背伸びなんて必要ない
ゴンガガを後にしたクラウド一行は再びバギーに乗り込み旅を再開した。
そうして次に辿りついたのは夕陽の似合う峡谷だった。
女の子たちは窓から夕陽を眺めて「綺麗ね〜」なんて話をしている。
時間的にはそろそろ今晩の宿も考えねば。バギーの中はそんな穏やかな空気をしていた。
だが、しかし…あたしは知っていた。
こんな穏やかな空気が一変、ドカーンとぶっ壊れることを。
そうとなれば備えるべし。
あたしはひとり身構えると、程なく、その瞬間は訪れた。
ドカーンッ!!!!
ちょっと適切な効果音が分からないが言うなればそんな感じだろう。
その瞬間、車体が突然大きく揺れた。
皆は驚いたように「うわ!」だの「きゃあ!」だの声を上げる。
まぁあたしは構えてたから全然問題ナッシング!
多分酷いとどっかしらぶつけたりした人もいたみたい。
ともかくそんな異常事態に一度全員がバギーから降りた。
クラウドはエンジンの調子を見に行く。
その様子を皆で伺っていると、彼は首を横に振った。
「壊れた…」
その言葉に空気が固まった。
いや壊れるの早くない…。こないだ貰ったばかりじゃないか…。
代弁するならそんな感じだろう。
漂うそんなどんよりムード。
こりゃあの海パン園長の株がクラウドたちの中で下がる一方だね。
でも、幸いだったのは歩いて行ける距離に集落があったことだろう。
「クラウド、ここでこうしてても仕方ないわ。あそこに建物が見えるから、修理もしなきゃだし、とりあえず行ってみない?」
「ああ、そうだな。行ってみよう」
ティファの提案にクラウドは頷き、そして皆にも行こうと呼びかけた。
するとその時、ゆらっと揺れた尻尾があった。
まあ皆は気が付いてないかもだけど。
あたしはそっとモフモフの彼に小さく声を掛けた。
「やーっと着いた〜…って感じ?」
「っ!…うん」
彼、レッドXIIIはあたしの言葉に一瞬目を丸くしたけど、すぐにコクンと頷いた。
だってね、本当ナナキくん的にはやっとって感じでしょ。
歩き出した皆に続き、あたしたちも歩き出す。
今はまだ耐えてるけど、一歩一歩集落に近づいていくごとに多分どんどんナナキの思いは募っていっていたのだろう。
集落は崖の上に位置していた。
だからそこに繋がる長い階段が造られている。
階段を目にすると、レッドXIIIは突然駆け出した。
故郷を前にして抑えていたものがパッと溢れたみたいに。
タタッと軽快に、その様子は流石に慣れた足取りだなぁと思う。
そして簡単に先頭を歩いてたクラウドをも抜かし、そして彼は見えた入り口に向かい元気よく叫んだ。
「ただいま〜!ナナキ、帰りました〜」
それはなんとも無邪気な声。
それを聞いた瞬間、皆がギョッとしたのがわかった。
いや多分心は一つだよね。
あいつは一体誰だと。
今までずーっと寡黙ならキャラでいってたわけだから、突然あんなんなったらそりゃそうなるわ。
あたしはそんな様子を眺め、思わずついつい吹き出してしまった。
「おお、ナナキ!無事だったか!さあ、ブーゲンハーゲンさまにご挨拶を」
多分門番か何かの人。集落の入り口に立っていたひとりの男の人はそんなレッドXIII、もといナナキを迎え入れた。
ナナキは頷くとそのまま集落の奥へと走って行ってしまう。
「……ナナキ?」
クラウドは首を傾げた。
「ようこそコスモキャニオンへ。この地のことはご存じですか?」
するとナナキを見送った門番さんがこちらの存在に気が付き声を掛けてくれた。
コスモキャニオン。
それがこの土地の名前だ。
あたしはとりあえずクラウドに追いつくべく階段を駆け上がり、そして高くそびえるその建物を見上げた。
峡谷をうまく利用して作られた雰囲気のある場所だ。
きた…!生コスモ・キャニオン!!!
