未来のものは未来のもの


不思議な音がした。本当に不思議な音。
唸るようで、静かに低く響くような。
例えがたい、一度とて聞いた事の無い音。





「今のは?」

「ホーホーホウ。この星のさけびじゃ。痛い、苦しい…そんなふうに聞こえるじゃろ?」





聞こえたそれを尋ねたクラウドにブーゲンハーゲンはそう答えた。

不思議な音。
その正体はこの星の声だった。

あたしにも聞こえた。そして察しはついていた。
だってゲームで聞いたことがあるから。

だけど、結構驚いた。

それはゲームで聞くよりずっと、何か心を揺さぶられるような…そんな響きをしていたから。





「クラウドたちは星の命を救うために旅をしているんだ。じっちゃんの自慢のアレを見せてやったらどうかな」

「ホーホーホウ!星を救う!ホーホーホウ!そんなことは不可能じゃ。人間なんぞに何ができる。しかし、なんじゃ。わしの自慢のアレを見るのはけしてムダではなかろう」





星を救う。それはこの地で結成したアバランチの決意だけれど、ブーゲンハーゲンはそれは無理だと笑った。
だけど星に関心があるのなら、この部屋にある自慢のアレとやらを見せてくれると言った。

自慢のアレ、とは。
それはこの星の命の流れを見ることが出来るプラネタリウムだ。

ゲームでもなかなか神秘的だった。
アレ、生で見せて貰えると!!





「あっ!見たいですあたし!!」

「あはは、ナマエ、何かわかってるの?」

「うん、わかってるよ〜」

「ホーホーホウ!この世界の知識を有している、か。面白い奴じゃのう」





自慢のアレが何か言われてないのに何かを察してるあたしにナナキとブーゲンハーゲンは笑ってた。
意味が全く分かってないクラウドだけはぽかんとしてたけど。





「クラウド、きっと綺麗だから見せて貰お〜」

「え、あ、ああ…綺麗、なのか…?」

「んー、多分?だってあたしも見るのは初めてだし?」





ゲームの中の皆が見ている姿を思い出しても、見惚れていたり、感嘆していたり。
そんな様子を覚えているからきっと生で見られたら綺麗なんだろうなって思う。

自慢のアレ、という単語しかわかっていないクラウドだけどナナキにも勧められあたしも目を輝かせているからそれならどんなものかと気にはなってきたらしい。





「ブーゲンハーゲンさま〜!またヘンテコな人たちがいっぱいきましたです〜」





するとその時、下の階からブーゲンハーゲンに呼びかける声が聞こえた。

ヘンテコとは…。
まあ誰かはわからないけど、恐らく仲間内の誰かではあるだろう。

しっかしヘンテコときたもんだ。
でもまあ確かにこの集落じゃ浮いてるだろうしヘンテコかもしれない。





「なんじゃ、急にさわがしくなったな」

「ああ、その人たちもクラウドの仲間だ。オイラが行くよ。じゃあナマエ、クラウド、ゆっくり見ておいで。あ、そうだ、ナマエ。ナマエの世界の事とか、疑問に思ってること、じっちゃんにも聞いてみると良いよ」





自分は何度も見ているから、と対応に向かってくれたナナキ。
彼はそう言い残して部屋を後にしていった。

あたしが疑問に思ってる事…。

確かに、色々気になってる事はある。
成る程。ブーゲンハーゲンに尋ねてみるのはありなのかな。

答えが出るかは別にしても、何かヒントや答えに近しい話は聞けるのかもしれない。





「ホーホーホウ。お前さんたちよりは随分長く生きているからのう」





ちらっと見て見れば、ブーゲンハーゲンも快くそう返してくれた。

それなら聞いてみようか。
そう思い、あたしはいくつか質問を聞きたい事を整理してブーゲンハーゲンに尋ねることにした。





「ブーゲンハーゲンさんは、異なる世界の存在って聞いた事あります?」

「ホーホーホウ。まったくじゃな!」

「うーん、まあ、さっき長生きするもんだって言ってたくらいだし、やっぱそうなるよね」

「けど、納得はしたのか?普通信じないぞ、こんな話」

「ホーホーホウ。そう言いつつクラウドとやら、お主は納得しておるのじゃろう?」

「……俺は、ナマエがこの世界に来た瞬間を見ただけだ」





ブーゲンハーゲンにそう指摘されたクラウドは少し目を逸らしながら素っ気なくそう答えた。

なんだかこの返答もお決まりになって来たような気がする。
誰か新しい人にこの話をする時、クラウドが傍にいれば「お前は信じてるのか」って言われるの。そしてクラウドはこうやって答えると。

まあ否定じゃないからあたしはそれでいいんだけど。

思わずふっと笑ったら「何を笑ってる?」ってクラウドに言われた。
だから適当に「いいえ〜」って笑った。

でも確かにブーゲンハーゲンもわりと肯定的な反応を返してくれたことには驚いた。
ナナキが味方してくれたにしても、それだけ?って言うか。

するとブーゲンハーゲンはそんなあたしたちの考えを察したように「ホーホーホウ」と笑った。





「なに、わしとてそこまでお人よしではないぞ。そうじゃな、ナマエよ、お主がこの世界に来た日がいつかわかるか?」

「えっ?」





あたしがこの世界に、来た日?
それを聞かれてあたしはクラウドと顔を合わせた。

するとクラウドは部屋にカレンダーを探し、その日付を指差した。





「この日だな。アバランチの作戦の日だったから覚えてる」

「ホーホーホウ。やはりそうか」

「やはり?」





クラウドはカレンダーから視線を戻し、顔をしかめる。
あたしも首を傾げた。





「ホーホーホウ。ちょうどその辺りからじゃ。星の声音が少し変わったんじゃ」

「星の…」

「声音…?」





あたしとクラウドは更に首を傾げた。

先ほど、星の叫びを聞いた。
苦しい苦しいって、嘆くような音。

つまり、あたしが来た日から、その音が変わったと?





