ありえないこと


コレルプリズンはもともと、バレットの故郷であるコレルの村があった場所だった。
だからそのところどころに、かつての村の面影を残している。
例えば、もう何もかもボロボロだけれど、民家の建物がそのまま残っていたりだとか。





「来るなと言ったじゃねえか!」





現存していたひとつの民家の中に入ると、立て続けるようにバレットも中に入ってきた。
バレットはあたしたちの姿を見るなり、そう怒鳴りつけてきた。

そして向けられたギミックアームの銃口。

物騒なその行動に、ケット・シーが慌てて声をあげた。





「ちょ、ちょっとタンマ!話、しましょ!な、話せばわかるって!」






クラウドもいきなり銃を向けられるなんて驚いたようだった。
でも彼のすごいところはその状況で咄嗟にあたしの前に出てくれたところだ。

これは…イケメンだ!!格好いいじゃんクラウド!!

思わずちょっと関心というか、感動する。
でもぶっちゃけ心配は無用だ。





「大丈夫だよ」

「え…」





あたしは前に出てくれたクラウドにだけ聞こえるくらいの声でそう囁いた。
クラウドは少し驚いたようにそう小さな声を漏らす。

その直後、バレットは銃を放った。

クラウドとケット・シーが少しこわばった。
でも勿論、心配は無用。

ドサッ…と音が聞こえたのはあたしたちの背後だった。
振り向くと、ひとりの男がそこに倒れていた。
多分、あたしたちの金品でも狙っていたんだろう。





「お前たちを巻きこみたくなかった…」





バレットはあたしたちに背を向け、項垂れた。
そしてその時、またも民家の扉が開いて誰かがどたどたと入り込んできた。





「それ、クラウドのセリフ!危険だ、巻き込むわけにはいかない、とかなんとか、ね」

「そうそう。それに私たち、もう思いっきりまきこまれちゃってるんだから」





明るいふたつの女の子の声。
それはエアリスとティファのものだった。





「上でバレット見つけて慌ててここまで来たの。バレット、ちゃんと説明して」

「おまえたち…」





エアリスが続けてバレットに問いかける。
ナイスタイミング。入ってきたのは、エアリス、ティファ、ユフィ、レッドXIII。
ここにきてちょうど、他の皆もこの場に駆けつけてくれた。

バレットは目をぐっと瞑った。
全員が集まった。その事実に少し涙をこらえるように。





「闘技場の事件は片腕が銃の男のしわざだと聞いた。……あんたか?」





事件の事はもう流石に上でも騒ぎになっているんだろう。
回りくどく聞いても仕方がないと判断したレッドXIIIがストレートに聞く。

バレットは俯いた。
でももうここまできたのなら。相違を決したように自分の知っていることを話し始めてくれた。





「もう1人いるんだ…片腕に銃をもつ男。4年前、あの日から…」





それは、ロープウェイに乗る前に話してくれた話の続き。
4年前のこの場所で起きた、苦い記憶の詳細だった。





「あの日…建設中の魔晄炉を見物にいった帰り道だった」





4年前のその日、バレットは親友のダインとともにコレル魔晄炉を見物しに行った。
でもその帰り道、神羅の軍によってコレルの村が焼き払われていることを知った。

ひとり村を抜け知らせに走りに来てくれた村長の言葉。
そして丘から見えた村を包む炎。

バレットたちは絶句した。
でもまだ終わっていないと急いで村に向かおうとした。

だけどその時、バレットたちのもとにも神羅の兵がやってきた。
目の前で村長は撃たれ、そしてバレットとダインも狙われる。
浴びせられる銃撃に足をすくわれたダインは崖から落ちそうになった。バレットは咄嗟にその手を掴んでダインを引き上げようとした。

だけど、銃声はやまない。

弾は無情に、バレットとダインの手を貫いた。
そしてダインは、崖の下へと消えて行ってしまったのだった。





「俺の右腕は もう使い物にならなかった。…しばらく悩んだけどよ。俺は右腕を捨て、この銃を手に入れた。オレからすべてを奪っていった神羅に復讐するための新しい右腕…。そのときの医者から聞いたのさ。俺と同じ手術を望んだ男がもう1人いるってことをな。ただし、そいつは左腕が銃になっている」





そこまで聞けば皆も察しただろう。

ダインは生きている。
そして一連の事件の犯人はバレットではなく…。





「でも……それならダインもあなたと同じ、でしょ?」

「そうよね。神羅にだまされたんだもの。きっと、一緒に神羅と戦ってくれるわ」





それを聞いたエアリスとティファは前向きな言葉を探して投げかけた。

一緒に戦ってくれる…か。
それは叶わぬ夢だ。

だって彼は神羅という括りではなく、もう、世界を…すべてを恨んで、憎んでる。
血も涙もない。彼はもう、狂気に墜ちてしまっているから。





「……わからねえ。わからねえが、俺はダインにあやまらなくちゃ気がすまねえ。だからよ、ひとりでいかせてくれ」






このままでは気持ちが収まらない。
ダインに会って、話をして、謝りたい。

バレットはそう懇願した。

そうした時、判断が委ねられるのはクラウドだ。
皆の視線が彼に集まる。クラウドはふうっと息をついた。





「好きにすればいい。…と、いいたいところだがダメだな。ここで、アンタに死なれると夢見が悪そうだ」





本当にひねくれた言い方をする。
けど、きっとこれくらいの方が今のバレットにはちょうどいいかもしれない。

クラウドは自分も行くと言った。
ここでバレットをひとり行かせたら無茶をするだろうことは誰の目から見ても明らかだっただろう。

だじゃらその意見にはみんなも賛同していた。





「バレット ここで終わりじゃないよ」

「星を救うんでしょ」

「へっ! ティファ、もうわかっただろ?星を救うなんてカッコつけてるが、俺は神羅に復讐したいだけなんだ。自分の気がすむようにしたいだけなんだよ!」

「……いいじゃない、べつに。私だって似たようなものだわ」

「わかりやすいよ、その方が。バレットらしいもん」





エアリスとティファが再び諭す。
ティファは、ただ復讐のためだけ、自分の気の済むようにしたいだけだという言葉には思うことが色々とあっただろう。
ティファだって、あのニブルヘイムの事件が今の行動に繋がっているのだろうから。