ここにきてあたしのテンションもぐわっと上がった。
「…知ってるのか」
「あったりまえ!たぶんみんなの中にも名前くらいは聞いたことある人いるんじゃない?」
「おお…!」なんて声漏らしたもんだからクラウドに聞かれてあたしはそう答えた。
そして一緒に振り返り他のみんなの顔も見る。
コスモ・キャニオン。
その名前を聞き、一番反応しているように見えたのはバレットかな。
何故ならここはアバランチ結成の地だったりするから。
まぁクラウド自身はよく知らないみたい。
だからあたしは男の人に視線を戻してクラウドの肩を叩きながらお願いした。
「すみません、彼、この土地に詳しくなくて!よければ教えてあげてくれませんか?」
クラウドにちょっと顔をしかめられた。
なにさ、知らないくせに〜。
でもクラウドも説明して貰えるなら聞く気はあるらしく男の人を見る。
男の人は快く頷いてくれた。
「では、語らせていただきましょう。ここには世界中から『星命学』を求める人々があつまってきています。んが!今は定員いっぱいなので 中には入れてあげません」
生命学。多分一番耳に残ったのはその単語だろう。
けど、中に入るのは拒否られると。
クラウドはまた顔をしかめた。
まぁお願いはしたけど男の人も説明したそうだったというか、凄くにこやかに話してくれたからそれで入れないとはどういうことだってアレではあるんだけど。
あたしもゲームしてる時思ったなあ。
入れてくれないのかよ…って突っ込み入れたっけ。
だけどその時タタッと聞き慣れた獣の足音がした。
ナナキが一度少しだけ引き返して、既に登っていた建物の上の方から叫んでくれた。
「その人たちにはほんのちょっとだけ世話になったんだ。いれてあげてよ」
ほんのちょっと、っていうのがミソだよね。
子供っぽくて可愛らしいというか。
でもその口添えのおかげであたしたちは中に入ることを許してもらった。
皆はでもナナキのキャラ変にやっぱり困惑してるけど。
だけど入れて貰えるなら入ろう。そうして皆が続々と皆が入っていく中、クラウドは一度振り返り男性に尋ねた。
「ナナキというのは?」
ナナキ。それはレッドXIIIも男性も口にしていた単語。
「ナナキはナナキ。彼の名前です」
男性はにこやかにそう言った。
レッドXIIIは宝条がつけた仮の名前。
そう言っていたのをクラウドも覚えているはずだから、それが本名なのかとそこは納得しただろう。
ひとまず、中に入ったあたしたちは建物の階段でこちらを見下ろしているレッドXIIIの元へ向かった。
「これがオイラの……ちがうちがう!……ここが私の故郷だ」
近づくとそう説明してくれたナナキ。
いやお前もう口調グッダグダじゃないかい。
ゲームでも思ったけど、実際に目の前で聞いてみると凄くそう思うと言うか。
まあ突っ込みはしないけど。
やっと故郷に帰ってこれてすっかり気が緩んじゃってる。
そんな感じをひしひしを感じた。
「私の一族はこの美しい谷と星を理解する人々を守ってくらしてきた。だが勇ましい戦士であった母は死に ふぬけの父は逃げだし 一族は私だけになってしまった」
「ふぬけの父?」
「ああ。父は見下げたふぬけ野郎だ。だから、ここを守るのは残された私の使命だ。私の旅はここで終わりだ」
なんとか口調を戻してそう自分について話したナナキ。
でもやっぱり言い方と言うか、話の内容が少し子供っぽい気もする。
ふぬけの父…ね。
「お〜い!ナナキ〜!帰ったのか〜!」
「いまいくよ!じっちゃん!」
するとその時、かなり上の方からおじいさんの声が聞こえた。
その声を聞いたナナキはぴくりと耳を動かして反応し、また駆けて行ってしまう。
で、口調も戻ると。
ってか最初っから別に背伸びする必要なんて無かったのにね。
とりあえず、今聞こえた声はきっと…。
あたしはさっきナナキを呼んだ声を思いだし、声のした上の方を見上げる。
うん、やっぱ会ってみたいかも!
ゲームで知る声の主を思いだし、うずっと胸が疼く。
「ねえ、休も休も休も!アタシたちも休もっ!よし、けってーい」
その時、駆け出して別行動し始めたナナキの姿を見てユフィが各自で休もうと騒ぎ出した。
でも多分皆そこに異存はなく、むしろ賛成と頷き始める。
こうしてあたしたちはここコスモ・キャニオンにてしばらく自由行動をすることになった。
そうなればあたしがしたいことは決まってる。
「よーし、上るか」
皆が各々散らばっていく中、あたしは駆けていったナナキを追い駆けるように、ゲームの記憶を頼りに同じ道筋を辿って上を目指した。
「あ、クラウド!クラウドだよ、ナマエ」
「やっほ〜!クラウド〜!」
「レッドXIII…とナマエ…」
和やかに談笑していると聞こえたノック。
そして、カチャ…と開いた扉。
開けたのは金髪のつんつん頭の彼だ。
コスモ・キャニオン最上階にあるひとつの小屋。
あたしが目指したその場所に、ほどなくクラウドもやってきた。
あたしとナナキは振り返って彼に笑い掛ける。
クラウドの方は様子の変わったレッドXIIIに困惑し、あたしがいた事にも多少驚いたり…してなかったり?まあ色々思う事はあるみたいだった。
そしてそこにふよふよと現れるご老人がひとり。
「クラウド、この人がブーゲンのじっちゃん。なんでも知ってるすごいじっちゃんさ」
老人に気が付いたクラウドにナナキが紹介をした。
老人の名は、この部屋の主ブーゲンハーゲン。
このストーリーにおいて欠かせない存在のひとりだ。
この人に会えたのもあたし的にはなかなかの感動。
クラウドは軽く会釈しながらあたしとナナキの傍まできた。
するとブーゲンハーゲンさんは目を細めて微笑ましそうに笑った。
「ホーホーホウ。ナナキがちょっとだけ世話になったようじゃの。ナナキはまだまだ子供だからのう」
「やめてくれよ、じっちゃん!オイラはもう48歳だよ」
「ホーホーホウ。ナナキの一族は長命じゃ。48歳といっても人間の年で考えればまだ15、6歳くらいのものじゃ」
「15、6歳!?」
子供扱いをするブーゲンハーゲンさんを嫌がっているナナキと、その精神年齢を聞いて珍しくクラウドが声を上げた。
ふふふ、実はコスモ・キャニオンに来てからこの瞬間を楽しみにしてたんだよね。
クラウドがナナキの実年齢を知る瞬間。驚くその反応が見たかった!
