フリオニール(ケアル)
「あのさ…フリオニール、もういいよ」
ベッドに腰掛け、差し出したままの腕。
そこにいくつも繰り返される、ケアルの魔法。
傷が出来たときは、血が止まらなかった。
だけどもう、痛みも引いた。
目の前で魔法を重ねる彼に、私はため息交じりに呟いた。
「もう痛くない。大丈夫だから」
「…けどっ」
「けど、なに?」
私の前に膝をつくフリオニール。
顔を上げた彼は、酷く情けない顔をしていた。
なんて顔してるんだか。
私はまた零しそうになった溜息を飲み込み、ゆっくりと微笑みを彼に向けた。
「どうしたの?」
言っておくと、私が彼を庇ったとか…そういう話ではない。
初めて出会った敵との戦闘。
未知だらけだったその敵の攻撃に、私は対応することが出来なかった。
一応…間一髪で、直撃は避けたけど。
腕からは…結構な量の血が溢れてしまった。
…いうなれば、私の不注意。
だからフリオニールがこんなに必死に気にする必要はないのだけれど。
にも関わらず、彼は私の血を見た瞬間…さっとその顔色を変えた。
そしてアジトに戻った今でも、ずっとこの状態が続いている。
「…死んでしまうかと、思ったんだ」
「え?」
やっと詠唱を止めたかと思えば、俯きそう呟いた彼。
だけど、ぎゅっと腕は握られたまま。
触れた場所から、フリオニールの体温が伝わっていた。
「いや…生きてるよ」
「っ、わかってる…!だけど…あんなにお前から血を見たこと…無かったんだ」
「……。」
そう言われると、まあ…私も今まで生きてきた中で一番の出血量だったような。
結構ざっくり言ってしまったのは確かで、一応は今日は安静にしているようにとミンウにも言われてはいる。
「ごめん。でももう本当に大丈夫。そんなにケアル使ったら今度はフリオニールが疲れて倒れるよ?」
「…すまない。でも、何かしてないと落ち着かないんだ…俺、本当に…怖くてっ」
「………。」
ちょっとビックリした。
だって、こんな彼は見た事が無かったから。
彼は優しい。凄く優しい。
でも、ここまで思い詰めるような顔は初めてだ。
「ねえ、フリオニール…私、本当に大丈夫だよ?」
「ああ…わかってる。本当に…生きていてくれて良かった…。でも俺、今回の事で思ったんだ…。きっと…お前がいなくなったら、俺、動けなくなってしまう気がする…」
「えっ…」
両手で手を包まれ、そこにフリオニールは額を押し当てる。
まるで祈ってでもいるみたいに。
いや、それよりも今の台詞に私は目を丸くした。
だってなんだか凄い事言われた気がするんだけど…。
「あの、フリオニール…君、なんか凄まじい事言ってるよ?」
「え…?」
「愛の囁きかよ〜って感じ?」
「愛っ!?」
指摘したら素っ頓狂な声をあげられた。
いや、驚いてんのこっちだし。
真っ赤になった顔。
私から視線を外して下の方を見てる。
でも、しばらくの末…その口から出た言葉は意外なものだった。
「……今のは無意識だったけど…、でも、正直今回の件で自覚したんだ…」
「え?」
「…本当に怖かった。お前に会えなくなることが…きっと、何より俺は一番怖い…」
「…フリオニール?」
また、再び視線がこちらに向いた。
ああ…また初めての表情だ。
もう結構な付き合いなのに、今日はフリオニールの初めての顔をよく見る。
続きを聞く直前、私はぼんやりそんなことを考えた。
END
フリオ久々〜。
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