過去の記憶


「戦争終結後のソルジャーの任務は神羅に反対する人たちを……。憂鬱な仕事が多かったな。……あれは5年前。俺は16歳だった…」




カームの宿屋につくと、クラウドは皆に自分の過去を話し始めた。

それは5年前、彼の故郷で起こった悲劇だ。

星の危機。セフィロスという存在について。
その答えを示すものは、クラウドの過去にある。

5年前。
クラウドはとある任務で自らの故郷ニブルヘイムにセフィロスと共に訪れていた。

つまりは派遣されたソルジャーがクラウドとセフィロス。
そしてふたりの神羅兵。

あたしは、ベッドに腰掛けその話に耳を傾けていた。

勿論、あたしにとってはよく知っている話だ。
だってゲームで散々聞きつくした話だし。

でも文章を見ていくのではなく、クラウドの口から直接その話を聞けるのはなかなかオイシイよなあ…なんて、やっぱりそんなことも思って。

だからこの話は結わりと真面目に聞いていくつもりだ。
知っているからと、ボタンを連打するような聞き方はしない。

ただ、同時に…クラウドの他にもう一つ、目を向けておきたいものがあった。





「セフィロスの強さは普通じゃない。世間で知られているどんな話よりも……凄かった」

「あれ〜?クラウドの活躍は?」

「俺か?俺はセフィロスの戦いぶりに見惚れていたな」





ニブルヘイムに向かう途中の話。

トラックが唐突に揺れたかと思えばモンスターが突っ込んできていたらしく、クラウドとセフィロスはトラックを降りてその討伐に当たった。
ただ、戦闘と言えばセフィロスひとりでほぼ事足りていたようだけど。

あとはクラウドは支給されたマテリアを早く使いたくてそわそわしていたとか、同行する神羅兵のひとりがトラックに酔って俯いていたけど寄った事のないクラウドにはその気持ちがわからなかったとか…そんな他愛ないことも交えながら、クラウドは丁寧に話を進めてくれていた。

ゲームだと過去の風景をそのまま操作していく過去を見ていく形だから、こうやって言葉だけで聞くのは案外新鮮だなって思った。





「……そして俺たちは、ニブルヘイムについたんだ」





無事にニブルヘイムにつき、村の入り口でセフィロスはクラウドに問いかけた。
久しぶりの故郷はどんな気分がするものなのかと。

ここ、結構クラウドビックリしたんじゃないのかな。
憧れていた英雄セフィロスが他でも無い自分に声を掛けてくれて。

セフィロスは自分には故郷が無いと言った。
そして両親の名前は…。





「母の名はジェノバ…。セフィロスを生んですぐに死んだらしい。父親は…そこまで言い掛けて、セフィロスは笑って首を振って口を閉ざしてしまった。俺は何の話をしているんだって言ってな」

