世界、星にとっては異質なもの。
星はそれに気が付いていて、あたしをどう思うか。

変な話、ジェノバの件があるから、わからないものがあったら警戒するだろうなあとは思ったけど。
…まだクラウドたちは知るまでに至ってないけど、ジェノバもこの星のものじゃないから。そして、星にとっての脅威的存在だ。

あたしは違うよ〜とか伝えられるなら伝えたいものだけど。
いやでもそれは無理じゃん?エアリスにでも頼んでみる?いや無理だよね?

…ウェポンに襲われるとか?
いやいやいや、大逸れすぎだろそれ。

まあこう色々考えて見ても、別に何か害があるって事は無いんだろう。…多分。





「まあでも、じゃあ気にしても仕方ないか」

「ホーホウホウ!軽いのう!まあ、わしもそれでいいと思うがのう」

「わからないなら仕方ないですもん。ただ、認識されてるって事に驚いたもので。まあこっちとしては別に星に危害を加えようとか思ってないし。向こうもそうであってほしいと願っておきます」





まあ、なるようにしかならないよね。
だからあたしはそう前向きに考えておくことにした。

するとその時クラウドがこちらを見ている視線に気が付いた。

思いのほか、ブーゲンハーゲンはあたしの話に理解を示してくれて、この星と違う物というか、異世界の存在が当たり前の前提で進む会話が飛び交った。
それはクラウドからはどんな風に見えたのかな?

あたしはチラッと彼を見てふっと小さく笑ってみた。





「ふふふ〜。異世界の話、ちょっと信憑性増した?」

「別に…」





いつものおふざけ笑顔にクラウドはふっと息をつく。
まあ予想通りの反応。

でも。





「…別に、疑ってない」

「え?」





続いた言葉。
それを聞いたあたしは、多分…ちょっと目を丸くした。





「…あんたがこの世界の人間じゃないことも、過去や未来を知ってる事も、今更疑ってるわけがないだろ」





目が合った。
合ったまま、そう言われた。

結構まっすぐ。

ちょっと、びっくりした。
うん、びっくりした。

視界を少しずらせば、プラネタリウムの星が煌めいている。
綺麗だ。そんな景色を見ながら、少し、思った。

…いや、まあ。
クラウドは、あの一行の中では話に納得してくれている方だ。
だから何かと、仲間が増えた時とか、肯定してくれることも多い。

でも、この世界に現れた瞬間を見たから〜とか、そういう言い方が多いでしょ?
何というか、肯定してくれるけど素直にはしてくれない感じ。

…でも。

信じる…。
ゴンガガでも、クラウドはその言葉をくれた。

そして、今また。

疑ってるわけがない。
変に理由付けをすることなく、遠回しではない。

今、彼はそういう言い方をしてくれた。





「そっかぁ…」





あたしはそう言いながら、また星の景色を見た。
クラウドも。並んで、同じように。

…素直に、嬉しい、と思った。
そりゃ、こんなあり得ない話にそう言ってもらえるのは有り難いって思う。

クラウドの言葉はどこか少し不器用だった。
でもその不器用な中に、確かに彼の優しさがあった。それを感じた。

今も、隣で感じる。

…結構、むちゃくちゃに好き勝手やってるんだけど。
それでも一緒にいて、こう言ってくれる彼は、とてもお人よしだ。

興味ないね、なんて言いながら…本当は凄く優しい。





「…なんだ、その反応」

「ん?」





そっかぁ…だけ呟いて少し黙ったからだろうか。
クラウドは少しだけ気になったみたいにそう言った。

んー、まあ確かにいつもなら「うふふ」と変な笑いのひとつでも出してるかもしれない。

我ながら気持ちの悪い奴である。うんうん、知ってる!

まあ…。
あたしは流れる星のホログラムを目で追いながら、軽く笑った。





「いやぁ、景色が綺麗だからね〜」

「…そうだな」

「お?ふふ!見れて良かったね、クラウド!」

「ああ…」





優しいのなんて知ってる。ずっと、出会う前からわかりきってる。
だからこそ、あたしはそこに付けこんだわけだけれど。

…本当、お人よし。
実際に接してたら、より一層そう感じた気がするなあ。

ただ、嬉しい…とは思った。



To be continued

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