アーロン

ぱちぱちという焚き火の音。
目の前で揺らめく赤い炎を私は膝を抱えてじっと見つめていた。

もとい、そこ以外を見る勇気が無かったともいう。

ああ…気まずい…。
あたしはそう心で変な汗を掻きながらじいっと一点凝視していた。

炎を挟み、向いにあるのは赤い衣のひとりの人。
それはこのスピラにおいて絶対的とも言える伝説のガード様だ。

私のクジ運…やってくれるじゃないか。

今宵は野宿。
クジでペアを決め、ふたりずつ交代ですることになった見張り。

私は今、ペアであるアーロンさんと共にその見張りの真っ最中でした。





「……。」

「……。」





静かだ。本当に静かな夜。
どちらも言葉を発することなく、ただ時間だけがゆっくり流れていく。

…話、かけてもいいのかな。
いやでも何を?何を話すの?

ぶっちゃけ私はアーロンさんとは、必要最低限の言葉しか交わした記憶が無い。

ティーダとか、よくもまああんなにぺらぺらと喋ってるもんだといつも感心してる。
…いや、まあティーダは置いておこう。あいつは色々例外だ。

ああ、でもユウナも結構話してる姿は見るよね…。
ユウナも小さい頃に会った事ある分があるだろうけど…。

ん?いや、リュックも話してるよな…。
挙句にゃおっちゃんとか言ってる始末よな…!?

ワッカとルールーあたりはあれだけど…。
キマリはよくわかんないけど実はそんなに相性悪くなさそうに見える気も…。

あっれ!?あたしがもしや一番喋ってない感じ!?

いやね、別に嫌いじゃないのよ。

いや、嫌いなわけがない。
むしろ憧れに近い感情を抱いていると思う。

いやでも、でもでもでも…。





「おい」

「…………。」

「おい!」

「ふえい!?」





頭がぐるぐるしていたその時、低い声に呼びかけられていたことに気が付いた。

その声の正体は勿論のこと、目の前にいるアーロンさんだ。
気が付いたその瞬間、ビックリして思わずへちくりんに声が裏返る。

ひっ…恥ずかしすぎる…!!!

私はテンパったまま、でも何とか答えねばととにかく言葉を返した。





「な、なんでござりますでしょうか…!?」

「……なんだその言葉使いは」

「…す、すみません…」




焦ってテンパって意味不明な言葉が飛び出す。

ああ、穴があったら入りたい。
どんどん重なっていく恥にもう絶望しかないと言うか…。

しゅーん…と肩を落とせば、アーロンさんはひとつ溜息をついた。





「…眉間にしわを寄せて、何を考えている?」

「…寄って、ましたか?」

「ああ。それはもう深くな」

「うう…いや、まあ、アーロンさんの事を…」

「俺?」





ぽろっと零して、ハッとした。

一体何を赤裸々に白状しているんだ…!?
なんかもう今日は本当に駄目駄目な気がする…。

言ってしまったのなら仕方ない。
あたしも「はあ…」と小さくため息をつくとそのままもう少し白状した。





「…いや、その…やっぱこう、緊張するなあって」

「俺にか」

「そりゃまあ、やっぱ伝説のガード…ですし」

「そんな大層なものでは無い」

「…何を仰ります」





謙遜を見せるアーロンさんに私はそう言いながらちらりと視線を向けた。

すると、アーロンさんもこちらを見ていた。まっすぐに。

その顔を見たら、なんだか言葉を失った。
いや、さっきとは違う意味で…。

謙遜とかじゃなくて、アーロンさん自身は本当にそう思ってるみたいな。

アーロンさんにも色々あるのかもしれない。
でもやっぱりこの人がナギ節を導いたのは事実で、それに人として何か大きなものを持っているような気もして。

やっぱり、上手く言葉が出てこない。





「うう…」

「なにをそんなに唸る事がある?」

「…私、アーロンさんと何話していいのかわからないんですよね…」

「ほう。つまり苦手だと」

「え!」





苦手。
かなりど直球に聞かれて焦った。

いや、苦手かと言われると…。

ただ萎縮しているだけだと思うし…。
いやでも、2人きりを出来ることなら避けたいと思っていたのは事実で。

色々言葉を並べたところでアーロンさん相手に変な誤魔化しは効かない気がした。





「う…まぁ、そう…なのかもしれません…」

「フッ…正直な奴だ」





おずおずと白状した私を見て、アーロンさんはなんだか面白そうに笑った。

その顔を見て、少し思う。
この人、こんな風に笑うんだな…なんて。





「…なんか、スミマセン…」

「フッ…別に構わん」

「ああ…皆、どうやって話してるんだろう…」

「…何も考えていないと思うが?」

「うう…」

「単純に相性の問題じゃないのか。話しやすい話にくいは人それぞれだろう」

「つまりアーロンさんと私は相性が悪いと…」





言われて言葉にして、なんだか胸にグサッときた。
いやまあ、性格の合う合わないっていうのは絶対にあるものだし、アーロンさんはその事実を述べているまでなんだけど。

でも、なんだかショックな感じだ。

その時、そこまで考えて、はた…とした。
伝説の肩書に委縮していたのは確かだし、憧れていた。

でも戦闘中助けてくれたり、皆と話している姿にきっと思う事はいくつもあった。





「…皆が、羨ましいなあ…」





思わずぽそっと呟いていた。
すると、アーロンさんはサングラスの奥を丸くなる。

それを見て私はハッとした。
いや、そんは深い意味で言ったわけじゃないけれど。





「あっ…う、私…何言ってんでしょうね…。でも、普通に仲良く話せたらいいなとは思ってると言うか…って、アーロンさん、私みたいな小娘の話興味ないですよね…」





おかしい…。
なんだか口を開けば開くほどおかしなことを口走っている。

仲良くってなんだ。
アーロンさんに何を言ってるんだ私は。

私はズーン…と自分のすっとぼけっぷりに落ち込んだ。
うん、ちょっと黙ろう…。

しかしそんな私に対しアーロンさんは予想外の言葉を口にした。





「いや?こうしているのも何かの縁だ。聞かせてみろ」

「へ?」

「仲良く、なりたいのだろう?」

「!」





今度は私が目を丸くした。
その反応にアーロンさんはくっと笑う。

なにやら凄く楽しそうな。

ふたりきりの見張り。
いつもなら、きっと逃げたい気持ちでいっぱいのはず。

…仲良く、なれるんだろうか。
その時、私はドキリという音を聞いた。



END


10の年少組が特殊でやっぱり伝説のガードとか、歳もそうだし色々ちょっとした壁とかは普通あったりするのかな〜とか。


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