壊れた故郷


コスタ・デル・ソルでしばしの休息を得たクラウド一行は次なる目的地を決めるべくここまでの出来事や情報をまとめた。
セフィロスを追う手掛かりとして気になったことといえばビーチで会った宝条が言っていた「西へ」という言葉。

まあ言っていたってよりボッソボソなんか怪しげに呟いてる中で西って単語だけが聞き取れたって言った方が正しいんだけど。

でも新しい大陸にきたばかりだし手持ちの情報といえば今はそんなもんで、ほかに情報を得るためにもひとまず西の方へ進んでみようということになった。

でもそう決まった時、別に何か意見したりすることはなかったけど、バレットがちょっと複雑そうな顔をしているのを目にした。
いやみんなは別に気が付いてないだろけどね。あたしは知ってるからってだけの話。

そんなこんなで西に向かい、現在地はコレル山です。





「はー、でっか!魔晄炉だ〜」





山の中腹あたり。そびえ立つ魔晄炉を見つけたあたしはそれを見上げて感嘆の声を上げた。
皆にとってはそう喜ばしいものじゃないだろうけど、ただ単純にデカーいスゴーイとあたしは思うからね。

するとそんなあたしの隣にティファがやってきた。





「本当、ナマエにかかれば何でも観光地ね。どこでも楽しそう」

「おうとも。この世界ならどこ行ってもたいてい楽しいね。あ、でもでもティファと一緒もどこでも楽しいよ〜!」

「ふふっ!良い口説き文句ね!誰にでも言ってなぁい?」

「そ、ソンナコトナイヨー?」

「見事な棒読みね。あははっ!」

「あっは!でも本当、みんなと一緒もあたしにとってマジでなんのご褒美ですか!て感じだからね〜」

「…あんたたち、楽しそうだな」





ティファときゃっきゃおはしゃいでいたら、クラウドが呆れ気味に息をついた。

また今回も進む班は二手に分けられていた。
あたしが一緒に行動している現在のメンバーはクラウド、ティファのニブルヘイム幼馴染み組だ。

幼馴染みコンビ最高。
並んでる姿はあたしにとってはなかなかの目の保養的なアレである。

でも、まあ…この魔晄炉でバレットの人生は大きく変わったんだよなあ、と。
これから訪れることになる場所のことを考えながら、頭の中のどこかでそんなことを思った。





「ねえ、でもセフィロスもこの山を越えたのよね。さっき黒マントの男の目撃情報も聞けたし」

「そうだな。可能性は高い」





あたしが魔晄炉を見上げていると、クラウドとティファはそんなことを話していた。

この山に入ってすぐ、黒マントの男が通ったという話を聞くことが出来た。
手探りにも等しい状況で進んでいたから、その情報にクラウドたちは少し安堵したんじゃないかと思う。

ところでこの組み合わせって少し珍しくないかな。
いやね、あたしは戦い関してはもうズブの素人な自覚がばっちりあるわけよ。

ティファはとっても強いけど、女二人に片方ズブの素人ってクラウドの負担大丈夫なのかね〜とか多少は思ったりはするわけ。

だからそれをちょっと言ってみたら「あんたは魔力切れもないし適当に魔法ぶっ放してればだいたいのモンスターは片付くから余所見でもしなければそれでいい」とか何かすんごいアバウトな感じで言われた。ぶっ放すってあたしゃは大砲か何かかな。
でも確かに少しは戦闘慣れしてきたし杖の使い方もしっくりくるようになってきた。だからそこいらのモンスターなら何とか出来るかも…みたいな感覚は掴めてきてはいる。





「ブリザド!」





こちらに気が付き襲い掛かってこようとしたボムがいたから、杖を向けて冷気のマテリアを発動させた。

うん。冷気がボムを包み、その動きを止めた。
効果は抜群だよね。

するとその様子を見ていたクラウドに言われた。





「あんた自身、慣れてきた感覚はあるんだろ?杖を買ってからも慣れるように暇を見つけては練習してるみたいだしな」

「んー、まあ魔法の練習は苦じゃないからね。でもまあ圧倒的に場数の違いはあるじゃない?」

「それはそうだが…。でもそれを補完するほどの威力はあるからな」

「お、ティファ聞いてー。クラウドがあたしを褒めている!」

「ふふふっ、でも私から見てもそう思う。ナマエの魔法、ちょっと桁が違うもんね」






ティファにもそう言われた。

あたしもみんなが魔法使ってる様子って見てるし、自分の魔法の威力がぶっとんでるのは理解してきたけどね。
でも普通…がどうなのかはわからんけどとりあえず自分的には普通にやってるつもりだし、なんでこんな高圧力になるのか自分でもよくわからん。

