それはほんの小さな変化


目の前に広がるアトラクションへと繋がるカラフルなゲートたち。
それを目の前にしたエアリスは楽しそうに声を上げた。





「うわ〜!楽しまなくっちゃ!…そんな場合じゃないのはわかってるけど、ね」





そんな声に対し、皆が気になるのはやはりバレットの顔色だった。
バレットは俯いていた。

ティファは普段から人を気遣うタイプだからかける言葉をさがしているように思えた。
レッドXIIIはクールを装っているから我関せずって顔をしてるけど心の中では皆の空気を気にしてる。
ユフィはさっき「あたしは同情なんてしない。神羅を信じたのが悪い」って言いきってたけど、少なからず思うものはあるはずで。

そんな感じだからこそ、ここでのエアリスは異質だった。





「ね、バレットも元気だして!」

「……そんな気分にはなれねえ。オレのことは放っておいてくれ」

「そ〜ぉ?仕方ないね」





放っておいてほしいというバレットの言葉にエアリスはそのまま頷いた。
そしてこちらに振り返ると、にっこり笑顔で可愛らしく一言。





「行こっ!」





その様子にティファは少しだけ焦ったようにエアリスの手を引いた。
そして顔を寄せ、バレットに聞こえないようにひそひそと小声で話し始めた。





「…エアリス!ちょっとひどいんじゃない?」

「…こういうとき、ヘンに気をつかわないほうがいいよ」

「…そうかな」





あたしはわりと近くにいたからその話声は聞こえた。
というか近くにいたからティファに意見を求められるようにちらりと視線を向けられた。

うーん、まあゲーム越しに見ててもこの対応でいい気がするんだよな。
だからあたしはふっと笑っておいた。

と、それを見たエアリスもまた同じように笑う。
そしてエアリスは「大丈夫よ」とティファの肩を叩くと再びバレットに向き合った。





「私たち、遊んでくるね」

「勝手にしろ!チャラチャラしやがってよ!俺たちはセフィロスを追ってるんだぞ!それを忘れるんじゃねえ!」





すると突然、肩を落としていたはずのバレットの大きな声。
多分皆もビックリしただろうし、近くにいたエアリス目を丸くしてた。

バレットはそのままダッと駆け出し先にどこかへ行ってしまう。

やりすぎたかな、とエアリスはゆっくりこちらに振り返った。





「…怒っちゃった」

「あ、でも、大丈夫みたい。なんだかいつものバレット。少し元気でたみたい」





少し不安をのぞかせたエアリスに今度はティファが笑った。
あたしも、そこに少し続ける。





「うん、バレットもエアリスの意図はわかってると思うよ。そこまで回り見えなくなってるわけじゃないと思うし」





そう言いながら、あたしは設置してあるインフォメーションボードに目を向けた。

そう、それは紛れもないゴールドソーサーのインフォメーションボードだ。
そうです、ゴールドソーサーの。

辺りを見渡せばそこにはそれぞれのブースに繋がる入り口がずらっと並んでる。

正直胸は躍ってた。
そりゃそうだろ!だって本物のゴールドソーサーにいるとかこりゃもうたまらん状況だろうよ!!

なんか感極まった。
思わずグッと右手のこぶしを握ってガッツポーズした。





「…なにしてるんだ」

「いや素晴らしい状況に思わず」





するとクラウドにそれを目撃されて若干白い目で見られた。
まあ別にいいけど。そんなもんもう慣れっこ慣れっこ!

だってもうあれだし。この流れてるあのおなじみのBGMがまたウキウキ度をじゃんじゃん煽るじゃん!

