ホープ(13−2)

「はあっ…はあっ」





やっと見つけたパラドクスの研究材料。
それを胸に抱え、私は必死に走っていた。

迫ってくる。
大きな大きな時の歪みの生んだ魔物。

抵抗しようにも、もう力が残って無い。
…使い果たして、尽きてしまった。

足が痛い…。
限界が近くて、もつれそう…。

ああ、私…ここで死んじゃうのかな。
研究材料も…やっと見つけられたのに…。





《ありがとう!》





想像してみる、彼の笑顔。

誰よりも研究に一生懸命な彼…。
これ、見せたらきっと喜んでくれるはず。





「あっ…!」





そう思った瞬間、ついに足がもつれた。
ぎゅっと胸にあるものを抱いたまま、私の体は倒れ込む。

迫ってくる…歪んだもの…。

もう…駄目だ…。
パラドクスに巻き込まれて…私…。

喜ぶ顔、見たかったなあ…。





ホープ…!





きゅっと抱えるものに力を込め、そのまま瞳を閉じようとした。
だけどその時…閉じかけた瞳に、黄色い何かが映り込んだ。

それを見た私は、きゅっと胸が音と立てた。





「…あ…」





回転しながら、綺麗な弧を描くそれ。
わずかに雷を纏ったそれは、私に迫る魔物に当たり、魔物を歪みの中へと消滅させた。





「大丈夫だよ」

「わ…っ」





すると突然、肩を抱かれた。
そっと立ちあがらせてくれる、力強い手。

黄色がまた弧を描き、こちらに戻ってくる。
ぱしっとキャッチされたそれを見つめていると、すぐ傍で優しい顔が見えた。





「…怪我してないかな?」

「ホープ…」





優しく尋ねてくれたのは…さっき思い浮かべた、笑顔を望んだその人だ。





「やっぱりどこか怪我した?」

「あ、だ、大丈夫!ありがとう…」

「うん。どういたしまして」





ニコッとしたホープの微笑み。
それを見た私は途端に力が抜けて、せっかく立ちあがらせてもらったのに、また座り込んでしまった。

ホープはそんな私に合わせてそっと寄り添うように膝を落としてくれた。





「本当に大丈夫?」

「うん…、安心して…力が抜けちゃっただけ…」

「そう…。なら、いいんだけど。でも…本当、君が無事でよかったよ」

「…ホープ」





追いかけられていた私より、深く深く安堵したような表情を浮かべるホープ。

彼は、いくつも大切なものを無くしたのだ。
その原因は恐らく…世界中に発生している時の矛盾、パラドクス。





「…あの、これ…見つけたよ」

「!、これは」

「矛盾は矛盾を呼んじゃうのかな…。それを見つけた瞬間、あれが出てきちゃって。でもこれで…、みんなに一歩近づけたね」

「っ…」





そっと差し出せば、ホープはそれごと私の体を抱きしめた。

少しきつくて、少し痛い…。





「…ありがとう」





だけど耳に届いた声は、とても優しかった。
それを聞けただけで、私は心が満たされたような感覚を味わえた。





「でも…無茶はしないで欲しい。君までいなくなったら…。こんなに息を切らして…、怯えた顔をして…。そんな怖い思い…して欲しくないのに…」





そう言いながら、私の頬をなぞるホープ。

優しすぎる指先。
そのぬくもりを感じながら、私はそっと微笑んだ。





「私は、どんなに怖い思いをしても平気だよ」

「え?」

「ホープのブーメラン…不思議だね」





そういいながら触れたのは、彼が長年愛用する馴染みついた黄色いブーメラン。

…このブーメランをこんなにも頼りにするなんて。
あの頃は、想像もしなかったな。





「それが見えた時点で私…ああ、もう大丈夫だって…心のどこかで思ってたよ。その時点で、恐怖とか何もかも吹き飛んじゃった」





貴方の操る黄色いブーメラン。
それが映った瞬間、既に私は安心していた。





「単純なんだ」





へらっと笑う私を見て、ホープは軽く私の頭を小突く。
でも同時に、その顔は笑みが浮かんでいた。





「そんなことを言われたら…いつだって、助けにいかざるをえないな」



END


13-2のホープの登場は反則以外の何物でもないと思う…!
なにあのブーメラン…!何度リバースロック使った事か!(笑)


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