「ちょっと待った!!」





その時、バレットが突然に声を上げて話に割り込んだ。
それは聞き覚えのある名前が出てきたからだ。





「な、あれじゃねえか?セフィロスが言ってた母親の名前…。ジェノバ…覚えてるぞ! 神羅ビルにいた首ナシのバケモノだな!」

「その通りだ」





クラウドはバレットに頷いた。

そう。同じジェノバ。
だからこそクラウドはあの時装置の中にいたジェノバを覗き込んで『ここに運んだのか』と零した。





「ちょっとバレット。クラウドの話、ちゃんと聞かせて。質問はあとよ」





すると、話を中断させたバレットにティファがそう言った。





「でもよぉ、ティファ…」

「さあクラウド、続けて」

「幼なじみの再会ね!」





少し不服そうなバレットを残し、ティファは続きをクラウドに促す。
そしてエアリスは次に語られるであろうクラウドとティファの再会にくすりと笑みを零した。





「……ティファには驚かされたな」





エアリスの言葉に、当時の記憶を思い起こしてそう呟いたクラウド。

あたしはそんな様子を見ながら、ちらりとクラウドではないあるひとりに視線を向けた。
それは、クラウドの他に目を向けておきたいと思ったもうひとりの人物だ。





「…!」

「……。」





その時、目があった。
彼女は少し驚いたのかびくりと反応してさらっと長い黒髪を微かに揺らす。

そんな彼女にあたしはニコリと微笑んでおいた。

今、クラウドの他で反応が気になっていた人物。
それは彼の幼馴染みであるティファだった。

いやね、だってやっぱり気になるじゃない。

クラウドが語る5年前に出来事。
それを聞いて、この中でたったひとり…ティファだけは、そこに違和感を抱いているはずだから。





「村について、俺は家に顔を出して…5年前の事件とは、関係ないな」

「でもよ、興味あるぜ」

「私も!久しぶり、だったんでしょ?」





一方で、バレットとエアリスがクラウドの実家について興味を示していた。

クラウド、結構優しいよね。
彼は「やれやれ…」と息を吐きながらもその要望に応え、当時の実家の話をしていた。





「家族っていっても…、親父は…俺がまだ子供のころに死んでしまった。だから母さんが…家には母さんがひとりで住んでいた。ああ、俺、母さんに会ったよ。母さんは…元気な人だった。全然変わってなかった。その何日かあとには死んでしまったけど…、あの時は……本当に元気だった」





クラウドの実家の話。
その辺りの事もあたしは知っていたけど、やっぱりクラウドの口から直接聞けるのは興味があったから再び視線をクラウドに戻した。

クラウドのお母さん。確かにゲームで見る感じは元気そうな人だったかな。
あと、クラウドの金髪はお母さん譲りなのかな〜とか。

クラウドのお母さんは帰ってきた息子をあたたかく迎えた。
体調を気に掛けたり、都会での生活を気にしたり。

ゲームを通してでも、クラウドの口を通してでも、良いお母さんだった事は容易に伺えた感じだ。

確かに、この辺の話は事件とはそう関係のないものだね。
でも、あたしは下手に口を出すことはしなかった。

うーん、勿論肝はセフィロスのことなわけだけど、でも本当はどの会話もクラウドにとってはところどころに鍵がかけられたもので…。

口出してその鍵が今の時点で壊れでもしたらとんでもない話だもんなあ…。

あたしがそんなことを考えていれば、クラウドは話を事件の方へと戻した。

一夜明けた後、クラウドたちはニブル山の中にある魔晄炉の調査へと出向くことになる。
そしてその時にガイド役を任されたのがティファ。

お待ちかねの幼馴染みの再会…になるわけだ。一応。





「確か、セフィロスと俺とティファで写真を撮ったっけな…。セフィロスは仕方なくって感じだったけど。それから、俺たちはニブル山に入っていったんだ」





そこまで聞いて、あたしはまたティファに視線を向けて彼女の様子を気にした。

多分、それなりには上手く隠していると思う。
動揺を、戸惑いを表に出さない様に。

だからこそ、誰も突っ込まない。
クラウドも何の疑問を持たない。

それでも抑えてるな〜…って見えてしまうのは、あたしが知ってしまっているからなんだろうな。





「魔晄炉はニブル山の中に造られていた。ニブル山の寒々とした空気、変わっていなかったな…。進んで行くと、山の中には吊り橋があった。けど、その吊り橋が壊れて…俺たちは全員、谷底へと落ちてしまった。怪我は無かったけど、同行していた神羅兵がひとり、行方不明になってしまったな」





