戦う力


カランというベルの音が鳴る。
開いた扉の向こうを覗けば「いらっしゃいませ」という言葉を掛けられた。





「わっ、品揃え良さそう〜」

「そりゃ前の店はスラムだからな。比べれば当たり前だ」





思わずあたしが声を弾ませるとすぐ傍からクラウドの声がする。





「あはは〜、まあそうだね」





あたしは振り返ってそんな風に笑う。

先程、宿屋でクラウドの過去の話を聞いたそののち。あたしは宿屋に入る前に約束通りクラウドにカームのショップに連れてきてもらいました。





「クラウド、まず何買うの?」

「そうだな…とりあえずはポーションやフェニックス尾、消耗品の補充だな。それから武器と防具、マテリア。余裕があったらアクセサリーも見るか」

「おお、アクセサリー!」





棚を見ながらそう話してくれるクラウドの横顔を見ながらワッとテンションが上がっていくのを感じる。

FFの世界のショップ。
スラムで一度覗きはしたけど、こういう街のを見るのは今回が初めてだ。

そりゃテンション上がるのも無理はないでしょう!ってことで。
あたしはクラウドが見ている棚を隣に立って一緒に覗き込んでいた。





「そういえば、あんた、俺の過去の話も知っていたんだろう?」





すると商品を選定しながらクラウドがそんなことを尋ねてきた。

あたしはふっとまた横顔を見るとクラウドが手にしたアイテムに視線を向けている。
だからまあ見えてるかはわからないけど、とりあえず頷きながらあたしはその問いに答えた。





「うん。大方はね〜」

「ほう。感服させられるな、その知識には」





その声に対する返事はクラウドからでは無く後ろから聞こえた。
くるりと振り向けばそこにいるのは大人しく腰を降ろしているレッドXIIIの姿。

あたしはクラウドの隣を離れ、レッドXIIIに近付くと軽くしゃがんでその頭をわしゃりと撫でた。





「知ってたけど、それってこれからの事にも関わってくることだから余計な口出ししなかっただけ。だってあたしたち、これからセフィロスのこと追うんだよ?」

「ああ。わかってる」

「それに事セフィロスに関しては、クラウドも自分で見なきゃ、納得できないんじゃない?」

「…そうだな。俺も、これは自分の手で確かめたい。俺はセフィロスを追わなくてはならない」





あたしの言葉に頷き、クラウドはそう言った。
レッドXIIIから再びクラウドに視線を向ければこっちは見てなくて商品を見たままだったけど。

今、このショップを訪れているメンバーはこれで全員だ。

クラウドは宿屋でバレットからこれからの連絡手段にとPHSを受け取り、特に不都合も無いと言う事でミッドガルで分けたチームのまままた移動する事になったらしい。

だからその後、出発する前にこうしてショップを訪れている、というわけだ。





「そういえばクラウド、ナマエに武器は買ってやらないのか?」





その時、レッドXIIはクラウドにそんな声を掛けた。

ん?あたしに武器?

多分当事者であるあたしはちょぴりポカン。
そしてその言葉にクラウドは棚から視線を話してやっとこちらに振り向いた。





「ナマエに?」

「ああ。見たところ、ナマエにはマテリアしか持たせていないのだろう?」

「まあ、そうだな。戦いの知識もロクになかったし、スラムだと大した武器も売っていなかったからな」

「そうか。それなら、この店にはある程度の品は揃っていると思うが、何か持たせてやったらどうだ?」





あたしに武器を、と勧めてくれるレッドXIII。

正直、武器を持つとか考えた事無かったからあたし自身は目を丸くしてた。

するとクラウドの視線があたしに向く。
目が合うと、クラウドはあたしに尋ねてきた。





「別に持たせるのは構わないが、あんた自身はどうなんだ?」

「え、あたしっすか」

「…本人なんだから当たり前だろ」

「おーう、ごもっともで」

「まあ、サイレスなんかを喰らったら太刀打ち出来なくなるのは確かだし、興味があるものがあれば持ってみたらどうだ」

「興味、ねえ…」





クラウドにも勧められた。

だからあたしはレッドXIIIの傍を離れ、クラウドの横に立ち並んでいる武器を一緒に覗き込んだ。

剣、銃、グローブ…まあ色々と並んでる。
けど、日本の一般人、そんな物騒なもんに馴染みのないあたしはどれがどう良いかとかこれっぽっちもわかりません。





「えー、どれも格好いいねえくらいの感想しか持てないんだけど大丈夫?前にも言ったけど武器とか全然触った事無いからね?ぶっちゃけ刃物とかおっかねー!って感じよ?」

「ああ。別に武器を持ったからって戦力の向上を期待するわけじゃない」

「要は身を守るための手段と言う事だ」





その時、レッドXIIIもこちらに歩み寄って来てそう言ってくれた。

身を守るための手段…。
まあ確かに何か手に持っていた方がこう、ちょっとした安心感みたいなのはあるかもしれないけど。





「…おススメとかございます?」





眺めてみたところでやっぱりよくわかりません!