「いや、あの、えええ…?」

「星がナマエの存在を認識してるっていうのか?」

「ホーホーホウ。わしはそう思っておるよ。あとでわしの自慢のアレを見ながら詳しく説明するが、わしたちは星の一部じゃ。じゃが、ナマエは違う。星はナマエを気にしている。そう考えれば、ナマエの話とも辻褄が合うしの」





星があたしを気にしている?
正直、なんだその大層な話は…って言う感じ、ではある。

だってあたしなんてちっぽけなモノだし。

ただ、ゲームをやっているあたしはブーゲンハーゲンが何を言っているのかなんとなくはわかる。
彼が言っているのは生命学の話だ。この星に生けるものは、皆この星の一部。クラウドも、ナナキも、他のみんなも。

違うのは、ジェノバや…あたし、か。

でも本当に星の声が変わったと言うのなら、確かにブーゲンハーゲンがあたしを信じてくれる根拠にはなるのかもしれない。





「ホーホーホウ。星のこの変化。わしはずっと気になっておったんじゃ。そこにきてナマエの話を聞けば、納得出来ない話ではないということじゃ」

「…まあ、信じて貰えるのは有り難いです。話もスムーズに進むし。疑われると説明ややこしくって」

「ホーホーホウ!まあ普通は信じはせんな!加えて、未来もわかるというのじゃろう?」

「ああ、ハイ。この世界はあたしにとって、物語の世界だから。クラウドたちは登場人物。だから大筋、過去の出来事や未来に起こることはなんとなく知ってるんですよ〜」

「ホーホーホウ!物語ときたか!それは愉快な話じゃのう!」

「あー…あはは、やっぱその辺は疑わしいですかねえ?」

「確かに、その話に関しては本当かどうかの判断は出来んのう。本当であれば、未来を知っていると言うのは難儀な話じゃなと思うが」

「まあ、知ってるからってそれをクラウドたちに教えることは出来ないっぽいんですけど。教える気もあんまりないけど。あたしがその未来を知ってる上で動くことは出来るけど、伝える言葉は音にならなかったり、紙に書こうとしても何も残らなかったり」

「言葉が音にならない…紙に書けない…?」





もうひとつ、聞きたかった事。
丁度良かった。それはこの未来を伝えられない事に関してだった。

いや別にそこに不便はないんだよ?
クラウド達に未来の事を教える気はないから。

でもなんでだろうって疑問はあるわけで。

するとブーゲンハーゲンは少し考えた末、その答えをおぼしきものを教えてくれた。





「それは、未来のものは未来のものであるからではないかのう」

「未来のもの?」





言われた答えに首を捻った。
いや、だってよくわからない。

だからちらりとクラウドを見て「わかる?」と聞けば彼は肩をすくめた。
うん、やっぱわからんよね。

あたしはブーゲンハーゲンに向き直った。





「ホーホーホウ。なに、そんなに難しい話では無い。それは未来のことだけで、過去にあったことは口に出来るのじゃろう?」

「え、ああ、そーですね。だから異世界から来たとかの話を信じてもらう時には過去の話を使ったりします」

「ホーホーホウ。つまり、元の世界の知識を口にすることが出来ないというわけではない。未来のことだけじゃ」

「ええと、それが、未来のものは…未来のもの、だから?」

「過去は今の一部じゃ。すなわち、今この時間に既にあるものじゃ。じゃが、未来はそうではない。まだ起きていないこと、まだそこにないもの。それを形に出来ないのは当然の事と言うわけじゃ」

「あ…」





そうか。何となくわかった気がした。

未来に起こる事は、今にはないものだ。
それを今に持ってくることは出来ない。

だからその時が来るまで言葉にできない、文字にもできない。





「なーるほど。未来のものは未来のもの、か…」

「ああ…」

「クラウドわかった?」

「まあ、なんとなくはな」





納得して呟けば、クラウドも頷いた。
どうやら彼も納得したらしい。

ブーゲンハーゲンはあくまで仮説だとは言っていたけど、でもそれでしっくりくる気がした。





「ホーホーホウ。ではそろそろ自慢のアレを見せてやるかの。こっちじゃ、お前たち、わしについてくると良い」





あたしたちが腑に落ちた様子を見て、ブーゲンハーゲンはその場から移動した。
その先は隣の部屋へと続く扉。扉を開くと、あたしたちに中に入る様にと促してくれる。

ブーゲンハーゲンの自慢のアレ。
生命学のプラネタリウム。

それがもうすぐ生で見られる。

そう思うとあたしは純粋に、凄くワクワクとしていた。


To be continued

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