旅は始まったばかり


「ん、ごちそうさま」





カームの宿にて、クラウドが語る過去の事件。
その話聞く小休止、あたしは貰った焼き菓子を食べ、ぱくっと最後の一口にご満悦。





「…じゃあ、そろそろ話を再開するか」





皆で食べていたお菓子だけど、お皿が片付いたことでクラウドがそう言う。

皆にも異存なし。
あたしもゴクンと喉を鳴らす。

和やかな空気はここまで。

こうして話は再開される。
5年前のニブルヘイム事件、後半戦スタートです。





「ねぇ、ティファ。あなたはずっと外で待ってたの?」

「……ええ」





話はニブル山の魔晄炉でセフィロスの様子がおかしくなったところから。

ガイドをしたものの、魔晄炉の中には入れてもらえなかったティファ。
エアリスがその当時の事をティファに尋ねる。

ティファは頷いた。
でもそこにはほんの少しだけ間があった。

まあ然程みんな気にしてないだろうけど。

ティファは、自分とクラウドの話の記憶の食い違いに戸惑っている。
クラウドは5年前ニブルヘイムには来なかったのに。

代わりに来たのは、全然別人の男の子。

どうしてクラウドは、その記憶を持っているの。
…今ここにいるのは、本当のクラウドなの…?ってね。

あたしはその答えを知っている。
全部。ぜーんぶ。けど、それは口にする事はない。





「俺たちはニブルヘイムへもどった。セフィロスは宿屋にこもり、誰とも言葉をかわそうとしない」

「そしていなくなったのよね」





クラウドは話を続ける。
ニブル山での調査を終え、村に戻った一行だがセフィロスの様子はおかしいまま。

ティファはこの辺りからはもう一先ずクラウドに話を合わせていくことにしたようだ。
下手に突っ込まず、様子を探っていくように。





「セフィロスがみつかったのはニブルヘイムで一番大きな建物」

「村の人たちは神羅屋敷と呼んでいたわ。私たちが生まれたころには、もう空き家になっていて…」

「昔、その屋敷は神羅カンパニーの人間が使っていた…」





ニブルヘイムにある大きなひとつの建物…神羅屋敷。

それは、昔に神羅が研究に使っていた屋敷だ。
いずれこの旅でも訪れることになる。

そして、クラウドにとってはかなり意味を持った場所なわけだけど…。
まあ、それは今のクラウドにとっては意識のずっと奥底だ。

宿から姿を消したセフィロスは神羅屋敷の地下に閉じこもった。
膨大な書物の眠る研究室。セフィロスは何かに取りつかれた様にひたすらに本を読み漁った。

そして、彼はひとつの歪んだ真実に辿りつく。





《フッ……裏切り者め》





セフィロスはクラウドたちをそう呼んだ。

裏切り者。
当然、そう言われる意味は分からない。

セフィロスは語った。

この星はもともとセトラのものだった。
セトラは旅をする民族。旅をして、星を開き、そしてまた旅をする。

つらく、きびしい旅の果てに約束の地を知り、至上の幸福を見つける。

だが、旅を嫌う者たちが現れた。
その者は旅することをやめ、家を持ち、安楽な生活を選んだ。

セトラと星が生み出したものをうばい、何も返そうとしない。

それがおまえたちの祖先だ、と。

そしてその昔、この星を災害が襲った。

おまえたち祖先は 逃げ回り……隠れたおかげで生きのびた。
星の危機はセトラの犠牲で回避された。その後でのうのうと数をふやしたのが おまえたちだ。

セトラはこうしてレポートの中に残るだけの種族となってしまった。

2000年前の地層から発見されたジェノバと名づけられた古代種。
そして、ジェノバ・プロジェクト。

セトラとはすなわち古代種。
ジェノバ・プロジェクトとはセトラの能力を持った人間を創り出すこと。

……創り出されたのは、セフィロス。





《邪魔をするな。オレは母に会いに行く》





セフィロスは最後にそう言い残し、こもっていた神羅屋敷から出て行った。

クラウドは追う。
しかし、屋敷を出た彼の目に映ったその光景は…炎に包まれた故郷の姿だった。

セフィロスは村人の命を次々に奪いながら炎の中に消えていく。
母に会いに行く。そうして向かう先は、ニブル山の中のあの魔晄炉だ。

クラウドは追い駆けた。すぐさま魔晄炉へ。

そこで目にする。
倒れたティファの父親と、その傍にうずくまるティファの姿。





《パパ……。セフィロスね!セフィロスがやったのね!セフィロス……ソルジャー……魔晄炉……神羅……ぜんぶ!ぜんぶ大キライ!》





ティファは叫ぶ。
そして落ちていたセフィロスの刀を手に叫びながらセフィロスに向かっていく。

しかし、ティファひとりで敵うはずも無かった。

ティファは逆にねじ伏せられ、無残にも切りつけられてしまう。

傷を負い、階段を転がり落ちる。
そんな幼馴染みの姿を目にしたクラウドは、怒りに震えた。





《母さん、いっしょにこの星を取りもどそうよ。俺、いいことを考えたんだよ。約束の地へ行こう》

《セフィロス……俺の家族を!俺の故郷を!よくもやってくれたな!》

《クックックッ……母さん、またやつらが来たよ。母さんは優れた能力と知識、そして魔法で この星の支配者になるはずだった。けど、アイツラが…何のとりえも無いアイツラが、母さん達からこの星を奪ったんだよね。でも、もう悲しまないで》

《俺の悲しみはどうしてくれる! 家族……友だち……故郷をうばわれた俺の悲しみは!!あんたの悲しみと同じだ!》

《クックックッ……オレの悲しみ?何を悲しむ?オレは選ばれし者。この星の支配者として選ばれし存在だ。この星を、愚かなお前たちからセトラの手にとりもどすために生をうけた。何を悲しめというのだ?》

