青い海と白い砂浜に白衣


「いや〜これはまさにザ・リゾートって感じだよねえ〜」

「…そうだな」





とんとんと、背後から近づいてくる足音があった。
それが誰なのかを察していたあたしがそう声をかけると、想像通りの声が聞こえた。

ビーチへと続く階段に腰かけていたあたしはくるりと振り返る。
するとそこには少し気怠そうなクラウドがいた。たぶんサンサンと照らしてくる太陽が少しだるいのだろう。





「うーん、コスタ・デル・ソルだ〜…!」





常夏のビーチ。FF7世界屈指のリゾート地。
その空気を堪能するべく、あたしはうーんと体を伸ばした。

運搬船で海を渡ったあたしたちは、無事に目的地の港があるこのコスタ・デル・ソルへと辿りついた。

船の中ではコソコソと窮屈な思いをしていたからか着いて早々この雰囲気に皆もはしゃいでいた。だから各々しばしの休息を楽しむことになった。

皆、顔を明るくして思い思いにこのリゾートを満喫してる。
ああでもナナキだけ暑さにやられてぜーはーか。

あとは、クラウドもアイテムの補給をしたり情報を集めていたり、まあ基本いつも通りっぽかったらしい。
とは言え彼もそれなりにぶらぶらしてたみたいだけど。





「で、あんたはここで何してるんだ」





そしてあたしにそう尋ねた。

あたしはと言えば、海岸に続く階段のところでその景色を楽しんでいた。
と言ってもずっと此処にいたわけじゃなく、少しは買い物とかもしてたんだけど。

で、しばらくして思ったのだ。
とりあえずクラウドと合流しようと。





「ん〜、クラウド待ってた」

「俺?」

「うん」






恐らく彼はここに来るだろうと。
だからビーチに続くこの階段で海を眺めてた。

ぶっちゃけこの世界の景色とかってあたしはいくらでも見てられる気がしてるから退屈とかはなかった。





「とりあえず合流しようかと思ってさ」

「そうか。まあそう長居する理由もないしな。アイテム補給や情報収集も済んだし、そろそろ皆にも声をかけに行ってもいい頃かと思ってた」

「そか」





ここコスタ・デル・ソルではそう大きなイベントはない。
ちまちました小ネタとかは散りばめられてる感じだけど、必須はないというかスルー出来ちゃうっていうか?

ただ、ひとつだけ。

ひとつだけね、お目にかかっておいた方がいいであろう人物がいるのだ。





「海…綺麗だな」





その時、クラウドが意外や意外にそんなことを呟いた。
ちらりと見上げればクラウドは目の前にきらきらと広がる青い海をじっと眺めてた。

いや意外ってのは失礼か?
案外素のクラウドだったら言いそうなもんかも。

そう思い直したあたしはクラウドに聞いてみた。





「お?じゃ、ちょっと降りてみる?」

「…そうだな」





砂浜まで行ってみるかと提案してみたら、クラウドは素直に頷いた。

へえ〜!
でもまあ別にクラウドだってこうリゾートに来てみれば多少浮かれる気持ちはあるか。





「じゃ、ちょっと行ってみよう!」





あたしはそう言ってすくっと立ち上がった。

あたしもビーチには降りてなかったし、もう少し堪能するのもいいよね!
だってコスタ。デル・ソルだもん!FF7だもん!

浮かれる気持ちはいつも通り。

それに…会って置いたほうが良い人物ってのも、いるのはこのビーチだしね。





「あ!クラウド、ナマエ!」





階段を下りていくと、エアリスの声がした。
声の方を追えばこちらに手を振るエアリスとその隣にはティファの姿もある。

うん、知ってる知ってる。
ということはやっぱりいるわけだよね、あの人。





「あれ、見て!」





階段を下りてあたしとクラウドが合流すると、ティファはそう言って指をさした。
指さしているのはビーチにいる、人。





「水着の女の子か…。悪くないながめだな…と思うクラウドくんでしたとさ」

「…勝手におかしな代弁をするな」





あたしはここでの選択肢を思い出てここでのクラウドの心情を口にしてみた。
…ら、やっぱりもちろん怒られた。

けどさ、選択肢としてあるのはこのセリフがあるのは本当じゃん?

