どうしたものかなと


じわっとした熱が肌を焼く。
照りつける太陽の光が一段と眩しい。





「砂漠の監獄……コレルプリズンやな」





ケット・シーはそう言った。あたしとクラウドはその言葉に振り返る。
映った黒猫はやれやれというように首を振って項垂れていた。

ゴールドソーサーの闘技場にて起きた銃撃事件。
その濡れ衣を着せられたあたしたちが強制的に放り出されたのはゲームの通り、砂漠の監獄コレル・プリズンでした。





「砂漠の流砂にかこまれた自然の監獄や。一度入ったら、出ることは叶わんって、聞いてます…。けど、確かナンか特例があったような」





ケット・シーは自分の知っている情報を掘り起こし、そう思いだしながら教えてくれた。
流石なもんでゴールドソーサー近辺の知識はそこそこあるらしい。

するとその時、クラウドが少し離れたところにいるある人物の存在に気が付いた。





「…バレット?」





クラウドが呟いた名前。
そこにいたのはバレットだった。

クラウドは駆け寄る。
それをあたしとケット・シーも追いかけた。

近づいた先、バレットは呆然と立ち尽くしていた。

そしてその足元には…ひとつの死体があった。





「バレット……あんたまさか本当に……」





その死体には銃で撃たれた痕があった。
それを見たクラウドは思わずそう問いかける。

声に気付き、こちらの存在に気が付いたバレットは声を張り上げた。





「来るな!これは俺の……俺がカタをつけなくちゃならねえことなんだ。ほっといてくれ…」





こちらの問いかけには答えない。
ただ、それだけ言い残してバレットは走り去っていった。

クラウドなら、きっと少なからずその意味を考えようとする。
だけど今会ったばかりのケット・シーからすれば、状況的に危険な人物…という印象がつくだろう。





「ヒョーッ!あの人も、お知り合い?なんや危なそうな人やなぁ」





ぽりぽりと黒と白の混じる頬を軽く指で掻く黒猫。

…いや待てよ。情報としてはきっとアバランチのリーダーとかそういう事は把握してるはずだよね。
うーん、でも実際に会うと言うか、見るのは初めてだろうから、この危なそうな人というのはケット・シーの率直な感想だったりするのだろうか。

知ってるこっちの身からするとひょうひょうとしてるなあってのが感想だったりするんだけど。

まあそれはともかくで、だ。
目の前にいるでかいモーグリ。そしてその上に乗ってる黒猫。

一先ず、この場において慌てるものはなくなった。

そうなれば同時に、ふつふつと胸に浮かんでくる感情があるのはもうお決まりだと思うんだ。

あ、うん。ちょっともういきますわ。
あたしはもう衝動に身を任せることにした。





「ところで、あの…クラウドさん、この御嬢さんは…」

「…ナマエ」





ケット・シーの困惑の声がした。
そして名前を呼ばれたかと思ったら、クラウドにぺしりと頭を叩かれた。

ええ、ええ。まあ何故叩かれたかは理解していますけども。
なぜって?そりゃもちろんこの大きな大きなデブモーグリにあたしが抱き着いたからさ。

コレル・プリズンに落とされて、やっと少し状況が落ち着いた。
いや口に出したら監獄で落ち着くなって言われそうだけどさ。

でもまあね、追われることもないし。そういうこと。

そうとなればあたしの興味は勿論、やっと出会えた新しい仲間ケット・シーに向くことになる。

そりゃそうだよ。ずっと会いたかったもん!それが本音だもん!
でも我慢して我慢して会いに行かなかったんだもん!

そうとなれば抱き着いて堪能するくらい許されるでしょうと。
いいだろ、テーマパークで着ぐるみにテンション上がるのと一緒だい!!

まあここらで自己紹介するか。
クラウドに従いあたしはケット・シーから離れ、ニコッと笑って挨拶した。





「はじめまして!あたし、ナマエって言います。一応、クラウドの同行人?以後お見知りおきを!」

「クラウドさんのお仲間さんですか。そりゃよろしゅう頼んます!僕はケット・シー言います。まあこんなべっぴんさんに抱き着かれて嫌な気はせえへんけど、ビックリしましたわ」