《セフィロス……信頼していたのに…いや、おまえは、もう 俺の知っているセフィロスじゃない!》




クラウドは剣を構えた。
セフィロスもまた、クラウドに振り向く。

向き合ったまま、二人は睨みあう。

しかし、そこでフェードアウト。
クラウドの話は、此処で終わった。





「……この話はここで終わりなんだ」





クラウドのその言葉に皆が一気にどっと疲れ切った顔をした。
なんだか気が抜けてしまったような。

しかし同時に、不完全燃焼できっと気持ちが悪い。

当然、バレットなんかはすぐに詰め寄った。





「ちょっと待てよ!続きはどうなったんだ?」

「……覚えていない」





クラウドは首を横に振る。
そんな様子にエアリスも問いかける。





「セフィロスはどうなったの?」

「実力から言って、俺がセフィロスを倒せたとは思えないんだ」





世界中にその名が知れ渡るほどの実力を持ったセフィロス。
その力はこの世の最強と言っても過言ではない。

そんな男に自分が勝てたわけがないとクラウドは言う。

しかしだとするとセフィロスはどうなったか。
そこにティファがひとつ憶測を挟む。





「公式記録ではセフィロスは死んだことになっていたわ。新聞でみたもの」

「新聞は神羅が出してるのよ。信用できない」





世間一般では、セフィロスはもうこの世にはいないことになっている。
しかしエアリスはそれは神羅が言っているだけかもと首を大きく横に振った。

まあ事実、神羅側もセフィロスの行方なんて把握出来ていないままその新聞を発行しただろうしな。

だけどそれが間違いかと言われると実際は…まあ、何とも言えな感じだよね。

だって、あの時実際にセフィロスはクラウドが…。

ただ概念としては信用しなくていい…って何かこれもまた微妙な話してるけどもさ。

でもそうなんだよな。クラウド、ちゃんと自分の力でセフィロスのこと倒してるのにね。
こんな風に幻想の中にいなくたって、あなたは十分カッコいいのですよ…ってね。





「……俺は確かめたい。あの時、何があったのかを。セフィロスに戦いをいどんだ俺はまだ生きている。セフィロスは、なぜ俺を殺さなかったのか?」

「…私も生きてるわ」





クラウドは己の手を見つめ、ぐっと握りしめる。
そしてティファもかつてセフィロスに切り付けられた身体に触れて小さく呟く。

まあ…クラウドとティファが無事だった理由はそれぞれ違うわけだけど。

しかし今の現状では何を考えるにも情報が足りなさすぎる。
わかる事と言えば、今ジェノバがとどうなっていたか、というくらいだろうか。





「なんだか、いろいろ、変。ねえ、ジェノバは?神羅ビルにいたのはジェノバ、よね?」

「神羅がニブルヘイムからミッドガルへ運んだのは確実だな」





神羅ビルにあったものとニブルの魔晄炉にあったものの名前は共通にジェノバ。
エアリスは顔をしかめて首を傾げる。





「そのあと、また誰かが持ち出した?神羅ビルからもなくなってたわよ」

「セフィロス……?」





ティファが思いつく名を呟く。
が、それも確証がない。

というか、今何を話してもそれはどれも憶測の域を出ない。

答えを知っているあたしとしては、すんごいすれ違ってこんがらがってるなあ…って言葉に尽きてしまうのだけれど。

すると、そんな時に頭を抱えたバレットが爆発したように声を張り上げた。





「が〜〜〜っ!わけがわかんねえ!おいナマエ!てめえひとりだけ涼しい顔してやがるが一体こりゃどういうことなのか説明しろ!」

「ええええ…」





そしてあたしに飛んできた。
おっふ…めっちゃドストレートにかましてきたぜえ…。

そんなことを言われれば皆の視線もこちらに集まる。

涼しい顔…ってのはよくわからないけど、まあ悩んでる顔はしてない自覚はある。
そりゃそうでしょ!悩んでも無いのに「うーんうーん」とかしてるのわけわかんないもんね!

だがしかし答えるつもりは毛頭ない。
あたしはきっぱりはっきりピシッとバレットに指を突き付けた。





「いやいやいやカンニング禁止でしょ!バレット!」

「ぐぬぬ…だけどよ、もやもや気持ち悪くってたまらないぜ…」





バレット自身、あたしに聞いてはなら無い事だと言う自覚はあるようだ。
ただ、わから無い事が多すぎて爆発してしまっただけで。





「悪いけど、聞かれても何も言わないよ〜」

「ぐうっ…」

「ていうか今言っちゃたらつまんないでしょ!」

「…別に面白さを求めちゃいねえよ」

「んはは、確かに。まあ、クラウドとティファは古い傷を掘り起こすことになって疲れたでしょ。お疲れ様」





一先ず、クラウドとティファにはそう声を掛けた。
だって実際、ふたりにとってはこの話ってとんでもないトラウマの話だもの。

知りたいって思う事も多いけど、出来れば思い出したくないことだって多いはずだ。

ティファは軽く頷いた。
クラウドは、特に何を言うことなくこちらに視線を向けていた。

多分、思う事はそれぞれなんだろう。
クラウドやティファの他に、エアリスだってきっとセトラの名が出た時には色々考えたはずだ。

その事実が全てひも解かれるのは、まだまだずっと先の事だけど。





「まあ、今はとにかく進んでみることだよ!まだ旅は始まったばっかりだもん」

「…ああ」





そう声を掛ければクラウドは頷いた。

そうだ。まだ旅は始まったばかり。
その答えを探すために始めた旅なのだから。


To be continued

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