全能の神、ブーニベルゼ。
神話に出て来る…この世界を創造した神様。
そんな存在と戦う日が来ようなんて、目覚める前ならきっと…夢にも思わなかっただろう。
だけど今、あたしは…そんな神様と戦っている。
ライトニング…。ライトと一緒に。
「はあッ!!」
「ブレイブ!!!」
斬りかかるライトの動きに合わせて強化魔法を贈る。
ブーニベルゼは剣を受け止め、ガンッとライトを弾き返す。
そんな攻防が、もうどれくらい続いているのだろう。
もう、わからない。
凄く凄く長くて、考える気にもならない。
だけど、決して譲る事なんて出来ない。
負けてはならない。
負けるわけにはいかない。
そう強く強く思う。
その気持ちを、あたしはぐっと魔力に込めた。
「ライト!渾身の一撃、いくよ!!フレアッ!!!」
掌を広げて、思いっきり魔力を放出する。
ただのフレアじゃない。最高出力。それは神に向かいガアッ!!と眩い光を放ち、一気に爆発した。
『ぐあああああッ』
神の悲鳴が響く。
あたしが作った隙、ライトは見逃さないでいてくれた。
「ブーニベルゼ!!」
『これは、神の光を超えた…閃光ッ!』
ブーニベルゼが反応する間もなく、光より早く神の目前に現れたライト。
彼女は真っ直ぐに、その剣を神の胸元へと突き刺す。
そしてズッ…と抜き去ると、その穴から光が漏れ始めた。
『ぐっう…新しき星…美しい世界…』
ブーニベルゼは先ほど創造した新しい星に手の伸ばす。
だけど力ない手はそれに届く事は無い。
ライトとあたしは肩を並べ、キッと神を見上げた。
「あれは、もう人間のものだ。お前の居場所はない」
「ただ思うままに人を支配する、そんな神様はいらない!」
『否!否…否…認めるものか、許すものか!!!』
ブーニベルゼは嘆く。
…嫌になる。それは、ホープの声だから。
神の瞳からは滝のように涙が溢れる。
その瞬間、神は知ったのだ。
『おお、これが…これが嘆きか、怒りか!!おのれ死神!呪われよ!!混沌の渦に、死の闇に堕ちるがいい!!』
「ああ、そうするつもりだ」
「…えっ…!?」
怒り狂う神に静かに頷くライト。
あたしは驚いて彼女を見た。
だって、堕ちるのは神ひとりでいい。
たったひとりで滅んでいけばいい。
ライトはあたしを見ることは無い。
ただ、神を見つめたまま言った。
「混沌の領域を支えていた、女神エトロはもういない。エトロに代わって、死の世界に留まり、命の流れを整える。それが、私の使命だからな」
「ライト…ッ!」
ハッとした。女神エトロの代わり…。
そう、女神がいない今…その役目を負うものがいなければ、世界が回らない。
前の世界と変わらない。新しい命が生まれることの無い世界のままになってしまう。
でも、その犠牲にライトがなるのは…!
使命だと言うのなら、それはあたしにも当てはまるはずだ。
「ライト待って!」
あたしが静止を掛けるも、彼女は強行突破するように剣を地面へと突き刺した。
その瞬間、突き刺したその場からズッ…と真っ暗な黒が広がっていく。
ライトはあたしの目を見ないまま、あたしの腕をガシッと掴む。
「ライ…っ」
「ナマエ」
「…!」
「それは、お前の役目じゃない。お前はお前にしか出来ない事をやれ」
「え…っ」
まるで見透かしたよう。
女神の代わりならあたしだってと、そう言わせてもらう間もなくライトはそう言い切った。
あたしにしか、出来ない事…?
それって…と、それを聞く前に突如、地面の感覚が無くなる。
今、ライトが開いた闇。そこに落ちていっているのだ。
そして下を見れば同じように闇の中に落ちていっているブーニベルゼ。
あたしの手を掴んだままライトは神を追い、そしてまるで本当の死神みたいな声で言う。
「ブーニベルゼ。お前も道連れだ。一緒に混沌へ堕ちていこう」
『愚かしや!!それがそなたの最後の手段か!小賢しい人のみで抗えるものか!!輝ける神の力に!!』
ブーニベルゼはあたしたちを睨み、そして往生際悪く掌に光を集めてあたしたちに放ってくる。
ライトは変わらずあたしの腕を掴み、導くようにその攻撃を容易く避けていく。
「ああ、お前の力は途方もない。神でありながら、人の力まで取り込んでいる。だが、それはお前の弱点でもある」
神でありながら取り込んでいる人の力…。
それは…、ホープの…。
その瞬間、ふっとライトの手が離れた。
そして彼女は両手を広げる。
するとそこに集まっていく白い光の球…。
あっ…。
と、それを見たとき思った。
それは、その技は…!