それにここでは新しい仲間がもう一人加わることになる。

そうなりゃもう思う事はひとつだ。
めっちゃ会いたい!はよ会いたい!
あの黒猫への想いがなかなかに膨れあがって爆発寸前ですねん。

…けど、今回はぐっとこらえてみることにする。
まあ、すぐに会えるっちゃ会えるしね。





「んじゃ、あたしも行ってくる!おっさきー!」

「え、あ、おい!ナマエ…!?」





どこへ行こう、誰と行こう。そんな風に話してるみんなの声をよそに、あたしはスチャッと軽く手を振ってブースをひとり飛び出した。

クラウドの驚いたような声が聞こえたけどそんなものはもう道をくぐってるうちに消えた。





「さて、と」





やってきたのは闘技場のあるバトルスクェア。
入り口の影からひょこっと様子を伺うようにあたしは顔だけ覗かせた。

今、この瞬間、こんな楽しげな雰囲気のゴールドソーサーに血なまぐさい事件が起こっている。
そしてそれは今あたしがいるこのエリアが舞台だ。





「…あっ」





その時、あたしはその階段の手すりにもたれ掛りぐったりとしている人の姿を見つけた。
思わずタッと駆け寄った。でも近づいてみて、すぐ察した。





「……。」





恐らくもう事切れている。

でも確か、クラウド達が此処に来たときにひとり倒れてる人を見つけるんだよね。
じゃあもしかしたらこの人がそうなのかもしれない。

そしてそんな光景を目にしたことで、色々な事が事実と確信に変わった。





「とういうことは、もう…ってか」





あたしはそう呟きながら階段の上を見上げた。
長い階段。その先にあるのが闘技場。そしてそこが惨劇の本舞台だ。

…バレットも、あの惨劇の状況は目にしてるはずなんだよね。

でも、そのあとのバレットの反応を思い出すと犯人を確信している感じではあった。銃の惨劇。このコレルという場で、片腕が銃だという男は自分のほかにもうひとり…。となればおのずと、みたいな。そう、見たというよりは推理、予想。

…ってことは、バレットもその現場に居合わせたわけじゃないのか。

上、バレットまだいるのかな。

さすがにゴクリと喉が鳴った。
いやいや緊張するでしょ、そりゃ。





「マテリアは、大丈夫…だね」





改めて、自分の装備をきちんと確認する。
きちんとはめ込まれた球を見て、よし、と軽く頷く。

上がったところで、何すんだって話なんだけど。
事件の後なら、なおのこと。

でももしケット・シーに会いに行くとか他の道を選んだとしても絶対にこのことが頭にチラつく。気になって仕方ないと思うしなあ…。

あたしはゆっくりとその階段を登り始めた。





「……。」





階段を登って、一度入り口の影に身を見染めて様子をうかがった。

やっぱり静かだった。
中で誰かが動いているような気配がない。

あたしは意を決し、ゆっくりと中に足を踏み入れた。





「まさに惨劇の後、か…」





そう呟いたのは、少し落ち着くためだったのかもしれない。自分の事だけど。

そこにあったのは、銃による恐ろしい惨劇の後だった。
何人もの人が血を流し、倒れている。

想像してたし知ってたけど、やっぱり思わず身震いした。

ゆっくりと辺りを見渡してみたけど、やっぱり特に人の気配は無かった。
バレットも…そしてダインも、もうここにはいない。

…ゲームで見た通りの光景。
結局、こうして来てみたけれどする事なんてなかった。

でも、その時、あたしは腰に下げている杖が目に入った。
連結されているのは回復と全体化のマテリア。

うーん…正直意味あるかわからないけど…。

あたしはホルダーから杖を抜き取り、そして高く掲げて構えた。





「ケアル!!!」





唱えて、ぱあっと部屋中に散らしたケアルの光。

多分この後すぐに園長が来てこの部屋の人達は救助されるはず。
まあ、それまでの間の応急処置…みたいな?





「ううっ…」

「!」





するとその時、あたしは受付のところから女の人のうめき声を聞いた。

そうだ。そういえば意識保ってる人、いた。

きっと、ゲームのままでホッとしてる自分もいる。
それって人でなしなんだろうか。

でも、これくらいはいい気がした。
やっぱりそれって独断と偏見だけど。





「今、ケアルしますから」





あたしは受付に駈け寄って、そっと手をかざした。
ふわっと癒しの優しい光がそこに溢れる。

女の人の表情はまだ歪んだままだけど…。

ちょうど、その直後だった。





「ナマエ…?」





背後の方で聞きなれた声に名前を呼ばれた。

…あれ、案外早かった?
くるっと振り返れば、そこに立っていた金髪つんつん頭。





「クラウド」

「ナマエ!!」

「!」





名前を口にすれば、彼は凄い勢いであたしの元へと駆け寄ってきた。
そして肩を勢いよく掴まれる。ちょっとビックリした。





「あんた、怪我は!?」

「えっ?あ、いや、あたしは大丈夫だけど…あたしが来たときはこの有様だったから」

「…そう、なのか?」





クラウドは焦ってるように見えた。
そしてあたし自身には別に何も無い事を伝えると途端にホッと表情が和らいだ。

…まあ、確かにこんな状況に知った顔がいたら焦りはする、か。

…だけど、やっぱそんな反応されるとはちょっとビックリしたかもしれない。





「なんやなんやクラウドさん!急に走り出して!…とと、お知り合いですか?」





すると直後、クラウドを追うように闘技場に入ってきた影が一つ。

関西弁…。
クラウドはその声に振り返り、あたしも一緒にその声の方を見る。

というか、予感してた。
で、当たった。





「あっ!」





そこにいたのは大きなデブモーグリの人形。
そしてその上にちょこんと跨る王冠を被った黒猫。

それを見た瞬間、あたしはパッと目を見開いた。

ケット・シー!