ともかく、ダインに会いに行くことは決まり。
バレットのけじめを止めるものはない。

となれば、あとはダインが今どこにいるのかということが問題だ。

だからあたしたちはダインを探すためにその手掛かりを探してみることになった。
いやあたしは知ってるけど、それを教えちゃカンニングってもんですよ。





「嘘吐き…南西…ということは北東か?ここのボスは恐らくダインだろう」

「お。推理してるね〜。良きかな良きかな」





で、あたしはといえばクラウドと一緒に情報集めをしていた。
というよりかは情報を集めるクラウドに同行してそれ眺めてるって方が言い方として正しい気もするけど。

今は嘘しか言わないと噂の変な三人組から話を聞いたところだ。





《ナマエ。少し聞きたい事がある》





分担してダインの情報を集めようってなった時、クラウドはあたしにそう声を掛けてきた。

なーに、と聞き返せば彼は何も言わなかった。
どうやらふたりで話したいと。
だから今こうしてふたりで行動しているわけである。





「闘技場での事件のこと、知ってたんだよな」

「え?」





ダインに関する手掛かりが聞けたからだろうか。
少し突然ではあったけど、クラウドがそう尋ねてきた。

あたしは「あー…」と答えた。





「うん、まあ、そうだね。知ってたよ」

「…だろうな。あんた、結構無茶するよな」

「無茶?うーん、そーかな?」





無茶、しただろうか。
いや勿論危険かもしれないところに行った自覚はある。

でもきっと、間に合わないだろうってどこかで思ってた。
あたしより先に出て行ったバレットが間に合わなかったのなら、あたしがダインとその場で鉢合わせることはないだろうと。

もし鉢合わせ…というか、ダインが闘技場にいるようなことがあったら、流石に中には入らなかったと思う。
というか、足とか竦んで動かなかった可能性が大きいよな…情けない事に。

だからまあ、実のところは然程無理をした…という自覚はないのかもしれない。
でもそう首を傾げるあたしにクラウドは息をついた。





「あの惨劇に居合わせて首を傾げるのか…」

「だって、銃撃時にいたわけじゃないし。ついたのその後だから」

「じゃあなんで真っ先に飛び出していったんだ」

「おおっと、そこ突いてくるかあ」





なぜ真っ先に飛び出したか。
新しく仲間になるケット・シーも置いて闘技場に行った理由。

まあそうだね。
それは確かに、もしかしたら間に合うのでは…が頭にあったからなんだけど。

でもほぼ間に合わないと思ってた。
だからきっと、行ったのは自己満足。

ただ、七番街の柱や運搬船の惨劇がちらついたから…足を向けた。





「まあ、完全なる見て見ぬフリってどーよって思っただけ」

「…気が気じゃない。やめてくれ」

「ん?」

「ひとりで事件に突っ込むな。せめて、俺に一言いうとか…」

「だって、未来のこと言おうとすると言葉消えちゃうし」

「ついてきて欲しいとか、いくらでも言いようあるだろ」

「本来クラウドはそこにいない。必要以上にいろいろいじるの嫌かな」





いや勿論、あたしひとりが動いて変えるのも色々ダメでしょってのはあるよ。
突き詰めていけばきっと矛盾する。

けど、やっぱそこにクラウド達の行動を巻き込んでいくのは一番ダメでしょって。





「…なら、やっぱりひとりで無茶はするな」

「別にしてないよ〜。だいたい今回も流石にダインいたら突っ込んでないよ」

「…ナマエ」

「!」





名前を呼ばれた。
そして、手首の辺りを掴まれた。

少しビックリ。

クラウドの顔を見れば、その青い目はじっとあたしを見据えていた。

真剣な、瞳。
それがじっと、見つめてる。





「クラウド?」





ゆっくりと名前を呼ぶ。
するとクラウドはまるでハッとしたみたいに手を放した。
じっと見据えていた瞳もまるで嘘だったみたい慌ててに揺れた。

そしてくるりとクラウドは背を向けた。





「…とにかく、それは頭に入れてくれ。そろそろ、戻ろう…」





最後にそれだけ言うと、クラウドは来た道を戻って歩き出した。
まあもう情報は手に入ったし、こんなところで立ち尽くしている意味はない。

あたしは、すっと静かに掴まれた手首を見つめた。





《あんた、怪我は!?》





闘技場にクラウドが来た時を思い出した。

凄い勢いで、肩を掴まれた。
あの時も結構ビックリしたっけ。

だって物凄い焦ったみたいで、真剣な顔してた。
大丈夫だって言ったら、物凄くホッとした顔に変わった。





「……。」





一瞬、浮かんだものがあった。
それはありえないもの。

うん、ありえない。

口に出したら、きっと自分で笑い飛ばしてしまう。

自惚れ。
我ながら、何をアホな事を〜って。

そう。アホなこと。馬鹿なこと。
それは、ありえるわけがないこと。





「…クラウド、待ってー!」





あたしも、皆と合流するべく歩き出した。
少し開いた距離を埋めるように、クラウドを追い駆けて駆け出す。
その声は、いつもと同じ。

そう。起こりえるわけなどないのだから。



To be continued

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