安堵の意味
海を越え、港のあるコスタ・デル・ソルから黒マントの男の噂を追いかけて道を進んだ俺たちはコレルエリアにあるゴールドソーサーという娯楽施設に辿り着いた。
コレルは神羅によって焼き払われたというバレットの故郷があった場所らしくその話を聞いて皆それぞれに思うことはあったようだが変に気を遣い過ぎても仕方がないと少しずつゴールドソーサーの方へと興味を移していっていた。
《んじゃ、あたしも行ってくる!おっさきー!》
《え、あ、おい!ナマエ…!?》
しがらみを払うように一番に飛び出していったバレットと、その勢いに続くように次にその場を飛び出したのはナマエだった。
突然ひとりで駆け出すから、俺は思わず咄嗟に声をかけていた。だがそんな声など気にもせずナマエの姿はあっという間に消えた。
程無く、外の皆も案内を見ながら興味のあるブースを見つけて各々別行動で散っていった。
そして俺は今…。
「ヘイ・ユー!! 暗〜い顔してますな〜」
独特な喋り口調。
発したのはドでかいデブモーグリの人形…の上に跨る王冠と赤マントを身に着けた黒猫のぬいぐるみ。
「どうですか〜?みなさんの未来占うで〜。明るい未来、ゆかいな未来!あっ、悲惨な未来が出たら堪忍してや〜!」
なにげなく訪れたワンダースクェアというエリアの入り口。
俺は今そこで、ケット・シーと名乗るそんな占いマシーンに声をかけられていた。
「占うのは未来だけか?」
「バカにしたらあかんで!失せ物、失せ人なんでもございや!」
「セフィロスという男はどこにいる?」
占い、と聞いて俺はセフィロスの居場所を尋ねてみることした。
なにも別に本気で占いを頼りにしようとしているわけじゃない。
ただまあ、そう都合よく手掛かりや噂を耳にできるとも限らない。時には何の宛てもなく進まざるを得ないこともあるだろう。
そうした時のちょっとした決め手の材料になれば、くらいの軽い気持ちだった。
だが…どうやらそれ以前の問題だったようだ。
「……中吉。活発な運勢になります。周りの人の好意に甘えてひと頑張りしておくと夏以降にどっきりな予感。……なんだこれは?」
渡された結果を読みあげればまったくの見当違いな文章だった。
その結果には占った本人も首を傾げる。
「あれっ?もっぺんやりましょうか」
お前が首を傾げてどうすると思いつつ再度占いを始めるケット・シーを見る。
しばらくして改めて渡された結果を見て俺は呆れ返った。
「忘れ物に注意。ラッキーカラーは青?……もういい」
「待って〜な、もっぺんやらして!」
呆れてその場を去ろうとしたらデブモーグリに腕をつかまれた。
掴んで引っ張ってくるのでもう俺は目を細め、しぶしぶと振り返った。
正直期待はしていない。
これが終わったらさっさと行こう。
そう思いながら3回目の結果を待てば、今度はちゃんとした結果だった。
「……なんだと!?求めれば必ず会えます。しかし最も大切なものを失います」
「ええんか、わるいんか ようわからんなぁ。こんな占い初めてですわ。気になりますな〜」
自分の出した結果にまたもケット・シーは首を傾げていた。
だが確かにいいのか悪いのかよくわからない。
つまり、求めればセフィロスには必ず会えると。
しかしその代わり、大切ななにかを失う。
大切なもの…。
大切な、何か…誰か…。
そう考えたとき、ふと…ナマエの顔が浮かんだ。
「……。」
いや、なんであいつが浮かぶ…。
ゆっくりと浮かんだ顔を脳裏から振り払う。
…ああ、でも、ひとりで飛び出してどこに行ったんだろうな。
そうだな、それが気になっているから、浮かんだのかもしれない。
改めてそう考えていると、ケット・シーが突然俺にこう言った。
「ほな、行きましょうか」
「…は?」
行きましょう?
なんだその一緒にどこかに行くような口ぶりは。
そう思いながらケット・シーを見れば、どうやら本気でついて来ようとしているようだった。
「占い屋ケット・シーとしては こんな占い不本意なんです。きっちりと見届けんと気持ちがおさまらん。いっしょに行かせてもらいますわ!」
「なっ」
「どないに言われてもついてきます!」
「お、おい!」
こっちの意思などお構いなし。
ケット・シーは強引にも俺の傍を離れようとはしなかった。
…ナマエがここにいたら、またあいつは今の状況を見て楽しそうに笑うのだろうか。
チョコボにもはしゃいでいたし、そういえばチョコボ&モーグリのマテリアを使った時も妙にテンションが上がっていたな。そう考えれば、ケット・シーを見たらまた喜びそうだ…。
が、そう思った時ふと違和感を感じた。
今のこの状況、あいつは傍で見ていて笑っていそうなものじゃないか?
だけど今、ナマエはここにいない。
……これは、ナマエの知らない展開なのか?
