イグニス

「イグニス。車出してくれてありがとね」

「いや、気にしなくていい」





カチャン、とシートベルトを締めながらあたしは隣の運転席につく彼にお礼を言った。

後部座席には、席を埋める荷物が並んでいる。
これらはすべてあたしがついさっきお買い上げしたものだ。

高校卒業に当たり一人暮らしをすることになったあたしはまとまった買い物をしたいと言う雑談をイグニスに零した。
本当、ただの雑談のつもりだったけど、それなら車を出してやろうとイグニスは申し出てくれたのだ。

正直めちゃくちゃ有難かった。
だから素直に甘えることにした。

ありがとうイグニス。この御恩はいつか必ず返そう!

まあそんなことを思いつつ、なかなか良い買い物が出来てあたしは助手席でホクホクしていた。





「いや〜、でも本当助かったよ〜。欲しかったものだいたい買えたし、その上で妥協しなかったっていうか満足いくもの揃ったし」

「役に立てたなら何よりだ」

「ふふふっ」





こんな感じでまさにご満悦とでも言おうか。
車の外を流れていくオレンジ色の夕焼けも綺麗でなんだか本当充実してる感が今とても強い感じだ。

そんなことを思いながら、あたしは視線を窓の外からちらりとハンドルを握るイグニスへと移した。





「どうかしたか」





前を見ていても視線を向けられればなんとなくわかるだろう。

あたしは首を横に振った。
いやまあ運転してんだから見えんだろうけど。

あたしは背もたれに寄り掛かりながら少し笑った。





「いやあ、運転してるのって良いよなあって思って」

「良い?」

「うん。良い。なんとなくカッコイイ」

「別に普通だろう」

「そっかな。でも客観的に見てもイグニス運転上手いし。眺められるここは特等席だな〜と思うわけ」





助手席に乗せてもらったこと、もう何回かあるけどその度になんとなく気分が上がると言うか。
うん、あたしはイグニスの運転する助手席に座るの好きだ。





「てことで、イグニスさん、ちょっとご提案が」

「なんだ?」

「ちょこーっとこのままドライブしたいです!」

「ドライブ?目的地は?」

「んー、特には。ただ回り道して帰りたいです!」





へらりと笑って言ってみる。
するとイグニスは少しだけ呆れてた。





「おかしなやつだ」





でも同時に、そう言ってふっと笑ってくれた。

カチッとウィンカーのつく音がした。



END


車と言えばイグニスさん。
…スコールと同じこと言ってる。


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