クラウドが語るニブル山の道中は、だいぶ険しい道のりだ。
いなくなってしまった神羅兵を探す時間は無く、一行はそのまま魔晄炉を目指すことになる。

そして随分と遠回りをしたものの、魔晄炉へは無事到着することが叶った。

魔晄炉内部の事は、ティファの記憶にはない。
一般人は立ち入り禁止だと同行していた神羅兵に入り口を遮られてしまったから。

中へ入ったのはソルジャーのふたりのみ。

クラウド、この時結構焦っただろうな。突然ティファとふたりきりにされて。
…なんて思ったら、ちょっとだけ笑みが零れた。





「ナマエ…?なにかおかしいことでもあったか?」

「ん?ううん、何でもないよ、続けて!」





すると、零した笑みをクラウドに気が付かれた。

別にそんな大笑いしたわけでもないんだけどな。
こう小さくクスッとしただけだ。

突っ込まれたところで話せることでもないし、「さ!どうぞ!」とあたしはクラウドを促した。

クラウドはちょっと首を傾げていたけど、言う気がないのを察したのか大して気にはしなかったのか話を戻した。





「魔晄炉の中にはポッドの様な装置がたくさん並んでいた。それと、JENOVAと書かれた部屋もあって…異様な感じだったな。装置は魔晄エネルギーと凝縮して冷やす装置だとセフィロスは言っていた。魔晄が凝縮されると通常であればマテリアが出来る。しかしその装置に宝条があるものを入れたらしいんだ。装置には小窓が付いていて、覗くとモンスターがいた」





ゲームでは一度しか見られない小窓の中。
その中にいる、人型にも見える異形のもの…。





「ソルジャーは魔晄を浴びた人間…。一般人とは違うがそれでも人間だ。しかし、装置の中では、それとは比べ物にならない高密度の魔晄に浸されていた。モンスターを作り出したのは神羅の宝条。そこまで話して、俺は問いかけた。普通のソルジャーって?あんたは違うのか?と。すると、セフィロスは突然様子がおかしくなった。刀を抜いて、装置を斬りつけはじめて…」






《……俺はこうして生み出されたのか?俺はモンスターと同じだというのか…》

《……セフィロス》

《…前も見ただろう!この中にいるのは……まさしく人間だ…》

《人間!?まさか!》

《……子供のころから俺は感じていた。俺は他のやつらとは違う。俺は特別な存在だと思っていた。しかし、それは…それはこんな意味じゃない。…俺は……人間なのか?》





まるでガラスが割れたように、セフィロスは混乱していく。
クラウドはその様子に戸惑った。セフィロスは一体何を言っているのか。





「セフィロスが何を言っているのか、その時の俺にはよくわからなかった。俺はなによりも神羅カンパニーがモンスターを創っていたということにショックをうけていた」

「くっ…神羅め!ますます許せねえ!」





そこまで話を聞いて、バレットは憤慨した。
パシッとギミックアームを叩き、怒りに拳を震わせる。





「……あの魔晄炉には そんな秘密があったのね」





ティファはクラウドに話を合わせ、頷いていた。

思うところはあるけど、自分の記憶に噛み合う部分もある。
そして自分がそう口にすることでクラウドにどんな反応があるかとか、もしかしたらそう言うのが見たかったのかな、ともちょっと思う。





「ここ数年来のモンスターの増加にはそういった理由があったのか。これからのクラウドの話はじっくり聞く必要があるな。そうではないか、バレット?」





すると、床に寝そべり話を聞いていたレッドXIIIがどこか話に納得しながらバレットにそう問いかけた。

その言葉にあたしは部屋に掛けてあった時計を見た。
宿に着いた時間から見ても、結構な時間は経っていたことを自覚する。

バレットは突然話を振られてギョッとしていたけどバレットも時間がだいぶ経っている事は感じていたようで、後ろ頭をガシガシと掻くと休憩を挟むことをクラウドに告げた。





「た、確かにそうかもな。ここいらで一息いれることにするか」





クラウドもそれに頷き、少し緊迫していた空気が解ける。
興味がある話ではあるけど、皆も真剣になるからこそ少し疲れた部分もあったのだろう。

そんな空気になったところで、あたしは腰掛けていたベッドから立ち上がった。





「あ、じゃああたしちょっとお水貰ってくる〜。喉乾いちゃった」





そしてそう言葉を残して一度部屋を出た。

いや、本当に何か飲みたいな〜って思ってたし、ちょっと小腹も空く頃だ。
まだ話も続くし…というかここからが本番だし、何か摘まめるものでもないか宿の人に聞いてみよう。