まあ、全部を知っているわけじゃないと言ってはいたし、そういうこともあるのだろうが…。
「クラウドさん、どうかしたんですか?」
「…いや」
これは知ってるのだろうか、どういう目で見ているのだろか。
そうだな…確かにそうしてナマエのことを考えている時間は多い。
あいつはへらへらしていて、でも腹の中ではいろんなことを考えている気がするから。
……探してみるか。
これといった理由はない。
ただ、なんとなく…。俺はケット・シーを連れてひとり飛び出していったナマエを探してみることにした。
「次はバトルスクェアやな。闘技場なんかがあるんですわ」
「闘技場…」
ケット・シーはゴールドソーサー内の事にそれなりに詳しかった。
だから案内されているような形にもなっていた。
いくつかのブースを回って見ていき、次は闘技場があるというバトルスクェア。
通路を抜けてそのブースに足を運んだ時、事件は起こった。
「ん!?」
バトルスクェアに入ってすぐ、俺はある異変に気が付いた。
ぐったりと人が倒れていたのだ。
近づいてみれば、その人物はもう事切れていた。
「死んでる…」
それを確かめた瞬間、俺の頭にはセフィロスの存在が浮かんだ。
神羅ビルも運搬船も、こうした異変の先にはいつもセフィロスの手掛かりがあった。
そう考えたら、いてもたってもいられなくなって、俺は死体があった場所方続いていた階段を駆け上がった。
「ちょちょ!?待って〜な!」
ケット・シーが慌てて追いかけてくるような気配も感じたが。正直そちらへの期はあまり配っていなかったように思う。
もしかしたらセフィロスがいるかもしれない。その事実に、切羽詰まるような気持ちだったから。
階段を登り切って、その先にある部屋に飛び込む。
するとそこで目に映ったのは何人もの死体。
だけどその中で、おそらく闘技場の受付…その前にひとり静かに佇む女の姿。
それは見覚えのある、よく知った背中だった。
俺はきっと、目を見開いた。
「ナマエ…?」
おそるおそる、その名前を口にした。
するとその声にゆっくりと振り返った。
「クラウド」
俺の名を口にし応える。
そこに佇んでいたのはナマエだった。
目が合う。
その瞬間、俺は何かがはじけ飛んだように慌ててナマエに駆け寄っていた。
「ナマエ!!」
「!」
目の前まで来て、肩をつかんだ。
ナマエの目が丸くなる。
その時、俺は血の気が引いたのだ。
倒れる人々。血だまり。
そんな中に立っていたナマエの姿を見たら、ゾクッと一気に不安と焦りが襲い掛かってきた。
「あんた、怪我は!?」
詰め寄って、肩から伝わる体温を確かめて。
怪我をしていないか腕や足を見渡す。
するとナマエは少し驚きながらもゆっくりと首を横に振った。
「えっ?あ、いや、あたしは大丈夫だけど…あたしが来たときはこの有様だったから」
「…そう、なのか?」
自分が来た時にはこの状態だったから、自分自身は何の怪我もしていない。
そう答えてくれたナマエの言葉に今度はドッとした安堵が生まれた。
ふう…と思わず息をつく。
…ホッとした。
…ああ、俺は今、死ぬほど安心したような気がする。
「なんやなんやクラウドさん!急に走り出して!…とと、お知り合いですか?」
その時、ケット・シーもやってきてナマエの存在に気が付いた。
俺が振り向いたと同時に、ナマエもケット・シーへと目を向ける。
するとそうしてケット・シーを見たナマエの目は大きく見開かれた。
「あっ!」
ナマエは声を上げた。
その反応はこの旅でもう何度か見ている反応だ。
…つまり、ナマエはケット・シーを知っているのか…。
だが、今は流石にはしゃげる状況ではないとすぐに視線を辺りに戻していた。
俺も改めてこの場にある死体の様子を見てみることにした。
「これ…セフィロスがやったのか!…いや、これは…違う…。銃で撃たれている……セフィロスは銃など使わない」
最初こそセフィロスの仕業かと疑ったがどうやらそれは違ったようだ。
銃で撃たれた痕。セフィロスが銃なんて聞いた事が無い。
すると直後、受付の女がかすかにうめき声をあげた。
「う、うう…」
「おい、何があったんだ!」
「ウ…ウ…片腕が銃の男……」
「!」
尋ねると聞こえたか細い声。
片腕が、銃の男…?
それを聞いた時、俺は驚いた。
まさか、と。
「そこまでだ!おとなしくしろ!!」
そんな時、入り口の方でそう怒声が聞こえた。
振り返ればそこにいたのは先ほど園内を回っていた時にもちらりと見かけたゴールドソーサーの園長が物凄い剣幕で立っていた。後ろには部下も引き連れている。
そこで俺はすぐに今自分たちが置かれている状況を察した。
これではどう見ても俺たちが容疑者だ。
現に疑われ、そこからはもう最悪だった。
否定したところで疑いの目は変わらない。
「はよ逃げな、やばいで!」
「お、おい!」
その状況でケット・シーは逃げることを選択し、部屋の奥…闘技場の方へと飛び跳ねていった。
逃げたら余計に怪しい気もするが、俺も焦っていたのだろう。
俺は咄嗟にナマエの腕を掴んでケット・シーを追いかけた。
だが、ゴールドソーサー内は向こうのテリトリーだ。
俺たちはあっという間に捕縛用のロボットに囲まれて身動きが取れなくなってしまった。
そんな中で俺はロボットに捕らえられているナマエに目を向けた。
俺自身も捕まっているから、助けに行くはおろか手を伸ばす事さえできない。
だが、その状況でナマエは俺に笑って見せたのだ。
「大丈夫」
そう言ったその眼の色に恐怖は見なかった。
それはまた、未来を知っているからゆえ…なのだろうか。
そもそもなぜナマエは闘技場にいた?
それはあの惨劇を知っていたからか?
だとしたら、一言でも言ってくれれば付き合ったのに。
だが、今はその疑問を尋ねる暇はない。
そうして俺たちは、ロボットに拘束されたまま大きな穴の中へと落とされた。
その先にあったもの…それは砂漠の監獄コレル・プリズンという場所だった。
To be continued
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