その姿を見た時、あたしは純粋に嬉しさを感じた。
でも今はそれどころじゃないからね。

だからすぐに目の前の現実へと視線を戻した。





「これ…セフィロスがやったのか!…いや、これは…違う…。銃で撃たれている……セフィロスは銃など使わない」





クラウドは辺りに倒れる人たちの状態を確かめた。
神羅ビルと運搬船の件があるからセフィロスの名前が真っ先に出てきたんだろうけど、傷が刀によるものでなく銃によるものであったことからすぐにその線は消えた。

するとその時、先ほどあたしがケアルを掛けた女の人が再び呻き声を漏らした。





「う、うう…」

「おい、何があったんだ!」





女の人にかすかに意識があることに気が付いたクラウドは今の状況を尋ねた。
息苦しそう。彼女はクラウドの問いかけに必死にの声で答えた。





「ウ…ウ…片腕が銃の男……」

「!」





か細いながらも聞こえた言葉。
片腕が銃の男。

それを聞いた瞬間、クラウドは目を見開いた。

恐らく彼の頭にはひとり、浮かんだ人物がいたはずだから。





「そこまでだ!おとなしくしろ!!」





そんな時、入り口の方でどう怒声が聞こえた。

振り返ればそこにいたのは海パンの男。
…ってそれだけ言うとおかしいな!?いや事実だけど。ていうか実際おかしいけど!!

でもあたしは知っている。
この人はこのゴールドソーサーにおいて一番偉い人だ。

その名は確か、園長ディオ。





「お前らがやったのか!?」

「ち、ちがう、俺たちじゃない!」





その場にいたあたしたちにディオは疑いの眼を向けてきた。
クラウドは咄嗟に否定したけど、でも今の状況だとそれを証明する材料があまりにない。





「はよ逃げな、やばいで!」

「お、おい!」




その状況下で一番に部屋の奥に逃げた出したのはケット・シーだった。
うーん、正直この状況で逃げるのが一番怪しいと思うんだけどね。

でもあたしはそれを言わない。

だってこれはゲームの通りの展開だから。
まあ実際、言ったところで聞く耳持って無さそうだよね。





「っ…ナマエ!」

「わっ」





その時クラウドに腕を掴まれた。
彼はあたしを引き、先に逃げたケット・シーを追うように部屋の奥へと走り出す。

そこはこのバトルスクェアの要、実際にバトルが行われる闘技場の中だ。

でもその先は行き止まり。
ディオは部下を引き連れ捕獲用のマシーンをも使いあたしたちを追いこむ。





「ここまでだな」

「待て、話を…」

「クラウドさん……」

「……。」





闘技場の中からもマシーンが出てきて、あたしたちはあっという間に囲まれた。

知ってる展開。だから焦りみたいなのは無かった。
少なくとも、あたし自身は。いやクラウドとかは結構焦ってたと思うし。





「ナマエ…!」

「大丈夫」

「…!」





あたしはそんなに抵抗しなかった。
意味が無いのを知っていたから。

まあ機械に拘束っておっかないなあくらいは思ったけど。

マシーンに拘束されたあたしたちはそのまま巨大な穴の開いた部屋へと連行された。
その穴の先にあるのは、砂漠の監獄コレルプリズン。

あたしはクラウドより先にその穴に落とされた。

クラウドはあたしを心配そうに見てたけど、あたしはそんな彼に笑みを見せておいた。
そしてそれを最後に、マシーンもろとも穴の中にダイブ。

ひゅー…と落ちていく感覚は、結構スリルがあったかも。

でもその間、あたしは思い出していた。





《ち、ちが…》





逃げる直前、受付の女の人のか細い声が聞こえた。
それは園長が「捕えろ!」と叫んだ直後に聞こえた声。

犯人じゃない。
そう否定してくれようとした声だった。



To be continued

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