英雄の姿


「みんな大丈夫!?」

「大丈夫か!?」





ティファとバレットの声が聞こえた。

突然鳴り響いた警報のアナウンス。
それを聞いた面々は誰かが見つかったのではないかと続々と甲板に集まってきた。

あたしも、一緒に貨物室にいたエアリスとユフィと共に甲板に上がってきた。
けど、皆の心配は特にしていなかった。





「あれ?」

「みんないる……わね」





エアリスが首を傾げ、ティファがその場に集まった人数を数える。
そこで皆気が付いただろう。このアナウンスが自分たちの誰かが見つかった事によるものでは無い事に。





「待てよオイ。てことは不審人物ってのはまさか…」

「「「セフィロス!?」」」





バレットの言葉に続け、何人かがその心当たりを口にした。

セフィロス。

あたしたち以外にこの船に乗り込む不審人物。
確かに、考えていけばおのずと浮かぶのってその名前なんだろうなあとは思う。

その名を聞いた途端、隣にいたエアリスがきゅっとあたしの服の裾を掴んだのを見た。





「本当なの!?」

「俺だってわからねえよ!」





ティファがバレットに詰め寄れば、バレットはそんなこと言われてもわからねえと慌てて首を横に振った。

こういう時にいつも判断を仰ぐことになるのはクラウドだ。
だから皆の視線が自然とクラウドに集まる。

彼は少し考えた末、コクっと小さく頷いた。





「…確かめよう」





異論は無かった。
皆も頷き、あたしたちも船の中に現れた不審人物について調べることになった。

見たところ、ここからでも見渡せる甲板には異常は見受けられない。
となればやっぱり中…何かあるのは貨物室の方だと言う話になる。

だからあたしたちは階段を下り、貨物室に向かった。





「最初、見つかったのはあんた達かと思った」

「ん?」





貨物室を見渡し状況を調べている中、ふとクラウドがそう言った。

きょろっと周りを見ると、一番近くにいるのはあたしだ。
となればそれを言われているのはあたしか。

あたしはクラウドに首を傾げた。





「あたしとエアリスと、ユフィあたり?」

「ああ…」





クラウドは小さく頷いた。

貨物室にいたのはその三人。
彼はあたしたちのうち誰かが見つかったんじゃないかと思ったと。

でもそこにはあたしに関するちょっとした予想みたいなのも含まれてた。





「見つかることが必要ならあんたはそのままにすることもあるだろうし、もしくは自分から飛び込んでいってるんじゃないかってな」

「おーう、またなんか色々考えてるねえ」

「正直もう深読みするなというのは無理な話だな」

「はは、確かに。あたしがそっちの立場でも無理だと思う〜。しっかし飛び込んでいくとかねえ?」

「違うのか?」

「あはっ、うん、その通りかも!」

「……。」





クラウドの指摘に、あたしはくすりと笑った。
するとクラウドは息をつく。自分から聞いてきた癖に〜。

まあね、未来を知ってる奴がいて、そいつがどう動くかを考えるなってのは無理な話だろう。

でもま、確かにもし神羅側に見つかるようなストーリーなら、確かにそのままにしたかも。
見つかることが必須なら、ね。

んでもってその先にある話が面白そうなら自分から首突っ込んだんじゃないかと。
その辺はまあ、正直否定は出来ない所なのは図星である。





「だけど実際は違った」

「ん、そーだね」





クラウドは静かに言う。
あたしも頷いた。

騒ぎの原因はあたしたちじゃなく、別のもの。
しかももしかしたらセフィロスじゃないかって話。

セフィロスという可能性があるだけで、ちょっと空気はピリッとした。

でもそれはあたしたちだけじゃなくて、この船の中の空気自体がそうだった。





「う、そ…」





奥の方、さっき気にした機関室の方に歩いていけば、その空気は一層増した。

ティファやエアリスは微かに震える肩を抱きしめたり、戸惑いを隠せぬままに口を押えたりしている。
あたしもじっと見て、でもすぐにふいっと少し視線をずらした。

機関室の扉の前。
そこには何人もの人がぐったりと横たわっていた。

多分、もう息をしてない人が殆ど。





「…機関室に……不審…人物…いや…違…う…あれ…人間じゃ…人間なんかじゃ…な…」






あたしたちが来たことで人の気配を感じたのであろう。
うめき声が聞こえ傍に寄れば、ひとりの神羅兵がそう息絶え絶えに教えてくれた。

素直に思う。痛々しい姿だと。
そして改めて思う。警報の前にここに来ていても、する事などきっと無い。

それと、ここに来てやっと、その一つのワードが出てきた。機関室。

もうあたしたちの顔を見る気力も無い神羅兵。
彼の声に耳を傾けるためにしゃがんでいたクラウドが立ち上がる。
そしてその青い瞳が向けられたのはすぐ傍にある機関室へと続く扉。