「べっぴんだなんてそんな〜!御上手ね!ちょっとクラウド聞いた?」

「なんで俺に振るんだ…」

「君しかいないでしょ。でもいやあ、衝動が抑えられなくてね〜」

「まあ気持ちはわからなくもないですけけど。このモーグリ、なかなか愛らしいもんやろ!」

「うんうん!!」





ムードメーカーのようにノリよく話をしてくれるケット・シーだからなんだかきゃっきゃと話が弾んだ。
これでいて中の人はお堅ーいわけだけどさ。

まあ楽しいからいいのである。

クラウドだけは勘弁してくれって感じで頭抱えてたけど。






「おい…、監獄ではしゃぐな。脱出する方法を探さないと。それに…」

「バレット?」

「…とりあえず、気にはなるからな」





これからどうするのか。
ケット・シーの言う出るための特例を探す事と、そしてバレットの事。

素直に心配してるってクラウドは言わないけど、でも今の状態で放っておくのも良しとはしない。





「なんだ?」

「いえいえ。お優しいなと思っただけですよ〜」

「……。」





本当、素直では無いけれど優しいよなあと思うのは本音だ。
まあバレットは犯人ではないし、ちゃんと会いに行かなきゃね。

ところで、それはさておきあたしには他にちょっと気になる事があった。





「ねえ、クラウド、ケット・シーとふたりだけ?」

「そうだが?」

「…誰もついてきてくれなかったの?」

「ああ」

「ええ…好感度…」

「は…?」





尋ねたのは他の皆は?ってハナシ。
いや確かゴールドソーサーに初めて来たときってさ、クラウドって誰かとふたりで行動するじゃない。
クラウドが話しかけた誰か、ひとりで行こうとしたらこの時点で一番仲良しの人が付いて来てくれると。

ものすごーくゲーム的な話してるけど事実そうでしょ。
誰かと一緒に来るって自然な事だ。

なのに何だ、この彼は。
ここにいるのはケット・シーとふたりだけ。

誰もついてきてくれない…だと。





「可哀想になあ…クラウド」

「…どうして俺は憐れまれてるんだ」





不憫に思えば顔をしかめられた。

まあこれからこれから、ね!
次に来たとき誰とデートすることになるんだろう…とかまだ結構先のことだけど純粋な興味だよね。





「じゃあま、とりあえずバレット探そうか。ここ出る前にそっち何とかしないとだし」

「ああ」

「あの人追いかけるんですか。はあ〜、なんや物騒な事にならなえーですけど」

「ケリつけなきゃ〜って言ってたから、物騒な話ではあるかもねえ」

「ええ…ナマエさんあっけらかんと言いますなあ」





まあ先のこと知ってますので。
なーんて心で呟きながらケット・シーにフフッと笑った。

クラウドはなんか思うところある顔してあたしのこと見てたけど。
多分これも知ってるって事かとかそういうこと考えてるんだろう。
でもそれを口にしないのはケット・シーがいるからだ。とりあえずあたしが自分から言うまではその話はしないようにしてくれているんだろう。

この旅で仲間になる人にはあたしの事情をちゃんと説明すると決めてる。

ただ、今回はちょっと特殊だ。
ケット・シーにどう言うか。

ケット・シーだって最後まで一緒に戦ってくれるクラウドの仲間だ。

でも今現在の彼に言うとすると、どういうことになるだろうか考える。

まあ、神羅側に思いっきり筒抜けるよね…。
ゲームをやっていて知っている事実…なぜならケット・シーは神羅のスパイだから。

いや、前に神羅ビル言った時ルーファウスには異世界人って単語出しちゃったけど。
全っ然信じて無さそうだったとかそう言う話はともかくとしてね。

でもケット・シーからもその情報を伝えられたとすれば流石に少しは気にするのかな、と。

というか違う世界って言うのはいいのだ。
問題は、この先の未来の知識を持っているって話。

流石にそれを聞かせたら、興味を持たれるんだろうか。
いや最初は信じられないと思うけど、これから一緒に行動していくことを考えるときっとそれが事実だとすぐわかるはず。

そしてもうひとつ。
あたしはケット・シーがスパイだと知っているとケット・シー自身に聞かせることになること。

…リーブさん自身は凄く良い人だろうと思うけどね。





「さてさてどうしたものかな〜と」

「とりあえず、建物を調べて見るか。そんなに何件もあるわけじゃない」

「はーい」





口に出したその言葉の意味は、ふたつ。
クラウドは勿論、片方の意味に気が付かない。

さてさて、どうしたものかなと。

こうして、あたしたちはバレットを探してこの砂漠の監獄を探索していくことにした。



To be continued

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