こりゃいつまでたっても埒が明かないぞってなわけであたしは早々にクラウドにそう尋ねてみた。





「そうだな…あくまで魔法がメインなら杖とかでいいんじゃないか?」

「え、杖?」





クラウドはそう言いながら立てかけてあった杖を一つ手に取り、あたしに手渡してきた。

先端に宝石のようなものがあしらわれた綺麗で軽く細い杖。
RPGっぽいそれに、思わず両手でそれっぽく持ってみてしまった。





「おお…!すごい…!」

「杖は魔力の補助だとかそういう効果があるものが多いからな。物理攻撃力はそうないが、何も持ってないよりはいいだろう」

「ふーん」

「あとは、このホルダーに入れて腰にでも掛けておけば…」





クラウドが貸してみろと手を出してきたので一度返せば、杖を引っ掛けることが出来る仕組みがついたベルトにそれをはめてまたあたしに返してくれた。

多分つけてみろって事だからベルトを締めてみると杖は良いカンジに腰から足の辺りでぶら下がり落ち着いた。




「あ!いいね、これ!カッコイイ」

「気に入ったか?ならそれにするか」

「おおー!って普通に嬉しいけどいいのコレ?流石に多少は遠慮するよ?」

「別に必要なものだろ。後は適当にマテリアも買い揃えてくるから後で分配しよう。杖にも穴はあるしな」

「じゃあお言葉に甘えて。ありがたく頂戴します!」

「ああ、しっかり働いてくれよ」





クラウドはそう言うと杖とホルダー、あと自分用の剣とかも選んで店主さんの所に向かっていった。

会計が済むまで待つことになったあたしとレッドXIII。
すると、レッドXIIIが声を掛けてきてくれた。





「よかったね、ナマエ。杖、買って貰えて」

「うん。口添えありがと!ナナキ」

「ううん。ミッドガルからここまで歩いてた時、ナマエの事見てて何か持ってもいいんじゃないかなって思ってたから」

「ふーん?」





クラウドが傍にいないと口調が本来のもの戻るレッドXIII。

あたしとふたりの時はもうこのスタンスでいくらしい。

こっちとしてはなかなか気を許してもらえてる感で嬉しいもんだけど。
多分あたし、今ニッコニコしてる自信あるもん。

まあそんなこんな、クラウドが戻ってくるまで、しばらくはナナキとずっと話していた。





「ナマエの世界はモンスターとかいないの?」

「いないよ〜」

「そっか。でもじゃあすごいね。魔法の撃ち方とか、慣れてるように見えたから」

「え!そう!?まだ使い始めて数日って感じだよ?」

「じゃあ、センスがいいんじゃないかな。だから武器持った方がいいんじゃないかってオイラは思ったんだけど」

「はー…お褒めに預かり光栄です」




ナナキは褒めてくれた。

まあ自分なりには色々気をつけてはいるつもりだ。
ひとつひとつ戦いを振り返って、じゃあ次はああしてみようこうしてみよう。

いっくら戦い慣れていないからって守られてるばかりは御免だ。
傍にいる人が命を掛けている以上、自分だって少しくらいは…とは思うわけですよ。





「でもそっか。元の世界が戦いと無縁か…。だから武器、使わないんだね」

「んなもん持ってたら危険人物って見なされてとっ捕まるよ。まあ、あくまであたしの国は、だけど」

「す、すごいんだね…」

「あは、まあここから見たらそうかもね!」





剣道とか柔道とか弓道…まあ習い事としてとか使える人はいるだろうけど殆どの人が武器なんて馴染みは無いだろう。

あたしなんて生まれてこの方さっぱりの人種です。
趣味、ゲームだしね。別に運動が嫌いってわけでもないけどさ。





「そういえば、ナマエさっきのクラウドの話も知ってたんだよね」





そして、ここからはさっき宿で聞いていたクラウドの過去の話。

やっぱり知識があるってのは皆気になる所なんだろうねえ。
まあそこは隠す必要も無く、ってんであたしは普通に頷いた。





「うん。ナナキ、興味深いって言ってたね」

「うーん。そうだね。興味深いって思うよ。クラウド、大変だなとも思う。だけど、オイラにしてあげられそうなことは少なそうだからね」

「ん?」

「だって、オイラは故郷に帰ったらみんなとお別れだ。その途中までは力になってあげられたらとは思うけど、それもきっと途中までだから」

「あー…」





ああ、そうか。
今の時点でのレッドXIIIの目的はコスモキャニオンに着くと言う事。

この旅をしているのもあくまでそこにつくまでの同行に過ぎない。

実際は最後の最後まで駆け抜けることになるわけだったりするけど…、まあ今の時点でそれを言ってもしょうがないし、多くは語らないさ。





「あたしも、元の世界に帰る方法探して行かなきゃなあ」

「そっか。ナマエはそれが旅の目的だもんね」

「うん。まあ、あたしもそれまでは出来る範囲でクラウドに貢献出来たらなあとは思ってるよ?一応、そこまで恩知らずじゃないつもりだからね!」

「知識、使って?」

「まあ、先の事教えたりとかは無理でも、それで出来ることはいくつかはあるだろうからね〜。基本…というか要の部分ではクラウドにとっての利を考えて動く様にはするかなあ」





先を教えられなくても出来ることはある。

強敵の対策とか、マテリアの組み合わせとか。
今までもそれくらいはしてるし。

クラウド達の行動はともかくとして、あたし自身は効率よく動いたりできるわけだしね。





「…お前たち、本当に仲良いな」





しばらくすると、クラウドが戻ってきた。

しゃがんでわしゃわしゃとレッドXIIIの毛を撫でまわしていると、それを見て彼はそう呟いたのだった。



To be continued

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