だからあたしはクラウドにへらっと笑った。
「あははっ!驚いた?驚いた?もう反応ずっと見たくてさー!」
「…ナマエは知ってたのか」
「もっちろん。ねー?ナナキ!」
あたしはそう言ってナナキの頭にふかっと触れた。
ナナキは大人しく撫でられながら少し苦笑いして頷いた。
「あはは…だってナマエには隠しても仕方なかったし。ナマエの前だけでは普通に話してたんだよ。ね」
「ねー」
「…たまにコソコソふたりで話してる時があると思ったが…そういう事か」
クラウドはよく「あんたら仲がいいな」なんて首を捻ってた。
だから話を聞いてその疑問に納得が言ったらしい。
まあナナキが実は子供っぽいなんてそんなこと想像つかないもんねー。
「無口で考え深い。あんたはナナキのことを立派な大人だと思っていたのかな?ホーホーホウ。しかしナマエの話は興味深いのう。異世界に物語ときたか。長生きはするものじゃ」
そしてそんな様子を見ていたブーゲンハーゲンもクラウドの反応に笑っていた。
それと同時に、あたしの事についても興味を示してくれた。
クラウドが此処に来る前に、少しだけブーゲンハーゲンにあたしの話をしたのだ。
最初ってまず信じて貰えない事が多いけど、ブーゲンハーゲンの場合はそれを興味深いと言ってすんなりと話を聞いてくれた。
話しておいてなんだけど、凄いおじいちゃんだなあって思った。
「ホーホーホウ。じゃがナナキにとってそれは良い事じゃったろうて。気が抜ける相手がいるのはいいものじゃ」
「うん…最初にナマエにバレた時はどうしようって思ったけど、結果的に素でいられるのは楽だったから、オイラ、ナマエがいて良かったって今は思うんだ」
「やだー、なにそれ!ナナキー!!」
「わっ、あははっ!」
あ。やばい。素直なナナキに心臓ぶち抜かれた。
ずっきゅーん。ていうかこんなの嬉しくないわけないよね!?
あたしはガバッとナナキに抱き着いた。
するとナナキの方もすりすりとあたしに頬を寄せてくれた。
ああああー!!!可愛いな!!?
なにこれ幸せだね!?
あたしがそう喜ぶ一方、頬を寄せながらナナキは小さく呟いた。
「……じっちゃん。オイラはやく大人になりたいんだよ。はやくじっちゃんたちを守れるようになりたかったんだよ」
勇敢な大人の戦士に。
それがナナキが大人ぶっていた理由だ。
現にみんなの目にはそう映ってはいたのだろうけど。
でもそれは無理をした姿だった。
「ホーホーホウ。いかんな、ナナキ。背伸びしてはいかん。背伸びすると いつかは身を滅ぼす。天にとどけ、星をもつかめとばかりにつくられた魔晄炉。あれを見たのであろう?あれが悪い見本じゃ。上ばかり見ていて 自分の身のほどを忘れておる。この星が死ぬ時になってやっと気づくのじゃ。自分が何も知らないことにな」
ナナキを諭しながらブーゲンハーゲンは魔晄炉と星の死について口にする。
魔晄炉は人が背伸びをした産物。
爆発事故を起こしたり…身の程を知らないってのは確かにって感じはするかもしれない。
「星が死ぬ…?」
そしてその言葉にクラウドは反応した。
ブーゲンハーゲンは頷く。
「ホーホーホウ。明日か100年後か……それほど遠くはない」
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
「星の悲鳴が聞こえるのじゃ」
星の命。星の悲鳴。
少しずつ、物語の鍵となる部分に触れていく感覚。
この辺の話は結構興味面白いよね。
だから抱き着いていたナナキから体を離し、そっと、あたしもその話に耳を傾けた。
To be continued
prev next top