てことはクラウドの頭に浮かんだ言葉として間違いじゃないってのがあたしの見解なわけよ!





「おかしくないもーん。思ったくせに〜」

「もう!!どこ見てんのよ!」

「…俺何も言ってないだろ」





そしてティファやエアリスはこっちの味方である。
ティファはぺしっとクラウドを叩いて怒り、一連の流れを見てエアリスはくすくすと笑ってた。

クラウドはひとり理不尽そうな顔してたけど。

けど、まあねあたしは勿論クラウドもティファとエアリスが誰のことを見ていたのかはちゃんと気が付いている。
むしろビーチにあの白衣って注目しない方が逆にすごいよね。





「宝条か…」






クラウドが呟く。

ティファとエアリスが見ていた人物。
それは神羅ビルでエアリス救出の際に対面した宝条博士だった。

なぜか宝条博士がこの常夏ビーチでビーチチェアに寝そべってるのだ。

とりあえず話をつけようとあたしたちはクラウドを先頭にして宝条博士に近づいた。

いやでもさあ、ゲームでも思ってたけど白衣姿でバカンスってシュールにも程があるよねって。しかも周りには水着のピチピチギャルですよ。
実際にそれを目の当たりにしてみると、やっぱり無茶苦茶シュールだった。





「あら!!なにか御用?」

「そこの男に用がある」

「ねぇ、宝条博士〜。こわい人が、用があるって〜」





近づいたら宝条の取り巻きの水着のお姉さんが声をかけてきたからクラウドは宝条に用があることを告げた。
するとクラウドのツンな態度が気に入らなかったのかちらっと嫌味交じりにそう言われてしまった。

でもあたしからすればクラウドより宝条を取るこのお姉さんの好みに首を傾げるばかりだよ。やっぱりあれか、ていうか世の中金かだろってか。ぜになげか!!

ぜになげのヘルプってさ、なんであんなんなの?
古代種も心荒んでるの?

なんだかあたしの頭の中が脱線し始めたからちゃんと目の前に戻りましょう。

お姉さんに呼びかけられた宝条はこちらに構う気などさらさらないというかのようにビーチチェアに寝そべったままの体制を崩さなかった。





「今忙しい」





面倒くさそうにそう言ってのける宝条。

忙しいってどこがやねーん。
って突っ込み待ちかなこれは。





「……だって〜。残念でしたぁ〜」





そしてその返事をいいことにお姉さんもしてやったりな顔してた。
…けど、それは宝条がこちらの顔をよく見ていなかったからだ。





「いや、待ちたまえ。君はたしか、私の記憶にある……」





ちらりと一瞬こちらの顔を見た宝条。
するとその目の色はすぐに変わった。





「ああ、そうそう。思い出したよ。ひさしぶりだな クラウドくん」

「宝条…」





こちらが誰なのかに気が付いた宝条はゆっくり体を起こしてチェアに座りなおした。





「たまにこういうのもいいものだね」

「……何をしている」

「見てのとおりだ。日光浴」

「まじめに答えろ!」

「ふん…私の目的は君と同じだと思うが」

「セフィロスか?」





なんか、ここのやり取りを見てると宝条もこういう冗談とか言ったりするんだよななんて思ったりする。
だって、この人の心の中ってとんでもなく深い深い、得体のしれないものが底知れなく続いているような印象だから。





「君たちは会えたのか?そうか……ふむふむ」





こちらがセフィロスに会えたのか聞いたかと思えばクラウドを見て何やらひとりで納得し始めた宝条。
当然、クラウドは顔をしかめた。






「なんだ?」

「いや、ちょっとした仮設を思いついたのだが…。君は、何かに呼ばれているという感じがしたことはないかな?または、どうしてもある場所へ行かなくてはならないという気持ちになるとか」