わからないけど、とりあえずラッキーってことで。

ま、クラウドが負担に思ってないなら別にいいんだけどね。





「ん〜、しっかし普通に良い景色だわあ」





魔晄炉からは線路の道が続いていた。
そこから見える陽の優しい光はこの世界云々とかは関係なしに普通に綺麗でテンションが上がる。

線路はちょっと古びてるけどそれもなんとなく味と言うか。
ゲームの中の何気ない道も実際に歩くと色々見方とかも変わって面白い。

うん、こうしてクラウドとティファと一緒にのんびり歩くのもかなり贅沢だよね。

けど、あたし的にはこの先のことに関してちょっと気になる事もあったり…。

いやね、この山道を超えた後がまたちょっと色々あるんだよなあ、って。

いやいや、楽しみではあるんだよ、物凄く。
そりゃそうでしょ。だって次はあれだ。
この世界に来たらそりゃもう絶対行きたい場所3本指には入るあそこだよ!

煌びやか雰囲気。
色とりどりの風船やライトに照らされて、音楽もまた楽しさを膨らませる。

そう!この山を超えたら次はゴールドソーサーだもの!!

ぶっちゃけこの世界に来たなら行くまで絶対死ねない!!

そりゃもうゴールドソーサーとかテンション爆上げでしかないんだけども。
見て回りたい、遊んでみたいってむちゃくちゃ胸が躍る。

…だけど問題は、1回目のゴールドソーサーって結構物騒なイベントなんだよなってこと。
あの楽しい雰囲気に似つかわしくない、そりゃもう物騒な展開が待ってる。

…そうすると、やっぱり運搬船とかでも思ったようなことが浮かぶんだよな、と。

銃による惨劇…。
なにより今回は今は別行動を取っているバレットにとって重たい話になる。

一緒にいないからちゃんとはわからないけど、実際こうコレルへと向かう今の道っていうのはどんどん近づく故郷に多分バレットは色々思うことあったんだろうなと思う。

そして山を越えたとき、その予想は確かなものに変わった気がした。





「あ、クラウドたち…」





山を越えるとひとつの集落に辿りついた。

そこには別行動をしていた皆が先に到着しており、あたしたちが追い付くとそれに気が付いたエアリスが振り返った。
でもその顔は再会を喜ぶようなものではなくてちょっと困ってるようなそんな顔。

エアリスの傍にはユフィとナナキもいてふたりはじっと集落の方を見ていた。




「どうした?」

「あれ…見て」





なにか様子がおかしい事を察したクラウドが聞けば、エアリスはナナキ達が見ている方を指差した。
クラウドやティファはその示された方に視線をやる。

あたしも、見た。

すると、そこには当然…バレットの姿があった。





「ケッ!また、バレット様に会えるとは思ってもみなかったぜ」

「フン!また、どこかの町を追い出されてきたんだろう?なにせ、貴様は死神だからな」

「どのツラさげて、戻ってきたんだ?見てみろ!おまえのせいで 北コレルはガレキの町になっちまった…。なんとか言ったらどうなんだ!自分がやったことを忘れたんじゃねぇだろうな?」





バレットは集落に住んでいるであろう男たちに囲まれていた。
酷い罵声を浴びせられ、それだけにとどまらず殴る蹴るなんて軽い暴行も受けてる。

それを見たクラウドやティファは驚いて目を丸くしていた。
付き合いの長いティファは特に、かな。

だっていつもバレットだったら絶対黙ってないじゃない。
でもそんないつもの調子とは違い今は何も言い返す事は無い。

むしろ俯いたまま小さく謝罪を口にした。





「…す、すまん…」

「チッ、おもしろくねぇ!」

「こんなデクノボウにかまってるとロクなことがねぇな!」





言われたい放題だ。
正直見ていて気持ちのいいものじゃない。

理由は知っているけど、いや、知ってるからこそ…かな。
ぶっちゃけここまでバレットが言われるいわれはないと思うわけ。

でもバレット自身が自分を許せないから、それを受け入れてしまっている。

気が済んだのか、男たちはバレットの周りから去って行った。
そこでバレットもこちらの視線に気が付き振り返る。

でもその瞳に光は無い。





「聞こえただろ…。俺のせいで、この町は……壊れてしまったのさ……」





バレットはそれだけ言い残すと集落の奥の方へ歩いて行った。
いや、集落の奥というよりかはその先にあるロープーウェイ乗り場の方へ。





「…確かに瓦礫の多い場所だけど…これが、バレットのせい…?」





その時、ティファが小さな声でそう呟いた。
あたしはちらりとその顔を見る。目が合ったけど、まあ何も言わない。
ティファも別にあたしに聞いてるわけじゃないだろうし。

ただやっぱりティファはこの中で一番バレットと付き合いが長いから、気に掛かる気持ちが大きいんだろうね。

コレル山を越えた先にあったのは、ひとつの瓦礫に囲まれた集落。
北コレル。それは、バレットの過去に触れることになる場所だった。



To be continued

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