「そう、神を葬る最後の手段は、囚われた心を解き放つ!ラストリゾート!!!」
ライトが最後に放ったその技…それは、最後の手段。
それは、ホープの…技…っ。
「ナマエ!行けッ!手を掴め!それはお前の役目だ!」
「…っ!」
ライトは再びあたしの手を掴み、そう叫ぶ。
そしてライトが手にしていた、何かを一緒に握らされた。
硬い。
それは、一瞬目にすればわかる。
…お守りの、ナイフ…!!
「私が最後に救うのは、ホープ!お前の魂だ!!」
ライトはそう叫び、そしてお守りのナイフをブーニベルゼの額へと突き刺した。
その瞬間、ブーニベルゼの悲鳴が響いて、ぐにゃりと視界が歪んだ。
ライトが刃を突き刺したその時、あたしはお守りのナイフと同調したのだ。
お守りのナイフは、冷たい闇の中をゆっくりと落ちていく。
そんな中で、あたしは彼の姿を探した。
探す…探さなきゃ、助けなきゃ、掴まなきゃ。
離さないって決めたあの手を、もう一度。
落ちていく。
どんどん、どんどんと…。
そして、見つけた。
その時、ぱあっとナイフが光を放った。
「見つけたッ!」
「っ…」
同調したナイフから、実体が具現化する。
あたしは見つけた小さな背中に手を伸ばし、ぎゅっと強く抱きしめた。
するとその感覚にピクリと彼の肩が揺れる。
まるで眠りから目覚めたみたいに。
ホープ…!ホープ…!ホープ…!
抱きしめて、すくめて、肩に顔をうずめて、柔らかな銀が頬に触れるのを感じる。
するとゆっくり、抱きしめた腕に彼の手が触れる感覚を感じた。
「…ナマエ…っ!?」
「ホープ…っ」
名前を呼んでくれる声。
さっきとは違う。優しい、紛れもないホープ自身の声。
会いたかった…!会いたかった…!
胸に溢れる気持ち。
歯止めなんて効かない程、こみ上げる。
すると、腕に触れているホープの手も、握り締める様に強くなった。
「ナマエ…ごめん…っ」
「うん…っ」
何か、噛みしめる様に、耐える様に。そんな声で謝るホープ。
その声にあたしは彼の肩に顔をうずめたまま頷いた。
だけど、その時、此処まで導いてくれた彼女の声が響いた。
「行け」
「っ、ライトさん…!?」
「ライト…」
「行くんだ、ホープ、ナマエ。新しい世界へ、希望を…」
優しい声だった。
さっきまでの威勢が嘘みたいに、本当に優しい声。
あたしはホープから腕をそっと解いた。
だけど、手は繋いだまま。
「生まれるお前を、お前たちを待っているんだ」
そしてライトがそう言ったその瞬間、目の前に光がさして…ホープのお父さんとお母さん、バルトロメイさんとノラさんの姿が見えた気がした。
手を差し伸べて、生まれてくるホープを…待っている。
「ホープ…、お前は希望なんだ」
「待ってください、貴女は何処に?ライトさんはどうなるんですか!」
「ダメ!ライト!」
こんなところに置いていけない。
だからそう声をあげて、振り返ろうとする。
だけど。
「振り向くな」
だけど…それを見越したように、少し強い口調で言われた。
そう言われて、あたしたちは一瞬固まった。
戸惑った。躊躇した。
「振り返ったら、帰れなくなる」
多分、きっと…本当にそうなのだと思った。
聞いた事がある。
神話には、よくある話。
振り返ってはいけないって。
「私は、ここにいる。あれを封じておくために。いつまでも、見守っているよ。世界を、お前たちを。だから…生きてくれ」
また、優しい声。
こんなにも、こんなにも…。
ライトは、たったひとりで此処に残る。
神を封じておくために。
女神の代わりに、命の循環を守るために。
だけど、だけどやっぱりそんなのおかしい…!
「ライトッ…、っ!!」
それでも振り返った時、目の前にバッと白い光が溢れた。
まるでライトと引き離されるみたいに。
「ライトッ!!ライトーッ!!!!」
見えなくなる。
光が溢れて、彼女の姿が。
さっきまでそこにいたはずなのに。
目の奥が熱くなる。
はち切れそうなほど、あたしは…光に向かって叫んだ。
To be continued
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