宝条の仮説。これを聞かされてもみんなは意味不明だったことだろう。
これは、ジェノバのリユニオンの…。

そしてそれに対するクラウドの答えは。





「俺はセフィロスがいる場所ならどこへでも行く!あいつを倒すために!決着をつけるためにな!」





クラウドは強く答えた。

…けどなあ…。

宝条の言っている意味を、クラウドがこう答えたその本当の意味を知っている身としては…こう何とも言えない気持ちになるのは否めないようなあ、というか。

そしてそのクラウドの答えを聞いた宝条は怪しく、そして嬉しそうに笑みを見せた。





「なるほど……これはイケるかもしれないな。ソルジャーか……クックックッ。ん、私の実験のサンプルにならんか?」





まるでふざけてるみたいな口調。
そのあおりにクラウドは怒りを覚えている様子。





「ん…なんだ?剣でもぬくか?」





そんなクラウドの様子を察しているはずなのに宝条は更に油を注ぐようなことを言う。
クラウドを怒らせても何もないだろうに…。

そしてそこまで行けば流石にティファやエアリスも止めに入った。





「やめて、クラウド!気持ちはわかるけど、ダメよ!」

「この人死んだら、何もわからなくなっちゃう」





止められればクラウドもそれを振り払ってまで切りかかる様なことはしない。
クラウドは宝条を睨みつけると、少し落ち着くように一歩下がった。

そしてそれに代わる様に次に前に出たのはエアリスだった。

流石、何もわからなくなるというだけのことはある。
その台詞はエアリス自身聞きたい事があるから出た言葉でもあったんだろう。

エアリスに気が付いた宝条はまた少し怪しげに笑った。





「おや、ときに君は……古代種の娘ではないか」

「私、エアリス。名前くらい覚えなさいよ」





古代種の娘、ね。
この言葉って本当宝条博士という人間が読める物だと思う。

だってエアリスのこと研究対象としてしか見てないってことだもんね。

エアリスも少し呆れた様子だった。
でもそこは割り切って流す。

エアリスは尋ねた。





「ねえ、宝条博士。教えてほしいの。私、自分が古代種なのは知っている。母さんから聞いたから」

「母さん?ああ、イファルナか。元気にしてるのか?」

「知らないの?死んじゃったよ」

「……そうか」

「……ねえ、博士。ジェノバは古代種なの?セフィロスは古代種なの?私と同じ血、流れてるの?」

「……ボソボソ………西へ…、………………」

「ボソボソ作戦?ってことは、何か隠してる!」





急に小言でひとりぼそぼそと呟き出した宝条。
エアリスの質問には答えず、それどころかもうこっちは見てない。





「ねぇ!答えなさいよ!!」

「…駄目だ。無駄だよ」





ティファもエアリスに加勢したけど何も変わらず。
もう無駄だと察したクラウドはふたりにそう声を掛けた。

そう。もうこれ以上宝条とは何を話すこともない。

あたしはくるっと背を向けた。





「そーそ。もう無駄だよ。いこいこ」

「あっ、ナマエ…」




あたしは近くにいたエアリスの肩を軽く叩き、その場から先に歩き出した。
でも、皆の目から見ても宝条がもう話が通じないのは明らかだったろうし、ちょっと振り返ったら皆も歩いて来ていた。





「あんたが階段のところで待っていた理由がわかった」

「あら、そーお?」





ビーチを後にし、おの階段を上がるところでクラウドにそう言われた。
あたしはへらっと笑った。

宝条博士。
この物語において、ある意味すごく真実に近いところにいる人だよね。

まああたし個人としては話すこと特にないんだけど。
ていうか真実に近いからこそってのはあるかも。余計なことは言いませんて。
つーかあの人は冗談抜きでシャレにならない気がするし…。

いくらこの世界のキャラといえど話してみたい!とかもならないしね〜。

折角のリゾート地での小休止。
クラウドたちにとっては気分ぶち壊し、な出来事だったのかもしれない。


To be continued

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