そんなことを思っててくてくと歩いていれば、後ろから追いかけてくるような足音がした。





「ん?ティファも喉乾いたの?」

「…ナマエ」





足を止めて振り返れば、そこにいたのはティファだった。

ティファはゆっくりあたしに歩み寄ってくる。
その顔にはあの部屋の中では隠していた戸惑いがちょっと見てとれた。

まあ、さっき目があった時に結構ビクッとしてたしなあ…。





「クラウドの話と自分の記憶が噛み合わない?」

「…!」





追い駆けてきたはいいけど「あの、その…」と言葉に困ってる様子だったから、ついついこっちから突っ込んでしまった。
すると当然、ティファはその目を見開く。

ああ、ちょっと意地が悪いかなぁ…なんて自分に少し笑った。
だってこれ以上は何も言う気、無いから。

でも、隠しても仕方のない事だし、知らないと嘘をつくのも変だ。

ここで濁しても、ティファもモヤモヤするだけだろう。





「…やっぱり、知ってるのね…」

「んー。まあねー」

「ねえ、ナマエ…どうしてクラウド…だってあの時クラウドは…っ」

「ストーップ!」





あの時クラウドはあの場にはいなかった。
どこか切羽詰まった様子でそんな風に続くであろうティファの言葉をあたしは遮って止めた。

多分、答えを確かめられる人間がいることで今まで抑えてたものが溢れてしまったのだろう。

だけど、その答えを教える気はあたしにはない。





「ごめんね、ティファ。あたし、そのことについて何かを答える気、ないよ」

「…ナマエ…」

「……ティファが戸惑ってるのはわかるけどね。でもね、言う気、さらさらないんだな〜」





最後はニコッと笑って言い切った。
するとそれを見てティファもちょっと緊張が解けたのか、その頬にゆるみが戻った。





「…ふふ、意地悪なのね」

「あはっ、そうだね」

「認めちゃうの?あーあ、でもちょっと…いつもクラウドが言ってる意味がわかったかな」

「うん?」

「思わせぶりな事言って振り回されてるって」

「あー、えへへへ。でもクラウドの反応、案外面白くってさ」

「うーん…そこは私も認めざるを得ないかも」

「お?」





そんなことを言って、お互いに笑った。
クラウドにが聞いてたら「勘弁してくれ」とでも言いそうだ。

それすらもはや面白くなっちゃってるから救いようないけどね!

でもま、この辺りの話は本当にデリケートだから、ヒントすらも与えてはいけない気がする。
下手に口を挟まずに聞き役に完全に徹してるのもその辺が理由だ。





「…ゴメン。でも確かに、ナマエに聞くのは間違ってる…よね」

「………。」





ティファはそう言った。

未来の事や過去に隠されているもの。
それは本来、こんな風に知る事は出来ないものだから。

まあ、あたしみたいなのが此処にいるのが、ただ反則なだけなんだけど…。

ティファは、クラウドに直接聞くことは出来ないだろう。
戦闘もこなす強い彼女だけど、心は案外臆病だから。

今あたしとこう話したところで、きっとティファはクラウドに聞きに行くことはしないだろう。

いやまあ、気持ちはわかるんだけどね。
だからと言ってやっぱり何を言う気も無いんだけど。

あたしはふっとひとつ息を吐き、ティファの背に回った。





「ねえねえ、ティファ。お腹すかない?あたし、お水貰うついでに何かお菓子貰えないかな〜って思っててさ」

「え、ああ…そうね。確かにちょっと小腹はすいたかも」

「ね!てことで一緒に貰いにいこうぜ〜」

「…ふふ、うん!」





彼女の背を押して歩き出す。
ティファも頷いてくれて、またふたりで笑う。

でもその裏で、少し思う。

…ティファが聞けないからこそ、あの瞬間にクラウドは壊れる。
もし、その時まであたしがこの世界にいたとしたら…。

まだまだずっと先のこと。
少しそんな考えは過ったけど、すぐにあたしは考えることをやめた。

そして笑みを戻し、ティファと一緒にフロントを目指した。



To be continued

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