「…行くぞ」






そう呟いた低い声には緊張が滲んでる。

クラウドはゆっくりと機関室の扉を開いた。
あたしたちもそれに続く。

踏み入れたその部屋の中は薄暗い。

その一番奥に、立ち尽くすようなひとつの人影が見えた。





「…セフィロス、なのか?」





クラウドがゆっくり歩み寄りながら尋ねる。

でもそれは違う。

人影は振り向いた。正直結構不気味だ。
そして、振り向いた途端にそれはバタッとその場に倒れ込んでしまう。





「違う…セフィロスじゃない!」





クラウドは声を上げ、恐る恐る横たわるその人に歩み寄る。
だけどその直後、クラウドの足元のすぐ傍に浮かび上がった。





「……長き眠りを経て………時は……時は……満ちた……」





聞こえた低い声。
浮かび上がり、現れた人物。

長い銀髪。
漆黒のコート。

辺りに緊張が走る。

あたしは、目を開いてその人物をじっと見てた。

知ってる。よく、よく知ってるその人。

あたしは今目の前にいる彼が本当の彼じゃない事は知っている。
でも、模した姿とは言え、彼の姿をこの目で初めて見た瞬間。





「セフィロス!」





クラウドがその名を叫んだ。

英雄セフィロス。
クラウドの旅の目的。

目の前にいるその男に、皆は何を思ったかな。
ティファにとっては村の仇か。他の皆にとっては、名前は誰でも知ってる世界的な有名人。

あたしにとっては、ゲームの登場人物だ。
でも、不思議だった。

彼は本物のセフィロスじゃない。ジェノバだ。
そう、わかっているのに…なんだか凄く、ぞくぞくした。





「セフィロス!生きていたんだな!」

「………誰だ」

「俺を忘れたっていうのか!俺はクラウドだ!」

「クラウド……」





目の前に現れた探し求めた相手にクラウドは興奮気味に声を荒げる。
でも当の相手はなんだか空虚。





「セフィロス!何を考えている!何をするつもりだ!」

「…時は……満ちた……」

「何!?何を言ってるんだ!?もっと…」





繰り返されるのは、時は満ちたと言う言葉。
今、現時点でのクラウドたちにとっては意味のわからないものでしかない。

…それより、そろそろまずいんじゃないかな。

あたしはクラウドに声を掛けた。





「クラウド、見て」

「!…ナマエ」





あたしの声を聞いたクラウドはハッとしていた。
目の前に意識を取られすぎて、我に返ったみたいに。

その時、セフィロスの身体がふっ…と宙に浮いた。

それを見て皆も気が付いただろう。…来る!





「…あ…」





ぐんっと何か衝撃が来た。
あたしは構えていたから、耐えて姿を見ていた。

でもそれを見て、思わず声が漏れた。

変わっていく。
セフィロスの姿から、全く違う異形の姿へと。

…これが、ジェノバ。





「っ、やるぞ!」





クラウドは背中の剣に手を伸ばして叫んだ。

皆、現れた英雄とそれがモンスターに変化した事に気を取られていた。
だからクラウドの声にハッとしてた。

クラウドが駆け出すと、皆も後を追い向かっていく。

クラウド、ティファ、レッドXIIIが前へ。
その少し後ろにバレットとユフィ。

あたしはエアリスと後方で魔法での支援をした。

でもやっぱり思ったのは、ジェノバは他のモンスターとは違うということ。
強さもだけど、なんだろう…こう、異様な感じがあるのは否めなくて。





「はああッ!!」





クラウドが剣を突き刺す。

全員での総攻撃。
楽勝とはいかないけど、なんとか押す事は出来ている。






「ナマエ!」

「ん!ファイアっ!!」





剣を引き抜いたクラウドに名前を呼ばる。
この隙を逃さず魔法を当ててくれの意。

あたしは手を伸ばして炎を放った。

クラウドがつけた傷のあたりを目掛けてそこから広がる業火。





「相変わらず、すごい威力、ね」

「はっは、だよねえ。自分でもビックリ」





隣にいたエアリスにそう言われ、軽く笑った。
己の手から放たれた力は他の皆と比べても一回り二回りくらいの威力に思える。

なんでこんなに高火力なのか自分でもよくわからないけど。

なんにせよ、これはトドメだった。
クラウドが切り込んだ後の攻撃、効果は抜群。

ジェノバはうごめき、巨大に膨れ上がったその姿が小さく小さくなっていく。

そしてそこにひとつ転がり残ったのは、片腕だった。





「……ジェノバだ。ジェノバの腕だ」





クラウドが恐る恐る覗き込み、そう口にする。

そう。それは神羅ビルで見たあのジェノバの片腕。

何故ここにそんなものが。
母と共に…と、セフィロスが運んでいる?

クラウド達が想像するのは、ざっとそんな推測。

…実際は、少し違うのだけど。
でもセフィロスが関係しているのは正解。

ジェノバが出てきて、話が本格化する。

セフィロス…か。
この物語の最終目的、ラスボス。

あたしは後ろに振り返った。
そこは、貨物室。巻き込まれ、倒れた人がたくさんいる。

この世界に来て、実感することはたくさんある。

でもこの時、あたしは少し不思議な感覚だった。
遠くを見ている感じ…と言うのだろうか。

此処にいたのはジェノバ。
でもそれを操る、背後にあるのはセフィロスの意志。
その意思の強さは、とてるもなく恐ろしいもの。

まあきっとセフィロスにとって、あたしなんて眼中にも無いだろうけど。

でもゲームを通してでは無く実際に目の前にしたそれは、途方も無く思えた。



To be continued

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