ティーダ

「なにをしているんだ」

「ん?なんだ、アーロンか」





シンとの決戦前日。
俺は飛空艇の甲板に出て空を見上げていた。





「いや、ちょっと思い出してた」

「…ザナルカンドか」

「流石に、気にしないってのは…無理ッスね。だからって逃げる気も無いけどさ」





旅の始め、あんなに帰りたかったザナルカンド。でも、もう帰れない。

決着をつけるって、もう決めてる。
覚悟は…出来てるけど、なんとなく思い出したんだ。





「あのさ、俺がまだエイブスに入りたての頃の事なんだけどさ」

「なんだ?」

「俺、面白い子に会ったんッスよ」





アーロンに話して、思い出したら、なんか自然と頬が緩んだ。

そう、すっげー変わってる子。





「前半戦が終わって休憩中の時でさ。会場の中できょろきょろしてたんだよ、その子。何か迷ってるみたいでさ。困ってるみたいだったから、つい声掛けちゃって」

「ほう」

「そしたら振り向いて俺の顔見るなり、ああ!って声上げたんだよな」





目を見開いて、指差して。

そんな反応見たら、ああ…またか、って思ってしまった。

ジェクトの息子。
その期待の眼差し、これでもかってくらい浴びて。
だから、また言われるかと思った。

そう思ったら一気にテンション下がっちゃって。





『ああ!あなたエイブスの!前半戦見てましたよ!』

『ああ…ありがとな』

『期待の新人さん、なんですよね!頑張ってください!応援してますから!』

『ああ…うん』





期待の新人。
その言葉に更に気が重くなって。

正直、ちょっとイライラしてたのかもしれない。






『何か、まだ出してない特別な技があるんでしょう?楽しみにしてますね!』

『…ああ、ジェクトシュートな』





通じなかったかもしれない。
でも、つい皮肉を込めてしまっていた。

けど、そしたらその子、こう言った。





『ジェクトシュート…って言うんですか?うーん…』

『なに?』

『あの、ジェクトって…何ですか?』

『え!?』





ビックリして、思わず声を上げてしまった。

だって、親父のこと知らないとか…そんな反応受けたの初めてで。





『ジェクト…知らないのか?』

『はい…私、ブリッツって詳しくなくて…。今回も友達の付き添いで来ただけなんですけど…』

『ぷ…あはははははは!!』

『え!わ、私なにか変なことを!?』





笑ってしまった。
そしたらその子、あたふたし出して。

さっきまでの重たい空気なんて、吹き飛んでた。





『ははは!いや、いいんスよ!笑ってごめん!』

『そ…ですか?あ、でも!貴方のこと見てたら一気に引き込まれてブリッツって面白いなって思って…。期待の意味がわかったていうか…ファンになっちゃいました!』





他とは違う期待の意味。

ファンになってくれた…。

それって、親父のこと抜きにして…だろ?





「入りたてだったから余計にかもしれないけど、すっげー嬉しくてさ」

「……。」

「でも、…あの子も、消えちゃうんだよな…」





シンを…エボン=ジュを倒したら。

なんとなく、申し訳ないって言うか…。
なんて、言うんだろうな…。難しいな…。





「…でも、試合の度その子を思い出して…元気貰ってたからさ」

「…会いたい、か」

「うーん…会いたいって言うよりかは…」





もう一度ちゃんと、伝えたかった、かな。

…ありがとう、って。


END


ちょっと長いな…。
でも名前変換が無いので拍手に。

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